ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

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2025年11月、三重県松阪市の一角に新たなイタリアンレストランが静かに灯りをともし始めた。その名は「VOPLE(ヴォルペ)」。わずか18席のこぢんまりとした空間に、地元の食材と丁寧な手仕事が織りなす料理が並ぶ。オープンしたばかりのこの店は、まだ半年も経っていないにもかかわらず、すでに地域の食通たちの間で口コミが広がりつつある。

店を切り盛りするのは、30歳の若きシェフ、宮田天雄さん。キャリアは多彩で、「本物のイタリアンを温かい空間で届けたい」という、ぶれることのない太い軸が貫いている。

店名には、ユニークな由来がある。イタリア語で「キツネ」を意味するこの言葉は、宮田さんの高校時代からのあだ名に由来する。松阪の地で長年愛されてきたイタリアンレストラン「サルーテ」、そしてその後継店「チェッポ」が使っていたこの場所で、彼は自らの顔を店名に刻み込んだ。顔を覚えてもらいたい—その思いが、店名という形で結実しているのかもしれない。

経験が変えた人生の方向

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宮田さんが料理の世界に足を踏み入れたきっかけは、意外にも高校時代のアルバイトだった。もともと食べることが好きだったという彼は、当時サルーテでキッチンスタッフとしてアルバイトを始めた。その経験が、彼の人生を大きく動かすことになる。

サルーテのマスターや、当時キッチンに立っていたコックたちとの出会いが、宮田さんに「料理人になりたい」という明確な夢を与えた。特に、後にチェッポの店長となる笹井氏との出会いは、単なる職場の先輩と後輩という関係を超え、彼の料理人人生における最も重要な縁のひとつとなっていく。

高校卒業後、四日市にある調理専門学校へ進学。そこでは和・洋・中・製菓とあらゆるジャンルの料理を学んだ。幅広い基礎を身につけた彼は、卒業後すぐに津にあるコースイタリアンの店に就職する。これが、本格的な料理人としての第一歩だった。

修行時代が育てた「引き出し」

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その後、宮田さんのキャリアは予想外の方向へと舵を切る。コースイタリアンの店で出会った先輩の誘いを受け、三重県内の高級鉄板焼き店へと移ったのだ。その後、さらに格式高い鉄板焼き店へと転じ、洋食とは一見かけ離れた世界で腕を磨いた。

この鉄板焼き時代は、宮田さんにとって単なる寄り道ではなかった。高級鉄板焼きにはフレンチ的な要素が色濃く反映されており、食材の扱い方や味の組み立て方において、洋食とは異なる視点を学ぶことができた。しかし同時に、この時期には苦い経験もあった。若い料理人が高単価料理を作ることへの懐疑的な視線を直接受けることもあったのだ。初めてガーリックライスを提供した際、客から心ない言葉を浴びせられ、心が折れそうになったこともあったという。しかしその経験もまた、彼を鍛えた。

その後松阪に戻った宮田さんは、複数の店舗を掛け持ちしながら修行を続ける。三重県内にとどまらず、名古屋駅近くのイタリアンや愛知県内の複数の店舗を渡り歩き、さまざまな料理スタイルと出会った。この時期に松阪市内の「ブッダランド(現在は、ひろちゃん)」でもアルバイトをしており、その店主との縁が後の飲食業界における横のつながりへと発展していく。

雇われ店長時代の6年間が磨いた、経営者としての目

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VOPLEの店内はスッキリとシンプルで、心ゆくまで本格的なイタリアンを楽しめる。
修行時代を経て、宮田さんが腰を落ち着けたのがある洋食店だった。ここでの6年間は、彼のキャリアにおいて最も長く、かつ最も濃密な時間となった。最初の3年間は社員として働き、後に宮田さんは一人で店を切り盛りする立場となった。

その店を退職後、次のステップを模索していたところに笹井氏からチェッポの店舗が空くという話が舞い込んできた。高校時代にアルバイトとして立っていたあの場所で、今度は自分の店を持つ—その縁の巡り合わせに、宮田さんは運命的なものを感じたに違いない。

季節の海の幸が彩る、月替わりのメニュー

Photo by macaroni、VOLPE

ヴォルペのランチのメインメニューは月替わりを基本としており、その時々の旬の食材を積極的に取り入れている。特に得意とするのは海鮮を使った料理で、季節ごとの変化が分かりやすく、食材の個性を前面に押し出しやすいという点が、彼の料理スタイルと合致している。

