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松阪市の静かな一角に、知る人ぞ知る隠れた名店がある。「かかの掌」―この店名には、二つの国、二つの家庭、そして二人の母親の味が込められている。神島の新鮮な海の幸を使った和食や、韓国の家庭料理どちらも楽しめる、他では決して味わえない独自の世界。
オーナーである金山忠烈さん(52)・景子さん(48)夫婦が19年かけて築き上げてきた歴史を振り返ってみることにしよう。
オーナーである金山忠烈さん(52)・景子さん(48)夫婦が19年かけて築き上げてきた歴史を振り返ってみることにしよう。
偶然が重なり合った出会いから始まった物語
忠烈さんは四日市大学を卒業後、就職氷河期の真っ只中で従来の就職活動に疑問を感じ、実家が造園業を営んでいたこともあり観葉植物や花などを用いて、依頼先の室内・屋外空間を美しく快適に演出するグリーンコーディネーターという道を選んだ。愛知県の園芸会社で4年間修行を積んだ後、地元に戻って独立を決意する。30歳を目前に、久居で偶然空いた店舗を紹介され、ガーデニングショップとカフェスペースを併設した店「Gentte(ジェンテ)」をオープンさせた。
一方、景子さんは津の調理専門学校を卒業後、旅館を営む神島の実家で8年間働いていた。四人兄弟の中で、母親と二人三脚で旅館を切り盛りしてきた彼女だったが、長男が家業を継ぐために戻ってくることになり、ようやく自分の夢を追いかける自由を手に入れた。パティシエやカフェでの仕事を夢見ていた彼女が、フリーペーパーで見つけたのが忠烈さんの店だった。
久居の店で働き始めて1年。二人は恋に落ち、結婚を決意する。しかし、店の経営状況は芳しく無く忠烈さんは造園の仕事で得た収入を店に注ぎ込み、どうにか経営を回していたという。最終的にその店はわずか2年で閉店を余儀なくされた。借金を抱え、無職の状態で結婚を申し込んだ忠烈さん。普通なら躊躇するような状況だったが、忠烈さんの父親の紹介で現在の場所が見つかり、両家族の全面的なバックアップを受けて、二人は新たなスタートを切ることになった。
神島という宝物との出会いが変えた店のコンセプト
前の店での経験から、中途半端な飲食では生き残れないという現実を痛感していた。そこで決断したのが、飲食に完全に軸足を移すことだった。ただし、ただの飲食店では埋もれてしまう。差別化が必要だった。
その答えとして二人がたどり着いたのが、景子さんの故郷・神島の食材である。景子さん自身、島を出て初めて、自分が当たり前のように食べていた神島の魚や海藻、貝類が実は特別な存在だったことに気づいたという。神島の食材を食べられる店は三重県内にほとんど存在しない。これこそが、他店との明確な差別化になると二人は確信した。
韓国料理は本格的でありながら、日本人の口に合うように絶妙にアレンジされている。忠烈さんの母親が作る家庭料理をベースにしているため、韓国料理店のような辛さ一辺倒ではなく、優しい味わいが特徴だ。
季節によって旬の食材を取り入れ、冬の看板メニューであるカワハギは肝が絶品で、常連客の中にはと狙って来店する人もいる。牡蠣フライも人気だ。春から夏にかけては冷麺の季節。待ちにしている常連客も多く、季節の風物詩となっている。
その答えとして二人がたどり着いたのが、景子さんの故郷・神島の食材である。景子さん自身、島を出て初めて、自分が当たり前のように食べていた神島の魚や海藻、貝類が実は特別な存在だったことに気づいたという。神島の食材を食べられる店は三重県内にほとんど存在しない。これこそが、他店との明確な差別化になると二人は確信した。
韓国料理は本格的でありながら、日本人の口に合うように絶妙にアレンジされている。忠烈さんの母親が作る家庭料理をベースにしているため、韓国料理店のような辛さ一辺倒ではなく、優しい味わいが特徴だ。
季節によって旬の食材を取り入れ、冬の看板メニューであるカワハギは肝が絶品で、常連客の中にはと狙って来店する人もいる。牡蠣フライも人気だ。春から夏にかけては冷麺の季節。待ちにしている常連客も多く、季節の風物詩となっている。
生き残りをかけた最初の3年間の苦闘
