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隠れたうなぎの産地、三重のうなぎの名店
伊勢中川駅の眼の前、複合施設「プラザなかがわ」にある「うなぎのやまもと」は、店主と奥様二人三脚で切り盛りしている来年30周年を迎える老舗のうなぎ屋である。店内はカウンター9席と座敷2つ、奥に個室を設けた昔懐かしい日本料理店を思わせる店構えだ。
ここで腕を振るうのは山本敏祐(としすけ)さん(68)。一見強面の雰囲気であるが、話をしてみるとすごく気さくに話をしていただける方だ。そんな「うなぎのやまもと」では、近隣のうなぎ屋では見られない点が見られる。
串打ちをせず焼き上げるうなぎ、伊勢湾名産のうなぎではなく、あえて宮崎産のうなぎを使う理由…そんな様々なこだわりを山本さんにお伺いしてみようと思う。
ここで腕を振るうのは山本敏祐(としすけ)さん(68)。一見強面の雰囲気であるが、話をしてみるとすごく気さくに話をしていただける方だ。そんな「うなぎのやまもと」では、近隣のうなぎ屋では見られない点が見られる。
串打ちをせず焼き上げるうなぎ、伊勢湾名産のうなぎではなく、あえて宮崎産のうなぎを使う理由…そんな様々なこだわりを山本さんにお伺いしてみようと思う。
山本さんが歩んだ下積みの軌跡
松阪市で「うなぎのやまもと」を営む店主・山本さんの経歴は、まさに日本の料理人文化を体現した“さすらいの修行”の歴史である。高校卒業後、地元でのアルバイト期間を経て、20歳で堺の割烹料理店に飛び込んだのが始まりだ。
その後は梅田、東大阪、和歌山、愛知、そして奈良と様々な地域で下積み時代を過ごす。ジャンルも様々で割烹、小料理屋、料理旅館、寿司屋など多岐にわたる。包丁とボストンバッグを携えて場所を変え舞台を変え、腕を磨いてきた。こうした各地での下積み経験が、現在の確かな腕を支えている。
その後は梅田、東大阪、和歌山、愛知、そして奈良と様々な地域で下積み時代を過ごす。ジャンルも様々で割烹、小料理屋、料理旅館、寿司屋など多岐にわたる。包丁とボストンバッグを携えて場所を変え舞台を変え、腕を磨いてきた。こうした各地での下積み経験が、現在の確かな腕を支えている。
住み込みが当たり前だった“職人社会”
山本さんが歩いた料理人の世界は現代とは大きく異なり、住み込みが前提の厳しい縦社会であった。食事、風呂、寝床、白衣まで全て店側が用意し、料理人は“体一つで飛び込む”のが当たり前だったという。
そのため給料は極めて少なく、修行中は「半人前」という扱いで小遣い程度しか支給されなかった。休みの日ですら堺時代の師匠の師匠が働く店へ行き仕事もしたという。よく言われる「黒いものでも師匠が白と言えば白」と答えるような、徹底した縦社会だ。
そんなイメージ通りの料理人の世界は確かに昔はそこかしこでみられたのだという。
そのため給料は極めて少なく、修行中は「半人前」という扱いで小遣い程度しか支給されなかった。休みの日ですら堺時代の師匠の師匠が働く店へ行き仕事もしたという。よく言われる「黒いものでも師匠が白と言えば白」と答えるような、徹底した縦社会だ。
そんなイメージ通りの料理人の世界は確かに昔はそこかしこでみられたのだという。
実家の民宿へ戻り、そして“料理の世界を離れる”決断
27歳ごろに山本さんは南伊勢の実家へ戻り、家業である民宿・寿司屋を手伝うようになる。しかし、その後の人生を考えたときに「田舎では限界がある」と感じ、料理の世界を一度離れる決断をした。親戚の紹介で埼玉の水産会社に入り、その後、叔父が社長を務める伊勢のうなぎ問屋「奥山水産(現・奥山淡水)」に入社し、うなぎのプロとして12〜13年の経験を積むこととなる。
“独立以外の選択肢はない”という覚悟
