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きょうの作家さん
精細な筆致で描く花々や小紋で多くのファンを魅了する作陶家。夫であり作陶家の原 稔さんが器の成形、依子さんが絵付けを担当する。昭和44年 京都市生まれ。結婚、出産後に京都府立陶工高等技術専門校図案科で絵付けを学ぶ。平成21年 京都清水焼展 経済産業大臣賞受賞。
乙女心くすぐる原さんの器
チャーミングなモチーフが宝物のように散りばめられた、華やかな器で人気を集める作陶家・原 依子さん。精緻な絵付けで多くの器好きを魅了していますが、もともと絵を描くのは大の苦手で、作家になる未来をまったく考えていなかったんだとか。「絵を知らないところから始めたからこそ、今はのびのびと自由な発想で描けています」と、やわらかくほほえみます。
現代を代表する人気作家の生の声をお届けし、作品の魅力に迫る連載第3回。前編では、作陶の道を志したきっかけや、作品づくりにかける想いなど、原さんからいただいた貴重なコメントをご紹介します。
結婚、出産、そして子育てしながら器の学校へ。
ーーまずは、器づくりとの出会いから教えてください
「結婚前は、コンピュータの会社で事務の仕事をしていました。絵付けの道に進んだのは、結婚して、息子を産んでからなんです」
ーーお子さんを出産されてから作家さんになられたとは驚きです!器作りや絵付けには興味をお持ちだったんですか?
「それがまったくなんです。美術の成績もよくなくて、親からも『なんでこんな絵が下手なん』なんて言われてたくらいで(笑)。」
ーー依子さんの繊細な作品からは想像がつきません……!
「ふふふ、ありがとうございます(笑)。Instagramでも何度かお話ししたことがあるんですが、息子には重い自閉症と知的障害がありまして。集団の中での行動がむずかしいので幼稚園に入れず、先生がついてくださる保育園へ行くことになりました。
『それなら仕事を手伝ってほしいから学校へ行って』と夫に言われまして。夫は作陶家として、家業である『清和陶苑』で働いていたんです。そこから、京都府立陶工高等技術専門校に入学して、図案科で1年間勉強しました」
自分が絵を描く姿も想像できなかった。必死に修行した一年間
ーー学校での絵付けのお勉強はいかがでしたか?
「京都で絵付けを習いたい人、作家を志望する人が集まる学校で、強いコンプレックスを感じていました。私は筆を持ったことがありませんでしたし、つくりたいものもなかったんです。自分が絵を描く姿も想像できなかった。
自由課題に取り組むより前の、基礎の部分から遅れてしまうんですね。ダメダメでした。実習室横のグラウンドで泣いてたわぁ。『卒業したのにプロになれませんでした』では済みませんので、やらざるをえないと思って頑張りました」
ーーそんな苦しい時期を乗り越えて、賞を受賞されるほどの人気作家になられたんですね……
「苦手なことでしたけどね、やっている間に好きになるんです。道を選んでから進まなくても、選んだところが道になる。絵を知らないところからスタートしたから、『気になることはやってみたい!』と自由に描けている部分もあって。人って不思議なもんやなと思います」
描きたいものを描いている今。
ーー学校を卒業されてからは工房でお手伝いされていたんですか?
「はい、工房でつくっている春夏秋冬の茶道具に絵付けをしていました。もともと絵のない茶道具をつくっている工房だったんです」
ーーその頃は、今のように遊び心のあるモチーフではなく、伝統的な絵柄を?
「当時から自由に絵を入れていました。季節の花や金魚も入れていましたし、クリスマスの頃には、サンタクロースの服を描いてみたり。『ここにいはったよ〜』というかんじで(笑)。一年ほどたった頃、友達とグループ展を開いて、私名義の作品をはじめて並べました」
ーー自由な絵柄はその頃から生まれていたんですね!遊び心あふれるモチーフのインスピレーションはどんなところから受けることが多いんですか?
「自分では意識していないんですが、やりたいことをやっていたら今のモチーフが生まれていたかんじです。母が着物好きで、幼い頃から西陣織はよく目にしていたからか『着物っぽいですね』と言われることも多いです。
生活しているなかで『こんなん描きたいな、描けるかな』と思いついたものを描いています。絵付けを始めた頃から、うさぎのモチーフを描くのが好きで。目の前にうさぎがいても『さわりたい〜』となるわけではないんですが(笑)。金魚は、青い釉薬に合わせたらかわいいだろうな〜と思いついて。どちらも、今もよく描いているモチーフです。
器を手にしたときの『ここにもあった!』という楽しみをつくりたいなと思っています」
夫婦二人三脚の器づくりは「無茶振り」も大事なエッセンス
ーー公私ともに依子さんのパートナーでいらっしゃる稔さんについてうかがいたいと思います。依子さんの作品は、おふたりでつくられています
「はい、私が『こんな器つくってほしい』と頼んだら主人が成形してくれて、私が絵付けをして仕上げています。器の形と絵がピタリときて、お互いを引き立てあうような作品にしたいと思っています。
でも、たまに全部形が違うぐい呑を20個つくってくることもあって!形が違うってことは、絵のパターンも20通りに変えなきゃいけないんですよ?逆に私も『もっと丸くならないの?』『もっと大きいのつくって』なんて無茶振りし返したり(笑)。
お互い知らない分野だからこそ平気で無茶振りできるし、そこから生まれる新しいアイデアもあって。『こんなかわいいのつくってん』『依ちゃんよろこぶ器つくったわ』なんて、ケンカしててもプレゼント感覚でつくるので、ずるいですよね」
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