ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

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松阪市内の住宅街の一角に、訪れる人々を元気にする喫茶店がある。どこかジブリ映画のようなカウンターからの雰囲気、店主の装い。カウンターでは常連客が話し好きの店主との何気ない会話に花を咲かせている。

2025年7月にオープンした「またねって、ももぞので」は、オーナーであるゆきこさんの朗らかな人柄が魅力の空間だ。大きな窓から差し込む自然光と、ノスタルジックな空気感。ここは単なる飲食店ではなく、人々の日常に寄り添う特別な居場所となっている。

体調不良から始まった新たな人生の選択

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ゆきこさんが喫茶店を開業するまでの道のりは、決して計画的なものではなかった。高校卒業後会社員として働き始めたものの、2年ほどで自分には向いていないと見切りをつけた。その後、接客業が好きだという自分の適性に気づき、エステサロンや飲食店など様々な職場を経験。29歳で結婚し、約10年間は専業主婦として子育てに専念した。

子どもたちが中学生になり手が離れた45歳頃から、本格的に飲食業界へと足を踏み入れた。松阪の人気イタリアンレストラン「アバンティ」で7年間勤務した後、伊勢のフレンチレストランで1年半ほど働いた。
転機が訪れたのは2025年1月のことだった。体調を大きく崩し、仕事もままならなくなるという深刻な状態に陥った。身体に鞭打ちながら伊勢まで通う日々が続き、「このままでは周囲に迷惑をかけてしまう」という思いが、彼女に大きな決断を促した。

2月半ば、ふと「自分で何かを始めよう」という考えが浮かんだ。前から夢見ていたわけではない。むしろ体調を崩し始めた時期には自分が飲食店を開くなんて夢にも思っていなかった。しかし、「この年齢で、この体調で」、今やらなければいつやるのか。そんな切迫した思いが、彼女を行動へと駆り立てた。

わずか5ヶ月での開業準備

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物件探しを始めると、すぐに現在の場所が見つかった。大きな窓から差し込む光、お客様と程よい距離感で会話ができるカウンターの配置。カウンター内は一段下がった造りにより、立っている店主と座っているお客様の目線がちょうど同じ高さになる。この空間を見た瞬間、ゆきこさんは「ここだ」と確信した。他に検討している人がいるという話を聞き、その日のうちに契約を決断した。

思い切りの良さは彼女の性格そのものだ。物件を決めたのが先で、喫茶店をやるというアイデアはふわっとしたものだった。大した料理はできないし、お酒もそれほど飲めない。しかし、食べることは好きで、おしゃれなカフェを巡るのも趣味だった。その経験が、喫茶店をするという選択を後押しした。

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2月に物件を契約し、3月末にフレンチレストランを円満退職。4月1日から物件を借りられるようになり、そこから内装業者探しが始まった。業者が決まったのはゴールデンウィーク明け。4月は打ち合わせに費やし、食器を少しずつ揃え始めた。

当初は6月半ばのオープンを予定していたが、工事の関係で結局オープンは7月にずれ込むことになった。オープン日は7月6日。奇しくもその前日は「日本が滅びる」という噂が流れていた日だった。破壊と再生の星が重なる日の翌日、新しいことを始めるには最適だという占い師の言葉を信じたという。

名物メニュー:鉄板ナポリタン

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喫茶店といえば鉄板ナポリタン。ゆきこさんの中でこれは外せないメニューだった。しかし、何度も試作を重ねたが、味が決まらず、オープン日が近づくにつれて焦りは募った。「もう無理」と感じ、鉄板ナポリタンをやめようと決めたこともあるという。しかし、友人たちからの応援の声に後押しされて、作り上げたという。

救いの手を差し伸べてくれたのは、昔一緒に働いていた料理人だった。ホテルでの勤務経験があり、大量調理のノウハウを持つその人物が、オープン直前に店を訪れてレクチャーしてくれた。喫茶店の狭い厨房での効率的な調理手順や下ごしらえの方法を詳しく教えてもらったという。

オープン後すぐ、三重県のインフルエンサーが鉄板ナポリタンを紹介してくれたことでナポリタンの注文が殺到した。数をこなすうちに腕は上達し、今では「ナポリタンが一番得意かも」と笑って言えるまでになった。質より量、習うより慣れろ。多くの人に助けられながら、看板メニューは完成した。

リストランテでの経験が生きるスイーツ

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もう一つの人気メニューが、オレンジショコラテリーヌだ。彼女が好きなチョコレートとオレンジの組み合わせで表現した一品である。濃厚なチョコレートの甘味とオレンジピールの爽やかさが絶妙なバランスで同居している。コーヒーとの相性は言わずもがなである。

さらに、イタリアンレストランで働いていた時に出会ったカシスシャーベットを組み合わせることを思いついた。チョコレートの甘さをカシスの酸味が引き締める、フレンチやイタリアンの要素を感じさせる一皿が完成した。飾り付けに使用するドライオレンジも自家製だ。

コーヒーは名古屋のロースターから仕入れており、オリジナルブレンドについて話し合いながら決めている。自家焙煎の機械も購入し、家庭用ではあるが練習を重ねている。いつか自分で焙煎したコーヒーを提供したいという夢もある。