うなぎ問屋でのキャリアが長くなる中、山本さんは「勤め続けるより独立した方がいい」と考えるようになっていった。周囲からは別の問屋や企業への誘いもあったが、12年間の経験によって自分の技術に自信が芽生え、自分の責任で1から10までやり切る道こそ最善だと判断。こうして39歳の年、ついに独立を決意する。「自分の力を試してみたいと思った」と語るその言葉には、長い修行と多様な現場を経験してきた男の覚悟がにじむ。
テイクアウト専門からの転換と“店を構える”という決断
独立当初、山本さんが選んだのは津市高茶屋での「テイクアウト専門の鰻屋」だった。古い家屋を改装し、焼きたての鰻を持ち帰りで提供する形で、約10ヶ月間営業を続けていた。しかし、やがて「焼きたてをその場で食べてもらいたい」という思いが強くなり、テイクアウトのみの限界を感じ始めたという。加えて、客席がない環境では客のニーズに応えきれず、より広い箱を持つべきだという感覚が自然と芽生えていった。
そんな折、奥さんの知り合いから現在のテナントが空いたという情報が入り、住まいからの近さや家族の生活を考慮して出店を決意。こうして「うなぎのやまもと」は松阪市の現在地へ移転し、2025年で29年目、翌4月には30年目の節目を迎えることになる。「貧乏暇なしやった」と山本氏は振り返るが、これまで続いてきたのは夫婦二人三脚の努力の証でもある。
そんな折、奥さんの知り合いから現在のテナントが空いたという情報が入り、住まいからの近さや家族の生活を考慮して出店を決意。こうして「うなぎのやまもと」は松阪市の現在地へ移転し、2025年で29年目、翌4月には30年目の節目を迎えることになる。「貧乏暇なしやった」と山本氏は振り返るが、これまで続いてきたのは夫婦二人三脚の努力の証でもある。
人気メニューは“うな重”と“白黒重”──焼きの違いを楽しむ贅沢
最も注文が多いのは看板メニューのうな重である。しかし同店には、蒲焼と白焼きを半分ずつ味わえる「白黒重」というユニークな選択肢もある。
白焼きと蒲焼の両方を楽しみたいというニーズは根強いが、多くのうなぎ店ではこのようなメニューを用意していないだろう。「うな重を頼んで、さらに白焼きを追加するのには勇気がいる」と思っている筆者としても、白黒重の存在は貴重だと言える。
客の注文が入ってから焼き上げるため、どちらも熱々の状態で提供される。「お客さんの注文があってから焼き始めるので、熱々の白焼き、熱々の蒲焼きどちらも出せる」という山本氏の言葉通り、焼きたてを楽しめるのは専門店ならではの強みである。
白焼きと蒲焼の両方を楽しみたいというニーズは根強いが、多くのうなぎ店ではこのようなメニューを用意していないだろう。「うな重を頼んで、さらに白焼きを追加するのには勇気がいる」と思っている筆者としても、白黒重の存在は貴重だと言える。
客の注文が入ってから焼き上げるため、どちらも熱々の状態で提供される。「お客さんの注文があってから焼き始めるので、熱々の白焼き、熱々の蒲焼きどちらも出せる」という山本氏の言葉通り、焼きたてを楽しめるのは専門店ならではの強みである。
“うなぎを一番美味しく食べてもらうために”─ひつまぶしを出さない理由
地域の他店ではひつまぶしを提供する店も多いが、「うなぎのやまもと」ではあえてメニューに加えていない。技術的に作れないわけではないが、「自分が美味しいと思ううなぎをそのまま味わってほしい。ネギやわさび、出汁を入れたら別物になる」という考えがあるからだ。
うなぎ本来の味が最もダイレクトに伝わる形で提供したいという店主の信念に基づき、あえてシンプルな調理方法にこだわり続けている。根底にあるのは“素材の味と向き合う姿勢”だ。
うなぎ本来の味が最もダイレクトに伝わる形で提供したいという店主の信念に基づき、あえてシンプルな調理方法にこだわり続けている。根底にあるのは“素材の味と向き合う姿勢”だ。
宮崎県産うなぎにこだわる理由──“安全・品質・水系”への徹底した視点
松阪が面する伊勢湾には、愛知県の一色町をはじめとする有名な養鰻地が多い。それでも同店では宮崎県産にこだわり続けている。理由は大きく2つある。
