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松阪市飯高町乙栗子(おとぐるす)地区—山の緑と清流に囲まれた小さな集落に、「なかむら」という静かに暖簾を掲げる一軒の食堂がある。松阪市の西端、奈良へと続く峠道の途中にあり、地元住民だけでなく、旅行客やドライバー、バイカーからも人気の店だ。
店主の中村学さんが作るのは、どこか懐かしい“普段着のごはん”。華やかさよりも、丁寧で誠実な味わいがここにはある。
特別なことは何もない。ただ、いつものごはんを丁寧に作るだけ。そう語る中村さんにお店のこれまでを聞いた。
店主の中村学さんが作るのは、どこか懐かしい“普段着のごはん”。華やかさよりも、丁寧で誠実な味わいがここにはある。
特別なことは何もない。ただ、いつものごはんを丁寧に作るだけ。そう語る中村さんにお店のこれまでを聞いた。
修業を重ねた名店「菊地」での25年——料理人としての礎
中村さんが飲食業界に足を踏み入れたのは22歳のとき。それ以来、約40年近く料理の道を歩み続けているという。「ずっと飲食でやってきました」と振り返る中村さんの言葉には、長年積み上げてきた経験と誇りがにじむ。
中村さんの料理人人生の大半を占めるのが、割烹料理店「菊壽」で過ごした約25年間である。「割烹の店やな」と中村さんが話すその店は、格式のある雰囲気を持ちながらも、宴会や定食も提供する柔軟なスタイルだった。和食の基本からカジュアルな定食まで、幅広い顧客のニーズと調理技術を学べる修行先だったと言えるだろう。
日本庭園を備えた店構えからは高級感が漂っていたが、実際には幅広い層に親しまれる店だった。そこで中村さんは料理の基礎から段取り、厨房の動きまで徹底的に学んだという。最終的には焼方や煮方など、料理全般を担当しながら技術を磨いた。
中村さんの料理人人生の大半を占めるのが、割烹料理店「菊壽」で過ごした約25年間である。「割烹の店やな」と中村さんが話すその店は、格式のある雰囲気を持ちながらも、宴会や定食も提供する柔軟なスタイルだった。和食の基本からカジュアルな定食まで、幅広い顧客のニーズと調理技術を学べる修行先だったと言えるだろう。
日本庭園を備えた店構えからは高級感が漂っていたが、実際には幅広い層に親しまれる店だった。そこで中村さんは料理の基礎から段取り、厨房の動きまで徹底的に学んだという。最終的には焼方や煮方など、料理全般を担当しながら技術を磨いた。
任されて育った修業時代—7年間続いた“代理の大将”経験
その後菊壽の大将が名古屋の妻の実家で店を営むため長期間不在となった。中村さんはその間、事実上の店の責任者として厨房を取り仕切ったという。
「大将がいない間は、週に一度日曜日に帰ってきて味を見てくれるくらいで、ほぼ任されてましたね」と振り返る。約7〜8年の間、中村さんが中心となって店を支えた。その経験が、のちに自分の店「なかむら」を開く上での自信にもつながったのだ。
「大将がいない間は、週に一度日曜日に帰ってきて味を見てくれるくらいで、ほぼ任されてましたね」と振り返る。約7〜8年の間、中村さんが中心となって店を支えた。その経験が、のちに自分の店「なかむら」を開く上での自信にもつながったのだ。
独立のきっかけ——中華料理店跡地で始まった「なかむら」
約25年間勤めた「菊壽」を退職し、自身の店「なかむら」を開いたのは、偶然のタイミングが重なったからだった。中村さんはもともと独立を強く意識していたわけではなかったという。「そんなに考えてなかったですね」と笑うが、もともと地元で営業していた中華料理店が閉店することになりその跡地を活用できる話が舞い込んだという。「ちょうどそのタイミングで“やってみようか”って思ったんです」と中村さんは語る。
松阪市の中心部に出れば競争率が高くなるが、地元・飯高町という地域ならではの余白を感じたのだ。自然な流れで始まった独立”だった。
松阪市の中心部に出れば競争率が高くなるが、地元・飯高町という地域ならではの余白を感じたのだ。自然な流れで始まった独立”だった。
割烹から大衆食堂へ—業態を変えた理由
「菊壽」で提供していたように会席料理と定食、どちらも続ける選択肢もあった中村さん。しかし、「なかむら」ではあえて下町の食堂スタイルを選んだ。
その理由について「店の造りを見たときに、会席を出すような雰囲気ではないと思ったんです。個室もないので…」と中村さんは語る。だという。また、店の立地も山間部で奈良から松阪に抜ける峠道の途中にあるため、通り客や一見の来客により回転が早そうだと読んだ。
その理由について「店の造りを見たときに、会席を出すような雰囲気ではないと思ったんです。個室もないので…」と中村さんは語る。だという。また、店の立地も山間部で奈良から松阪に抜ける峠道の途中にあるため、通り客や一見の来客により回転が早そうだと読んだ。
開店当初の試行錯誤——“松花堂弁当”から始まった「なかむら」
