ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

元整体師が挑む“夏の勝負” 手づくり韓国かき氷店の物語

Photo by macaroni

かつてはリラクゼーションサロンとして使われていた店舗が、今は手づくりのかき氷を求める客で賑わっている。場所は三重県松阪市、駅前の商業エリア・ベルタウン。その一角にあるのが、先月7月4日にオープンしたばかりの韓国かき氷「糸ピンス(韓国では「シルタレピンス」と呼ばれる)」のお店「BONNEY」である。

韓国発祥の進化系かき氷で、専用の機械によってシロップを瞬間冷凍し、糸状に削って何層にも重ねたものである。都市部で続々と提供店舗が増えている糸ピンスがとうとう松阪にも到来したのだ。そんな小さな韓国かき氷店を営む武内大典さんにお話を伺った。

リラクゼーションサロンから糸ピンス店への大胆な方向転換

この店が「飲食店」として生まれたのは、実はごく最近のことだ。
「ここは元々、リラクゼーションのサロンとして10年ほど使っていた店舗なんです」と武内さんは語る。整体やカイロプラクティックの仕事に長年携わりながら、自分の店を持ちたいという思いから、約11年前にこの場所を借り始めた。

しかし、コロナ禍の影響は大きかった。求人をかけても人が集まらず、施術者としての仕事を継続するのが難しくなった。そのためリラクゼーションサロンを一時休業していた間、武内さんは建築業や内装業など、まったく異なる分野の仕事に携わっていたという。

いったん別の仕事にも手を出しながら、この店舗の使い道を模索していたという。「ここはずっと借りっぱなしだったので、もったいないなと思っていました。じゃあ、自分で何か始めてみようかと考えたのがきっかけです」

なぜ「かき氷」だったのか?糸ピンスで勝負するという選択

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ではなぜ、数ある飲食業の中でも「かき氷」だったのか。しかも、あえて「韓国風」を選んだ理由とは何だったのか。

「糸ピンス」を軸に据えたスイーツ店を立ち上げた武内さんの挑戦は、機械との偶然の出会いから始まった。2023年ごろ、知人の持つかき氷機を使わせてもらえる機会を得たのがその端緒である。「普通のかき氷で勝負する自信はなかったんです。でも、韓国風の糸ピンスなら面白がってもらえるかもしれないと思いました」

そう語る武内さんが目をつけたのは、“都会で流行しているけれど地方ではまだ珍しい”という市場の隙間であった。松阪市では、韓国風かき氷を専門に扱う店は少ない。その点が商機だと捉えたのだ。

「この店舗のサイズ、この場所でもできることを考えたとき、これならいけるんじゃないかと。いろんな店を実際に見て回って、食べて、食感の違いを確かめて、面白がってくれるんじゃないかと思ったんです」

建築業で得たスキルが内装に生きる

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「床も含めて、内装は全部自分でやりました」と語る武内さん。内装は最小限の手入れにとどめた。床を張り替え、厨房やカウンターを整備した程度で、元々の店舗の造りを活かしながら、かき氷店としての必要最低限の仕様へと切り替えた。

建築や内装業で得た経験が、今の店舗づくりに大きく寄与していることは間違いない。二足のわらじを履きながら、整体業と並行して生計をつないでいたというその姿勢からは、堅実な実行力と地道な努力が伺える。

「コロナ禍の2021年〜2022年頃から始まり、2025年までの2〜3年間はそんなふうに模索していた期間でした」と振り返る。

高性能機械の裏側と見せ方の工夫

オープンに備えて高性能なかき氷機を導入したものの、あえてパフォーマンス重視の“見せる演出”は選ばなかった。その理由について武内さんはこう話す。

「集中できないというか、ずっと見られてたらちょっと恥ずかしいですよね(笑)。それに、作業に集中したいので。」
最近では、かき氷の実演販売をする店も増えており、お客の前で氷を削りながら提供するスタイルも一般的になりつつあるが、「品質と味で勝負する」ことを選択したというわけだ。

「氷の世界」は思いのほか奥深かった

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糸ピンス ストロベリー:900円
いざ始めてみると、かき氷の世界は想像以上に奥が深かった。訪れる客の中には、県内外の氷店を巡る“氷マニア”のような人もいたという。

「休日はかき氷を食べ歩いてる、なんて人もいます。今まで行ったお店の写真や情報をたくさん見せてくれて、まさかこんな山奥にも氷店があるのかと驚くばかりでした」
そのような“ライバルたち”との出会いが、かえって武内さんの闘志に火をつけた。「こんなすごい世界があるのか」と衝撃を受けつつ、自分のかき氷にも個性を出したいという思いが強くなっていった。

メニューは完成度に納得できた4種のみ

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現在提供されているかき氷は4種類。人気順に並べると、ストロベリー、マンゴー、宇治抹茶、チョコミントの順となっている。

