ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

住宅街でひっそりと営業する本場の広島焼き店

Photo by macaroni

東松阪のほど近く、閑静な住宅街の中でひっそりと営業する広島風お好み焼きの専門店「まるちゃん」は、地元で人気を集める広島焼きのお店だ。最大8人が入れる小さな店内には、家庭的で温かい雰囲気が漂う。元々店前は開けた空き地だったが、近年宅地開発で住居が立ち、当時は生活道路から見えていたのぼり旗が見つけづらく、知る人ぞ知る店舗の佇まいとなっている。

店を切り盛りするのは宮崎眞智子さん。いただいたお好み焼きは本格的で本場の味だったため広島出身かと思ったのだが、地元は松阪だという。この味に惹かれて広島出身者が足繁く通う人気店となった。どのような経緯で「まるちゃん」をオープンするに至ったのか。詳しい話を宮崎さんに伺った。

「外で働けないからこそ、自宅でできる仕事を」

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宮崎さんは店を始める前、飲食業の経験は一切なかった。結婚後は家庭に専念し、子どもが成長してからは孫の世話をする日々を送っていたという。外に働きに出ることが難しい状況もあり、「家でできる仕事はないか」と模索していた。

その相談相手となったのが、共通の趣味である「ボウリング」で知り合った広島在住の友人たちだった。その強い縁が後に自身の人生を大きく動かすとは、当時は想像もしなかっただろう。20代の頃、旅行で訪れた広島で食べたお好み焼きの味に感動した経験もあり、友人から「広島焼きなら歳を重ねてもできる」と背中を押された。さらにお好み焼き店を経営する友人から「うちで勉強したらいい」と温かい言葉ももらい、挑戦への道が開かれたのである。

「家付き店舗」との出会いで一気に現実味

宮崎さんが外で働けなかった理由の一つに、娘の病気があった。孫の世話も必要で、家庭を空けることは難しい。そんな状況の中、偶然にも「店舗兼住宅」の売り物件に出会う。以前は指圧店として使われていたその場所は、自宅で店を営むには理想的な環境だった。

「ここなら家でできるからいいかな」と考えた宮崎さんは、友人からの助言と広島焼きの魅力を胸に、飲食店を始める決意を固めていった。

広島焼きの技術習得──友人の店と「おたふくソース」からの学び

宮崎さんは広島に通い、友人の店で時折手伝いながら実地で広島焼きの作り方を学んだ。また、広島焼き文化を支える「おたふくソース」の講習会にも参加し、基本からしっかりと修得し技術を身につけることで、自信をもって松阪で店を開く準備を整えたのである。

開業のための準備期間──2016年からの本格始動

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広島での学びを終えると、すぐに開業に向けた計画が始まった。「生活のために、何かをしなければならない」という強い思いが、行動を後押しした。とはいえ拙速ではなく、約半年間は店舗の改装や設備の導入に時間を費やした。鉄板や冷蔵庫といった機材を整え、2016年は「準備の年」となった。

広島から取り寄せる本場の食材

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開業準備の中で最も大きな壁となったのは「味の再現」であった。広島で学んだレシピを松阪で実践してみたものの、現地の食材とは異なり、味が全く違ってしまったのである。
「粉も違うし、麺も違う。キャベツは地元で手に入るけれど、イカ天などは広島特有。だから広島から全部取り寄せることにした」と宮崎さんは語る。

鉄板に関しても、広島焼き専用のものをわざわざ広島から購入。特にイカ天は「本場の味に欠かせない」と強調し、通常はトッピング扱いのものを、同店では無料で提供している。こうしたこだわりが、松阪で食べられる「本物の広島焼き」を支えているのだ。そして翌2017年、ついに「まるちゃん」はオープンを迎えることとなる。

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