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山の中に灯った、小さくて大きな火
2026年2月末日、三重県松阪市嬉野の山あいのふもとに一軒の小さなおにぎり屋が静かに産声を上げた。薪ストーブの煙が細く立ち上り、炭火の赤い光が揺れるその空間と、炭火で焼かれる食材の香りが混ざり合うこの空間は、どこか懐かしい時間の流れを持っているように感じる。
店の名は「薪炎(しんえん)土鍋ごはん 嬉野本店」。薪火で炊いた羽釜ご飯を握ったおにぎりと、厳選された茶葉のドリンクを提供するこの店は、単なる飲食店の枠を大きく超えた存在として、地域の人々の期待を集めている。オーナーのゴルちゃんこと日浦留一さん(57)が、人生の荒波を幾度もくぐり抜けた末にたどり着いた場所—それがこの嬉野の地であり、この店だ。
今回はそんな「薪炎土鍋ごはん 嬉野本店」と「日浦留一さん」にフォーカスしてみよう。
店の名は「薪炎(しんえん)土鍋ごはん 嬉野本店」。薪火で炊いた羽釜ご飯を握ったおにぎりと、厳選された茶葉のドリンクを提供するこの店は、単なる飲食店の枠を大きく超えた存在として、地域の人々の期待を集めている。オーナーのゴルちゃんこと日浦留一さん(57)が、人生の荒波を幾度もくぐり抜けた末にたどり着いた場所—それがこの嬉野の地であり、この店だ。
今回はそんな「薪炎土鍋ごはん 嬉野本店」と「日浦留一さん」にフォーカスしてみよう。
波乱の半生が育てた、食への感謝
日浦さんは、中学校を卒業後、嵐のような家庭環境の変化があり、一時期公園での野宿生活を送ったこともあったという。初めて勤めた理髪店でのいじめ、印刷機による手の怪我、夜職の生活、シングルファーザーとしての奮闘、そして自ら立ち上げた運転代行会社の成功と挫折—その歩みは、まるで一本の波乱万丈な映画のようだ。
転機となったのは、心筋梗塞による手術後の体験だった。数日間意識を失い目が覚めた後に看護師からスプーン一杯の水を飲ませてもらった瞬間、思わず涙が溢れ出たという。普通の水がこれほどまでに美味しいものだったのか、という驚きと感動。その体験が、食べることへの向き合い方を根本から変えた。
その後奥さんと二人でなにか始めたいと思っていたところ、滋賀県のごはん屋さんに行った時に、おにぎり屋を始めるきっかけとなる場面に遭遇する。そこでは羽釜でご飯を炊く体験ができるのだが、はじめは空気が良くなかったご家族が体験を通じて元通りになるシーンを目撃した。二人は「もし炊けたご飯をおにぎりにすれば、美味しくてあの家族は笑顔になったよね!」と直感的に感じたのだという。
この2つの体験が、後の薪炎土鍋ごはんの土台となっている。
転機となったのは、心筋梗塞による手術後の体験だった。数日間意識を失い目が覚めた後に看護師からスプーン一杯の水を飲ませてもらった瞬間、思わず涙が溢れ出たという。普通の水がこれほどまでに美味しいものだったのか、という驚きと感動。その体験が、食べることへの向き合い方を根本から変えた。
その後奥さんと二人でなにか始めたいと思っていたところ、滋賀県のごはん屋さんに行った時に、おにぎり屋を始めるきっかけとなる場面に遭遇する。そこでは羽釜でご飯を炊く体験ができるのだが、はじめは空気が良くなかったご家族が体験を通じて元通りになるシーンを目撃した。二人は「もし炊けたご飯をおにぎりにすれば、美味しくてあの家族は笑顔になったよね!」と直感的に感じたのだという。
この2つの体験が、後の薪炎土鍋ごはんの土台となっている。
羽釜と薪火が生み出す、妥協なき「白米」
薪炎土鍋ごはんの核心にあるのは、薪火で炊く羽釜ご飯へのこだわりだ。日浦さんは一日に最大三回薪を燃やして羽釜でご飯を炊く。売り切れれば追加で炊き、余れば次の炊飯は行わない。その日その日の状況に合わせた、柔軟かつ誠実な運営スタイルだ。
