ライター : dressing

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焼肉の基礎知識:ガスロースターの焼肉店で、肉はこう焼く

焼肉は誤解されやすい食べ物です。たまに「薄切り肉を焼くなんてこどもでもできる」、「炭火のほうがガス火よりおいしく焼ける」なんて適当なことをおっしゃる方もいますが、とんでもありません。薄切り肉はある意味厚切り肉より焼くのが難しく、ガス火と炭火とでは“得意技”が違うだけ。焼き台の特性を知れば、炭火よりもガス火のほうがおいしくなる肉だってあるのです。このあたりは、じゅうじゅうご承知おきください。焼肉だけに(恒例)。
意図を持って肉と焼き台に向かえば、焼肉は必ずうまくなります。それには肉を知る店に通うのが一番の近道です。 「炭火×網焼き」の焼肉の焼き方は、前回解説したとおり。
というわけで、本日はあの精肉卸『ヤザワミート』の焼肉上級店、目黒にある『焼肉 稲田』で「ガスロースター×鉄板の店での焼肉の焼き方」を追求していきましょう。

肉の種類:分類と、焼くコツ

さて。おさらいですが、焼肉店のメニューにはざっくり3種類の肉があります。
そして肉の種類ごとに焼き方は変わります。さらに言うと「ガスロースター×鉄板」では「炭火×網」とは違う焼き方がベストになるケースも。
焼肉の味わいは表面に焼き目をつけ、内部を適度に温めることで最大化します。そして、表面に焼き目をつけるなら「炭火×網」より接地面の大きい「ガス火×鉄板」の方が有利なのです。ざっくり言うと、「ガス火×鉄板」は赤身のタレ肉をおいしく焼くのに向いていて、ホルモンを上手に焼くには少々コツが必要です。

ガス火と炭火、鉄板と網では熱の入り方が異なる

こちらが本日のお肉です。 《塩》 ①薄切り上タン(塩) ②厚切り極上タン(塩) ③上ハラミ(塩)
《タレ》 ④上カルビ (タレ) ⑤並カルビ(タレ)
《ホルモン・味噌とタレ》 ⑥ミノサンド ⑦コリコリ ⑧コプチャン ⑨白センマイ ⑩レバー
今回は塩、タレ、味噌という3つの味のついた肉をベースに解説していきましょう。