オープン当初は、知り合いが来店してくれるオープニングバブルがあったが、翌年になると状況は一変した。新しい店としての物珍しさが消え、リピーターがつかない現実に直面したのだ。景子さんは赤ちゃんをおんぶしながら接客をし、忠烈さんの母親と叔母が手伝いに来てくれる日々が続いた。
コンサルタントに頼むべきか悩んだこともあったが、そんな選択肢を取れるほどの余力はない。店が世間から忘れ去られてしまったかのような感覚に陥り、このまま続けていけるのだろうかという不安が、常につきまとっていた。それでも二人が諦めなかったのは、自分たちの料理に対する絶対的な自信があったからだ。足りないのは商売のやり方だけだ。そう自分たちに言い聞かせながら、一日一日を必死に積み重ねていった。
忠烈さんの中には、揺るがない一つの信念があった。月に一度来てくれる客を集めるのではなく、年に一度でも必ず足を運んでくれる客をできるだけ多くつくる。目先の売上に一喜一憂するのではなく、長く愛される店であること。その姿勢が、結果として19年という長い営業につながっていった。
家族や友人、そして店の考えを理解してくれる客に支えられながら、少しずつ常連客は増えていった。神島の食材の価値を理解し、この店でしか味わえない料理を求めて通ってくれる人たち。そうした人々との絆こそが、最も苦しい時期を乗り越える原動力となっていった。
コンサルタントに頼むべきか悩んだこともあったが、そんな選択肢を取れるほどの余力はない。店が世間から忘れ去られてしまったかのような感覚に陥り、このまま続けていけるのだろうかという不安が、常につきまとっていた。それでも二人が諦めなかったのは、自分たちの料理に対する絶対的な自信があったからだ。足りないのは商売のやり方だけだ。そう自分たちに言い聞かせながら、一日一日を必死に積み重ねていった。
忠烈さんの中には、揺るがない一つの信念があった。月に一度来てくれる客を集めるのではなく、年に一度でも必ず足を運んでくれる客をできるだけ多くつくる。目先の売上に一喜一憂するのではなく、長く愛される店であること。その姿勢が、結果として19年という長い営業につながっていった。
家族や友人、そして店の考えを理解してくれる客に支えられながら、少しずつ常連客は増えていった。神島の食材の価値を理解し、この店でしか味わえない料理を求めて通ってくれる人たち。そうした人々との絆こそが、最も苦しい時期を乗り越える原動力となっていった。
神島の絶品魚介類を楽しめる定食
ランチメニューの中でエビ・魚フライの定食には光るものがある。神島の新鮮な魚を使ったフライを楽しめるので大変お得だ。多くの店では外国産の白身魚を使用していることが多いそうだが、「かかの掌」では神島産の天然の白身魚しか使わない。価格は多少高くなるかもしれないが、味は比較にならないほど絶品だという。
松阪といえば牛肉のイメージが強いが、実は地元の人々は魚も大好きだ。しかし松阪市内で魚料理のランチを提供する店は意外と見つからないのが実情である。寿司店は多いが、煮付けや刺身定食を気軽に食べられる店はほとんどない。その需要に応えているのが「かかの掌」なのだ。
松阪といえば牛肉のイメージが強いが、実は地元の人々は魚も大好きだ。しかし松阪市内で魚料理のランチを提供する店は意外と見つからないのが実情である。寿司店は多いが、煮付けや刺身定食を気軽に食べられる店はほとんどない。その需要に応えているのが「かかの掌」なのだ。
神島定食からの卒業と新たな挑戦
長年店の圧倒的看板メニューとして君臨してきた「神島定食」というメニューがあった。新鮮な刺身と魚料理一品がセットになった、多くの常連客に愛されてきたメニューだ。しかし近年、神島の漁獲量が減少し安定的な供給が難しくなってきた。他のメニューも知ってもらいたいという思いもあって、神島定食をレギュラーメニューから外すという決断をした。
この決断は正しかった。神島定食目当てだった客の中には、他のメニューを試してみてそちらの方が気に入ったという人も少なくなかった。魚フライやエビフライ、パリパリチキンや豚焼肉など、実は神島定食以外のメニューに気づいてもらえたのだ。
