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松阪といえば、誰もが口をそろえて「松阪牛」と答えるだろう。しかし、この街に長く暮らす人々の間では、もうひとつの"ソウルフード"が脈々と受け継がれてきた。それが鶏焼き肉だ。全国的な知名度こそ松阪牛に譲るものの、地元の食文化に深く根ざしたこの料理を、45年以上にわたって提供し続けてきた店がある。松阪市内の徳和で營業する「トリユウ」。
筆者が好きな鳥焼き肉のお店は?と聞かれると、こちらのお店は必ず入るだろう。にんにくのパンチと甘辛い味噌ダレが絶品なのだ。煤けた壁、モクモクと立ち上る煙、そして変わらぬ味噌ダレの香り—この店には、時代に流されることなく守り続けてきた"本物"がある。この店の主、平岡千明さん(60)にその歴史を紐解いてもらった。
筆者が好きな鳥焼き肉のお店は?と聞かれると、こちらのお店は必ず入るだろう。にんにくのパンチと甘辛い味噌ダレが絶品なのだ。煤けた壁、モクモクと立ち上る煙、そして変わらぬ味噌ダレの香り—この店には、時代に流されることなく守り続けてきた"本物"がある。この店の主、平岡千明さん(60)にその歴史を紐解いてもらった。
養鶏場から生まれた一軒の焼き肉店
トリユウの歴史は、平岡さんの父親の代にまで遡る。もともと父親は養鶏場で働いており、やがて自ら経営するまでになった。一方、母親は自宅近くの小さな店舗で卵や鶏肉を販売していた。父が養鶏を担い、母が販売を担うという分業体制のなかで、家族は地道に生計を立てていた。
しかしスーパーマーケットの台頭により、個人経営の食料品店は次第に苦境に立たされていく。そうした状況のなかで生まれたのが、「せっかく鶏を育てているのだから、焼いて食べてもらおう」という発想だった。養鶏場のあった現在地に店を構え、鶏焼き肉の専門店として新たなスタートを切ったのが、1979年のこと。
店名の「トリユウ」は、父親の名前「勇」に由来するとも言われているが、実際のところは音の語感を重視して名付けられたという側面が強い。創業当初はカタカナで「トリユウ」と表記されており、現在の漢字表記は二代目である平岡さんが自然と使い始めたものだ。名前の由来ひとつとっても、この店の飾らない人柄が滲み出ている。
しかしスーパーマーケットの台頭により、個人経営の食料品店は次第に苦境に立たされていく。そうした状況のなかで生まれたのが、「せっかく鶏を育てているのだから、焼いて食べてもらおう」という発想だった。養鶏場のあった現在地に店を構え、鶏焼き肉の専門店として新たなスタートを切ったのが、1979年のこと。
店名の「トリユウ」は、父親の名前「勇」に由来するとも言われているが、実際のところは音の語感を重視して名付けられたという側面が強い。創業当初はカタカナで「トリユウ」と表記されており、現在の漢字表記は二代目である平岡さんが自然と使い始めたものだ。名前の由来ひとつとっても、この店の飾らない人柄が滲み出ている。
会社員から焼き肉店主へ—異色の転身
平岡さんは写真の専門学校を卒業後、電気会社に就職。約20年にわたり会社員として勤務してきた。飲食業とは無縁の道を歩んできた彼だが父親の病気がきっかけとなり、家業を継ぐこととなる。
会社員時代も土日には店を手伝うことがあり、その合間に母親から調理の手順やタレの作り方を少しずつ学んでいた。この経験が、後の転身を支える土台となっている。店に入った当初は、母親やスタッフとともに店を切り盛りしていたが、父親との共同作業期間は1年にも満たなかった。やがて平岡さんが実質的な店主として店を引き継ぐことになる。その後は奥さんも加わり、現在は夫婦二人三脚で店を守り続けている。母親は数年前に引退し、今は自宅で穏やかな時間を過ごしているという。
会社員時代も土日には店を手伝うことがあり、その合間に母親から調理の手順やタレの作り方を少しずつ学んでいた。この経験が、後の転身を支える土台となっている。店に入った当初は、母親やスタッフとともに店を切り盛りしていたが、父親との共同作業期間は1年にも満たなかった。やがて平岡さんが実質的な店主として店を引き継ぐことになる。その後は奥さんも加わり、現在は夫婦二人三脚で店を守り続けている。母親は数年前に引退し、今は自宅で穏やかな時間を過ごしているという。
変わらぬタレが語る、職人の哲学
トリユウの味の核心は、創業以来受け継がれてきた味噌ダレにある。レシピそのものは、一般的な鶏焼き肉の味噌ダレと大きく異なるわけではないらしい。
使用する醤油や味噌は全国から厳選した素材を取り寄せ、組み合わせている。父母の代から変わらないその組み合わせこそが現在の味を支えている。特筆すべきは、ニンニクの使い方だ。注文時に「ニンニクあり・なし」を確認し、「あり」を選んだ客のタレにその場でフレッシュなニンニクを加えるというスタイルを取っている。これにより、ニンニク特有の嫌みのある後味が出ず、フレッシュで爽やかな辛みと香りが鶏肉の旨みを引き立てる。シンプルな工夫の中に、長年の経験から生まれた知恵が宿っている。こちらのタレは100円で追加で小皿をもらうこともできる。たっぷり使いたいときはオーダー必須だ。
