ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

敷居の高さは幻想だった

Photo by macaroni

松阪市内の幹線道路沿いに、一見すると料亭のような佇まいを見せる一軒の店がある。暖簾をくぐる前に足がすくむような、そんな緊張感を覚える人も少なくないだろう。しかし店主は、「全然そんなことないんですけどね…笑」だと語る。

カウンター席に腰を落ち着ければ、大将自らが隣に座って酒を酌み交わすこともある。個室では家族連れが笑い声を上げ、広間では会社の宴席が賑わいを見せる。懐石料理の技法を持ちながら、チャーハンもパスタも弁当も手がける。この店の本質を一言で表すなら、堀端さん自身が見つけた言葉がある——「居酒屋の最終兵器」。その言葉の意味を理解したとき、この店の全貌が初めて見えてくる。

店を営む堀端昭一さん(56)に、これまでの軌跡と「創鮮こしか」の本当の姿をお話いただいた。

志摩の海が育てた料理人、41年の軌跡

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堀端さんの原点は、伊勢志摩半島の先端に位置する越賀という小さな集落にある。和具、御座と並ぶ半島の最先端エリアで生まれ育った彼にとって、海と魚は生活そのものだった。母親が海女として海に潜り、親戚が今も海女小屋体験を営むその土地は、日本でも有数の漁場として知られる。店名「創鮮こしか」は、その故郷の地名をそのまま冠したものだ。魚のことを知る三重県の人間ならば、その名を聞いただけで食材の質を想像できる—そんな信頼を込めた命名である。

堀端さんは17歳のころから鳥羽のホテルで働きながら料理学校に通い、和食の道を歩み始めた。その後、21歳で大阪へ渡り修業を積むこととなる。その密度は濃く後の料理への取り組み方の礎となった。転機が訪れたのは、大阪で知り合った先輩の職人が松阪で店を開くにあたり、ともに来てほしいと声をかけてきたときだった。

新規創業の立ち上げを共にしたのは「懐石 やませ」。これがきっかけとなり、堀端さんは松阪で腰を落ち着けることとなる。そこで15年間、厳格な懐石の世界に身を置きながら技術を磨き続けた後、39歳のころに独立を決意する。

松阪という土地で顔を作り料理を磨き、信頼を積み重ねた末に生まれたのが「創鮮こしか」だった。和食一筋41年という経歴は単なる年数ではなく、一つの道を深く掘り続けてきた証である。

「なんでも屋の最上級」という逆説的な誇り

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ランチの懐石コース:- 5,500円 季節ごとの旬の食材を使ったフルコース。価格帯は 3,200円・3,900円・5,500円の3種類。
こしかのメニューを初めて見た客は、その多様さに戸惑うかもしれない。桜エビのテリーヌ、アオサとアサリの天ぷら、メダイのふきのとう味噌焼き、エビの桜茶碗蒸し—春の懐石コースには、季節の食材を丁寧に仕込んだ料理を楽しめる。一方で、グラタン、明太子パスタ、チャーハン、ブイヤベースのソースを使った料理、さらには豚骨スープから取ったラーメン風うどんまで、和食の枠を大きく超えた品々もその日限の品々として並ぶという。

この一見矛盾するような品揃えは、堀端さんにとって矛盾でも何でもない。
「お客さんが美味しいと感じ、喜んでもらえるなら、それがどんなジャンルの料理であっても出す価値がある。」

すべてを受け入れる器の広さこそが、この店の真骨頂だ。しかし「なんでも屋」という言葉の裏には、妥協のない探求心が隠れている。チャーハンは本格中華料理の料理人から直接手ほどきを受け、ラー油も自家製で仕込む。イタリアンの知人からはソースの作り方を学び、日本酒については酒蔵や酒屋と知識を共有しながら提供の質を高めてきた。

和食以外の料理は「なんちゃって」と謙遜しながらも、その裏では本格的な研鑽を積んでいる。この姿勢こそが、「何を食べても美味しい」と言われる所以だろう。

常連客との関係が生む、メニューにない料理たち

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こしかには、メニューに載っていない料理が存在する。それは常連客のリクエストから生まれる一期一会の創作料理だ。ある日、常連客から「生野菜の上にスクランブルエッグをのせて、トマトソースと粉チーズをかけたイタリアン風サラダを作ってほしい」という注文が入った。本来はイタリアンレストランに行きたかったお連れ様を、刺身が食べたいという理由でこの店に連れてきた結果の苦肉の策とも言えるリクエストだった。しかし堀端さんはそれを快く引き受け、満足のいく一皿を仕上げた。

