ライター : つゆくぼみえ

料理探求人&フードライター

味噌煮込みうどんの名店、名古屋「角丸」

Photo by つゆくぼみえ

街の麺類食堂として大正15年に産声を上げた「角丸(かどまる)」。定番メニューにスポットが当たり、今では「角丸=みそ煮込うどん」というイメージが定着しました。

名古屋人を魅了し、今も進化しつづける名代・味噌煮込みうどんの魅力に迫ります。

そもそも味噌煮込みうどんとは?

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名古屋名物のひとつに数えられる味噌煮込みうどん。メディアに取り上げられるようになったのは、昭和50年代ですが、大正時代以前より尾張地方の家庭料理として親しまれていたようです。

家庭の味がプロによってブラッシュアップされ、昭和初期から戦前になると麺類食堂の定番メニューになりました。

八丁味噌をはじめとする豆味噌、名古屋のうどんには欠かせないムロアジのダシ、煮込んでもダレないうどんのハーモニーが名古屋人の心をわしづかみにし、今のポジションを築いたと考えられます。

人気の定番メニュー「みそ煮込うどん」を中心に

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麺類や丼もの全般を提供する食堂としてスタートした「角丸」では、創業当初より味噌煮込みうどんを通年提供し、根強い人気を誇っていたそうです。

名古屋名物として紹介され始めると、さらにオーダーが集中するようになりました。そこで丼ものをお品書きから外し、みそ煮込みうどんを中心にしたラインアップに。

一人前を仕上げるのに、ひとつの火口を要することから、厨房も味噌煮込みうどん中心の設えにしました。こうして「角丸=みそ煮込うどん」というイメージが定着したのです。

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「角丸」三代目の跡取り息子として生を受けつつ、大学卒業後は音楽関係の仕事に就いた日比野宏紀さん。8年ほど大阪で過ごし、ふと「俺が帰らなかったら『角丸』の味はこの世からなくなるのか……」と焦りを覚えたそうです。

「角丸」を存続させたいというよりは、自分自身が食べ続けたいという思いに背中を押され、名古屋へ帰郷。以来、父や老舗の諸先輩方から指導を受けつつ、自己研鑽に励みました。

平成8年に帰郷して以来、毎日欠かさず自作の味噌煮込みうどんを食べるという日比野さん。途切れるどころか、深さを増す愛着は、味の創造にも直結しているようです。

マイルドなダシとしなやかな麺!「角丸」の味噌煮込みうどん

みそ煮込うどん 梅(玉子かしわ入り)

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1,050円(税抜)
「角丸」の味噌煮込みうどんには、松・竹・梅があります。梅は玉子とかしわ(鶏肉)が入るから通称「親子煮込み」。味噌煮込みうどんの定番中の定番です。

「角丸」では、近所の鶏肉専門店から毎日朝びきの鶏を入手。「鶏肉は鮮度が命。朝びきに限ります。全体の味わいにダイレクトに影響しますから」と日比野さんは語ります。

ブランドにこだわらず、食べておいしいと思うものが選別基準。常に状態を確認しながら扱っているそうです。

ピンチをチャンスに変え、ダシを一層おいしく

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ダシに使う節は、名古屋うどんの定番であるムロアジをベースにした混合節。実は令和2年に入って、このムロアジに泣かされたそうなのです。

創業以来取引していた節問屋さんが廃業され、同じものが手に入らなくなるというピンチに直面。日比野さんはあちこちの問屋に掛け合い、ようやく納得のいくものを見出しました。

「以前とは変わりましたが、確実においしくなったと断言できます」と胸を張るとおり、上品な香りとふくよかな旨みを持つダシが、秘伝の味噌に見事にマッチしています。

初代の味を頑なに守り続けていると思いきや、この道に入って以来、何度もレシピの改良を重ねてきたという日比野さん。今までの経験からピンチをチャンスに変えることができたのでしょう。

味噌煮込みうどんは、普通のうどんにあらず

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味噌煮込みうどんと聞いて、豆味噌ベースのダシにゆでたうどんを入れて煮込むだけ、と思われる方も多いのでは?ところが、本場の味噌煮込みうどんは麺も調理法も独特です。

うどんは粘りやコシを与えるために塩水で打ち、ゆでてから提供するのが一般的。一方、味噌煮込みうどんは塩を入れずに打ち上げ、ゆでることなく味噌ダシに直接投入します。こうすることで、煮込んでもダレない独特の歯応えが生まれるのです。

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「角丸」の麺は味噌煮込みうどんならではの食感を保ちつつ、ほかの店とは一線を画すしなやかさを誇ります。硬すぎず、太すぎず、全体の調和を乱しません。

打ち粉を落とさずそのまま入れるため、味噌ダシにとろみがついて冷めにくく、体の芯からポッカポカ。冬はもちろん、クーラーで冷えた夏場の体もやさしく温めてくれます。
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