修業時代からの常連客の中には、「松花堂弁当のような、2000円ぐらいの刺身入りの料理を作ってほしい」と依頼する人もいたという。開店当初はそのような料理も出していたのだが現在は提供しておらず、年配層や法要利用など限られたニーズに対応するために予約限定にしている。
当初は割烹と定食どちらも対応していたこともあったそう。しかし続けていると、スタイルが違う料理を同時並行で作ることで工程が煩雑になり、「時間配分がぐちゃぐちゃになってしまった」と中村さんは苦笑する。
「やっぱりどっちかに固めたほうがいいと思った」と振り返るように、店の方向性を見極めるための試行錯誤が続いた。結果的に、「なかむら」は地域密着の食堂として定着し、地元の人々に長く愛される存在となった。
当初は割烹と定食どちらも対応していたこともあったそう。しかし続けていると、スタイルが違う料理を同時並行で作ることで工程が煩雑になり、「時間配分がぐちゃぐちゃになってしまった」と中村さんは苦笑する。
「やっぱりどっちかに固めたほうがいいと思った」と振り返るように、店の方向性を見極めるための試行錯誤が続いた。結果的に、「なかむら」は地域密着の食堂として定着し、地元の人々に長く愛される存在となった。
通りがかりが縁—県外客も集う食堂へ
「なかむら」の客層は幅広い。地元住民だけでなく、県外や松阪市内からの来訪客も多いという。「通りがかりのお客さんもいれば、毎年決まった時期に寄ってくれる常連さんもいます」と中村さん。
来店客の約8割が常連であり、新規は2割ほど。観光客よりも地域に住む人々が多くを占めている。中村さんは「新規が増えて増えてっていうことはない」と笑うが、それは地元に密着した関係が築けている証拠でもある。数回訪れた客が再訪し、また新しい人を連れてくるという循環が、11年続く店の基盤を支えている。
釣りや登山、ドライブなど、飯高町を訪れるレジャー客が帰りに立ち寄ることも多い。特に季節によって来店客の顔ぶれが変わるのが特徴で、「シーズンごとに常連さんが入れ替わる感じ」と語る。関西方面からも足を運ぶ人が多く、地域を超えて愛される食堂へと成長している。
来店客の約8割が常連であり、新規は2割ほど。観光客よりも地域に住む人々が多くを占めている。中村さんは「新規が増えて増えてっていうことはない」と笑うが、それは地元に密着した関係が築けている証拠でもある。数回訪れた客が再訪し、また新しい人を連れてくるという循環が、11年続く店の基盤を支えている。
釣りや登山、ドライブなど、飯高町を訪れるレジャー客が帰りに立ち寄ることも多い。特に季節によって来店客の顔ぶれが変わるのが特徴で、「シーズンごとに常連さんが入れ替わる感じ」と語る。関西方面からも足を運ぶ人が多く、地域を超えて愛される食堂へと成長している。
自然体で迎える——日常に溶け込むおもてなし
中村さんが大切にしているのは「普段通りの接客」だという。「片肘張らずに来てもらえたらいい。早く出せるときもあれば、待ってもらうときもある。丁寧さは大事ですね」と語る。
「今の時代、一回の失敗でアウトになってしまう」と話す中村さん。口コミが広がる現代において、一皿一皿と人とのやり取りの両方を丁寧に積み重ねる姿勢が「なかむら」の信頼を支えている。
「今の時代、一回の失敗でアウトになってしまう」と話す中村さん。口コミが広がる現代において、一皿一皿と人とのやり取りの両方を丁寧に積み重ねる姿勢が「なかむら」の信頼を支えている。
変わらぬ味、変わらぬ姿勢—創業時から続くメニューの哲学
オープンから約10年。中村さんは「メニュー構成はほとんど変えていない」と話す。新しい料理を増やすよりも、既存の定食を丁寧に仕上げることを重視してきた。シーズン限定メニューとして冬に「もつ鍋」を提供する程度で、基本はオールシーズン同じラインナップだ。
「減らす方向にはしたくないけど、仕込みの手間や材料管理を考えるといつかはそうなるかもしれんなぁ」と語る中村さん。すべての料理に等しく手を抜かないという姿勢こそが、地元で愛され続ける理由のひとつである。
「減らす方向にはしたくないけど、仕込みの手間や材料管理を考えるといつかはそうなるかもしれんなぁ」と語る中村さん。すべての料理に等しく手を抜かないという姿勢こそが、地元で愛され続ける理由のひとつである。
「なかむら」の定番メニュー誕生——鶏もも焼きが象徴する一皿
「なかむら」の看板メニューともいえる鶏もも焼きは、店主・中村学さんが独立後に初めて考案した定食のひとつである。以前勤めていた店では扱っていなかったが、当時では「骨付きのももを焼くのが珍しい」と感じたことをきっかけに、自身の店で提供を始めたという。
当初は骨付きの鶏ももを使っていたが、仕入れ価格の高騰と調理時間の問題から現在は骨なしに変更。それでも皮はパリッと、中はジューシーに焼き上げる調理法を守り続けている。
