ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

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三重県松阪市の住宅街に佇む小さなコンテナショップ。一見すると見つけにくい立地ながら、県外からも訪れる人が絶えない人気店がある。猫モチーフのクレープと焼き菓子を提供する「パルティ」だ。店主の木下愛さんが営むこの店は、単なるスイーツショップの枠を超え、地域コミュニティの拠点として、そして猫好きの聖地として独自の存在感を放っている。

なぜこのようなクレープ店をオープンしたのか、木下さんに詳しく話を伺った。

製菓の道を歩み続けた店主の軌跡

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木下さんの菓子作りへの情熱は、高校時代に遡る。隣町の久居の高校で調理系のコースを専攻し、毎週の調理実習や検定試験を通じて基礎を学んだ。その後、四日市の製菓専門学校で2年間、本格的に製菓技術を磨いた。専門学校時代には、ケーキ屋でのアルバイトや研修を通じて、ミルクレープ作りなど実践的な技術も習得している。

卒業後は地元のケーキ屋に就職。そこでの4、5年間は、まさに怒涛の日々だった。そんな働き方が当たり前だった時代を、木下さんは「何年クリスマスを超えたんだったっけ…?笑」と振り返る。

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結婚と出産を機にケーキ屋を退職した後も、製菓への思いは消えることはなかった。子育ての合間を縫って、書店などでパートをしながら、ハンドメイドイベントで粘土を使った食べれないスイーツやお菓子の家などのキーホルダーを販売していた。この時期に出会ったキッチンカーのクレープ屋との交流が、後の開業への大きなヒントとなる。仕入れ先や生地の管理方法、機材の選び方など、実践的な情報を地道に収集していったのだ。

子どもたちが成長し、再び本格的に調理の現場に戻りたいと考えた木下さんは、給食センターでのパートにつくこととなった。大量調理の現場で学んだ衛生管理や食品の扱い方は、後の店舗運営に大きく活きることになる。特に食中毒対策や危機管理の厳しい基準は、個人店を営む上での貴重な財産となった。

松阪産いちごをふんだんに使った季節限定クレープ

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イチゴ×イチゴDX:900円
数ある期間限定クレープの中でも一番人気なのが、いちごのシーズンである12月〜4月末まで食べられるイチゴ×イチゴDXである。中には角切りのいちごがふんだんに使われ、盛り付けにもハート型とスライスされたいちごが盛り付けられている。使われているいちごソースも自家製。いちごは松阪産を使用している。

何と言ってもこの可愛さである。食べるのが惜しくなってくる…食べ進めると、どこを食べてもいちご!いちご!いちご!!生クリームもあっさりとしており、いちごとの相性がとても良かった。これで1,000円を切る価格というのが正直信じられない。。。。
また、自家製ねこ耳クッキーやボーロが食感のアクセントになり、クレープでは珍しく食感を楽しむこともできる。

こだわりが生む圧倒的な満足度

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肉球のクッキーは犬好きのお客さんにも好まれているとのこと!
木下さんのクレープは、最後の一口まで手を抜かない。多くの店では、表面は華やかでも、食べ進めると生クリームだけになりがちだ。木下さんはその点に違和感を覚え、いちごのクレープなら必ず最後までいちごが入る構成にしている。

焼き菓子もすべて猫モチーフだ。猫型マドレーヌやアイシングクッキーなど、その造形には、かつて粘土でスイーツ雑貨を作っていた経験が活かされている。

メニュー開発は見た目から発想し、客との会話を起点に広がってきた。ホイップなしや温かいクレープ、生地だけのクレープ、車でも食べやすい春巻きのようなワンハンドタイプなど、どれも日常の声に耳を傾けた結果である。季節や行事に合わせた限定商品も1ヶ月から2ヶ月のスパンで展開し、訪れるたびに新しい楽しみを用意している。

コロナ禍が生んだ新たなチャンス

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2023年10月、木下さんは給食センターでの仕事を続けながら、長年の夢だった自身の店をオープンさせることとなる。その背景には、コロナ禍があり、クレープ製造に必要な業務用機器が比較的手頃な価格で出回るようになったのである。それは長年準備を重ねてきたからこそ掴めた機会だった。

