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【連載小説】甘いクリスマスリースに微笑んで。第6話

7日連続でお届けするグルメ恋愛小説・第6話。仕事に没頭するあまり恋を後回しにしてきた咲子、28歳。入社以来ずっと仲良くしてきた同期の高志は、なんでも相談できる男友達だ。それ以上でも以下でもなく……そんな関係が、クリスマスを目前に動き出す。

クリスマス・イブの夜・・・

低い地鳴りと共に体が左右にゆらりと揺れた。

「地震だ!」

高志が叫ぶ。

「やばいっしょ!? デカイぞ! ほら、咲子外に出るぞ!」

「いやいや焦りすぎでしょ。そんなに揺れてないよ。震度1もあるかどうかだよ!?」

高志はお店の中でただひとり慌てふためき、必死に逃げようと鞄をつかんだ。いつも堂々として憎まれ口を叩く高志の意外な一面を見た。

「高志、落ち着いて! 大丈夫。全然揺れてないから。地震より高志の方が揺れてるって!」

――ドサドサッ!

ファスナーが開いたままの高志の鞄から、荷物が落ちて床に散らばった。

派手に散らばった資料に本の数々、ペンケースから溢れ出た文房具に財布、その隙間にキラキラ光るもの。
――ねえ、これは何?

「あっ、待て、それは……!」

高志が必死で手を伸ばそうともがいたが、私の方が早く、キラキラ光るプラチナの細い指輪を拾い上げていた。

ごつい営業用カバンに似合わないきらめき。

「ダイヤモンド……?」

近くに小さな白い革の小箱が開いたまま落ちていた。ダイヤモンドの指輪は、私の手のひらの上で、店内のまばゆい照明に反射して嬉しそうに輝いている。

「ああ、マジかっこ悪いわ。情けねぇ……。でもこうなったもんはもうしゃーない」

高志は吹っ切れたように私に近づき、ダイヤモンドの指輪を載せた左手を両手で強く握りしめた。
ゴツゴツした大きな手。重たい営業用カバンを毎日持っていて、指の付け根にはマメができている。こんなになるまで毎日頑張ってるなんて――。
「咲子がずっと俺のことを男として見ていないのは分かってた。でも、俺は内定式で初めて見た時から好きだったよ」

切れ長の力強い瞳で瞬きもせず、まっすぐ見据えられる。

突然の告白にびっくりして、鼻がピクピク動いた。

高志の強い意志を感じる瞳にプレッシャーを感じ、思わず目が泳ぐ。言葉を必死で探すが、ふさわしいフレーズが見つからない。

顔がどんどん真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
「――咲子、結婚しよう。」

え? 結婚!? まだ付き合ってもないのに……!!??

一瞬の間。

周りから拍手がポツリ、ポツリと湧き上がってきた。『ビストロ・レ・シュヴルイユ』には、今夜、あたたかい祝福の拍手が満ちている。

周りから暖かい空気が押し寄せて来るのを全身で感じる。

みんなの期待のこもった視線が私に突き刺さる。正直、体がちょっと痛い。

「ちょ、ちょっと待って。ちょっと、考えさせて! まだ……」

拍手がぴたりと止んだ。

周りの客は、不穏な空気を察してそれぞれの会話に戻り始めた。

「ありがとう。でも、ごめん。高志の気持ちは嬉しいよ。いつも沢山支えてくれてるし、感謝してる」

ゴクリと唾を飲む。

緊張する時にいつも、ウサギみたいに鼻がピクピクしてしまう。今はもう自分でも止められないくらい、ピクピク動いているのが分かった。

言葉を探しながら、話し始める。

「高志のことは、とても大切な人だと思っているよ。でも、今はまだ失恋したばかりだし、それに……私、入社して7年、高志と仲良くさせてもらって、高志のことを何でも知っている気になってた。
でも、私、まだまだ高志のこと、知らない。知らないことがいっぱいあるみたいなの。
だから、いきなり結婚とかそういうのは考えられなくて……ごめんなさい。嫌いじゃないんだけど、でも、突然すぎて……。一回頭を整理したいので、明日返事するから、ひと晩、考えさせてくれませんか」

高志は表情を変えないまま頷いた。

「分かった。待ってる」
転げ落ちた荷物が寒そうに床に散らばっている。

荷物を片づけて、席に戻って赤ワインを少し口に含む。ちょっぴり甘く、後味が苦い。

デザートにチョコレートのシフォンケーキが運ばれてきた。ジンジャー入りで甘すぎない大人の味だ。
こういう展開をどこか期待していたような、それでいて現実になると戸惑ってしまう。

今夜はいよいよ眠れない夜になる。
(続く)

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