師匠であり、素直にアドバイスし合えるパートナー

ーーお互いの相乗効果も楽しみながらつくられているんですね!作品づくりについて、稔さんから受けた影響はありますか? 「まったく陶器を知らなかった私に、陶器のすべてを教えてくれたのは主人です。器づくりに対する想いやクオリティー、使う人の気持ちを考えながらつくる姿勢など、たくさんの影響を受けています。『ここちょっと気になるけど、次から気をつけて描けばいいか』と妥協しそうになるときも、主人に教えてもらったクオリティを思い出して、一箇所でも描き直しています。 描き込みが多いので、何度も焼き直すことも。例えば、うさぎを描くと、絵の具の白い粉が盛り上がって目が埋もれちゃうことがあるんですね。そんなときは盛り上がった部分を削って描き直しています。大きさ5mmの亀甲模様のなかに小さないちごをチョコンと描くのも同じく、失敗とやり直しの繰り返しで。 器を持って帰られたお客さんをガッカリさせないよう、一個ずつを丁寧に。完全なものを見ていただきたいと思っています」
▲透明感のある水色と繊細な貫入が美しい稔さんの代表作「シアン」シリーズは、依子さんの作品とも相性抜群
ーー稔さんは夫であり、師匠であり、ライバルでもあるんですね 「それがね、不思議なんですけど違うんです。お互い分野が違うからか、ライバルにはならないんですよ。 夫婦展で主人と私の器を並べると、私の器の方が早く売れる事が多かったり、インタビューなどで表に出る機会も私の方が多かったり。でも、主人はまったく気にしたり妬んだりしません。『ぼくももっと頑張らな!』と前向きで。「ぼくがつくった器やからな!」と、一緒によろこんでもくれます。 お互い素直にアドバイスし合って、聴き合っています。「いろんな人にキツう言われるより、私にバッサリ言われた方がいいでしょ」って(笑)。大切な人ですからね」

宇治炭山のパワーに刺激をもらって

ーーご夫婦で工房を構えられている京都・宇治炭山(すみやま)の魅力を教えてください 「京都のなかでも、自然が豊かなところです。炭山はパワーが感じられるので、『おじゃまします』なんて挨拶してから山に入っています。緑と風を感じながら仕事をできるのは幸せなことです。 工房の裏ではホタルや鹿も見られるんですよ。『こんなお花あるんや〜』と日々発見もあって。季節を感じて刺激をもらいながら、ゆったりした気持ちで作品と向き合えています」

元気がほしいときに使いたくなる器を

「自然体で、描きたいものを描くようにしています。『こんなん描きたいなー』と感じたものを。息子の世話で半介護状態なので、ほかの作家さんの展示会にもなかなか行けなくて。しんどいときもあるけど、そこから出てくるものを、自分のなかで生まれた刺激からつくろう、と。 以前来てくださったお客さんで『食の細いおばあちゃんも、このお茶碗ならいっぱいご飯を食べてくれそう』とお茶碗を買ってくれた方がいらっしゃいました。ちょっと落ち込んだときやしんどいときに『あの器でお茶を飲もう』と思い出す、そんな一場面に自分の器があったらうれしいです」
次週、原依子さんの後編記事では、代表作である「花小紋」「手毬シリーズ」「いっちん」の誕生秘話や、作品づくりの秘密、器の活用術をご紹介します!
文・構成/出口菜津実(macaroni編集部)

画像提供

※掲載情報は記事制作時点のもので、現在の情報と異なる場合があります。

編集部のおすすめ