まず、一色産うなぎの供給体制だ。一色のうなぎを取り扱う問屋は、繁忙期に多数が出荷されるためその後に続くロットが不足しやすく、なくなった場合外国産しか仕入れられないケースがあるという。山本さんは「外国産のうなぎはうなぎやけど、種類も違えば育つ環境も違う」という。特に工業排水基準が緩い地域で育つ外国産への安全性を懸念している。
もうひとつは味だ。一色のうなぎは脂が強く、対して宮崎・鹿児島の霧島水系や阿蘇水系で育つうなぎは筋肉質で味が締まりやすい。山本さん曰く「脂には脂肪酸しかないけど、筋肉にはアミノ酸がある。筋肉質のうなぎのほうが美味しい」と考えている。※
供給と味、2つの安定性。店を続けていくためにどちらも欠かす事ができない中で、うなぎ問屋で10年以上勤めた経験から宮崎県産のうなぎを使うという結論を導き出した。
まず、一色産うなぎの供給体制だ。一色のうなぎを取り扱う問屋は、繁忙期に多数が出荷されるためその後に続くロットが不足しやすく、なくなった場合外国産しか仕入れられないケースがあるという。山本さんは「外国産のうなぎはうなぎやけど、種類も違えば育つ環境も違う」という。特に工業排水基準が緩い地域で育つ外国産への安全性を懸念している。
もうひとつは味だ。一色のうなぎは脂が強く、対して宮崎・鹿児島の霧島水系や阿蘇水系で育つうなぎは筋肉質で味が締まりやすい。山本さん曰く「脂には脂肪酸しかないけど、筋肉にはアミノ酸がある。筋肉質のうなぎのほうが美味しい」と考えている。※
供給と味、2つの安定性。店を続けていくためにどちらも欠かす事ができない中で、うなぎ問屋で10年以上勤めた経験から宮崎県産のうなぎを使うという結論を導き出した。
“串を打たない”という選択──焼きの精度と効率を両立
また、多くのうなぎ店では串打ちが一般的だが、「うなぎのやまもと」では串を打たないスタイルを採用している。理由は明確だ。
串を打たない理由
- 串打ちの手間を省き、仕込み時間を短縮できる
- 熱源の強弱によって焼きムラが生じた場合、位置を自在に入れ替えられる
- 曲げずとも焼けるため、魚体を傷めず焼きに集中できる
問屋に勤めていた時代に何度も焼きを経験した山本氏は、「これなら串を打たんでもいける」と確信し、現在の形に至ったという。大量に一斉調理する店であれば串打ちは合理的だが、「うなぎのやまもと」では“一人一人オーダーを受けてから焼きたてを提供する”という方針を徹底しているため、オーダーメイド型の焼きのほうが相性が良い。
季節で変わる味─店主が推す“秋冬のうなぎ”
一般的に「土用の丑の日=初夏がうなぎの最盛期」というイメージが強いが、「店の立場から言うと、秋冬のほうが美味しい」、そう断言する。夏に急成長させた若いうなぎは身が柔らかいが、冬にじっくり育つうなぎは身が締まり、しっかりした食べ応えとなる。
また、夏場はどうしても“土用の丑の日”のイメージが強く、年に一度だけ食べに来る客も多い。しかし常連客はその混雑を避け、時期をずらして訪れることが多い。山本さんは「別に夏ばっかり食べやんでもええよ」と語り、季節ごとの味わいの違いにも理解を深めてもらいたいという思いを持っている。
「国産は冬は固い。それは当たり前のこと。冬場じっくり育ったうなぎの味を感じてもらいたい」と山本さんは説明し、来店客にも丁寧に伝えている。
また、夏場はどうしても“土用の丑の日”のイメージが強く、年に一度だけ食べに来る客も多い。しかし常連客はその混雑を避け、時期をずらして訪れることが多い。山本さんは「別に夏ばっかり食べやんでもええよ」と語り、季節ごとの味わいの違いにも理解を深めてもらいたいという思いを持っている。
「国産は冬は固い。それは当たり前のこと。冬場じっくり育ったうなぎの味を感じてもらいたい」と山本さんは説明し、来店客にも丁寧に伝えている。
天然うなぎでも同様の傾向があり、脂よりも身質を重視する同店の哲学がここにも表れている。通年で食べるからこそ感じられる深みが、うなぎの魅力のひとつである。