使用する醤油や味噌は全国から厳選した素材を取り寄せ、組み合わせている。父母の代から変わらないその組み合わせこそが現在の味を支えている。特筆すべきは、ニンニクの使い方だ。注文時に「ニンニクあり・なし」を確認し、「あり」を選んだ客のタレにその場でフレッシュなニンニクを加えるというスタイルを取っている。これにより、ニンニク特有の嫌みのある後味が出ず、フレッシュで爽やかな辛みと香りが鶏肉の旨みを引き立てる。シンプルな工夫の中に、長年の経験から生まれた知恵が宿っている。こちらのタレは100円で追加で小皿をもらうこともできる。たっぷり使いたいときはオーダー必須だ。
店内の設備も、創業当時からほとんど変わっていない。最新の換気システムを備えた現代的な焼き肉店とは対照的に、トリユウでは炭火の煙がもうもうと立ち込める。それを「煙たい」と感じる人もいるかもしれないが、平岡さんはあえて店の雰囲気を変えようとはしない。この空間そのものが、トリユウという店の個性だからだ。
多彩な部位が生む、新しい楽しみ方
平岡さんがお店をひきついでから、メニューに鶏の部位の種類を増やした。モモやムネといった定番に加え、軟骨など当時は他の店ではあまり見かけない部位も提供するようになった。仕入れさえできれば新しい部位を加えることはできる。「うちのタレに合わせれば、どんな部位でも美味しく食べられる」という確信が、この判断を後押しした。
部位ごとのおすすめを尋ねると、平岡さんは塩で食べるならせせりを推す。適度な歯ごたえと豊かな旨みが塩の味付けと絶妙に合う。
一方、鳥かわについては一般的に塩で食べるイメージが強いが、トリユウではタレで食べることを勧めている。実際に客からも同様の声が多く寄せられているらしい。トリユウの味噌ダレが持つ深みとコクが、皮の脂と絡み合うことで生まれる味わいは、一度食べると忘れられない。
部位ごとのおすすめを尋ねると、平岡さんは塩で食べるならせせりを推す。適度な歯ごたえと豊かな旨みが塩の味付けと絶妙に合う。
一方、鳥かわについては一般的に塩で食べるイメージが強いが、トリユウではタレで食べることを勧めている。実際に客からも同様の声が多く寄せられているらしい。トリユウの味噌ダレが持つ深みとコクが、皮の脂と絡み合うことで生まれる味わいは、一度食べると忘れられない。
地元の食卓から、全国のメディアへ
長年にわたって地元客に愛されてきたトリユウだが、近年はその名が全国へと広がりつつある。転機のひとつとなったのは、日本テレビ系の人気番組「秘密のケンミンSHOW」への出演だ。紹介されたことで、全国の視聴者に松阪の食文化の意外な一面が伝わった。さらに、系列局での再放送や地方局での放映が時間差で続いたことで、関東・東北・北陸など各地から客が訪れるようになったという。
また、ドラマのロケ地としても選ばれたことがある。撮影終了後にはスタッフ全員で鶏焼き肉を囲んだ。その日の記憶は、数多くのメディア出演の中でも特に印象深いものとして残っているという。
さらに、ファッション界の著名人が鳥勇の常連であることも、店の知名度を静かに押し上げてきた。その人物の発信力により、ハイファッション誌に鳥勇が取り上げられたこともあるという。松阪の下町にある煙たい鶏焼き肉屋が、ファッション誌の誌面に登場するというギャップは、それ自体がこの店の魅力を物語っていると言っていいだろう。
煙の向こうに見える、これからのトリユウ
テイクアウトの需要も根強く、特に夏場はバーベキュー用として持ち帰る客が多い。自宅の庭や公園で、鳥勇のタレに漬け込まれた鶏肉を焼く——そんな楽しみ方も、地元の人々の間では定番となっている。遠方から訪れた客が、帰り際に持ち帰り用を購入していく姿も珍しくない。
SNSアカウントもHPも持たないトリユウのスタンスはある意味で潔い。口コミと長年の信頼だけで、これだけの歴史を積み重ねてきたのだから。
SNSアカウントもHPも持たないトリユウのスタンスはある意味で潔い。口コミと長年の信頼だけで、これだけの歴史を積み重ねてきたのだから。
今後の展望を尋ねると、平岡さんは「このままでいい」、と応えた。今の味を守り、今の客を大切にすることが自分の役割だと考えている。45年間変わらなかったものをさらに次の世代へと繋いでいく—それがトリユウの、そして平岡千明さんの選んだ道だ。
松阪牛の陰に隠れながらも、地元の人々の食卓に寄り添い続けてきた鶏焼き肉文化。その最前線に立つトリユウは、訪れる人に「美味しいものはシンプルなところにある」という真実を、煙とともに静かに語りかけている。初めて訪れる人には、ぜひ多彩な部位を少しずつ注文し、変わらぬ味噌ダレとともにトリユウならではの世界を堪能してほしい。
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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