ヴェネツィアの郷土料理サオール

前回も話したヴェネツィアの銀行員、ダニエーレ君には、「un'ombra(ウノンブラ)」という言葉以外にもヴェネツィアの食文化について教えてもらいました。ヴェネツィアには、サオールと呼ばれるイワシを酢漬けにした名物料理があります。ダニエーレ君によれば、この料理の起源は、ヴェネツィア共和国が地中海に君臨していた黄金時代にさかのぼるそうです。オリーブオイルで揚げたイワシに、オリーブオイルで炒めたタマネギ、レーズン、松の実などに、ワインビネガーを加えたソースをかけたものが、サオール。大量に捕れたイワシを保存するためにこの料理が生まれたと、ダニエーレ君は教えてくれました。

ヴェネツィアでは、かつていろいろな魚で作るサオールが食べられていたそうです。しかも階級ごとにサオールにする魚が違っていたのだとか。

その中でイワシのサオールは、いちばん大衆的な、いわば貧民の食物でした。それに対し、職人はカレイのサオールを、貴族や金持ちの商人はシタビラメのサオールを食べていた。しかし皮肉なことに、イワシのサオールが一番おいしかったことから、やがて貴族もイワシのサオールを好んで食べるようになっていったそうです。

サオールは、ガレー船とよばれる、何日も何週間も櫂(オール)をこぎつづける水夫の栄養源でした。サオールがヴェネツィア海軍を支え、そのおかげでヴェネツィアが地中海の覇者になったというわけです。

そんな話をワインの肴にサオールを食べながら、ダニエーレ君が語ってくれました。

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