現在はそれに加えて、その日の仕入れ状況に応じて黒板メニューとして提供することにより柔軟に対応できるようになった。刺身が手に入らない日は煮付け定食として提供し、良い魚が入った日は特別な料理を提案しているという。
この決断は正しかった。神島定食目当てだった客の中には、他のメニューを試してみてそちらの方が気に入ったという人も少なくなかった。魚フライやエビフライ、パリパリチキンや豚焼肉など、実は神島定食以外のメニューに気づいてもらえたのだ。
現在はそれに加えて、その日の仕入れ状況に応じて黒板メニューとして提供することにより柔軟に対応できるようになった。刺身が手に入らない日は煮付け定食として提供し、良い魚が入った日は特別な料理を提案しているという。
季節のメニューも充実している。冬の看板メニューは、10月から12月にかけて提供されるカワハギだ。この時期のカワハギは肝が絶品で、常連客の中には「今日くらいならカワハギが入っているだろう」と狙って来店する人もいる。1月から2月は牡蠣フライが人気だが、近年は広島の牡蠣が不作で、三重県産の牡蠣が全国に流通してしまうため、地元での入手が難しくなっているという悩みもある。
春から夏にかけては冷麺の季節だ。以前は7月から9月の真夏だけの提供だったが、5月のゴールデンウィーク頃から提供を始めることもある。冷麺を心待ちにしている常連客も多く、季節の風物詩となっている。
春から夏にかけては冷麺の季節だ。以前は7月から9月の真夏だけの提供だったが、5月のゴールデンウィーク頃から提供を始めることもある。冷麺を心待ちにしている常連客も多く、季節の風物詩となっている。
店名に込めた2つの母の味
店名の「かかの掌」には、この店の原点が込められている。「かか」は神島の方言で母親を指し、「掌」は手料理の手、つまり母の手料理という意味だという。ただし、ここで語られる母の味は一つではない。
神島で旅館を営む景子さんの母が受け継いできた島の食材を生かす味と、忠烈さんの母が日常的に作っていた韓国の家庭料理である。第二世代の韓国人として育った忠烈さんの食卓には、幼い頃から本格的な韓国料理が並んでいた。
この二つの味が重なり合うことで、「かかの掌」ならではの個性が生まれた。和食と韓国料理という一見すると大胆な組み合わせだが、それを前面に押し出すことはしていない。あくまで神島の食材を主役に据え、その中にチヂミやチゲ、キムチといった料理を自然に溶け込ませている。
主張しすぎない融合だからこそ、二つの母の味は静かに、しかし確かに店の輪郭を形づくっている。
神島で旅館を営む景子さんの母が受け継いできた島の食材を生かす味と、忠烈さんの母が日常的に作っていた韓国の家庭料理である。第二世代の韓国人として育った忠烈さんの食卓には、幼い頃から本格的な韓国料理が並んでいた。
この二つの味が重なり合うことで、「かかの掌」ならではの個性が生まれた。和食と韓国料理という一見すると大胆な組み合わせだが、それを前面に押し出すことはしていない。あくまで神島の食材を主役に据え、その中にチヂミやチゲ、キムチといった料理を自然に溶け込ませている。
主張しすぎない融合だからこそ、二つの母の味は静かに、しかし確かに店の輪郭を形づくっている。
食材へのこだわりと正直な商売
「かかの掌」の最大の特徴は、食材に対する徹底したこだわりだ。神島の食材が手に入らない時は、無理に営業しない。今でも、魚好きの常連客が来店を予定している週に良い魚が仕入れられないと分かれば、事前に連絡して別の日に来てもらうよう提案するという。
嘘をつかないというこだわりは、時に商機を逃すことにもつながる。しかし、それが店の個性であり、価値でもある。正直なやり取りが、客との長期的な信頼関係を築いているのだ。自分たちのペースで、自分たちが納得できる食材を使って料理を提供する。この姿勢に共感する客が、店を支え続けている。
嘘をつかないというこだわりは、時に商機を逃すことにもつながる。しかし、それが店の個性であり、価値でもある。正直なやり取りが、客との長期的な信頼関係を築いているのだ。自分たちのペースで、自分たちが納得できる食材を使って料理を提供する。この姿勢に共感する客が、店を支え続けている。
