ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

自然と木の温もりが融合する、飯南の新拠点「natura(ナトゥーラ)」

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三重県松阪市飯南町粥見の豊かな緑に囲まれた地に店を構える「natura(ナトゥーラ)」は、自然とともに生きる松阪の文化を食で表現する場所である。店名はイタリア語で“自然”を意味し、「自然×地産地消×檜空間」というコンセプトを象徴している。

店舗を運営するのは、材木業を手がける株式会社田上。併設する惣菜カフェ「木花日和(このはなびより)」と共に、地域の自然と木材の魅力を伝える拠点として注目を集めている。

木の香りが心地よく漂う店内で地元の旬を生かした料理を提供する、24歳の若きシェフ・鎌田恵弥さんに、今回はフォーカスを当てる。

東京での修業を経て、多気の地へ帰郷

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鎌田さんは松阪の隣町、多気郡勢和で生まれ育った。料理の礎を築いたのは、東京での5年間だ。三重県唯一の食物調理科があり、全国コンクールなども受賞する相可高校を卒業し、東京へ向かうこととなる。

「高校を卒業してすぐ、松阪の『アクアプランネット』に入社しました。最初の勤務先は日本橋の三重県のアンテナショップ、「三重テラス」にあるイタリアンレストランです。そこに4年ほど在籍しました」と語る。

続いて働いたのは、銀座の「BVLGARI(ブルガリ)」が運営する高級レストラン。
「ブルガリの自社ビル内にあったレストランに1年間在籍しました。今は終了してしまいましたけどね」。

5年間にわたり東京で経験を積み、24歳という若さで地元に戻る決意をした。

偶然の縁から始まった“natura”との出会い

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旬野菜のロースト 薪火でじっくりローストし、野菜の甘味を限りなく引き出したひと皿。自家製バーベキューソースで
地元に戻ってからnaturaで働くこととなったきっかけは、偶然の縁だったという。

「たまたま親が知り合い伝いに“飯南でレストランを立ち上げるけど、料理を任せられる人がいない”という話を聞いたそうです。僕も、高校のこともあり飲食業界の友人が多かったので、誰かできる人いないかなと話を聞いていたら、自分に声がかかりました。親は材木業のことも知らなかったみたいですけどね。」

当初は惣菜店「木花日和」の立ち上げをサポートしており、ジビエなど自然派料理のコンセプトはまだ定まっていなかったそうだ。

「最初親から話を聞いたときは、“へぇ、そうなんだ”くらいの気持ちでした。でもやってみると、すごく面白くて。飯南・飯高方面には学生の頃も来たことがなかったので、新鮮でしたね」と当時を振り返る。

惣菜店から始まった“地域の食拠点”

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檜と植栽のコントラストが飯南の自然と調和している
「natura」は、併設する惣菜カフェ「木花日和」と同じ敷地内に立地している。この2店舗体制が生まれた背景には、少し特別な事情があった。

「最初から2店舗をやる予定ではなかったんです。最初の段階では、人手が足りなくて。申請の期限もあったので、まずはできることを…と“惣菜・テイクアウト業態”で書類を出したんです」と鎌田さんは説明する。

2店舗を運営する株式会社田上の主力事業は、寺社・仏閣向けの材木業。しかし社長には、“木をもっと身近に感じてほしい”という思いがあった。

「寺社・仏閣の仕事って、一般の人にはあまり触れる機会がない。だからこそ“もっと日常に木を取り入れてもらえる場”を作りたい。その入口が“飲食”でした。店に足を運んでもらえれば、テーブルや一枚板などの木の良さを実際に感じてもらえる。それがこの場所の原点です」と語る。

手探りの挑戦が、地域を動かす原動力に

店づくりはまさに“ゼロからの挑戦”だった。構想の中で、惣菜店「木花日和」が先に立ち上がり、その後に鎌田さんが合流して後に「natura」が誕生することになる。

「僕が来た時はまだ店の原型もなく更地の状態でした。建物のイメージはできていましたが、基礎すらなかったんです。立ち上げ最初は惣菜店で、カフェ形態でもなかったんです。でも仲間が増えていく中で、できることの幅が少しずつ広がっていきました。」と鎌田さんは率直に話す。

自然派レストラン誕生までの軌跡

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木花日和の運営も安定してきた折、並行して進めてきたnaturaの話が本格的に進むこととなる。

「イタリアンをやってきた経験を活かし、ランチを提案しました。当時は自分のレストランをやってみたいという思いが強くて、それを理解してもらい、実現させてもらいました。」

10月にオープンが決定し、カジュアルなスタイルも検討していたが、地元の生産者さんたちと関わるうちに“みんなが持つこだわりをもっとしっかり表現したい”と思うようになってのだという。最終的にコース料理で伝える形に決定し、飯南・飯高の魅力を伝える「natura」が誕生する。

