ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

脇道でひっそり営む老舗町中華

Photo by macaroni

多くの車が行き交う生活道路から少し入ったところ、えんじ色の一軒家風の一階に「中華料理の店 富富(ふうふう)」はある。叔父が経営していた、津の知る人ぞ知る町中華の銘店「天国」にて長年店の味を決めるチーフとして修行し、27年前に独立してこの地に開業した。

今回は店主の店主である安田 晃さんと奥さん安田美紀さんにお話を伺った。

味に妥協しない信念—「自分がおいしいと思えばそれでええ」

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「今日は、餃子の仕込み。これで大体20人前ぐらい。仕込みのときは他の仕込みはしないようにしとる。場所を取るし、工程が多く面倒くさいな。その割には安いけどな。。笑」そんな言葉から始まった取材は、店の歩みと人生が重なるような語りへと続いていった。
元々はつなぎの仕事として叔父が経営する中華料理屋で働き始めたのが料理の世界に入るきっかけとなった。津では知る人ぞ知る銘店と謳われる"天国"。叔父も修行といった修行はしたことがなく、「素人集団が集まって店を始めたんや」と語る。創業当初は叔父ご夫婦とその奥さんの弟さんの4人のみだった。
「叔父の教え方が下手で…でも一緒に働いていた弟さんに『自分がおいしいと思ったら、それでええやんか』って言ってもらえて」

その一言が、料理人としての自信へとつながっていった。

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「いつ辞めようかな」と思っていた時期もあったが、少しずつ忙しくなり人手も増え気がつけば辞めるタイミングを逃すほどの充実した日々へと変わっていった。別のお店に短期間修行に出ていた弟さんが店に戻り、力を合わせながら中華料理のメニューも徐々に増やしていくことに。
かつて「天国」にいたときは、味の改良をめぐって経営者である叔父と晃さんの間で意見の違いもあった。叔父は味を変えたがったが、晃さんは「この味がおいしいと思ってやってるんや」と譲らなかった。その信念が独立のきっかけにもなったという。
その後、1999年3月27日、現在の地に”中華料理の店 富富”はオープンする。

素材と調味料への徹底したこだわり

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この店の最大の魅力は、「味が変わらない」ことだ。開業から27年、天国の味から数えれば50年間変えていない味。それが店主の「こだわり」であり、「誇り」でもある。

"僕なんか不器用やで、そんな器用に味を変えたりできへん。ずっと一緒の味でやっとるんやで。味を変えることはそんな簡単なことやない"

焼豚とチャーハンに込めた、シンプルな技と深い味わい

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チャーハン:780円
店の人気メニューの一つがチャーハン。その味の決め手は、自家製の焼豚だ。継ぎ足しながら使い続けるタレで仕込まれた焼豚は、チャーハンにそのまま刻んで入れるだけで、塩を少し足す程度で味が決まるという。20年以上続けているタレの味は店主にとっての「基本の味」だ。「うちはうちのやり方で、これがチャーハンの味やと思っとる」と語る。
ジャンルでいうとパラパラ食感のチャーハンの具材は、チャーシュー、玉ねぎ、ネギ、たまごと至ってシンプル。あっさりした味付けながら、噛みしめるとチャーシューから旨味が広がり口の中に幸福を満たしてくれる。メインとしてチャーハンだけでも、主食として他の一品料理ともどちらでもいけてしまう定番料理に仕上がっている。

餃子へのこだわりと、変わらない信念

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餃子:450円
もう一つの看板メニューが餃子。こちらは肉の配合に絶対的なこだわりがあり、「この配合でないと絶対おいしくない」と断言する。50年近く一人で作り続けてきた味には、一切の妥協がない。
餃子に使う肉は、三重県産にこだわる朝日屋さんに特注で依頼した独自の配合。味の要となるのは、調味料と素材のバランスだ。「醤油はこれ、豆板醤はこれ、ごま油はこれ」すべて明確に決められたブランドと配合で、「これは譲れやん」と店主は語る。
皮は薄めで餡は程よくにんにくが効いており、野菜たっぷりのあっさりとした仕上がり。とはいうものの、味のパンチもしっかりとありチャーハンやご飯がどんどん進む。ビールのお供としても最適であろう。

