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静かな丘の上に灯る、30年の記憶と新しい火
三重県松阪市の郊外、高速道路からのアクセスも良く広々とした駐車場を備えた一軒の小さなレストランがある。店名は「閑居NEXT」。16席という小ぢんまりとした空間に、予約客だけが訪れるこの店は、地元でも確かな存在感を放っている。かつて「閑居」として30年にわたり地域に愛されてきたこの場所が、新たなオーナーのもとで静かに生まれ変わった。
店を引き継いだのは土佐克己さん(68)。様々な業界を渡り歩いた末に、人生の新たな章として飲食業を選んだ。その決断の背景には、長年の知人であり前オーナーでもある江原祝子さん(86)との深い縁があった。1995年7月7日に閑居をオープンし、令和7年の同じ日に店を閉じるまで、ちょうど丸30年間この場所に立ち続けたという。七夕の日に始まり七夕の日に幕を下ろすという、まるで物語のような30年間である。
土佐さんが閑居NEXTとして店を再スタートさせたのは2025年1月。内装を整え、軽い改装をした以外は場所も建物の骨格も変わっていない。
店を引き継いだのは土佐克己さん(68)。様々な業界を渡り歩いた末に、人生の新たな章として飲食業を選んだ。その決断の背景には、長年の知人であり前オーナーでもある江原祝子さん(86)との深い縁があった。1995年7月7日に閑居をオープンし、令和7年の同じ日に店を閉じるまで、ちょうど丸30年間この場所に立ち続けたという。七夕の日に始まり七夕の日に幕を下ろすという、まるで物語のような30年間である。
土佐さんが閑居NEXTとして店を再スタートさせたのは2025年1月。内装を整え、軽い改装をした以外は場所も建物の骨格も変わっていない。
異業種から料理の道に進むまで—異色の転身が生まれた理由
土佐さんのキャリアは、飲食業とはおよそ縁遠いものだった。学校卒業後は住宅・建築関係の会社に営業マンとして勤め、その後独立して石材の卸業を20年以上にわたって営んだ。車一つで全国を飛び回り、時には苦しみながら体力と気力を削り続けた日々だった。
後年に腰を痛めたことで、土佐さんは自分の働き方を見直すようになった。そこで浮かんだのが、「一箇所にじっと構えて、お客さんを迎える仕事」というビジョンだった。
閑居との縁は古い。建築業時代に祝子さんと知り合い、この店の土地を紹介したのも土佐さんだった。店の前に敷かれた石畳も土佐さんの石材業の仕事によるものだ。40年近い付き合いの中で育まれた信頼関係が、この引き継ぎを自然なものにした。祝子さんが体調を崩し店を閉めると言い出したとき、土佐さんはそれならとためらわずに手を挙げた。
今でも時折祝子さんも店頭にたち、かつての常連客や友人達との会話を楽しんでいるという。
後年に腰を痛めたことで、土佐さんは自分の働き方を見直すようになった。そこで浮かんだのが、「一箇所にじっと構えて、お客さんを迎える仕事」というビジョンだった。
閑居との縁は古い。建築業時代に祝子さんと知り合い、この店の土地を紹介したのも土佐さんだった。店の前に敷かれた石畳も土佐さんの石材業の仕事によるものだ。40年近い付き合いの中で育まれた信頼関係が、この引き継ぎを自然なものにした。祝子さんが体調を崩し店を閉めると言い出したとき、土佐さんはそれならとためらわずに手を挙げた。
今でも時折祝子さんも店頭にたち、かつての常連客や友人達との会話を楽しんでいるという。
「閑居」という名前に込められた、一枚の茶碗の記憶
店名「閑居」の由来を語るとき、名付け親の祝子さんの目は遠くを見るような表情になる。その名前は、三重県が生んだ偉大な文化人、川喜田半泥子の作品から頂いたものだ。
川喜田半泥子は、百五銀行の創始者である川北久太夫政則の号であり、近代陶芸史において「西の半泥子、東の魯山人」と並び称されるほどの存在だった。食と器に深いこだわりを持ち、陶芸の世界に独自の美学を打ち立てた人物である。
その半泥子が残した筒茶碗の一つに、「閑居」と名付けられた作品がある。一見取り立てて特別なところがないように見えながら、深い味わいを持つ——そんな器の在り方が、自分の目指す店のあり方と重なって見えたのかもしれない。
実際に屋号につけるときには、お弟子さんの下まで赴き、許しをもらったという。こうして「閑居」という店が生まれた。この言葉には「静かに、自分らしく在る」という意味が宿っている。笑いながら語る祝子さんだが、その名前への愛着は30年経った今も変わらない。
家庭の食卓から生まれた和洋折衷という答え
閑居が30年間守り続けたスタイルは、「和洋折衷」。日本の家庭の食卓そのものを表現しようとした試みだった。祝子さんは「日本の食卓には国籍がない。和食も洋食も、気づけば同じテーブルに並んでいる。その無国籍な豊かさこそが、日本の食文化の本質なのでは」と考えた。この和洋折衷スタイルは、思わぬ形で多様な客層を引き寄せた。近隣のカトリック教会を訪れる外国人の神父やシスターたちが、和食も洋食も楽しめるこの店を気に入ってくれたという。