地元食材との出会いが導いた、ジビエへの決断

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鹿のロースト
メインの食材として、当初は松阪牛やブランド豚なども候補に挙がっていた。しかし、決定的な出会いが鎌田さんをジビエの道へと導く。

「オーナーに“ジビエの仕入れ先を紹介してください”とお願いしたところ、近くにすごく腕の立つ猟師がいると聞いて。その方に『まずは食べに来い』と言われ、実際に食べた鹿肉が本当に驚くほど美味しかった。あの味に衝撃を受けて、“これでいこう”と決めました」と力強く語る。

若きシェフが地域の人々とともに挑戦を重ねる姿は、まさに“松阪の新しい食文化”を生み出している。
「今もいろんなことを試行錯誤しています。うまくいかないことのほうが多いですが、みんなで手探りしながら少しずつ前へ進んでいます。」

惣菜店から始まり惣菜カフェへと変化、ジビエを軸とした自然派レストランへと発展した「natura」。そこには、地元の自然を“食と木”で伝えようとする確かな志が息づいているようだ。

女性を中心に広がる「ランチコース」の魅力

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naturaの来店者の多くは30〜60代の女性客。友人同士や夫婦など、2〜3人で訪れるケースが中心だという。
「ランチがメインですね。やっぱり距離的にも夜は少しハードルが高い。でもその分、昼にじっくり楽しめるようノンアルコールのペアリングを充実させています」と鎌田さん。

現在は、ランチタイムにはフルコース(7,500円)とプレミアムコース(11,000円)、ディナーではフルコース(12,100円)を提供。

自然の恵みを皿に込め、地域の生産者とともに歩むレストラン「natura」。次の店舗移転を経て、鎌田さんの“自然を伝える料理”はさらに深みを増そうとしている。

季節ごとに変わるメニュー構成

「だいたい1ヶ月半に一度のペースでメニューを変えています」と鎌田さん。短いスパンで再訪する客にとっても、新しい食材や構成が楽しめるようになっている。

旬の素材に敏感なnaturaでは、「今食べてほしい食材」が季節ごとに移り変わる。たとえば、初夏から秋にかけてはシカ肉が脂のりもよく最も美味しい時期。秋には香り高いきのこ、そして冬になればイノシシが主役となる。

五感で楽しむ「natura」のノンアルコールペアリング

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ペアリングとしても人気のノンアルコールドリンク 梅クラフトコーラ(左):800円 台湾ジャスミン×コンブチャ×パッションフルーツ:800円
naturaでは、アルコールを嗜まない人でも料理と一緒に味わいを楽しめるよう、豊富なノンアルコールメニューを展開している。スパイスに漬け込んだ梅を使ったクラフトコーラや、生姜とスパイスをしっかり効かせた自家製ジンジャーエールが好まれるという。

自家製ノンアルコール赤ワインも評判だ。赤ワインのアルコールを丁寧に飛ばし、クランベリージュースやスパイスを加えて熟成させることで、しっかりとした渋みと奥行きを再現している。甘みを抑えつつワインらしい香りと味わいを残しており、「ジビエ料理との相性が抜群」と鎌田さんは語る。実際、シカ肉などと合わせて注文する常連客も多いという。どれも単なる甘いソフトドリンクではなく、「食事に合う」ことを前提に設計されている。

茶の香りを生かすボタニカルな一杯

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松阪といえば茶の産地としても知られており、その風土を活かしたお茶系ドリンクも充実している。深蒸煎茶をベースに、乾燥させたすだちの皮や山椒、麦、生姜の皮などで香りづけした水出し茶は、ボタニカルな香りが楽しめるフレーバーティーのような一杯だ。また、発酵ドリンクとして注目される「コンブチャ(紅茶キノコ)」も提供している。台湾ジャスミン茶にパッションフルーツピューレを合わせ、1週間ほど発酵させて生まれる酸味が特徴で、甘くない爽やかな飲み口が女性客を中心に人気を集めているという。

自然と地産地消が織りなす「natura」の哲学

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鎌田さんが目指すのは、“松阪市飯南・飯高地区の自然の魅力を伝えるレストラン”だ。その料理の核には山の恵みがある。その時期にもっとも美味しい素材で一皿を構成するのが鎌田恵弥さんの流儀だ。

「自然のものや季節のものを使い、そこに携わる生産者さんたちの思いも一緒に届けたい。僕らはただ、その魅力をお借りして料理という形で表現しているだけなんです。理を作っています。松阪から多気くらいまでのエリアで採れる、豊かな自然の中で育まれた季節のものを中心にしています」。と語る。

使用する食材は、すべて鎌田さん自ら足を運んで選び抜いたものだ。「まずは畑を見て話を聞くことから始まります」と語る。できる限り自身で仕入れに行き、生産者と直接言葉を交わすことで信頼関係を築く。そうして選ばれた素材だからこそ、料理にもその背景が感じられる。