人気メニュー「麻婆飯」とエピソードのあるお客さんたち

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麻婆豆腐:920円
他にも「麻婆飯」は根強い人気があるメニューだ。麻婆豆腐と並んで提供されているが、特製の豆板醤を使い、若い客層にも好評。
なかでも印象的な常連さんのエピソードがある。男の子4人のご家族の常連さん全員が麻婆飯ファン。中でも子どもたち2人と旦那さんが大盛りを頼むこともあり、「もう70前のええ年やのに大盛りってどうや?」と店主も苦笑い。「飽きないの?」と聞くと、「よそでも食べるけど、やっぱりここのが一番」と返ってくる。その一言が、店を支える力にもなっている。
筆者は麻婆豆腐をいただいたが、まず豆板醤の辛味がはじめに来て、豆腐のふるふる食感やひき肉の旨味ががごろっとした食感で口を楽しませてくれる。とくにひき肉に関しては他の店と一線を画す。このごろっと感が肉の旨味を閉じ込めて食べる手を止められなくする。あんのとろみもかなりしっかり目なのも昔ながらで懐かしさを感じる。必注の一品といえるだろう。

「富富」に込めた響きと親しみやすさ

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「富富」の名前を決めたのは美紀さん
店名を決める際、まず思い浮かんだのが“繰り返しの音”。「好好」や「来来」など、中華系の店でよく見かけるリズム感のある名前。耳に残りやすく、親しみやすい。そう考えて「ふうふう」という響きが自然と生まれたと語る。けれど、似た名前が多い中で埋もれてしまう不安もあった。さらに、「ひらがなだと少し力強さに欠ける」との身内の言葉が決定打に。
思い至ったのは、名前の画数による縁起の良し悪しを示す“姓名判断”。「ふうふう」の音に「富富」を当てると、ちょうど24画。調べると、24画は商売繁盛に縁起が良いとされていて、「これしかない」と確信した。また、「ふうふう」「はふはふ」といった熱い料理を食べるときの自然な響きともリンクし、ぴったりだと感じたという。

中華包丁や調理場に残された“歴史"

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「そういえば…おもしろいもん見したろ!」そういって美紀さんが奥から持ってきたのは、天国時代から35年仕事を共にしてきた中華包丁だった。包丁の腹には親指や人差し指の跡がくっきりと残る。「触ったら分かるやろ?ちょっとへこんどんの笑」。

しかしこの使い慣れた中華包丁は約400グラムと重く、リスクを考慮して現在は家庭用包丁に切り替えている。それでも「なんとか間に合う」と言いながら、厨房に立ち続ける姿は職人そのものだ。
立ち位置に刻まれた足跡もまた、歴史の一部だ。天国を辞めてからこの調理場に立ち続けるなか、立ち位置には自然と体重がかかり、セメントの床に足の形が残っている。

「踏ん張って、こうやってガーってしとんやろな」—許しをいただき床をなぞると、その凹凸が今も感じられた。厨房に立ち続けた時間の長さと重みが、調理場のそこかしこに染み付いている。

現場復帰の不安と挑戦:リハビリでは分からない“厨房の勘”

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そんな実直で不器用な旦那さんの仕事のスタイルに急な病魔が襲った。病気の発症は前年12月、脳梗塞で入院することとなり店を一時休業することとなった。残った症状は構音障害と右半身麻痺。右手・右足が思うように動かず、最初は「力が入らへんだ」と本人も語るほど重い症状だったという。しかし、決死のでのリハビリの末、徐々に戻り体も動くようになった。唯一の救いは味覚は一切損なわれなかったことだ。
入院中も家族や周囲のサポートを受けていたが、「味見はできる。やっぱり現場に入ってみなわからへん」と気づき、店に戻る意思を固めた。動作と足運びに不安は残っていたものの、調理場への復帰を目指して勘を取り戻すため、暗い店内で鍋をふるった。

「餃子も握れへんし、麺も上げられへんし、チャーハンもお玉に入らへん……大丈夫かなぁ、再開できるかなぁって思ったんやけど…」

以前のように仕込みや複数の調理をこなすのは難しいと判断し、いい機会とメニューは3分の1に絞ったと語る。中には人気メニューであった塩ラーメンや肉団子のチーズチリソースなども含まれる。
本格的に営業を再開したのはゴールデンウィーク前のこと。「いろんな人に心配かけたな。リハビリがてらやな。じっとしてられへん性格なんで、笑」と語る店主は、4ヶ月の休業を経て、ゆっくりと現場に戻ってきた。実際には調理場での動作一つひとつがリハビリそのものだ。常連客の中には、遠方から足を運んでくれる人も多く、気遣う声が励みになった。