薪火でご飯を炊くことの難しさは、火力の調整にある。激しい吹きこぼれを防ぎながら、じっくりと米に火を通していく。土鍋で炊く場合も同様に、底に米が張り付かないよう定期的にかき混ぜることで、嫌な焦げ臭を防ぐ。こうした細かな手仕事の積み重ねが、炊き上がりの一粒一粒に宿る甘みと香りを生み出している。
羽釜でご飯を炊く見学は無料で行われており、タイミングが合えば薪をくべる体験もできる。この体験は、子どもたちにも食べることの意味を改めて考えさせてくれる時間になるだろう。山の中の静かな空間で、薪の香りと炭火の温もりに包まれながら、一粒一粒に込められた手仕事の味を感じてほしい、と日浦さんは語る。
薪火でご飯を炊くことの難しさは、火力の調整にある。激しい吹きこぼれを防ぎながら、じっくりと米に火を通していく。土鍋で炊く場合も同様に、底に米が張り付かないよう定期的にかき混ぜることで、嫌な焦げ臭を防ぐ。こうした細かな手仕事の積み重ねが、炊き上がりの一粒一粒に宿る甘みと香りを生み出している。
羽釜でご飯を炊く見学は無料で行われており、タイミングが合えば薪をくべる体験もできる。この体験は、子どもたちにも食べることの意味を改めて考えさせてくれる時間になるだろう。山の中の静かな空間で、薪の香りと炭火の温もりに包まれながら、一粒一粒に込められた手仕事の味を感じてほしい、と日浦さんは語る。
もちろん、店名にある通り、土鍋で炊くこともあるという。取材当日は雨であったため、悲しくも土鍋炊きであった。薪火で炊いたご飯と土鍋で炊いたご飯では、仕上がりの香りが異なると語る。薪火は木の蓋の中で蒸気が循環することで、木の香りとほのかな焦げの香りが両方ご飯に移るらしい。薪火で炊いたご飯を好む人は多く、客が口を揃えて言うのは、「昔の米の味がする」という言葉だ。
80代のお年寄りが、薪火で炊いたご飯を一口食べて「お母さんを思い出す」と目を細める。おむすびという極めてシンプルな食べ物を通じて、人の記憶の奥底に眠る「本物の味」を思い出す—それがこの店の、静かだが力強い使命である。
80代のお年寄りが、薪火で炊いたご飯を一口食べて「お母さんを思い出す」と目を細める。おむすびという極めてシンプルな食べ物を通じて、人の記憶の奥底に眠る「本物の味」を思い出す—それがこの店の、静かだが力強い使命である。
具材への一手間が生む、圧倒的な差
炊き方へのこだわりと同様に、具材の仕込みにも妥協がない。
鮭は塩麹と特製のつゆを合わせたタレに漬け込み、臭みを取り除きながら旨味を引き出す。皮目からしっかりと焼き、皮はガッツリと焦がすほどに火を通す。この焦げた皮の香りが、おむすびを口に運んだ瞬間に鼻腔をくすぐり、食欲を一気に高める。逆に身は、余熱でじっくりと火を通すことでしっとりと柔らかく仕上がるのだ。
鮭は塩麹と特製のつゆを合わせたタレに漬け込み、臭みを取り除きながら旨味を引き出す。皮目からしっかりと焼き、皮はガッツリと焦がすほどに火を通す。この焦げた皮の香りが、おむすびを口に運んだ瞬間に鼻腔をくすぐり、食欲を一気に高める。逆に身は、余熱でじっくりと火を通すことでしっとりと柔らかく仕上がるのだ。
明太子はガスバーナーで一気に片面だけ軽くあぶることで、表面に香ばしさを加える。火が入った部分と入っていない部分が混在することで、食感と風味に複雑なコントラストが生まれる。柔らかくペースト状になった部分と、しっかりとした粒感が残る部分が口の中で混ざり合い、単純に明太子を入れただけでは決して出せない奥行きが生まれる。
松阪牛の肉巻きおにぎりが開く、新しい扉
肉巻きおにぎりは、No1メニューとしてこの店を支える主役だ。炭火で焼かれた松阪牛が羽釜ご飯を包み込むこの一品は、お客さん自身が卓上の七輪で焼き上げるスタイルをとっている。焼き加減も、つけダレも、すべてが自分の手に委ねられる。この「育てる」という体験こそが、この料理の最大の魅力だと日浦さんは考えている。
