ライター : ピリカタント 西野優

出張料理人

北海道の十勝出身。出版社で編集者として働いたのち、旅とアルバイトの生活を経て、下北沢で本と料理と手仕事の店「ピリカタント書店」を営みました。現在は、出張料理、食にまつわる会…もっとみる

ギリシャ神話の妖精「ミント」

ユーラシア大陸が原産でありながら、現代では日本でも広く親しまれている「ミント」。 その名の由来は、ギリシャ神話に登場する妖精「メンタ」。このメンタという妖精はとても美しく、地獄の神ハデスに愛されたことで、妻ペルセフォネの嫉妬を買い、草に変えられてしまったのだとか。 メンタは時を経て「ミント」となり、清涼感ある美しい芳香で、今もなお自分の存在を周囲に知らせているのだと語り継がれています。 こうした神話が残されているように、ミントは3500年も前から親しまれてきました。古代ギリシャ、ローマ時代には、すでにエジプト、イスラエル、ローマ人が薬草として使用していたのだそうです。 現在では、なんと6000を越える品種があり、主にペパーミント系とスペアミント系に分けられています。

ペパーミントとスペアミントの違い

シソ科の多年草であるミントには、鎮静、鎮痛、発汗、強壮、殺菌、解熱、冷却……など、たくさんの効能があり、手に入れやすさも他のハーブより高く、日常的に使いやすい薬草と言えます。 鼻に抜けるような特徴的な香りは「ペパーミント」の方が強く、歯磨き粉やガムなどによく用いられています。また、ヨーロッパでは薬用に利用されるミントのほとんどがペパーミントで、その精油には、強い殺菌作用や冷却作用があります。 一方の「スペアミント」は、ペパーミントよりも長い歴史を持つミントです。スペアミントの方が甘みは強く、爽快感や香りもやわらかなため、お菓子やお酒に多く使われています。

ベトナム風 ミントとイワシの丼ぶり

梅雨の季節がやって来ると、心もからだも亜熱帯なごはんを欲します。 ベトナムを訪れたのは、20代の半ばに差しかかる頃。高校時代からたくさんの時間を共に過ごしてきた親しい友人と、ベトナムの首都ホーチミンに出かけました。 電線だらけの町並みに、無数のバイクの群衆、路上に座ったり寝転んだりしながら話しこむ男性たち。アジア特有の香りと湿った空気に交じり合う、フランス領だった故の洗練された西欧感。そんなホーチミンの空気を、全身で吸いこみました。 ベトナムを訪れて驚いたのは、食べるもの食べるもの、本当に美味しいということ。料理にもれなく付いてくる、ドサっと盛られた薬草の香り漂う多種の葉っぱたちが、薬草好きであり葉っぱ好きの私には、たまらないものでした。 旅先でお腹をこわしたのは、一度きり。ホーチミンの食堂で大量の青唐辛子を食べ、胃腸が痙攣するというなんとも自業自得な事態に陥ったのです。少し休んで回復し、またすぐ食べるために町へ繰り出すという身体を張った食いしん坊さには、我ながら感心してしまいます。 ゆるやかな時間の流れと、対照的なバイクの群れと勢い。彩り豊かな果実や野菜の色や香り。 同じ時代に異なる文化のなかで生きている人たちの暮らしを垣間みる「旅」という時間は、私にとってかけがえのない学びであり、歓びです。

「ベトナム風 ミントとイワシの丼ぶり」レシピ

材料 ・ミント ・イワシ ・生の青唐辛子 ・にんにく ・しょうが ・レモン ・ヌクマム
作り方 1. イワシは三枚におろして、食べやすい大きさに切り分ける。 2. 青唐辛子は種を取り除き、細かく刻む。 3. にんにくは薄切りにして、しょうがはおろす。 4. ミントは、ちぎるか刻む。 5. 1〜4をボウルなどですべてあわせ、ヌクマムとレモン汁をまわしかける。 6. 器に炊きたてのお米を装って、あわせた具をのせ、ミントを散らして出来上がり。
「ヌクマム」は、ベトナムでよく使われている調味料で、小魚を原料とする魚醤の一種です。手に入らない場合は、日本の醤油で代用してください。 ミントは、スペアミントでもペパーミントでも、手に入りやすいものを。

タイ風 ミントと食べる春巻き

初めてのアジア旅は、タイのバンコク。初めての勤務先だったレコード会社の夏休みをすべて、バンコクへの旅にあてました。 初めての色、香り、湿度。鳴り止まないクラクションの音。ここがタイなのか!ここがバンコクなのか!と、高揚感に包まれたと同時に、軽いカルチャーショックのようなものを感じたのを憶えています。 初めてのナイトマーケット、初めての屋台、初めてのチャイナタウン……。トゥクトゥクに揺られながら、幾度となくスコールに出くわして、初めてづくしのアジア旅を、歩いて、食べて、飲んで、おおいに楽しみました。 それから何度か訪れた、タイ。西洋的なイメージを持っていたミントを、アジアの装いで食べる可能性を知ったのも、タイでした。 信心深いタイの人たちの祈りの美しさ、性を越えた生命力、食べること生きることの愉しさ……。タイから受け取ったものたちは、私の心に根を張っているように思います。 最後にタイを訪れたのは、もうずいぶん前のこと。梅雨になると恋しくなるタイを感じるために、自分なりのタイを詰めこんで、料理し、食べるのかもしれません。 料理で疑似旅行、それが私の日常です。

「タイ風 ミントと食べる春巻き」レシピ

材料 ・ミント ・ひき肉 ・ピーナッツ ・生の青唐辛子 ・にんにく ・しょうが ・春巻きの皮 ・レモン ・ナンプラー ・揚げ油
作り方 1. ミントはちぎるか刻み、ピーナッツはすり鉢などで細かく砕く。 2. 青唐辛子は輪切りに、種は取り除く。 3. にんにくとしょうがを、すりおろす。 4. ボウルにひき肉を入れ、ミント、ピーナッツ、青唐辛子、にんにく、しょうがを加える。 5. ナンプラーを加えて混ぜ捏ねしたら、春巻きの餡の完成。 6. 春巻きの皮に餡を包み、揚げ油でこんがり色づくまで揚げる。 7. 器に装い、レモンとミントを添えて、出来上がり。
揚げるのが苦手な方は、トースターなどでも調理できます。その場合、餡は先に炒めたり蒸したりと、火を通しておくのがおすすめです。 ナンプラーとは、タイでよく使われる魚醤のこと。ナム=液体、プラー=魚の意味。原料はイワシというのだから、このレシピはイワシとイワシの合作です。手に入らない場合は、日本の醤油でもおいしく作ることができます。 ミントは、お好みのものを。レモンを絞り、ミントを摘みながら、タイの屋台にいるような気分で、タイの味と香りを楽しんでみてください。 料理に残ったミントは、お湯を注いでフレッシュハーブティにしたり、お水に浮かべてみたりと、ミントの持つ清涼感を余すことなく味わってください。
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