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三重県松阪市飯高町。国道166号線から細い山道を折れ、下り坂を慎重に進んでいくと、突然ひらけた場所に古民家が現れる。看板らしい看板はなく、初めて訪れる人のほとんどが「本当にここで合っているのか」と不安になりながらたどり着く。それが「いろりカフェ WELCOME」だ。
店名の「WELCOME」は、移住者同士のコミュニティ「おいない会」から生まれたこの言葉が、そのまま店の名前になった。「おいない」とはこの地域の方言で「いらっしゃい」を意味する。地域に根ざした言葉を看板に掲げるこの店は、2019年8月にオープンし、コロナ禍を乗り越えながら今も静かに、しかし確かに人を引き寄せ続けている。
オーナーは常連客から「お母さん」と呼ばれる佐々木志津枝さん(74)と息子の貴治さん(39)、二人三脚で切り盛りするこの店は、モーニング〜ランチの時間帯のみ。しかしその中身は、どこにもない独自の空気感に満ちている。
店名の「WELCOME」は、移住者同士のコミュニティ「おいない会」から生まれたこの言葉が、そのまま店の名前になった。「おいない」とはこの地域の方言で「いらっしゃい」を意味する。地域に根ざした言葉を看板に掲げるこの店は、2019年8月にオープンし、コロナ禍を乗り越えながら今も静かに、しかし確かに人を引き寄せ続けている。
オーナーは常連客から「お母さん」と呼ばれる佐々木志津枝さん(74)と息子の貴治さん(39)、二人三脚で切り盛りするこの店は、モーニング〜ランチの時間帯のみ。しかしその中身は、どこにもない独自の空気感に満ちている。
夢は必ず叶う—74歳のオーナーが歩んできた道
志津枝さんのキャリアは、一言では語れない。北海道で生まれ、岸和田、和歌山、三重県津市と転居を重ねながら、着物のリメイク業やマンション清掃業と、時代と場所に合わせて仕事を続けてきた。どの仕事でも手を抜かず、気づけば引く手あまたになっていた。着物のリメイク業は今も続けており、店舗の隣の家がアトリエになっている。
しかし、それと並行して志津枝さんの心の中には、ずっと温め続けてきた夢があった。「カフェをやりたい」という、若い頃からの願いだ。着物の仕事があるうちはカフェに専念できないと自分に言い聞かせながら、それでも志津枝さんは着々と準備を重ねていた。飲食店でアルバイトをし、料理屋で下積みを経験し、中華料理やフランス料理の厨房で皿洗いをした。プロとしての修業ではなく、あくまで「いつかのため」の経験として。
そんな中での飯高町への移住は、空き家バンクを通じて一軒家を購入したことがきっかけだった。田舎暮らしへの憧れを持ち続けていた志津枝さんにとって、山と川に囲まれたこの土地は理想的だった。そして移住から3年後、地域の人から「空き家になっている物件がある」と紹介されたのが、現在の店舗だ。囲炉裏のある古民家を見た瞬間、志津枝さんの中でイメージが一気に広がった。着物の展示もできる、カフェもできる、そして何より「ここなら自分らしくいられる」と感じた。
しかし、それと並行して志津枝さんの心の中には、ずっと温め続けてきた夢があった。「カフェをやりたい」という、若い頃からの願いだ。着物の仕事があるうちはカフェに専念できないと自分に言い聞かせながら、それでも志津枝さんは着々と準備を重ねていた。飲食店でアルバイトをし、料理屋で下積みを経験し、中華料理やフランス料理の厨房で皿洗いをした。プロとしての修業ではなく、あくまで「いつかのため」の経験として。
そんな中での飯高町への移住は、空き家バンクを通じて一軒家を購入したことがきっかけだった。田舎暮らしへの憧れを持ち続けていた志津枝さんにとって、山と川に囲まれたこの土地は理想的だった。そして移住から3年後、地域の人から「空き家になっている物件がある」と紹介されたのが、現在の店舗だ。囲炉裏のある古民家を見た瞬間、志津枝さんの中でイメージが一気に広がった。着物の展示もできる、カフェもできる、そして何より「ここなら自分らしくいられる」と感じた。
74歳のエネルギーはどこから来るのか
着物のリメイク業は今も続けており、店舗の隣の家がアトリエになっている。浅草時代から続けているこの仕事では、着物を洋服やバッグに仕立て直す。毎年、干支にちなんだ着物作品を制作し、店内に展示・販売。12年サイクルで制作を続けるこの取り組みは、常連客の間で毎年の楽しみになっているという。
伊勢志摩の島にも展示会場として物件を購入し、そこでも着物の展示会を定期的に開催を予定している。店の隣の建物は作業場兼ギャラリーとして使い、2階建ての古民家を贅沢に活用する。「また買ったの?」と夫に呆れられながらも、必要だと感じたら動く。そのエネルギーの源泉は、「自分がされて嬉しいことをする」というシンプルな哲学にある。
