ライター : つゆくぼみえ

料理探求人&フードライター

名古屋の人気うなぎ屋「うな豊」

Photo by つゆくぼみえ

戦後の復興を目指し、日本が高度経済成長期を迎えていた昭和35年、「うな豊」は名古屋市瑞穂区で産声を上げました。現店主・服部公司さんのお父様である豊吉さんが、母方の祖父母の鰻店で関西風の蒲焼きを習得し、満を辞して開業したそうです。

創業当時、店前の道路は舗装されておらず、車通りもほとんどなかったとか。しかし、「うな豊」が開業する20年近く前に名古屋市内最大の陸上競技場が完成し、戦後の復興を象徴する第5回目の国体が開催されていました。

豊吉さんは将来的にこの街の人口が増えると見込み、出店したようです。その読みは見事的中。お店周辺には、商業施設と住宅がほどよく調和した街並みが築かれました。

先代の一挙手一投足から、技と哲学を学ぶ

Photo by つゆくぼみえ

豊吉さんの鰻は周辺住民に愛され、やがて繁盛店になりました。

公司さんは学生の頃から店を手伝っていましたが、昭和53年に成人したタイミングで、本格的に豊吉さんの下で働くように。父が最高の手本だと思っていたことから、外弟子に出るつもりはまったくなかったそうです。

ただし、豊吉さんは見て学べ、技を盗めという教育方針。公司さんは豊吉さんの一挙手一投足から鰻に関する技と哲学を学びました。

関東流の焼き方がヒントに!新感覚の「地焼き」を実現

Photo by つゆくぼみえ

ひと通り仕事ができるようになったのを見届け、豊吉さんは現役を引退。店の看板を公司さんひとりで背負うことになりました。しかし、店を引き継いでからしばらくすると、鰻の不漁が続き、個体差に悩まされるようになったといいます。

「当時の鰻は、バラつきがひどくて。大きさも身の厚さも脂のノリもまったく定まりませんでした。でも、楽しみにして足を運んでくださったお客様に『今日の鰻はダメだったんで勘弁してください』なんて言えないじゃないですか。これは自分の技量でカバーするしかない!と思いました」と公司さんは当時を振り返ります。

「うな豊」では豊吉さんの代から、捌いた鰻に串打ちし、炭火で焼き上げる関西流の「地焼き」を採用していました。しかし、個体差の大きい鰻を均一に仕上げるためには、今までのやり方ではダメだと確信。

そんなときに出会ったのが、関東流の焼き方でした。関東では蒸してから焼き上げるため、ふわふわの食感に仕上がります。この方法にヒントがあるのでは……と考えた公司さんは、炭火の加減や鰻との距離感に工夫を凝らしました。

Photo by つゆくぼみえ

左手に串打ちした鰻、右手に団扇を持ち、両手を休ませることなく動かし続けることで、外はこんがり焼き上げながら、中は蒸したようなふんわりした仕上がりに。

一般的な地焼きの皮目を「カリッ」と表現するならば、公司さんが編み出した地焼きの皮目は「サクッ」。地焼きの概念をくつがえす食感です。

サクッフワッのうなぎを堪能できる「うな豊丼」

うな豊丼(肝吸い付き)

Photo by つゆくぼみえ

4,785円(税込)
「うな豊」では、豊吉さんの代から、鰻を食べやすい大きさに切り分けて盛りる「うな丼」が主流でした。その理由は、身が硬い鰻を地焼きした場合、小さいほうが食べやすいからです。

しかし、公司さんが編み出した地焼きならば、箸で簡単に切り分けられ、長いまま出すことができます。

こうして誕生したメニューが「うな豊丼」。鰻を1尾半まるっとのせた、「うな豊」きっての贅沢な丼です。

「この丼をお出しすると、『これって蒸していますか?』と質問されることが多いんですよ。そのときは『いえいえ、当店は関西流の地焼きです』と自信を持ってお答えしています」と公司さんは相好を崩しながら、「うな豊丼」をすすめてくれました。

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丼にドーンと横たわった鰻は、難なく箸で切り分けられます。口へ運ぶと「サクッ」としたあとに「フワッ」とした食感。香ばしさもしっかり表現されています。

地焼きでありながら、関西流と関東流のハイブリッドのような印象を受けるひと品です。

特上丼(肝吸い付き)

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2,595円(税込)
昔ながらの食べやすく切って盛った「うな丼」も根強い人気。なかでも鰻を5切れのせた「特上丼」は、見た目も豪華で食べ応え満点です。

スタミナ不足を感じたときや、自分へごほうびにぴったりな一杯ですよ。

食べ疲れないタレの秘密は、焼き方にあった!

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鰻丼も鰻重も、鰻の蒲焼・ご飯・タレとシンプルな構成。だからこそ、トータルのバランスが満足感にも大きく影響します。「うな豊」のタレは、豊吉さんが祖父母の店から譲り受けたものを、つぎ足しつぎ足し使用。

タレのレシピは変えていませんが、豊吉さんの代とは明らかに印象が変わっているといいます。

通常の地焼きでタレに二度漬けすると、焦げたカラメル部分がタレに移り、コッテリとした印象になりがちです。しかし、公司さんが編み出した地焼きは、皮目を焦がしすぎないため、タレはサラッとした印象に。最後まで軽快に食べ進められるのは、どうやら焼きとタレの関係にも由来しているようです。
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