鶏もも焼きの人気は高く、注文の中心を占めるのはカツ丼と並ぶ看板メニューだという。特別なアレンジは施さず、塩こしょうとガーリックパウダーのみで仕上げるシンプルな味付けが、逆に客の支持を集めている。常連客の中には、唐揚げにマヨネーズをつけるなど独自の楽しみ方をする人もいるが、もも焼きに関しては「そのまま食べる」というのが定番スタイルだ。
当初は骨付きの鶏ももを使っていたが、仕入れ価格の高騰と調理時間の問題から現在は骨なしに変更。それでも皮はパリッと、中はジューシーに焼き上げる調理法を守り続けている。
鶏もも焼きの人気は高く、注文の中心を占めるのはカツ丼と並ぶ看板メニューだという。特別なアレンジは施さず、塩こしょうとガーリックパウダーのみで仕上げるシンプルな味付けが、逆に客の支持を集めている。常連客の中には、唐揚げにマヨネーズをつけるなど独自の楽しみ方をする人もいるが、もも焼きに関しては「そのまま食べる」というのが定番スタイルだ。
地域色を映す「天巻き」——三重ならではの味を日常に
「なかむら」のもう一つの名物が「天巻き」である。これは三重県の郷土料理で、県内全域で親しまれている。全国的には有名な「天むす」とは異なり、ゆかりごはんや塩で下味をつけた白米を使って海老天を巻く海苔巻だ。
大葉で巻いた天ぷら巻きというのが「なかむら」流。香り高い大葉を採用している。素朴ながらも家庭的で、常連客からの支持も厚い一品だ。
大葉で巻いた天ぷら巻きというのが「なかむら」流。香り高い大葉を採用している。素朴ながらも家庭的で、常連客からの支持も厚い一品だ。
仕入れは信頼する業者と長年の付き合い
食材の仕入れは週2回ほどのペースで行われている。肉類は地元スーパーで購入することもあるが、鶏肉などの主要な食材は昔から付き合いのある業者に頼むことが多い。松阪市街地までは片道1時間ほどかかるが、「行き慣れたところが多分わかりやすいし」と中村さん。若い頃から通い続ける業者との信頼関係が、今も店の味を支えている。
地域密着のテイクアウト需要
「なかむら」ではテイクアウトにも対応しており、電話注文で受け付けることが多い。先程紹介した松花堂弁当だけでなく唐揚げ弁当やかつ弁当など、店のメニューも持ち帰る事ができる。利用客は地元の企業関係者が中心で、昼食需要を支える存在となっている。
静かな山あいで続く“普通”を貫く誠実な手仕事
インタビューの最後に「この記事を読んでくれる方へ一言を」と尋ねると、言葉を選びながらも、「普通の定食屋なんで、気軽に来てください」と静かに話すその姿が印象的だった。派手な宣伝や強いメッセージを語ることよりも、地域の暮らしの一部として日々の食事を支えること。それこそが「なかむら」という店の在り方を象徴している。
中村さんの料理には、長年の修業で培った技術と経験が生きている。しかし、それを誇示することはない。どの料理も飾らず、どこか懐かしい味わいがあり、まさに「普段着のごはん」そのものだ。お客を特別扱いするのではなく、あくまで自然体で迎え入れる姿勢が、常連に愛される理由のひとつである。
「なかむら」は、派手さや流行とは無縁の場所にある。それでも11年にわたり暖簾を掲げ続けてきたのは、「普通」という言葉に込められた誠実さと覚悟があるからだ。山あいの地域に暮らす人々にとって、ここは安心して帰ってこられる“食の拠り所”であり、日々の小さなご褒美でもある。
中村さんの穏やかな笑顔と、湯気の立つ料理。そのどちらもが、この町に欠かせない温もりを届けている。
中村さんの穏やかな笑顔と、湯気の立つ料理。そのどちらもが、この町に欠かせない温もりを届けている。
なかむら
〒515-1723
三重県松阪市飯高町乙栗子144
木曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
月曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
火曜日
定休日
水曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
木曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
金曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
土曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
日曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
0598-47-0018
最寄駅
松阪駅から車で1時間
支払方法
現金のみ
平均予算
1,000-1,500円
駐車場
店前6台、隣にトラック3台分程度
席数
22席(座敷:4名掛け×1、6名掛け×1、テーブル4名掛け×2、カウンター4席)
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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