さらに、飯高町の空き家バンク活動にも深く関わり、移住希望者に対して役場が言いたがらないような「マイナス情報」も包み隠さず伝えることで、ミスマッチのない移住を促してきた。プロパンガスしかないこと、医者が近くにないこと、スーパーまでが遠いこと—それでも来たいと思う人だけに来てほしいという姿勢は、地域への誠実な愛情から来ている。
伊勢志摩の島にも展示会場として物件を購入し、そこでも着物の展示会を定期的に開催を予定している。店の隣の建物は作業場兼ギャラリーとして使い、2階建ての古民家を贅沢に活用する。「また買ったの?」と夫に呆れられながらも、必要だと感じたら動く。そのエネルギーの源泉は、「自分がされて嬉しいことをする」というシンプルな哲学にある。
さらに、飯高町の空き家バンク活動にも深く関わり、移住希望者に対して役場が言いたがらないような「マイナス情報」も包み隠さず伝えることで、ミスマッチのない移住を促してきた。プロパンガスしかないこと、医者が近くにないこと、スーパーまでが遠いこと—それでも来たいと思う人だけに来てほしいという姿勢は、地域への誠実な愛情から来ている。
自家養殖のニジマスを出す店
メニューを見れば、定番の定食類が並ぶ。その中でも、店の敷地内にある養殖設備で育てたニジマスを使った「マツカツ定食」が人気だ。前の所有者がアマゴの養殖と釣り堀を営んでいたこの場所を引き継いだ際、近隣の高齢の養殖業者から、腰を痛めて続けられなくなったニジマスを譲り受けたことがきっかけだった。
養殖の経験はゼロ。インターネットで調べながら、試行錯誤を重ねた。採卵から受精、孵化まで、文字通り手探りで始めたこの取り組みは、今では毎年安定して稚魚を育てるまでになっている。養殖したニジマスはすべて店舗用。いわば「店のための水槽」として機能しており、その日に使う分だけを調理する。
さらに、近隣の農家から大根やじゃがいもが届けば、使いきれない分はお客さんに分けてしまう。何屋なのかわからないと笑うが、志津枝さんにとってそれは至極当然のことだ。自分がされて嬉しいことをするだけ、という純粋な気持ちががこの店のあらゆる行動の根底にある。
養殖の経験はゼロ。インターネットで調べながら、試行錯誤を重ねた。採卵から受精、孵化まで、文字通り手探りで始めたこの取り組みは、今では毎年安定して稚魚を育てるまでになっている。養殖したニジマスはすべて店舗用。いわば「店のための水槽」として機能しており、その日に使う分だけを調理する。
さらに、近隣の農家から大根やじゃがいもが届けば、使いきれない分はお客さんに分けてしまう。何屋なのかわからないと笑うが、志津枝さんにとってそれは至極当然のことだ。自分がされて嬉しいことをするだけ、という純粋な気持ちががこの店のあらゆる行動の根底にある。
東京、大阪、海外からも…なぜ山奥の喫茶店に人は集まるのか
口コミだけで広がってきた客層は、驚くほど多様だ。バイクで訪れるライダーたちが常連の中核を占める一方、犬を連れたファミリー、地域おこし協力隊のメンバー、そして海外からの旅行者まで、実に幅広い人々がこの山奥を目指してやってくる。最も遠い来訪者はデンマークからだという。それぞれが、どこかで誰かから聞いた話を頼りにここへ来る。
なぜこれほど多様な人々が集まるのか。その答えのひとつは、この場所が持つ「何もしなくていい」という空気感にあるのだろう。川が2本流れる立地から吹き込む冷たい風、囲炉裏の温もり、山の匂い。都市部の喫茶店とは次元の異なる「空気感」がここにはある。ご飯を食べに来るというより、この場所そのものを目的地にしている人が多い。
バイク動画のYouTubeチャンネルで紹介されることもあり、店側は特に依頼したわけでもなく、ただ「好きに書いてください」というスタンスを貫いているという。
なぜこれほど多様な人々が集まるのか。その答えのひとつは、この場所が持つ「何もしなくていい」という空気感にあるのだろう。川が2本流れる立地から吹き込む冷たい風、囲炉裏の温もり、山の匂い。都市部の喫茶店とは次元の異なる「空気感」がここにはある。ご飯を食べに来るというより、この場所そのものを目的地にしている人が多い。
バイク動画のYouTubeチャンネルで紹介されることもあり、店側は特に依頼したわけでもなく、ただ「好きに書いてください」というスタンスを貫いているという。
「お母さん」と呼ばれるオーナーが作る居場所