《塩》①薄切りタン、②厚切りタン(切り目入り)、③上ハラミ

さて! いよいよ焼き……の前に、まずは最重要ポイントであるガスロースターについて解説をしたいと思います。 通常ガスロースターはスリットの入った鉄板の上下に漢数字の「二」の字のようにガスの火が走っています。しかし、本日の『焼肉 稲田』は中央に横一文字状にガス火(上部にカバーがかかっている)が走っています。どちらも一番火が強いのは熱源の直上ですが、熱源の位置が違うので、「強火」「中火」「弱火」のゾーンの場所も変わります。 そしてこの火加減の使い分けが焼肉を上手に焼く最大のポイント。例えばガスロースターの熱源の直上はガス火全開時で350℃以上にもなります。そこから上下に平行移動し、熱源の直上を外した中温ゾーンが250~300℃前後、さらにガス火の長さから外れた左右の端の鉄板上が約100~150℃となっています。ガスロースターの鉄板は「高温」「中温」「低温」と炭火よりも明確にゾーンが分かれています。
「稲田」のガスロースターでは、中央に一文字に走るガス火の直上が「高温」ゾーン。向かって上下に走る「二」の字の上あたりが「中温」となっています(通常の「二」の字ロースターの店でもそうですが、左右両サイドが低温ゾーンです)。ともあれ、鉄板の上には3つの温度帯があることを意識して焼きましょう。 それではいよいよ焼き本番です。まずはサクッと一枚目を口にしたいので、サクッとした食感の薄切りタンからスタートします。
▲①薄切り牛タン ガス火×スリット入り鉄板は薄切り焼肉が大得意! 高温ゾーンで焼くことで、内部に火が通る前に、表面に香ばしい焼き目がつきます。 あとは裏側を一瞬炙れば、ベストコンディションに。
ネギみじんを巻いたり、ちょんとレモン汁(『焼肉 稲田』では塩ポン酢!)につけたりしてもこれまたうまい。ああ、やっぱり焼肉はタン塩から!
▲②厚切りタン・切り目入り さて続くは厚切りタン。近年の厚切りタンを出す店は、たいてい片面に切り目を入れています(※切り目が入っていない極厚タンの焼き方は、以前の記事「極厚の牛タンを完璧に焼き上げた幸せな焼肉」で説明しています……という告知を再掲)。 厚切りタンは、切り目を下側にして中温ゾーンへ。タンは表面に焼き色をがっちりつけて、香ばしさを立たせるのがポイントです。 通常のガスロースターだと高温ゾーンの炎が肉を直撃し、焼き加減がコントロールしにくくなりますが、このロースターはガス火の直上にカバーがついていて、しかも鉄板の"接肉面"が多い。肉の表面にしっかりと香ばしい焼き目がつきます。ざっくり言うと、おいしく仕上がりやすい。思わず「やるなあ」なんて、鉄板に上から目線の感想を漏らしてしまうあたり、まだまだ修行が足りません。そんなことを考えているうちに、切り目の入った面全体に焼き目がつくので裏返します。 逆側は、全体にほんの軽く焼き目がつく程度、タン特有の艶めかしい舌触りを残すくらいの加減で引き上げたいところ。表面の焼き目は十分なのに内部への加熱が足りなければ、左右の低温ゾーンの出番。端のほうでじんわり加熱して内部を温めましょう。
▲③厚切りハラミ もうひとつの塩味、厚切りハラミも厚切りタンと同様の焼き方で。どちらも独特の香りがあり、噛み締めたときの肉の繊維感が印象的なので、焼き方も自然と似通ってきます。 塩味の肉を「ガスロースター×鉄板」で焼くときには「薄切りは高温ゾーンで焼き目をつける」、「厚切りは中温ゾーンで薄切りより時間をかけて焼き目をつけ、低温ゾーンで内部を温める」と心得てください。 ちなみに同じ厚さのハラミでもタレ肉は、中温ゾーンで表面を焦がしすぎない程度に焼き目をつけたら、早めに低温ゾーンへと移動させましょう。 《まとめ》 ■薄切りタン 高温ゾーン(ガス火の直上)で、片面にしっかり焼き目をつけ、もう片面からは火を通しすぎないように焼く ■厚切りタン・切り目入り 先に切り目から焼く。中温ゾーンに置き、表面に焼き色をつける。表面の焼き目が先について芯まで熱が通っていない場合には、左右の端に置いてじんわり温める。 ■上ハラミ(塩) 厚切りタン同様、中温ゾーンで焼き目をつける。できれば両面ともに焼き目を入れたいが、中の状態も見ながら。

《タレ》④上カルビ、⑤並カルビ

さて次はいよいよタレ肉です。 ガスロースター&スリット入り鉄板が本領を発揮するのはタレ肉。肉の焼き目のおいしさは大きく2つ。肉自体に含まれるアミノ酸と糖によるメイラード反応(褐変反応)は肉好きにはおなじみでしょうが、実は焼肉のおいしさはタレの糖分のカラメル化との合わせ技による複雑な風味で成立しています。 つまり(赤身肉+甘辛いタレ)×きっちり加熱された鉄板は、条件としては最高においしくなり得る組み合わせ。少し厚い肉なら中温ゾーンで表面を焦がしすぎないように内部まで熱を加え、薄切り肉は高温×短時間で表面に焼き目をつける程度で引き上げる。この鉄則を守るだけで味わいは何倍にも膨らみます。
▲④上カルビ (タレ) 一般に「牛バラ肉」を使うことの多いカルビですが、実はどんな部位かという定義はありません。店、または「上」「並」などのグレードによって肉も違えばカットも変わり、もちろん焼き方は千変万化します。 『焼肉 稲田』の上カルビは一定の厚みと適度なサシが入っているので、中温ゾーンが正解。タレ肉は中温ゾーンでも油断すると焦げるリスクがあるので、焼き目を確認しながら左右の低温ゾーンでの加熱も視野に入れましょう。
▲⑤並カルビ(タレ) 逆に薄切りカルビは、まさしくガスロースター×鉄板の独壇場と言えるガス火焼肉の王道肉。中央の高温ゾーンで一気に焼き上げて、両面にメイラード反応×カラメル化が起きればできあがり。 炭火×網で薄切り肉を焼くと、表面に焼き色がつく前に内部まで火が入りすぎてしまいますが、ガスロースターと薄切りのタレカルビは最高の相性。甘辛いタレと香ばしい焼き目をライスにワンバウンドさせれば、歓声とともに黄金の中盤の完成です。さあ、ここから後半のホルモン5種盛り合わせへと進みましょう。 《まとめ》 ■上カルビ(タレ) 厚切りのタレ焼肉は中低温ゾーンで赤身にやさしく、脂身はきっちり焼き切る。 ■並カルビ(タレ) 薄切りのタレ焼肉は高温ゾーンで表面を一気に焼き、内部に火が入りすぎないうちに引き上げる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 閑話休題。 ちなみに随所で強調してきた「焼き目」のメイラード反応やカラメル化は、極端に進行すると苦みや雑味につながってしまうので、くれぐれもご注意を。 そしてタレ肉×鉄板の最大の悩みは鉄板上の焦げ。 『焼肉 稲田』のように頻繁に交換してくれる店ならいいのですが、タレ焼肉と言えば鉄板の焦げはつきもの。
ただし、鉄板の上に焦げがついたとき、良かれと思ってトングなどでゴシゴシこする光景をみかけますが、これはNG。こびりついた焦げは放置しておけばそれほどひどい悪さはしませんが、こそげ落とそうとすると細かい焦げが浮き上がり、肉につきやすくなってしまいます。くれぐれも焦げはいじらず、鉄板を交換してもらうようにしてください。

