ライター : 大谷りえ子

パンディレクター/パンライター

人気店「ブーランジェリー・ジャンゴ 」川本シェフの推しパンは?

Photo by macaroni

本連載の最終回となる今回、“ご贔屓パン”を教えてくれたのは、東京・人形町の人気店「ブーランジェリー・ジャンゴ」の川本シェフ。

川本シェフが登場した前回の記事はこちら▼

Photo by macaroni

ブーランジェリー・ジャンゴ オーナーシェフ / 川本宗一郎さん デザイン会社から一転してパン職人の道へ進み、千葉県の一般的な街のパン屋で約3年働いたのち、都内の複数店で働く。2010年に江古田にブーランジェリー・ジャンゴを開業。2019年5月、練馬区江古田から日本橋浜町に店舗を移転
「東京・麹町にある『No.4』のクロワッサンが私の推しパンです。同店の川原シェフはまだ若い職人ですが、パン愛にあふれ、真面目で研究熱心。ちょこちょこレシピを変えているんじゃないかと思うんですが、湯種の扱いに秀でた彼のクロワッサンは、特に良いですね」

川本シェフが高く評価する川原シェフのクロワッサンとはいったいどんなパンなのでしょう。その正体に迫るべく、No.4へ取材を申し込みました。

店舗情報

東京・麹町の「No.4」へ

Photo by macaroni

市ヶ谷の駅前から麹町へ向かって伸びる、日本テレビ通り沿いの「番町の庭」に、目的のお店「No.4」はありました。

天王洲にあるブルワリーレストラン「T.Y.HARBOR(ティー・ワイ・ハーバー)」を手掛けるタイソンズアンドカンパニーが期間限定で出店しているベーカリーカフェ。地価の高い麹町にたたずむ平屋建てのレストランは、外観だけを見てもおしゃれで、眺めていると都会から離れて郊外に来ているような気持ちになります。

Photo by macaroni

店舗面積153平方メートルの広々とした店内。ベビーカーでの入店OK、テラス席ならペット同伴でも利用できる
「レストランでもカフェでもベーカリーでもない」をコンセプトに、“ハンドクラフト”の食で気取らない空間を提供しているという同店。広々とした店内は明るく、ウッディな内装がほど良い温もり感を演出しています。入口から見て右手側には焼き立てのパンがズラリと並んでいて、おいしそうな香りを漂わせていました。

ちなみに、このお店では、産地にこだわった小麦や自家製天然酵母などの厳選された原料を使い、日々40種類以上のパンを焼き上げているとのこと。

Photo by macaroni

No.4 クロワッサン 280円(税込)
お目当てのクロワッサンを発見! バターの芳ばしい香りを漂わせていて、こんがりとした褐色の焼き色が食欲をそそります。これだけあると、1個1個じっくり見て、好みのものを選び抜くのも楽しいですね。

Photo by macaroni

お店の奥へ進むと、カウンターの向こうには薪窯があり、ピザが焼かれている最中でした。焼きたてのピザも、No.4の人気メニューのひとつで、これを目当てに訪れる近隣の方も多いといいます。

そして、その薪窯の奥に見える作業スペースに、No.4のヘッドベーカー、川原シェフを発見!お忙しそうでしたが、少しだけ時間をいただいて、話を聞かせてもらいました。

おいしさのひみつは、湯種を使う製法にあり

Photo by macaroni

No.4 ヘッドベーカー / 川原 司シェフ 北海道生まれ。大学で哲学を学ぶために上京し、東京で食べたパンのおいしさに感動したことがきっかけとなり、パン職人を目指す。某ブーランジェリーで経験を積み、TYSONS & COMPANYに入社 。breadworks表参道に勤務したのち、No.4立ち上げ時の商品開発に携わり、現在はヘッドベーカーとしてNo.4のパン作りに励む日々
ーーさっそくですが、No.4のクロワッサン、おいしさのひみつはなんでしょうか?

