ライター : 椛嶋 貴子

管理栄養士

監修者 : 工藤 孝文

みやま市工藤内科 院長

「牛乳は体に悪い」という噂

牛乳といえばカルシウムを筆頭に、豊富な栄養素を持つ飲み物の代表ですね。学校の給食で、毎日のように提供されるものです。ところが最近、牛乳は体に悪いという意見が注目されていることをご存じですか?

牛乳は身近な飲み物です。とくに子どもは口にする頻度が高いものですから、体に悪いと言われるとドキッとしてしまいますね。「牛乳が体に悪い」と言われるようになった背景には、どんな経緯があるのでしょうか。

なぜ牛乳は体に悪いと言われているの?

牛乳が体に悪いと大々的に言われ始めたきっかけは、2005年発行のベストセラー本である、新谷弘実さんの「病気にならない生き方」だと言われています。それまでも、牛乳が健康によくないとされる説はぽつぽつとあったものの、胃腸内視鏡の外科医が著書のなかで、「牛乳が体に悪い」と述べたことから注目を集めるようになったのです。

ベストセラー本になったことで、筆者がテレビなどのマスコミに取り上げられる機会も多くなりました。なかでも「牛乳が体に悪い」という主張は、それまでの常識をくつがえす衝撃的な内容だったため、ひんぱんに取り上げられました。

マクロビオティックも原因のひとつ

また、聖書に次ぐベストセラーと言われている育児書の改訂版のなかでも、「乳製品は2歳以降は必要ない」と訂正されました。著者自身が動物性食品の摂取をやめるマクロビオティックを実践した経験から、「人間には動物性たんぱく質は不要」という考えに変わったためだと言われています。

マクロビオティックは牛乳のみならず、すべての動物性食品を必要ないとする考え方。著者は牛乳だけが体に悪いと言っているわけではないのですが、支持者の多い育児書の著者が提言したことによって、反響が大きかったのです。

実際のところはどうなの?

実は現在、牛乳が体に悪いとする研究報告はなされていません。科学的根拠がないのです。そのため、現在では、牛乳は"体に悪い"とする側と"健康にいい"と主張する側が真っ向から対立している状態にあります。

牛乳はそもそも人間の体に合っていないという意見

牛乳が体に悪いという主張のなかには、「牛乳はもともと子牛のためのものであるため、人間の体にそぐわない」という意見があります。たしかに、牛乳に含まれる免疫因子を利用できるのは子牛だけです。しかし、人間であっても牛乳の栄養素を活かせるため、この主張は風評として捉えられています。

また、「日常的に発酵乳を摂ると腸相が悪くなる」という意見もあります。腸相とは腸の見た目の状態のことです。発酵乳が体に悪いとは立証されていないため、こちらも風評のひとつと言えます。(※1)

ヨーグルトは体に悪い?

牛乳が体に悪いというならば、乳製品であるヨーグルトはどうなのでしょうか。ヨーグルトは牛乳を発酵させた食品で、日常的に食べている人が多いですよね。ヨーグルトに含まれる乳酸菌には、腸の調子を整える作用があります。

牛乳が体に悪いと主張する医師や研究者は、ヨーグルトも健康にいいとは言いません。「胃酸で乳酸菌が死滅してしまうため意味がない」と主張します。しかし、胃酸でも死滅しない菌がいることや、死滅した菌も体内で有益にはたらくことが明らかになっています。(※1,2,3)
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