もう一つの原動力は、コロナ禍で失われた子どもたちの居場所への思いだ。幼い頃、たこ焼き屋やドーナツ屋で過ごした記憶を胸に、近所の子どもたちが自転車で気軽に立ち寄れる店を作りたいと考えた。給食センターとのダブルワークは過酷を極めたが、木下さんは約1年半二足のわらじを履き続けてきた。当初は近隣の子どもや親子連れを想定していたが、実際には予想を超える反響があった。

意外な客層の広がり

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チョコバナナキャラメルナッツクレープ:550円 眼前の田んぼを見ながらのんびりクレープを楽しむことができる
開業当初の想定を覆したのは、男性客の多さ、特に一人で訪れる男性だった。作業服姿の男性が軽トラや大型トラックで乗り付け、可愛い猫のクレープを注文していく。「近くで甘いものを調べたら出てきた」という男性客は多い。外で食べられるため、誰の目も気にせず、車の中でゆっくり味わえる。

ある日、大型トラックに3人の男性作業員がぎゅうぎゅうに乗って来店した。体格のいい男性たちが、猫のクレープを嬉しそうに注文する姿は、木下さんにとって忘れられない光景だ。住宅街の奥まった立地が、かえって気兼ねなく甘いものを楽しめる環境を作っているのだろう。

県外からの来店も増え、伊勢神宮や鳥羽水族館の帰りに立ち寄る人や、Googleマップで見つけたという客も多い。時には小型バスでの団体客が訪れることもあり、隠れ家的な店が旅の目的地の一つになっている。

一方で、一人で来る女性客も多く、プレゼント用の焼き菓子や自分へのご褒美として利用されている。こっそりクレープを食べに来た父親が、家族へのお土産を選んで帰る姿も、この店では日常の風景だ。「自分だけ食べに来たから」と照れくさそうに選ぶ姿に、木下さんは微笑ましさを感じている。

一夜にして変わった運命

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なぜ閑静な住宅街にあるクレープ屋が多くの人に知られるようになったのか。それは開業から3か月後の2024年1月にまで遡る。商工会のイベント会場で、三重県内でキャスターやアナウンサーとして活動する幼なじみと、十数年ぶりに再会したのである。

久々の再会の席で店の話をすると、まみさんは即座に取材を申し出てくれた。その後、2月に三重観光系のメディアで紹介されると、反響は一気に広がることとなる。

さらに、松阪や三重県の情報を発信する若手インフルエンサーや、フォロワー数1万人を超えるインフルエンサーなど、影響力のある発信者が美しい写真とともに店を紹介してくれたという。それまで比較的静かだった店には、紹介をきっかけに来客数は従来の約20倍にまで跳ね上がった。そうした投稿が新たな来店を呼び、口コミは連鎖し、SNS上での拡散はさらに加速していった。

友人が接客を手伝い、木下さんはただひたすらクレープを焼き続ける日々が続いたという。

6.猫への愛が生んだ圧倒的な独自性

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手前からいつも眠そうなキジトラのラム店長、黒猫の新入りヨルさん、キジトラのモモバイトリーダー。窓辺で出会えるとラッキー!!ヨルさんが一番可能性が高いかも?
パルティ最大の特徴は、徹底した猫モチーフへのこだわりである。この徹底ぶりが、猫好きコミュニティに強烈な印象を与えた。県外から訪れる客の中には、猫グッズを身につけ、猫Tシャツを着て来店する人も少なくない。

最もレアなケースは、中国地方から店のためだけに訪れた夫婦だった。「他にどこか行かれるんですか?」と尋ねると、「もう帰ります」との答え。その夫婦は2回も訪れてくれた。猫という共通項が、全国から人を引き寄せているのだ。

木下さん自身、生粋の猫好きで、現在は3匹の猫と暮らし。隣接する自宅には「店長」と「バイトリーダー」が待機しており、さらに最近新人くんが加わったという。時折窓辺に姿を現しては、お客さんの目を楽しませている。木下さんは自らを「下僕」と称し、猫様方のために働いていると笑う。保護猫活動にも積極的で、譲渡会のチラシ掲示などを通じて支援を続けている。