春になればアスパラガスやホタルイカ、桜エビといった食材が登場し、アサリも身が大きくなる時期に合わせてメニューに組み込まれる。夏には冷製パスタや冷たいスープがテーブルを彩り、秋冬には煮込み料理やローストが温かみを添える。

メインのメニューとセットを選ぶ形式で、軽めのサラダとドリンクのセットや、ゆっくりと食事の時間を過ごしたい方には前菜と食後のデザートまでが揃ったセットなど、幅広いラインナップとなっている。

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タコとそら豆のアーリオオーリオ:1,750円
季節のパスタで選んだのは「タコとそら豆のアーリオオーリオ」だ。しっかりとオイルを効かせた仕立てで、香ばしいガーリックの香りが食欲を引き立てる。タコの旨味とブロードのコクをパスタがたっぷりと吸い込み、ひと口ごとに奥行きのある味わいが広がる。旬のそら豆が爽やかなアクセントとなり、季節感も感じられる一皿だ。ボリュームもしっかりしており、食べ応えの面でも満足度が高い。

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フンギー:1,850円
ピザは「4種のきのこのピザ(フンギー)」をチョイス。香り豊かなきのことトマトソースの旨味を、もっちりとしたピザ生地がしっかりと受け止める一枚である。噛むほどに小麦の風味が広がる生地は、この店の魅力をよく表している。シンプルながら素材の組み合わせが心地よく、最後まで飽きずに食べ進められるのも魅力だ。パスタを食べたあと、残った具材をのせて味わうという楽しみ方もおすすめしたい。

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夜メニューの構成は定番のグランドメニューに加え、その日の仕入れや季節感に応じて変わる黒板メニューが存在する。黒板メニューはいわばチャレンジする場であり、新しい食材や料理の組み合わせを試しながら、お客の反応を見て徐々にグランドメニューへと昇格させていく仕組みだ。

常連客に特に人気が高いのは、イカ墨パスタとボンゴレロッソ。一般的にはボンゴレといえばビアンコ(白ワインベース)が定番だがが、VOPLEではトマトベースのロッソの方がよく出るという。また、宮田さんが特に食べてほしいと語るのが、前菜の盛り合わせだ。メニューに記載されていない料理も含めた4種類以上の前菜を、その日の食材に合わせて組み合わせるこの一皿は、宮田さんの料理センスが凝縮された逸品といえる。

サルーテの記憶を胸に、松阪の「定番」を目指して

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VOPLEが入居する場所には、長年にわたって地域に愛されてきたイタリアンレストランの歴史が刻まれている。サルーテ、そしてチェッポと続いてきたこの場所で、今も当時からの常連客が訪れ、かつてのマスターやスタッフの近況を尋ねていく。その光景は、この場所が単なる飲食店の箱ではなく、人と人とのつながりを育んできた場所であることを物語っている。

彼が目指すのは、サルーテがそうであったように、松阪でイタリアンといえば真っ先に名前が挙がるような存在になることだ。格式ばった高級店ではなく、誰もがフランクに入ってこられる、でも決して安っぽくはない—そんな絶妙なバランスの空間を作り上げることが、彼の目標だ。

オープンからまだ半年も経っていないVOPLEは今まさに成長の途上にある。一つひとつの積み重ねが、やがてこの店の「物語」となっていくだろう。

"宮田天雄"が作る料理には、「一皿の料理を通じて、食べる人の心を温めたい」という思いが溶け込んでいる。松阪でパスタを食べるならここ、と誰もが口にする日を夢見ながら、今日もVOPLEのキッチンに火が入る。キツネの名を冠したこの小さな店が、やがて松阪の食文化に欠かせない存在となる日は、そう遠くないかもしれない。

イタリア料理店 VOLPE(ヴォルペ)
〒515-0045
三重県松阪市駅部田町1028−1
金曜日
11:00〜14:30
17:30〜21:30
月曜日
11:00〜14:30
17:30〜21:30
火曜日
11:00〜14:30
17:30〜21:30
水曜日
定休日
木曜日
11:00〜14:30
17:30〜21:30
金曜日
11:00〜14:30
17:30〜21:30
土曜日
11:00〜14:30
17:30〜21:30
日曜日
11:00〜14:30
17:30〜21:30
開閉
0598-30-5426
席数
18席(テーブル:4名掛け×2、2名掛け×5)
L.O.
ランチ 13:45、ディナー 20:45
定休日
水曜、不定休※詳しくはInstagramまで
最寄駅
松阪駅から車で15分
支払方法
クレジットカード、QR決済、バーコード決済各種利用可能
平均予算
1,500〜2,000円
駐車場
合計9台(店隣4台、店近くに5台)

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