《ホルモン》⑥ミノサンド、⑦コリコリ、⑧コプチャン、⑨白センマイ、⑩レバー

さて後半戦のホルモンは、実はガスロースター×鉄板で焼くにはちょっとした技術が必要です。今回の味つけは味噌ダレという焦げやすい調味がしてあり、加えてホルモンは部位によって焼き方が変わります。味つけと素材という二重の難度の高さがありますが、基本を覚えれば恐るるに足りません。 まず大前提として、焦げやすい味噌ダレの肉は放置しないのが鉄則。常に焼き目の様子を窺いながら焦がさぬよう、肉に火を入れていきます。
▲⑥ミノサンド 牛の第一胃「ミノ」の最上部位。|ミノ|脂|ミノ|と脂をはさんだような肉質からミノサンドという名前がついています。特に味噌ダレは「表面が焦げる前に裏返す」を繰り返して、内側の脂までしっかり温めます。ミノは加熱しすぎると硬くなり、味噌ダレは気を抜くと一気に焦げるので、気を抜かずにジュワァッという食感にたどり着きたいところ!
▲⑦コリコリ 大動脈。強火で一気に炙り、表面に焼き目がつく程度に火を入れます。その名の通り、コリコリした食感の奥からほのかに漂う肉のいい香りをも楽しみましょう。
▲⑧コプチャン 小腸。ガスロースターの場合はグズグズ焼いていると皮目が香ばしくなる前に脂が大炎上してしまうことも。ここはひとつ思い切って皮目を強火にさらし、焼き目がついたところで脂の側を中温ゾーンに返し、中まで温めるという焼き方を試してみて。大切なのは目的であって、手口はいつもニュートラル、を心がけたいです!(自戒を込めて)
▲⑨白センマイ 灰色がかったセンマイを磨いた乳白色の白センマイ。灰黒色をした普通のセンマイより雑味が少なく、より透明感のある味わいを楽しめます。強火で両面を炙りつつ、焼き目にこだわることなく全体をほどよく温め、口に放り込みましょう。
▲⑩レバー 安全面を考えるとレアはもってのほかですが、食感や味から考えると焼きすぎのボソボソもNG。ミノサンドと同じように頻繁にひっくり返しながら「下の面を焦がさぬように焼きながら、上面を休ませつつじわじわと火を入れる」が王道でしょう。 《まとめ》 ■ミノサンド 特に味噌ダレは「表面が焦げる前に裏返す」を繰り返して、内側の脂までしっかり温める。 ■コリコリ 強火で両面に焼き目がつく程度に炙る。 ■コプチャン 思い切って皮目を強火にさらし、焼き目がついたら返しながら中温ゾーンに移動。中まで温める。 ■白センマイ 強火で両面を炙りつつ、焼き目にこだわることなく全体をほどよく温める。 ■レバー 頻繁にひっくり返し、下の面を焦がさぬように焼きながら、上面を休ませつつじわじわと火を入れる。

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