7.子どもたちの居場所として

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店舗横には季節のイベントをモチーフにしたデコレーションが飾り付けられている。一番力を入れているのはハロウィンだという。ぜひ11月に訪ねてみては?
一方で、当初の目的だった地域の子どもたちの居場所としての機能も、しっかりと果たしている。水曜日は近隣の小中学校で部活動がない日。10人ほどの子どもたちが自転車で乗り付け、クレープを頬張りながら会話を交わす。客が少ない時間帯には、クレープを作りながら様々な話に耳を傾けることもあるという。

価格設定にも、子どもたちへの配慮が表れている。看板メニューの「チョコバニャニャ(バナナ)デラックス」は600円。手の込んだ猫の顔のデコレーション、焼いた耳のパーツ、たっぷりのチョコバナナを考えれば、1000円でも安いクオリティだ。しかし木下さんは、子どもたちが小遣いで買える価格にこだわっている。

最も安いメニューは、生地だけのプレーンで200円。小学生が一人だけお小遣いが足りなくて買えないという状況を作りたくないとの思いから、300円から800円台まで幅広い価格帯を用意している。中学生が300円のクレープを2つずつ買っていく姿は、木下さんにとって何よりも嬉しい光景だ。

地域とのつながり、そして未来へ

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店名の由来を伺うと、実は元々の候補として「Avant de Partir(アバンドゥパルティ)」というのがあるという。フランス語で「出かける前に」という意味らしい。木下さんの旦那さんが提案したこの名前には、「どこかに行く前に、家に帰る前に、友達と遊ぶ前に…気軽に立ち寄ってほしい」という願いが込められている。ただ、この由来はあまり広まっておらず、多くの人には「猫のクレープ屋さん」として認識されている。それはそれで、木下さんにとっては嬉しいことだとのことだ。

3年間、価格は据え置きのまま。原料価格も上昇しており「大丈夫なの?」と心配する常連客もいるが、子どもたちが気軽に買える価格を維持することが、木下さんの譲れないこだわりなのだ。

将来の夢は、イートインスペースのあるカフェを開くこと。クレープだけでなく、猫をモチーフにしたプレート料理を提供したい、ただし一人でできる範囲で笑、とのこと。自分のやりたいことを全部詰め込んだ結果が今の形だ。いつか、その範囲が広がる日が来るかもしれない。

宝探しのような体験を

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「大変見つけにくい場所ですが、宝探しのような感覚で来てほしい」と木下さんは語る。自分だけが知っている特別な場所。そんな体験を提供できることが、木下さんの誇りでもある。

子どもたちにとっては通学路沿いの気軽な立ち寄りスポット。猫好きにとっては聖地。甘いものが食べたい男性にとっては気兼ねない憩いの場。県外からの観光客にとっては、旅の思い出を彩る特別なスイーツショップ。パルティは、訪れる人それぞれにとって異なる意味を持つ場所となっている。

三重県松阪市の住宅街。少し見つけにくい場所に、可愛い猫たちが待っている。その猫たちに会いに行く小さな冒険が、きっとあなたの日常に特別な彩りを添えてくれるはずだ。

焼き菓子とクレープのお店 パルティ
〒515-2114
三重県松阪市小津町377−4
火曜日
14:00〜18:00
月曜日
14:00〜18:00
火曜日
14:00〜18:00
水曜日
14:00〜18:00
木曜日
定休日
金曜日
14:00〜18:00
土曜日
11:00〜17:00
日曜日
定休日
開閉
L.O.
17:30
定休日
木、日、祝※その他に臨時休業の場合がございます。詳しくはInstagramをご確認ください。
最寄駅
JR六軒駅徒歩6分、松阪駅より車で20分
支払方法
PayPay、メルペイ、d払い可
平均予算
〜1,000円
駐車場
店前6台
注意事項
JR六軒駅からの道は大変細くなっています。車でお越しの際は「ローソン 松阪小津町店」前の側道よりお越しいただくほうが行きやすくなっております。

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