ライター : 小田中雅子

ライター

創業120周年の老舗洋食店「日比谷松本楼」とは?

Photo by 小田中雅子

日本最初の近代的な洋風公園として生まれた日比谷公園。今でも都会の真ん中で、緑いっぱいのオアシスのような存在として人々に愛されています。その公園の中心にあるのが「日比谷松本楼(まつもとろう)」。

「日比谷松本楼」は、1903年、日比谷公園と同じ年に誕生し、2023年に開業120周年を迎えます。公園が計画された当初、公園に欠かせない存在として考えられたのが、3つの“洋”、バラなどの洋花が植えられた花壇、西洋の音楽を楽しむ音楽堂、そして洋食が楽しめるレストランでした。その洋食を提供するレストランとして「松本楼」は作られました。

公園の緑の中に佇むヨーロッパ風のクラシックな洋館。そこでいただく本格的な洋食は、当時の人々の憧れのまなざしを集めます。新しいもの、ハイカラなものが好きな人々がこぞって訪れるようになり、たちまち「松本楼」で洋食を食べることが時代の最先端をゆく流行となりました。

Photo by 小田中雅子

開業した当時の建物の様子を伝える絵画
有名な文人や政治家、財界人などそうそうたる人々が顧客に名を連ね、一躍、東京を代表するレストランとしての地位を築いた「松本楼」。

しかし、その歩みは順調ではありませんでした。1923年関東大震災で、1971年学生運動による暴動で、2回も建物が全焼するという悲劇に見舞われます。そのたびに全国から多くの励ましの声が寄せられ、「松本楼」は見事に蘇りました。

Photo by 小田中雅子

公園の緑の中を歩いていると現れる洋館。まるでタイムスリップしたような心地になります
現在の建物は3代目。現代の建築様式を取り入れながらも、ヨーロッパの城館のような当時の面影をしっかり今に伝えています。そこに訪れる人たちは、悲劇をくぐり抜け、しっかり受け継いできた古き良き日本のハイカラ洋食を今でも楽しむことができるのです。

都会にある森のレストラン「グリル&ガーテンテラス」

「松本楼」は、現在、首都圏を中心に7店舗を展開しています。ユニークなのは「杏林大学病院店」をはじめ病院にある支店。洋食のイメージが強い松本楼ですが、病院内の店舗ではニーズに応えて和食なども提供しているそうです。

Photo by 小田中雅子

日比谷公園にある本店は、4階建てで、1階に「洋食 グリル&ガーデンテラス」、3階に「仏蘭西料理 ボア・ド・ブローニュ」があります。そのほか、大小の宴会場があり、週末などには結婚式も開かれます。

Photo by 日比谷松本楼

洋食 グリル&ガーデンテラスの広い店内
この記事では「洋食 グリル&ガーデンテラス」をメインにご紹介。その名のとおり、公園の木々に包まれたテラス席がすてきなレストランです。

営業時間は11時から21時まで。ランチからティータイム、ディナーとさまざまなシーンで利用できます。

Photo by 日比谷松本楼

席は、店内もしくはテラスどちらでも好きな方を選べます。ディナータイム以外は予約できませんが、有料になっているテラス端のボックス席のみ予約可。チャージ料がかかりますが、テラス席を確約したい人にはおすすめです。

テラス席は緑に囲まれ、まるで森の中のリゾートにいるような心地。東京の中でもこれだけの自然に恵まれたレストランはなかなかありません。気候のいい時期だけでなく、夏でも日が暮れてから、涼風に吹かれてビールを楽しむのも最高ですね。

公園は年齢、性別、国籍を問わずさまざまな人が集う場所。「グリル&ガーデンテラス」は、公園を訪れた人誰もが気軽に来てもらえるように、親しみやすさを大切にしています。親子3世代に渡って通っている方たちがいるというのも老舗「日比谷松本楼」ならではです。

「日比谷松本楼」おすすめ洋食メニュー3選!フレンチベースの本格味を堪能

メニューにはランチからディナーまで松本楼伝統の“ハイカラ洋食”がそろっています。カキフライやカッペリーニなどの季節限定メニューもありますが、やはり「日比谷松本楼」を訪れたなら、まず食べたいのは由緒正しい洋食。