一皿で2つ。ひとつは白米、ひとつはしぐれ煮入だ。生姜の香りとともに旨味が凝縮された特製のしぐれ煮をおむすびの中に入れ、さらに外側にも薄切りの松阪牛を巻き付けて炭火で焼き上げる。外側の肉は炭火の香りを纏いながら脂が溶け出し、中のしぐれ煮は煮込まれた旨味の塊として存在する。一口で二つの異なる牛肉の表情を同時に楽しめるという、この店ならではの体験がそこにある。
一皿で2つ。ひとつは白米、ひとつはしぐれ煮入だ。生姜の香りとともに旨味が凝縮された特製のしぐれ煮をおむすびの中に入れ、さらに外側にも薄切りの松阪牛を巻き付けて炭火で焼き上げる。外側の肉は炭火の香りを纏いながら脂が溶け出し、中のしぐれ煮は煮込まれた旨味の塊として存在する。一口で二つの異なる牛肉の表情を同時に楽しめるという、この店ならではの体験がそこにある。
つけダレとして用意されているのは、伊勢醤油、カンボジア産の生胡椒、そしてわさび塩の三種類だ。甘みの強い松阪牛の脂に対して、わさび塩のさっぱりとした辛みが絶妙なコントラストを生む。生胡椒はその香りと刺激が肉の旨みを引き立て、伊勢醤油はたまりに近いコクで全体をまとめ上げる。三種類の調味料と二種類のおにぎりの組み合わせで、理論上は九通りの食べ方が楽しむことが可能だ。
店内で注文の型に限り、おむすびを二つ以上注文したお客へのサービスとしてシンプルなあおさ汁と小鉢が無料で添えられる。
シンプルな味噌汁にあおさを溶かすことで、磯の香りと薪火や炭火で纏った米の香りが共鳴し合い、食事全体を一つの世界として完成させる。小鉢は日替わりで手仕込み。新鮮な地物野菜やしぐれなど、無料で着いてくるとは思えないほどの一皿だ。
シンプルな味噌汁にあおさを溶かすことで、磯の香りと薪火や炭火で纏った米の香りが共鳴し合い、食事全体を一つの世界として完成させる。小鉢は日替わりで手仕込み。新鮮な地物野菜やしぐれなど、無料で着いてくるとは思えないほどの一皿だ。
食事を彩るバラエティに富んだお茶たち
お店の推しポイントは他にもある。ティーパックで入れる様々な日本茶やフレーバーティだ。日浦さんが身体を壊した際、甘いものが食べられない中で行き着いたのがフレーバーティだった。様々なお茶を試して行き着いた、とっておきの茶葉を仕入れている。
提供されるお茶の中で圧倒的な人気を誇るのが黒豆焙煎茶である。焙煎による香ばしさと深みが、おむすびの米の甘みと絶妙に寄り添う。こちらのお店はそれらだけでなく、フレーバーティーとハーブティーを中心に取り揃えられており、モーニングやティータイムを楽しむことも可能だ。
キャラメルソルトティーも人気が高く、甘さの中に塩のアクセントが効いた複雑な風味だ。マロングラッセのフレーバーティーは店主自身の一押しだという。モーニングでは七輪で焼いたトーストも楽しむことができる。
提供されるお茶の中で圧倒的な人気を誇るのが黒豆焙煎茶である。焙煎による香ばしさと深みが、おむすびの米の甘みと絶妙に寄り添う。こちらのお店はそれらだけでなく、フレーバーティーとハーブティーを中心に取り揃えられており、モーニングやティータイムを楽しむことも可能だ。
キャラメルソルトティーも人気が高く、甘さの中に塩のアクセントが効いた複雑な風味だ。マロングラッセのフレーバーティーは店主自身の一押しだという。モーニングでは七輪で焼いたトーストも楽しむことができる。
地域と共に生きる、コミュニティの拠点として
薪炎土鍋ごはんが目指しているのは、単においしいおにぎりを提供することではない。この店を地域のコミュニティセンターとして機能させ、食育を通じて人々の暮らしを豊かにすることが、日浦さんの根底にある思いだ。羽釜でご飯を炊く体験を子供たちに提供し、食の大切さを伝えていく取り組みは、すでに具体的な形を帯び始めているという。
また、現在建設中の駐車スペースの屋根にソーラーパネルを取り付け、災害時には炊き出しや避難所となれるような施設への設備拡張も予定している。その施工にも知人や知り合いの職人が手伝ってくれるらしい。店の周りには、善意の連鎖が自然と生まれている。受けた恩を同じ人に返すのではなく、別の誰かへと渡していく。その輪が広がることで、より豊かなコミュニティが生まれると信じている。