ジビエ”という言葉に縛られない、自然派レストランの在り方

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「natura」では、メイン料理にシカやイノシシなどのジビエ料理を提供しているが、表向きに“ジビエレストラン”と謳ってはいない。

「“ジビエ”という言葉だけで苦手意識を持たれる方も多い。でも実際に食べてもらうと、そのイメージがガラッと変わるんです。」

ジビエだけでなく前菜からメインに至るまで、飯南・飯高で育まれた素材がふんだんに使われており、食を通じて“地域の風景”が見える構成になっている。
「うちの料理の中心はジビエですが、それはこの土地の自然を伝えるための一要素なんです」と鎌田さんは微笑む。

自然とともに生きる人々から学ぶこと

地元の猟師や農家との交流も、鎌田さんにとって欠かせない経験だ。ともに山へ入り、自然の中で狩猟や採取を体験したこともある。森の中での体験は料理人としての感覚を磨く貴重な時間だという。まさに自然と人、料理人と食材が密接に結びついたスタイルである。

月末金曜は“Bar natura”の日。自由でカジュアルな夜を

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そんな「natura」のもうひとつの顔が、月末金、土曜に開催される特別営業「Bar natura」だ。通常はコース中心のディナーだが、この日はアラカルト形式で単品料理を気軽に楽しむことができる。オープンは16時から21時ラストオーダーまで。予約なしでも入店可能で、前菜からデザート、パスタまで幅広いメニューを揃える。

居酒屋メニューの唐揚げから本格的なパスタまで、幅広いラインナップで構成され、温かく賑やかな空間を演出している。ワインやクラフト系アルコールのほか、ノンアルコールカクテルやジンジャーエールなど普段から人気のドリンクも充実しており、食事とともに幅広い層が楽しめるよう工夫されている。

「予約なしでもOKなんですが、ありがたいことに毎回ほぼ満席です」と鎌田さん。これまでの開催はいずれも満席近くになる盛況ぶり。遠方から訪れる客も多いため、「確実に座りたい方は予約がおすすめ」と語る。

ケータリングで広がる「natura」の味

店舗営業にとどまらず、鎌田さんの活動範囲はケータリングにも広がっている。企業や団体のパーティー、イベントなどへの出張料理も多く、コース形式からビュッフェスタイルまで幅広く対応している。

サポートには提携する会社のスタッフも参加し、現場ごとにチームを組んで臨む。そうしたケータリングは口コミや紹介で広がっており、地域や企業との新しい関係づくりの場にもなっているという。

地元・飯南町の魅力を料理で発信する

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これから挑戦したいことを尋ねると、鎌田さんの答えは明快だった。
「地元の食材やその魅力を、もっと多くの人に知ってほしい」と語る。飯南町には素晴らしい食材や生産者が多く存在するが、その価値を自ら発信できる農家は少ない。だからこそ、自身の料理でその魅力を伝え、来店者を通じて地域の魅力を広げていくことを使命と考えているのだ。

「農家さんが自分で発信するのは難しい。でも僕が料理という形で伝えられたら、きっと届くと思うんです」と鎌田さん。
naturaをきっかけに飯南町を訪れ、地域を知ってもらう。そうした循環を生み出すことで、地元全体の盛り上がりにつなげたいと考えている。近隣の飯高町などでは新しい挑戦も増えており、同じ志を持つ人が増えることに期待を寄せている。

また、地域のものづくりや伝統文化の継承にも強い関心を持つ。山間であるnaturaの近隣の農家などの地場産業では、後継者不足が深刻だという。「素晴らしいものがあっても、受け継ぐ人がいないと続かない。もっと発信できる人が増えてくれたら」と鎌田さんは語る。彼の言葉には、料理人としてだけでなく、地域の未来を見据える視点がある。

「気になる」から「訪れる」へ─naturaが目指す場所

最後にメッセージを求めると、鎌田さんはこう語った。
「まだまだ知名度もないですし、遠い場所かもしれません。でも、気になっている方は一度足を運んでみてほしい。料理を食べて、感じてもらうところからしか始まらないと思うんです」。

naturaを訪れた人が、料理を通して飯南町の自然や人の思いに触れ、何かを感じ取って帰る。鎌田さんが目指すのは、そんな“きっかけの場”である。食と地域をつなぐ新しい形を生み出しながら、今日もnaturaのキッチンから物語が紡がれている。
natura(ナトゥーラ)
住所
〒515-1411
三重県松阪市飯南町粥見5189−9
席数
最大8名程度
定休日
火、水曜
最寄駅
松阪駅より車で1時間
支払方法
各種クレジット利用可
平均予算
ランチ:7,500円〜、ディナー:12,100円〜
駐車場
店前20台
予約
完全予約制※ご予約は下記、Instagramアイコン右の□右上矢印のアイコンをクリック!
禁煙
禁煙
ランチ提供
ランチ
ディナー提供
ディナー

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