なかでもおすすめメニュー3選をご紹介しましょう。

1. 4日間かけて作る伝統の味「ハイカラビーフカレー」

Photo by 小田中雅子

1,250円(税込)
一番の人気メニューが「ハイカラカレーライス」。創業当時からあったのかどうかは、資料が焼失してしまったためわからないのですが、大正時代にはすでにメニューにあったのだそう。現代的なアレンジはほとんどされず、歴代の料理長が受け継ぎ、守ってきた正統派欧風カレーです。

仕込みに掛かる時間は、なんと4日間。小麦粉とラード、カレー粉でルーを作って寝かせ、牛肉や野菜などからとったスープを合わせ、さらに寝かせる。この工程を4日間じっくりと繰り返すのだそう。

隠し味に加えるのはマンゴーから作ったチャツネ。コクのある甘さが味に深みを与えます。

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しっかり大きさがあり、食べ応えのある牛肉がごろっと
具材は玉ねぎと牛肉だけとシンプル。ていねいに手間暇を重ねたカレーは、まろやかでコクがあり、奥深い味わいがあります。あとからじんわりと効いてくるのがスパイシーな辛さ。このほどよいスパイスの効き具合が食欲をそそります。

じっくり煮込んだ牛肉はトロットロにやわらかく、肉の旨みもしっかりあって食べ応え抜群。マイルドで誰もが食べやすいカレーでありながら、コクと旨みに満ちた品の良さに伝統の味わいを感じます。

2. とろふわの卵がたまらない「オムレツライス 2色のソース」

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1,850円(税込) ソースはハヤシソースとエビとホタテのトマトソース
カレーライスと人気を二分するというのがオムレツライス。特に2種類のソースを選べるよくばりメニュー「オムレツライス 2色のソース」がおすすめです。

オムレツライスとは、卵でごはんをくるんだ一般的なオムライスと違い、トロトロ半熟状の卵をチキンライスの上にのっけるタイプ。

今では、多くのレストランで見かける料理ですが、今から20〜30年前に「松本楼」支店のシェフが考案したときはまだ、あまり見かけないメニューだったのだそう。支店で出してみたところ、評判も上々。今では店を代表する人気メニューのひとつになりました。

Photo by 小田中雅子

トロトロの卵、コクのあるハヤシソース、ケチャップの風味豊かなチキンライス。3つが合わさると格別なおいしさです
ソースはハヤシソース、エビとホタテのトマトソース、きのこのクリームソース、カレーソースの4種類から好きな2種類を選べます。ご紹介するのは、「松本楼」自慢のハヤシソースとエビとホタテのトマトソースの2種類をかけたもの。

ハヤシソースは、牛骨や野菜などを使い2週間かけて作るというデミグラスソースをベースにしています。その色の濃さに驚かされますが、味わいは旨み、甘さ、酸味のバランスが絶妙で、意外と後口がさっぱり。肉や野菜の旨みがギュッと凝縮されたソースは、トロトロの卵とシンプルなチキンライスとの相性も抜群です。

エビとホタテのトマトソースは、トマトの酸味が効いたさっぱりとした味わい。シーフードがゴロゴロ入っていて、ソースにシーフードの旨みが効いています。ハヤシソースとはまた違ったおいしさでオムレツライスが楽しめます。

3. 肉々しい味わい「ハンバーグステーキ 森のレストラン風」

Photo by 小田中雅子

1,850円(税込)
洋食店を訪れたら、やはり食べたいハンバーグ。「松本楼」ではデミグラスソースを使った「森のレストラン風」と、さっぱりとしたおろし大根ソースを使った「和風」の2種類が用意されています。

名前に“ステーキ”と付くように、粗挽きのひき肉を使って肉々しい味わいが楽しめるのが特徴。肉汁があふれるタイプというよりは、肉の旨みを味わうスタイルです。

しっかり焼き付けて、香ばしく焼き上がったハンバーグは、外側がカリッと、内側はふっくら。少し荒々しい肉の食感が肉好きの心をガッツリ掴みます。

Photo by 小田中雅子

ハンバーグをカットすると肉汁がじんわりとあふれます
ソースは、ハヤシソースでも使われる伝統のデミグラスソースをベースにしたもの。こちらは肉に合うように、酸味やほろ苦さが控えめで、甘みが増すソースに仕上げています。

ハンバーグもデミグラスソースも昔からのレシピそのままだそう。どこか家庭的で懐かしい味わいに心が和みます。
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