おにぎり屋でありながら、子供たちの居場所にもなり、地域の避難所にもなる。ソーラーパネルで発電した電気を分け、薪でご飯を炊いて近隣に届ける—そんな未来図を彼は真剣に描いている。
また、現在建設中の駐車スペースの屋根にソーラーパネルを取り付け、災害時には炊き出しや避難所となれるような施設への設備拡張も予定している。その施工にも知人や知り合いの職人が手伝ってくれるらしい。店の周りには、善意の連鎖が自然と生まれている。受けた恩を同じ人に返すのではなく、別の誰かへと渡していく。その輪が広がることで、より豊かなコミュニティが生まれると信じている。
おにぎり屋でありながら、子供たちの居場所にもなり、地域の避難所にもなる。ソーラーパネルで発電した電気を分け、薪でご飯を炊いて近隣に届ける—そんな未来図を彼は真剣に描いている。
田舎の小さな店が証明する、本物の力
急いでいる人には向かない店だと日浦さん自身が言う。薪に火をくべ、米が炊き上がるのを待ち、肉が炭火でじっくりと焼けるのを見守る。その時間こそが、この店の体験の核心だ。現代の生活から切り離された、火と食材と人間の対話の時間—それを求めて、人々はこの山里の小さな店へと足を運ぶのだろう。
おむすびという最もシンプルな食べ物を通じて、失われつつある「本物の味」と「本物の時間」を取り戻す場所。薪の煙が漂い、炭火が赤く輝くその空間で、一粒一粒丁寧に炊かれた米と向き合う時、人は何か大切なものを思い出す。それが80代のお年寄りにとっては亡き母の記憶であり、都市から訪れた若者にとっては初めて出会う「本物」の感動であるかもしれない。
食べることは、生きることだ。その当たり前の事実を、一杯の水で涙した体験から学んだ彼が握るおにぎりには、単なる食事以上の何かが込められている。三重の山あいに灯ったこの小さな火が、やがて地域全体を温める大きな炎へと育っていく日を、多くの人が静かに待ち望んでいる。
おむすびという最もシンプルな食べ物を通じて、失われつつある「本物の味」と「本物の時間」を取り戻す場所。薪の煙が漂い、炭火が赤く輝くその空間で、一粒一粒丁寧に炊かれた米と向き合う時、人は何か大切なものを思い出す。それが80代のお年寄りにとっては亡き母の記憶であり、都市から訪れた若者にとっては初めて出会う「本物」の感動であるかもしれない。
食べることは、生きることだ。その当たり前の事実を、一杯の水で涙した体験から学んだ彼が握るおにぎりには、単なる食事以上の何かが込められている。三重の山あいに灯ったこの小さな火が、やがて地域全体を温める大きな炎へと育っていく日を、多くの人が静かに待ち望んでいる。
薪炎土鍋ごはん 嬉野本店
〒515-2402
三重県松阪市嬉野森本町1393
火曜日
08:00〜17:00
月曜日
定休日
火曜日
08:00〜17:00
水曜日
08:00〜17:00
木曜日
08:00〜17:00
金曜日
08:00〜17:00
土曜日
08:00〜17:00
日曜日
08:00〜17:00
080-9126-9217
席数
19席(カウンター×3、2名掛けテーブル、4名掛けいろりテーブル、4名掛けソファ席、テラス2名掛け×2、縁側2)
L.O.
16:30
定休日
月曜日、第2・ 第4火曜日、その他不定休※詳細はInstagramまで!
最寄駅
伊勢中川駅より車で15分
支払方法
現金のみ
平均予算
1,000円〜1,500円(おにぎり:320円〜/個)
駐車場
店前10台
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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