19年という歳月は、二人に多くのことを教えてくれた。「急激な成長は必ず反動がある。だから、緩やかに右肩上がりでいい。」そう考えて店を運営してきた。
忠烈さんが特に強調するのは、景子さんの料理を食べてほしいという思いだ。両方の母親から受け継いだ技術と味を融合させ、さらに独自の工夫を加えた結果、両方の良さを受け継ぎ発展させた味を確立した。
忠烈さんが特に強調するのは、景子さんの料理を食べてほしいという思いだ。両方の母親から受け継いだ技術と味を融合させ、さらに独自の工夫を加えた結果、両方の良さを受け継ぎ発展させた味を確立した。
恩返しという未来への視点
インタビューをする中で二人から口をついて出たのは「神島への想い」である。長年にわたって店を続けてきた中で、店主たちは神島の恵みに助けられてきたと繰り返ていた。今度は自分たちが神島へ恩返しをする番だと考えているらしい。
具体的な形はまだ定まっていないが、この土地や人々、そして未来に対して何かを返したいという思いは強い。19年間で培った経験と技術、そして何より、二つの母の味を受け継ぎ、さらに進化させた「かかの掌の味」を、より多くの人に届けたいのだという。神島を知ってもらうイベント開催か、あるいは全く違う場所で店舗をもつのか…現在は夫婦で様々な方法を模索しているとのことだ。
いつかどこかで、新しい「かかの掌」の姿を見かけることがあるかもしれない。
具体的な形はまだ定まっていないが、この土地や人々、そして未来に対して何かを返したいという思いは強い。19年間で培った経験と技術、そして何より、二つの母の味を受け継ぎ、さらに進化させた「かかの掌の味」を、より多くの人に届けたいのだという。神島を知ってもらうイベント開催か、あるいは全く違う場所で店舗をもつのか…現在は夫婦で様々な方法を模索しているとのことだ。
いつかどこかで、新しい「かかの掌」の姿を見かけることがあるかもしれない。
正直さが紡ぐ、これからの物語
「かかの掌」という店は、派手さはないかもしれない。しかし、そこには確かな軸がある。神島の新鮮な魚介類、韓国の家庭料理の温かさ、そして19年間の経験が生み出す独自の味。これらが融合した料理は、一度食べたら忘れられない。嘘をつかず、自分たちのペースで誠実に営業を続ける。この一貫性が、19年という歳月を支えてきた。
これからも変わらぬ味を守りながら、少しずつ進化していく。神島の恵みを大切にしながら、いつかその恩を返す。そんな循環の中に、かかの掌の未来がある。そして何より、この店でしか味わえない、二つの母の味を受け継いだ特別な料理を、一人でも多くの人に届けていく。それが、金山夫婦の変わらぬ思いなのだ。
これからも変わらぬ味を守りながら、少しずつ進化していく。神島の恵みを大切にしながら、いつかその恩を返す。そんな循環の中に、かかの掌の未来がある。そして何より、この店でしか味わえない、二つの母の味を受け継いだ特別な料理を、一人でも多くの人に届けていく。それが、金山夫婦の変わらぬ思いなのだ。
かかの掌
〒515-0072
三重県松阪市内五曲町15−1
水曜日
11:00〜14:00
17:30〜20:00
月曜日
定休日
火曜日
11:00〜14:00
17:30〜20:00
水曜日
11:00〜14:00
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木曜日
11:00〜14:00
17:30〜20:00
金曜日
11:00〜14:00
17:30〜20:00
土曜日
11:00〜14:00
17:30〜20:00
日曜日
11:00〜14:00
0598-21-3919
席数
17席(カウンター×3、テーブル:4名掛け×1、2名掛け×2、座敷:4名掛け×1、2名掛け×1)
定休日
月曜、不定休※詳細はInstagramにて
最寄駅
松阪駅より車で5分
支払方法
PayPay可
平均予算
1,000〜1,600円
駐車場
店裏6台※乗り合い来店のご協力をお願いします。
備考
日曜はランチのみ
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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