ほかにも、広い駐車場は単なる利便性以上の意味を持っていた。バックが苦手なお客さんが、広い敷地をぐるりと回って前向きのまま帰れる—そんな想定外の利便性が、遠方からの客足を支えた。紀州や名古屋方面からも、高速を使えばアクセスしやすいこの立地が、閑居の商圏を広げたともいえるだろう。
ほかにも、広い駐車場は単なる利便性以上の意味を持っていた。バックが苦手なお客さんが、広い敷地をぐるりと回って前向きのまま帰れる—そんな想定外の利便性が、遠方からの客足を支えた。紀州や名古屋方面からも、高速を使えばアクセスしやすいこの立地が、閑居の商圏を広げたともいえるだろう。
家庭料理の聖域に踏み込む覚悟
閑居NEXTのメニューは、現在のところハンバーグのコース一本に絞られている。ハンバーグを選んだ理由は、いろんな世代の方に来てほしいという思いからだ。肉の街・松阪という地の利を活かしながらもより幅広い世代に訴えかけるメニューとして、ハンバーグは理にかなった選択だった。
しかし、その道は想像以上に険しかったという。日本の家庭料理の定番中の定番であり、それぞれの家庭の味があるハンバーグ。つまり、プロとして提供するハンバーグは、お客さんそれぞれが持つ「うちのハンバーグ」という基準と比べられることになる。家庭の味にケンカを売るようなものだと、土佐さん自身が苦笑いしながら認める。
しかし、その道は想像以上に険しかったという。日本の家庭料理の定番中の定番であり、それぞれの家庭の味があるハンバーグ。つまり、プロとして提供するハンバーグは、お客さんそれぞれが持つ「うちのハンバーグ」という基準と比べられることになる。家庭の味にケンカを売るようなものだと、土佐さん自身が苦笑いしながら認める。
それでも、松阪牛の産地という環境の中で、独自のデミグラスソースに改良を加えている。サラダは見た目の美しさと味の両立を追求し、女性客が思わず写真を撮りたくなるような一皿へ。今後は和風ハンバーグへの挑戦や、和のメニューの追加も検討中だ。オープンからわずか数ヶ月、まだ産みの苦しみの最中にあると土佐さんは言うが、その表情に焦りはない。
「申し訳ないけど、自分が一番楽しいんです」
取材の最後、これから店を知る人たちへのメッセージを求めたとき、土佐さんは少し考えてからこう言った。
やっている本人が一番楽しい、と。
飲食業という体力的にも精神的にも過酷な世界に、68歳で飛び込んだ人間の、正直な告白だ。この店で経験するすべてが新鮮で、すべてが学びであるということだろう。料理の世界では、お客さん全員が先生だ。我以外皆我師、という言葉を土佐さんは口にした。厳しい職人の世界を渡り歩いてきた人間が、今は一枚の皿を通じて、見知らぬ人たちと対話している。その新鮮さが、毎日厨房に立つ原動力になっている。
やっている本人が一番楽しい、と。
飲食業という体力的にも精神的にも過酷な世界に、68歳で飛び込んだ人間の、正直な告白だ。この店で経験するすべてが新鮮で、すべてが学びであるということだろう。料理の世界では、お客さん全員が先生だ。我以外皆我師、という言葉を土佐さんは口にした。厳しい職人の世界を渡り歩いてきた人間が、今は一枚の皿を通じて、見知らぬ人たちと対話している。その新鮮さが、毎日厨房に立つ原動力になっている。
閑居NEXTは、老後の安定を求めて始めた店ではない。終点の見えない老後を、いかに豊かに生きるかという問いへの、土佐さんなりの答えだ。一箇所に構えて、人を迎え、料理を作り、会話を楽しむ—それが今の土佐さんにとって、最も自分らしい働き方なのだろう。
30年の歴史を持つ「閑居」という名前を受け継ぎながら、まったく新しい物語を紡ぎ始めた閑居NEXT。松阪の静かな丘の上で、今日も予約客だけのために、一人の料理人が楽しそうに腕を振るっている。
30年の歴史を持つ「閑居」という名前を受け継ぎながら、まったく新しい物語を紡ぎ始めた閑居NEXT。松阪の静かな丘の上で、今日も予約客だけのために、一人の料理人が楽しそうに腕を振るっている。
閑居NEXT※完全予約制
〒515-0845
三重県松阪市伊勢寺町2770
金曜日
11:30〜14:00
月曜日
11:30〜14:00
火曜日
11:30〜14:00
水曜日
11:30〜14:00
木曜日
11:30〜14:00
金曜日
11:30〜14:00
土曜日
11:30〜14:00
日曜日
11:30〜14:00
090-3340-3323
席数
16席(テーブル:4名掛け×3、2名掛け×2)
定休日
日・月
最寄駅
松阪駅より車で15分
支払方法
現金のみ
平均予算
コースのみ:2,000円、デザート付き:3,000円
駐車場
店前5台
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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