志津枝さんが「お母さん」と呼ばれるようになったのは、自然な流れだ。料理を持っていき、コーヒーを出し終えると、気づけば客席の隣に座っている。今日あったこと、仕事の悩み、上司との関係、恋愛の話—話したいことを話したいだけ話せる場所として、この店は機能している。
素直で正直、「ガサツな私」と評する志津枝さんだが、その正直さが客にとっての「本音で話せる場所」という安心感につながっている。「ただいま」と言いながら帰ってくる常連客がいるのは、その証左だろう。
素直で正直、「ガサツな私」と評する志津枝さんだが、その正直さが客にとっての「本音で話せる場所」という安心感につながっている。「ただいま」と言いながら帰ってくる常連客がいるのは、その証左だろう。
次の夢は朝7時の峠道の途中で
新しい構想も固まっている。そのために国道沿いの古民家を購入したという。そこでは2つの実施予定だ。ひとつは、バイク乗りたちから長年リクエストされていた「朝ごはん」の提供だ。伊勢志摩方面へ向かうライダーたちは早朝に集合し、コンビニのおにぎりを食べながら出発する。その人たちのために、近くの別拠点で朝7時から10時まで、うどんやそばといった軽食を提供したいと考えている。
もうひとつは、若い移住者たちによる1dayシェフ制度の導入。志津枝さんが場所を提供し、若者たちが自分の料理を振る舞う。売上は彼らのものになり、経験と自信を積んでいく。志津枝さん自身は朝の時間帯だけ関わり、あとは任せる。そうすることで、若者たちがこの地での関わりを増やしていく機会を作りたいと考えている。その古民家では、着物のリメイクギャラリーの構想もある。
貴治さんにとっての挑戦は、母親なしでこの店を一人で切り盛りすることだ。これまでは常に志津枝さんがいたが、その不在が逆に自信につながるかもしれないと、二人は前向きに捉えている。
もうひとつは、若い移住者たちによる1dayシェフ制度の導入。志津枝さんが場所を提供し、若者たちが自分の料理を振る舞う。売上は彼らのものになり、経験と自信を積んでいく。志津枝さん自身は朝の時間帯だけ関わり、あとは任せる。そうすることで、若者たちがこの地での関わりを増やしていく機会を作りたいと考えている。その古民家では、着物のリメイクギャラリーの構想もある。
貴治さんにとっての挑戦は、母親なしでこの店を一人で切り盛りすることだ。これまでは常に志津枝さんがいたが、その不在が逆に自信につながるかもしれないと、二人は前向きに捉えている。
「ゆっくりしたい時に来てね」—それだけで十分な場所
この店が大切にしていることを一言で表すなら、「来てくれたことへの感謝を忘れないこと」だと志津枝さんは言う。料理だけでなく、会話も、空間も、その人が帰る時に「また来たい」と思えるかどうかが、すべての基準になっている。
宣伝をしない。メディアへの露出も積極的には求めない。それでも人が来るのは、来た人が誰かに話したくなるからだ。そう思わせる場所であることが、この店の最大の強みであり、志津枝さんが最も誇りに思うことでもある。
山奥の古民家に灯る囲炉裏の火は、今日も誰かの「ただいま」を待っている。都会の喧騒に疲れた時、何かに行き詰まった時、あるいは特に理由もなくただぼんやりしたい時——そんな時には、山奥の古民家に灯る囲炉裏の火にあたりに行くのはどうだろうか。
宣伝をしない。メディアへの露出も積極的には求めない。それでも人が来るのは、来た人が誰かに話したくなるからだ。そう思わせる場所であることが、この店の最大の強みであり、志津枝さんが最も誇りに思うことでもある。
山奥の古民家に灯る囲炉裏の火は、今日も誰かの「ただいま」を待っている。都会の喧騒に疲れた時、何かに行き詰まった時、あるいは特に理由もなくただぼんやりしたい時——そんな時には、山奥の古民家に灯る囲炉裏の火にあたりに行くのはどうだろうか。
いろりカフェ WELCOME
〒515-1733
三重県松阪市飯高町栃谷204
土曜日
09:00〜15:00
月曜日
定休日
火曜日
定休日
水曜日
09:00〜15:00
木曜日
09:00〜15:00
金曜日
09:00〜15:00
土曜日
09:00〜15:00
日曜日
09:00〜15:00
0598-47-0880
席数
21名(囲炉裏6名、座敷4名掛けテーブル4×2、ウッドデッキ:カウンター×3、2名掛け×2))
L.O.
14:30
定休日
月火曜※祝日の場合は営業
最寄駅
松阪駅から車で80分
支払方法
現金のみ
平均予算
1,000〜2,000円
駐車場
店近くに5台
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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