こうした柔軟な対応が可能なのは、堀端さんが常連客の好みを熟知しているからでもある。それぞれの食の嗜好が頭に入っているからこそ、食事の進み具合を見ながら次の一手を考えることができる。カウンター越しの会話の中で客の体調や気分を読み取り、その日最適な料理を提案する。これは単なるサービスではなく、長年の関係性が生み出す、料理人と客の共同作業だ。

メニューには「大将のおまかせコース」という選択肢も用意されている。予算だけを伝えれば、付き出しから数品の料理まで、その日の食材とお客に合わせた構成で提供される。これは懐石料理の伝統的な形式でありながらこしか流の解釈が加わった、自由度の高いコースだ。堀端さん自身も一緒に酒を飲みざっくばらんに会話を楽しむ。その距離の近さが、こしかという店の空気を作り出している。

志摩の海と松阪の台所をつなぐ、信頼の仕入れルート

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こしかの料理を語るうえで食材の調達を外すことはできない。その関係は単なる売買を超えた信頼の絆で結ばれている。20年近くにわたって付き合いを続けてきた志摩の魚屋は、市場で珍しい魚を見つけると堀端さんが必ず買ってくれると信じて競りに参加する。他の店では手に入らないような一級品の食材がこしかに届くのは、この長年の信頼関係があってこそだ。

食材へのこだわりは魚だけにとどまらない。手作りの肥料を使った野菜、さくらポーク、地元の豆腐—それぞれの食材に物語があり、その物語を料理という形で客に届けることが、堀端さんの仕事だと言える。食材を見れば産地と漁場が頭に浮かび、その日の状態を判断して最適な調理法を選ぶ。41年の経験が培った直感と知識が、こしかの料理を支えている。

謙虚さと誠実さ—料理人としての生き方

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41年間和食の世界で生きてきた堀端さんが、店を経営するうえで最も大切にしていることを問われると答えはシンプルだった。

「正直であること、素直であること、謙虚であること」
——この三つに尽きると言う。ミスをしたら素直に謝り、嘘をついて誤魔化すことはしない。食材についても、料理についても、客への対応についても、その姿勢は一貫している。

初心を忘れなければ料理にも自然と愛情が込められ、美味しいものが出せると堀端さんは信じている。この言葉は料理技術の話ではなく、料理人としての生き方の話だ。

「創鮮こしか」という店は、その哲学の体現だ。懐石料理の格式を持ちながら居酒屋の親しみやすさを持ち、和食の技術を持ちながらパスタやチャーハンも作る。
敷居が高そうに見えて、実は誰でも受け入れる。その一見矛盾した姿こそが、堀端さんの料理人としての誠実さから生まれた本当の姿なのだ。

初めて訪れる人へのメッセージは明快だ—敷居が高いと思わず、一度足を踏み入れてほしい。特に夜は、気取らず酒を飲み、美味しいものを食べ、大将と話す、そんな時間が待っている。居酒屋の最終兵器は、松阪のその場所で、今日も静かに、そして温かく扉を開けている。
創鮮こしか
〒515-0063
三重県松阪市大黒田町1265−4
金曜日
11:30〜14:00
17:30〜22:00
月曜日
11:30〜14:00
17:30〜22:00
火曜日
11:30〜14:00
17:30〜22:00
水曜日
11:30〜14:00
17:30〜22:00
木曜日
11:30〜14:00
17:30〜22:00
金曜日
11:30〜14:00
17:30〜22:00
土曜日
11:30〜14:00
17:30〜22:00
日曜日
定休日
開閉
0598-21-0280
席数
43席(カウンター席×5、座敷:6名掛け×2、4名掛け×4、掘りごたつ:6名掛け×1、4名掛け×1 ※団体:30名程度)
L.O.
ランチ:13時、ディナー21時
定休日
月曜、第二月曜
最寄駅
松阪駅より
支払方法
各種クレジットカード、電子決済、QR決済可能
平均予算
ランチコース:3,200~5,500円、ディナー:6,000〜円
駐車場
9台(店前5台、第二駐車場4台)
禁煙
ランチ
ディナー

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