ライター : macaroni 編集部

オリンピアン小林祐梨子さんの元気の源は

連日熱戦が繰り広げられている東京五輪、花形種目である陸上競技も佳境に入っています。トップアスリートのパフォーマンスを最大限引き出すための大切な要素のひとつが“食事”。選手たちはどんなものを食べて競技に臨むのでしょうか。

現在はスポーツコメンテーターやスポーツフードアドバイザーとして活躍する北京五輪陸上女子5000m代表のオリンピアン小林祐梨子さんに、ご自身の現役時代にパワーを与えてくれたこだわりの勝負めしや、主婦として母親として想う家族のための勝負めしを聞きました。

Photo by 西村仁見

小林祐梨子(こばやし ゆりこ)さん 1988年12月12日生まれ、兵庫県小野市出身。中学から陸上競技に取り組み、須磨学園高等学校時代の2006年に1500mで日本新記録(当時)を樹立。全国高校駅伝でも3年連続区間賞を達成。卒業後、豊田自動織機へ入社し女子陸上部に所属。2008年北京五輪5000m代表、2009年世界陸上5000m代表などで活躍。現役引退後に結婚、現在は男児2人の母親として奮闘しつつスポーツコメンテーターをはじめ多彩なキャラクターを発揮しテレビやラジオを中心に活躍中。

母の鰻ごはん弁当が私の勝負めしの原点です

Photo by 小林祐梨子

ーー鰻が勝負めしとなったきっかけは?

小林祐梨子さん(以降、小林)
中学から本格的に陸上をはじめました。学校での食事は給食が基本でしたが、陸上の大会に参加するときだけは母の手作りのお弁当をもっていっていました。

母は陸上競技の知識はありませんでしたが、子どもの身体のために栄養価の高い食事をとの思いで毎回しっかりしたお弁当を用意してくれました。

鰻ごはんに、卵、肉、魚、酢の物、野菜、煮物とおかずが豊富で、栄養のバランスも味も感動的なお弁当でした。そのお弁当を食べた大会で好記録が出て、以降の大会でのお弁当は、お互い暗黙のうちに鰻ごはんが定番になっていきました。

高校に進学すると毎日お弁当を作ってもらうようになりましたが、大会の日は必ず鰻ごはんを用意してくれました。1500mの日本新記録達成や全国高校駅伝の優勝などでは、鰻ごはんが間違いなく大きなパワーを与えてくれたと思っています。

北京五輪にも真空パックで蒲焼を持参

写真はイメージ
ーー実業団(豊田自動織機の陸上部)に入ってからの勝負めしは?

小林 社会人になり、親元を離れて暮らすようになってからは、大会前日の夜に鰻重を食べにいきました。外食をするようになって初めて鰻が高価なことに気づき驚きましたし、あらためて中学・高校とずっと鰻ごはんを作ってくれた母の温もりを感じました。

大会のたびに鰻重は金銭的に苦しかったので、重要なレースの前日は鰻重を食べ、それ以外のレースの前日は親子丼にして節約(笑)。

実は北京五輪にも蒲焼きを持参しました。真空パックで湯煎で食べられる状態にして。でも、一尾しかもっていかなかったので、予選の前日に残らず食べてしまい、決勝の前日に食べる分がありませんでした。

結果、わずか0.75秒差で決勝進出を逃してしまいましたが、二尾持参していれば決勝に進めたのにと、今でも思い出しますね(笑)。

スポーツフードアドバイザーになって思うこと

Photo by 小林祐梨子(画像提供)

ーー引退後にスポーツフードアドバイザーを取得されたのはなぜですか?

小林
現役時代は独学でカーボローディング の知識を得て、レースの前日には糖分の基になる炭水化物を多めに摂る食事を実践していました。多くのランナーはレース中に必要な糖分(グリコーゲン)をお餅やごはん、うどんなどをたくさん食べて備えます。

※90分~2時間以上続く競技(試合)で必要なエネルギーを体内に蓄えるための食事法のことで、体に取り込んだ糖質は血中グルコースになってエネルギーとして巡り、残りは筋肉と肝臓にグリコーゲンとして蓄えられ、長時間の競技にも有効なエネルギー補給が可能とされている

でも、引退してからわかったことですが、カーボローディングが有効になるのは90分~2時間以上続く長時間の競技だったんです。当時の私の主戦場は1500mや5000mで、4分から数十分で競技が終わってしまいます。カーボローディングの効果が出てくるのは、競技終了後のインタビュー中だったりで、レース後のインタビューで飛び抜けて元気なアスリートとマスコミに言われたこともありました(笑)。

そんなこともあり、引退後にしっかりとした知識をもって家族や後輩アスリートのために役立てたいと思ったんです。車に例えれば、車体がアスリートの身体・筋肉で、これにはタンパク質や脂質が必要、オイルやグリスなどの潤滑油の役割を担うのがビタミンやミネラル、そしてガソリンになるのが炭水化物です。

その視点からも、鰻ごはんはそれらを見事に兼ね備えた、アスリートにとって一級品の勝負めしといえるでしょう。母手作りのお弁当は、何物にも代えがたい、私にとって最高の勝負めしだったと思います。

旬の大切さを伝えていきたい

Photo by 西村仁見

ーー結婚、出産を経て、新たな家族と暮らす現在。食についてどのような想いをもっていますか?

小林
主人も私も好き嫌いがないので、子どもにも何でも食べさせて育てようと考え、実践しています。幸い実家がお米も野菜も作っているので、旬の食材を間近で教え、食べさせることができます。

そうした食べ物が丈夫な身体を育んでくれると意識して子どもの食育を続けていきたいですし、また皆さんにも発信していきたいと思っています。

最近、スポーツ教室や講演会に出向いて驚くことがあります。小学生で熱心に陸上競技やスポーツに取り組んでいる子どもたちに、怪我や骨折が異常に多いのです。私が子どもの頃には考えられない現象です。育ちざかりの子どもたちに、過度な練習やトレーニングを強いている。その反面、食に対するサポートが十分でなく、成長期に必要な栄養が不足しているように感じます。

厳しいトレーニングは十分に身体が成長してからで大丈夫です。まずは良い食事をしっかり摂って、元気な身体を作ることが何よりも大切。親御さんにもそれをぜひ理解してほしいですね。

旬の食材をみんなで囲んで楽しく食べる!これが我が家の勝負めし

Photo by 小林祐梨子

ーー家族の食事について、大切にしていることは?

小林 週に1回は家族全員で食卓を囲み、同じものを食べる。我が家で何より大切にしている食育です。夏場はホットプレートでお好み焼きや焼きそばを分け合って食べますし、冬場はお鍋になります。

皆でワイワイと同じものを楽しむ。これが家族の食の原点だと思いますし、子どもにとっては家族というものを意識する“はじめの一歩“となるはずです。毎日は無理でも、週に1度は必ず家族全員で食卓を囲んでいきたいと思っています。

旬の食材を家族全員で囲んで楽しく食べる。これが小林祐梨子流の家族のための勝負めしです。
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