川原シェフ(以降 川原)国産小麦をはじめとする原材料と、湯種を使った製法です。

ーーそういえば、川原シェフは「湯種の魔術師」と呼ばれているんですよね。“湯種”についてご説明をいただけますか?

川原 (照れ笑いしながら)湯種とは、パン生地に使用する小麦粉の一部に熱湯を加えてこね、ひと晩寝かせてお餅のようにした生地のこと。小麦粉を熱湯でこねて作ることで、デンプンをアルファ化させた種です。
※デンプンを水と加熱することでデンプン分子が規則性を失い、糊状(アルファ状)になること

ーー湯種を使ったクロワッサンはどういうパンになるのですか?

川原 もっちりとした、日本人好みといわれるような食感のパンになります。どちらかといえば食パン作りに用いられることの多い製法です。

Photo by macaroni

ーーその湯種をどうしてクロワッサンに使ったのでしょうか。

川原 口溶けと歯切れが良く、時間が経ってもおいしく食べられる……、そんなクロワッサンを作りたいと思ったからです。そのために必要な要素のひとつが湯種でした。現在のうちのクロワッサンは、この湯種とバター種、2種類を合わせて焼いています。

ーー湯種については分かったのですが、バター種とは?

川原 バターと小麦粉を一緒に炊いた生地のことです。湯種だけだと引き(グルテンのつながり)が強くなり過ぎて、歯切れの点でもの足りなかった。そこでバター種を合わせてみると、クロワッサンらしいサクサク感が増し、イメージに近い仕上がりとなりました。バターは油分なので、そのぶん歯切れが良くなったんです。

ーー試行錯誤の結果、生まれたクロワッサンなんですね。おすすめの食べ方はありますか?

川原 当日はそのまま食べて、翌日は軽く焼いてから食べてみてください。クロワッサンはハード系のパンほど日持ちしないので、風味が落ちる前に食べ切っていただけたらと思います。バターの風味が強いので、このクロワッサンでサンドイッチを作るときは、たっぷり具材をはさんで食べるのをおすすめします。

焼きたてクロワッサンを食べてみると……

Photo by macaroni

トーストセット(パンドミ or クロワッサン。ミニサラダとフルーツ付き) 560円(税込)
川原シェフから食べ方を聞いたところで、いよいよ試食。朝8時から10時45分まで提供されているモーニングを注文しました。ミニサラダと彩鮮やかなフルーツが付いて、560円(税込)。クロワッサンはパンドミのトーストに変更することも可能で、セットドリンク(+280円)は珈琲、紅茶、オレンジジュースから選べます。

焼き上がったばかりのクロワッサンは、こんがりとした焼き目もきれいなきつね色。どこから食べるか迷った末に、カリッと焼き上がったエッジの部分にかぶりつきました。小麦の香ばしさと一緒に口に広がる、発酵カルピスバター由来のやさしく甘い香り。パリパリしたクラストとほんのりと甘いクラムのコントラストがたまりません。

川原シェフのコメントにもありましたが、口溶けと歯切れの良さは特徴的。時間が経ってもおいしく食べられるともおっしゃっていたので、いくつか買って帰ることにしました。

サンドイッチ用のパンとしても秀逸!

Photo by macaroni

取材の翌日、No.4のクロワッサンでサンドイッチを作ってみました。

トースターでリベイクしたクロワッサンに切り込みを入れ、レタス、薄切りのローストハム、スライスチーズ、白だしと塩・砂糖で薄く味付けした和風卵焼きをはさんで完成。クロワッサンの小麦やバターの風味がしっかりしているので、風味の強い具材を複数使ってもケンカすることなく、上手く調和してくれました。

パンが具材にまったく負けていないという印象で、これならそれなりに風味の強い具材でもパンのおいしさをしっかり感じられそう。そのまま食べても、サンドイッチに使っても格別においしかった、No.4の湯種を使ったクロワッサン。日々いろいろなお店のパンを食べている私ですが、また近々買いに行きたいと思わせてくれる“ご贔屓パン”でした。
※掲載情報は記事制作時点のもので、現在の情報と異なる場合があります。

編集部のおすすめ