親子三代に愛される味:常連客の富富への親しみ

厨房はオープンスタイル。小さな子どもが覗き込む光景も日常で、30代になったその“元・子ども”が、今も通い続けるお客さんになっていることも多い。親子三代で来店する家族もいるという。「いろんな仕事に就いてる人もおれば、独身で自由気ままな人もおるし。いろいろや」ただ食べに来るだけではなく、人生の時間を共に過ごしてきた常連たち。店主夫婦の人柄と、変わらぬ味が絆を育てている。
「天国」を知る客が、現在の店を訪れることもある。なかには全く偶然で来店されることもあり、「あれ?どこかで食べた味やな……」と記憶が蘇り、会話の中で「あの時の天国やないか!」と驚くことも。特に印象的だったのは、塾の送り迎えの合間に立ち寄った家族。たまたま再訪した店が、かつて通った味そのものであったことに気づいたという。
「安定してくると、新しいお客さんってあまり来んようになるんやわ。でもそれでええんやと思う。二人でやっとるだけやし、人を雇うほどでもない。自分らが食べていければええんやから」
現在、店主のキャリアはもうすぐ50年。「体には少しずつガタがきているが、気持ちはまだまだ元気」と、笑顔で語ってくれた。

店を彩る“ガーランド”とディズニーの魔法

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取材中、店内に飾られていたのはディズニーのガーランド。季節ごとに変更するという店内装飾は安田さんご夫婦が大のディズニー好きであることがその理由だという。ある日、小学生の女の子から「おばちゃん、飾り付けしないの?」と言われたことがきっかけで、飾り付けを意識するように。ディズニーカレンダーのイラスト部分を額縁に入れて掲示するところからはじめ、気づけば店内全体に広がった。
店内の時計は、26年間止まらずに動き続けている。「父さんが買ってくれた時計、油もさしてないのにまだ動いとる。奇跡みたいやな」と語る姿に、時の重みがにじむ。調理中に確認する用の時計はその間5、6台壊れたが、この一台だけは不思議と今も現役だ。

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店内の飾りつけからもうかがえるように、この店にはディズニー愛が溢れている。壁の装飾にもディズニーキャラクターが並び、「ディズニーのために働いてるようなもん」と冗談まじりに話す。

「毎年一回ぐらい、夫婦で行っとったもんな。25年、毎年かかさず行っとった」

営業後に夜通し車で向かって1泊2日で楽しみ、そのまま返ってきて当日の営業をこなすといった過密スケジュールでも、「遠足の前の子どもみたいやで、寝れやんのやもん」と語るその表情からは、ディズニーへの熱量と人生のハリが伝わってくる。

日常の一コマが“仕込み”のリズムを作る

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この日の会話の締めくくりは、再開後の穏やかな日常のいち場面。

「あと仕込みっていう仕込み……昨日ちょっと暇やったで、ないでな。じゃあこの辺かな」


忙しすぎず、暇すぎず。ちょうどいいリズムで流れていく日々こそ、安田さんご夫婦にとっては理想の状態だ。体と相談しながら続けていく営業スタイルが、これからの新たな「日常」になっていくのだろう。

中華料理の店 富富(ふうふう)
住所
〒515-0045
三重県松阪市駅部田町124−5
営業時間
金曜日
11:00〜13:00
17:00〜20:00
月曜日
11:00〜13:00
17:00〜20:00
火曜日
定休日
水曜日
定休日
木曜日
11:00〜13:00
17:00〜20:00
金曜日
11:00〜13:00
17:00〜20:00
土曜日
11:00〜13:00
17:00〜20:00
日曜日
11:00〜13:00
17:00〜20:00
開閉
電話番号
0598-26-1254
最寄駅
松阪駅より車で10分
支払方法
現金のみ
平均予算
1000~2000円
駐車場
5台
席数
20席(カウンター4席、4名掛テーブル席×3)

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