広がる客層─若い世代から家族連れ、テイクアウトなども
テイクアウトも同店の大きな柱である。利用されるシーンは幅広く、法事や里帰りといったハレの日から、孫や家族が集まる日常の食卓まで多岐にわたる。コロナ禍で多くの飲食店が慌てて弁当販売を始めた時期にも混乱がなかった。店側の準備が整っていたことに加え、客の側にも「ここは持ち帰りできる」という認識が浸透していたことが強みとなった。
店内利用では予約客も多く、その多くは常連客である。年齢層は比較的高めだが、近年は若い世代の来店も増えているという。中には若い単身客も多く、気負わず入店して焼きたてのうなぎを楽しむ姿も珍しくない。
また、会社関係で訪れた客が後日家族を連れて来店するケースもあり、口コミによる広がりが強い店である。人数に応じて個室や座敷を取れるのも支持される理由だ。常連客の「誰かを連れてきたい」と思わせる満足度の高さが、店の信頼性を裏付けている。
店内利用では予約客も多く、その多くは常連客である。年齢層は比較的高めだが、近年は若い世代の来店も増えているという。中には若い単身客も多く、気負わず入店して焼きたてのうなぎを楽しむ姿も珍しくない。
また、会社関係で訪れた客が後日家族を連れて来店するケースもあり、口コミによる広がりが強い店である。人数に応じて個室や座敷を取れるのも支持される理由だ。常連客の「誰かを連れてきたい」と思わせる満足度の高さが、店の信頼性を裏付けている。
山本氏が“店を続ける上で大切にしていること”
最後に、山本氏に店を運営する上で大切にしていることを尋ねると、返ってきた答えは非常にシンプルだった。
「休み以外はきっちり店を開けること」
決して派手な言葉ではないが、地元に愛され続けて来年30周年を迎えられる理由のすべてがこの一言に凝縮されている。来たいと思った時に店が開いている。焼きたてのうなぎが食べられる。期待を裏切らない“当たり前”を積み重ねることこそ、地域の信頼を得る最も強い力なのだと実感させられる言葉であった。
「休み以外はきっちり店を開けること」
決して派手な言葉ではないが、地元に愛され続けて来年30周年を迎えられる理由のすべてがこの一言に凝縮されている。来たいと思った時に店が開いている。焼きたてのうなぎが食べられる。期待を裏切らない“当たり前”を積み重ねることこそ、地域の信頼を得る最も強い力なのだと実感させられる言葉であった。
うなぎのやまもと
〒515-2321
三重県松阪市嬉野中川町40−2 プラザ中川内
木曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
月曜日
定休日
火曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
水曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
木曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
金曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
土曜日
11:00〜14:00
17:00〜20:00
日曜日
定休日
0598-42-6600
L.O
ランチ:13:30、ディナー:19:30
席数
27席(カウンター9席、座敷5名掛け×2、個室:8名)
定休日
日、月
最寄駅
伊勢中川駅徒歩3分
支払方法
現金のみ
平均予算
うなぎ丼:2,750円〜、うな重:4,070円〜
駐車場
プラザなかがわ共用駐車場:30台
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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