祖母から受け継いだ「桃園」という名前

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店名の「またねって、ももぞので」には、ゆきこさんの家族への深い愛情が込められている。実は「桃園」という名前は、ゆきこさんの祖母がかつて営んでいたうどん屋の屋号だった。ゆきこさんが生まれた時には既に閉店していたため、祖母の作るうどんを食べたことはない。しかし、古い写真に写る「うどん・中華そば 桃園」の看板の前で微笑む祖母と父の姿、そして家族から聞かされた「おばあちゃんのうどん」の話は、幼い頃から彼女の心に深く刻まれていた。

祖母は体調を崩し、60代という若さでこの世を去ったという。4歳年上の姉は祖母の料理を覚えているというが、ゆきこさん自身にはその記憶がない。それでも、大好きだった祖母への想いは消えることなく、いつか「桃園」という名前を復活させたいという願いとなって心の中で育っていった。

店名に「またね」という言葉を加えたのには、さらに深い意味がある。関西人特有の別れ際の「またね」という言葉が、ゆきこさんは特に好きだという。「バイバイ」や「ありがとう」よりも、「またね」には必ず戻ってくるという約束が込められている。お客様との「またね」、そして祖母の「桃園」が再び帰ってきたという意味。複数の想いを重ね合わせた店名は、訪れる人々の記憶に残る印象的なものとなっている。

人が集い、つながる場所

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店内のレイアウトは、前のテナントから引き継いだ部分と新たに作った部分が混在している。カウンター側はほとんど変えておらず、座りやすい椅子もそのまま使用している。馴染んだ雰囲気が心地よい。一方、壁紙や天井は新しくし、テーブルと椅子は新調した。

オープンから半年が経ち、常連客の顔ぶれも定着してきた。会社員時代の同期や学生時代の同級生といった知り合いが訪れることも多く、何十年ぶりかに再会する光景も珍しくない。毎日が同窓会のようだと、ゆきこさんは笑う。

地元の常連客だけでなく、SNSを見て遠方から訪れる人も少なくない。Z世代のカップルが電車とバスを乗り継いで来店したこともある。「店名がZ世代に刺さる」と言ってくれた京都の女性と伊勢で働く男性のカップルは、お正月休みにわざわざ訪れてくれたそうだ。

日常のセーブポイントとして

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ホットコーヒー:550円
多くのカフェ巡り好きは、新しい店が出れば訪れ、そしてまた次の店へと移っていく。しかし、ゆきこさんが目指すのはそういう店ではない。ゆきこさんは「お客様の記憶に残る店。映えるかどうかに関係なく、いつもここに帰ってくる。そんな場所でありたい」と言う。高校生の時に来た思い出、母親と来た記憶、付き合っていた人と訪れて後に結婚した話。そんなエピソードが積み重なっていく場所を目指しているのだ。

「またねって、ももぞので」では、何時間でも喋っていてほしいという。満席になることが少なくないが、それ以上にお客様にホッとできる時間を過ごしてもらいたいという思いが強い。カウンター席では店主との会話を楽しみ、テーブル席では友人同士で女子会を開く。それぞれの使い方で、それぞれの時間を過ごす。わざと時計を置いていないのも、時間を忘れてゆっくりしてほしいからだ。

それぞれの生活リズムの中に、この店が組み込まれている。コーヒーを飲んで、会話をして、ちょっとガス抜きをして帰る。日常のルーティンの一部として、この場所が機能している。土日にはインスタグラムを見て訪れる新規客が増える。そのバランスが、店の雰囲気を豊かにしている。

笑顔が生み出す温かな空間

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店を運営する上で最も大切にしているのは、自分の笑顔だとゆきこさんは言う。お客様から「ゆっこさんといえば笑顔」と言われたことがある。家庭でも、中心となる人が笑顔でいれば、その場全体が明るくなる。母親が元気でいれば家族全員が元気になるように、店の中心にいる自分が笑顔でいることで、訪れる人々も元気になれる。接客業が好きだと気づいてから数十年、その根底にあるのは人とのつながりを大切にする姿勢だ。

「またねって、ももぞので」は、単なる喫茶店ではない。大きな窓から差し込む光の中で、今日も誰かが「またね」と言って店を後にし、そしてまた必ず戻ってくる。そんな循環が、この店の日常を作り出している。体調を崩したことがきっかけで始まった挑戦は、今では多くの人の記憶に残る場所へと成長しつつある。ゆきこさんの笑顔と共に、この店はこれからも松阪の街で人々を迎え続けるだろう。
喫茶 またねって、ももぞので
〒515-0045
三重県松阪市駅部田町1749 101
金曜日
定休日
月曜日
11:00〜19:00
火曜日
11:00〜19:00
水曜日
11:00〜19:00
木曜日
11:00〜19:00
金曜日
定休日
土曜日
11:00〜19:00
日曜日
11:00〜19:00
開閉
090-8952-4980
席数
17席(カウンター×6、テーブル:4名掛け×2、2名掛け×2、1名掛け×1)
定休日
金曜
最寄駅
松阪駅より車で20分
支払方法
現金のみ
平均予算
1,000〜1,500円
駐車場
6台

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