とくにストロベリーの人気は根強く、男女問わず幅広い層に支持されている。宇治抹茶やチョコミントといった個性派メニューも、「想像以上に男性にも人気がある」と武内さんは語る。氷そのものが柔らかく食べやすいため、十分に美味しさを楽しめる。

味の種類は厳選と試行錯誤の末に

メニューの内容や味に対しても、武内さんは妥協を許さない。現在のラインナップは、色合いや味のバランスを考慮して選ばれたものだ。「もっとたくさんの味を出したい気持ちもある。桃やパイナップルなどを検討中です。」と語る一方で、機械の構造上、味の切り替えに時間がかかることから、種類を増やすのは難しいという。

実際、過去に様々なフレーバーの試作も行ったが、納得のいく味にならず断念したこともあるそうだ。また、「チョコバナナがいいのでは?」といったお客さんからの提案も多く寄せられており、今後の展開に期待が高まる。

修行なし、独学で挑む糸ピンスの道

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「どこかに修行に行ったりはしていません。いまはYouTubeでいろんな情報が手に入りますから」

武内さんの糸ピンスづくりは、動画サイトや実食による試行錯誤を通して学ばれたものだった。実際に店を訪ねて見学しても、「レシピや工程はなかなか見せてもらえない」ことも多かったという。

そんな中、武内さんが重視したのは食感と粘度である。氷の削り具合だけでなく、仕込む素材や蜜の配合によって、出てくる形や食感が大きく変わる。そこに創作の面白さがあると語る。

「作って、食べて、また作る」—トライアンドエラーの日々

現在でも、蜜や練乳の配合、氷の削り方など、すべてが試行錯誤の連続である。
「まだまだ全部を試したわけじゃありません。これをちょっと足したらどうなるかとか、やってみたいことはまだまだある」

その言葉の裏には、「かき氷は“完成品”ではない」という武内さんの信念が透けて見える。現状に満足せず常に試行錯誤しながら改善を続けていくという、クリエイターとしての姿勢がそこにあった。

響きと偶然から生まれた店名「BONNEY」

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「BONNEY(ボニー)」という店名には、ユニークで少し意外な由来がある。元々は武内さんが以前に営んでいたリラクゼーションサロン「施術屋BONNEY」から引き継いだものである。響きが良いという直感から選ばれたこの名前だが、命名の背景には一風変わったエピソードが隠れていた。

「ロゴも“ボーン”みたいな骨っぽいイメージですよね。リラクゼーションサロンというのもあり、”ボニー”には自分の中で決定していました。そんな時、外国人のお客さんに英語で“痩せこけた”という意味の「bony」っていう単語があって痩せこけた人みたいな意味になるよ”って言われて(笑)。それで、人名的なスペルのほうがいいってアドバイスをもらって、今のスペルにしたんです」と語る。

もともとは「施術屋BONNEY」としてリラクゼーションサロンを営んでいたが、業態を変えても名前を変えなかった理由については、「顔なじみの方にまた来てもらえたら」との想いがあったからだ。

結果として名付けられた「BONNEY」は、かわいらしく、若い世代にも強い印象を与える名前として機能している。「高校生が『かわいい!』って言ってくれてて」と武内さんが笑うように、店の外観と相まってポップで親しみやすい雰囲気が生まれている。

ひとりで切り盛りする覚悟と、これからの想い

「BONNEY」は武内さんが一人で運営している。店舗の運営から接客、仕込みまで、すべての作業を一人で担っているからこそ、効率やスピード感を重視した工夫が随所に見られる。

もともと施術の仕事を20年以上続けてきた経歴を持つ武内さん。今後の展望として「余裕ができたら、またやりたい気持ちはある」としつつも、現状は「かき氷一本に集中して、お客さんの期待に応えたい」と語る。

初めての糸ピンスを気軽に体験してほしい

インタビューの最後に、武内さんは来店を検討している方に向けてこう語った。

「大人やお金に余裕がある人向けというより、学生や若者が気軽に立ち寄れるようにしました。糸ピンスって初めての方も多いと思うし、お店によって違うと思うんですよね。そういった初めての体験を、気軽に楽しんでほしい。ぜひ一度、立ち寄ってもらえたら嬉しいですね。」

実際、価格も他店のように豪華にトッピングされた1,500円超のスイーツではなく、1000円を切る手頃に抑えた設定になっている。「BONNEY」は、ただのかき氷屋ではない。訪れる人が“新しい何か”に出会い、心も身体もひんやりと癒される場所なのである。
BONNEY
住所
〒515-0084
三重県松阪市日野町7
営業時間
金曜日
11:00〜21:00
月曜日
11:00〜21:00
火曜日
11:00〜21:00
水曜日
11:00〜21:00
木曜日
11:00〜21:00
金曜日
11:00〜21:00
土曜日
11:00〜21:00
日曜日
11:00〜21:00
開閉
電話番号
0598-23-0824
最寄駅
松阪駅より徒歩5分
支払方法
現金のみ
平均予算
~1000円
駐車場
お近くのコインパーキングをご利用ください
席数
10席
禁煙
禁煙

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