連載

【連載小説】甘いクリスマスリースに微笑んで。最終話

7日連続でお届けしてきたグルメ恋愛小説・最終回。仕事に没頭するあまり恋を後回しにしてきた咲子、28歳。入社以来ずっと仲良くしてきた同期の高志は、なんでも相談できる男友達だ。それ以上でも以下でもなく……そんな関係が、クリスマスを目前に動き出す

そして今宵はクリスマス・・・

修羅場スポット、あるいは人気のデートスポットともいう。

都内屈指のイルミネーションスポットである恵比寿ガーデンプレイスには、これから命運の別れようとしている男女がたくさん歩いていた。
クリスマスの今宵、泣く人も笑う人もいつもと変わらない人も、みんなイルミネーションの奇跡を信じて恵比寿に集まっていた。

「お待たせ!」

高志はいつも通り陽気だったが、緊張しているのが分かった。

「今日は午後休、貰ったんだ。それにしても寒いなあ」

私服姿の高志は黒いロングコートにデニムを合わせていて、大人っぽく見える。昼間のスーツ姿とは違い、新鮮だった。

午後6時。辺りはすっかり真っ暗だ。

大きなシャンデリアのあるセンター広場まで、赤い絨毯と木々のオレンジ色のイルミネーションが導いてくれる。
恵比寿の駅ビルにある『アンティコ カフェ アルアビス』に寄って「ホットチョコラータ」をテイクアウトしてから、ガーデンプレイスのセンター広場にゆっくりと向かう。

冬になるとホットチョコレートやホットコーヒーなどあたたかい飲みものを飲むことは多いが、雪がちらつく寒さのなか、外で歩きながら飲む「ホットチョコラータ」はいつもよりも贅沢な気持ちにさせてくれる。

ひと口飲むだけで、全身にあたたかさが広がっていくのが分かる。
このぬくもりを抱いたまま、いまなら素直になれる気がした。
「ねえ、どうしてあの時、表参道で麻衣ちゃんと一緒にいたの?」

白い息と一緒に、今まで心に引っかかっていたものを吐き出す。長くなった前髪を触りながら、桃色のプリーツスカートの裾をととのえる。

少し前を歩いていた高志が、立ち止まって振り返った。キョトンとしている。

「咲子と仲が良いから相談に乗ってもらって、いろいろと協力してもらってたんだよ」

粉雪が鼻に落ちた。見上げれば、イルミネーションに照らされた粉雪が美しい。

「そう……。いいの? 麻衣ちゃんは高志のこと好きみたいだけど」

高志が突然、大声で笑いだした。

びっくりして恐る恐る見やると、照れくさそうに笑っている。

「ないない! だってあれ、ぜーんぶ俺が野宮さんに頼んで演じてもらってたんだから! 第三者から良い情報を聞くと印象上がるって何かで読んで。咲子に嫉妬してほしかったんだよ。それで前払いでスモアおごってたんだけどさ」

そうなの!? ……本当に、高志のことはまだまだ分からない。

最近高志の営業成績がグン伸びしている理由がなんとなく分かる気がした。

私はまんまと高志の営業戦略にやられてしまっていたみたいだ。悪くない。ただ、このタイミングで種明かしをするなんて詰めが甘い。
でも、そんな詰めが甘いところも嫌いじゃない。
センター広場中央の、バカラシャンデリアの前に着いた。
星空の天井から吊るされたようなシャンデリアはとても美しい。大きな眩いきらめきに照らされた高志の横顔を見ると、ほっとする。
なにも考えていないように見えて、高志は私のことを必死に考えてくれていたんだと思うと、急に胸がじんわり熱くなる。
出会ってから今まで、ずっと不思議に思っていた高志の行動が、ひとつずつ走馬灯のように思い出される。

内定式の後、本当は帰る方向が違うのに、同じ方向だと嘘をついて家の近くまで送ってくれたこと。

新入社員の時、人見知りでうまく周りと馴染めない私を、みんなが注目するまでいじり続けてくれたこと。

聞いても全然楽しくない愚痴を、私がすっきりするまで延々と黙って聞いてくれていたこと。

ほかにも、たくさん……。

今まで、口ではふざけてばかりだったけれど、高志の行動がすべてを物語っていることに、ようやく気がついた。

どうして私は、この人の深いあたたかさに守られていることに気づけなかったのだろう?
いつもみたいに、この気持ちを伝えないで後悔したくない。今、言わなくちゃ。
「私、高志のことは好き」

高志に向き合い、しっかりと目を見る。

「でも、まだまだ知らないところがいっぱいあるから、やっぱりすぐに結婚は考えられないの。でもね……好きだよ、とーっても」

寒さで鼻がピクピクしてきた。粉雪がたくさん舞い降りてきた。丸い頬が赤くなる。

「咲子、それって……つまり……」

高志は困惑していた。

「結局、どっちだ!? いいの? それともダメってこと?」

さっきまで陽気だった高志が、急にとても不安そうになった。

麻衣ちゃんに根回しをするなんていう小細工がちょっと悔しかったので、ちょっとくらい意地悪してもいいよね? 奥二重の目を精一杯見開き、高志を見上げる。

「さあ、どうなんでしょうねぇ?」

ぷいっと顔をそらして横目で様子を伺う。見なくても焦っているのが分かる。

ちょっとかわいそうになってきて、ファーのバッグから小包を取り出した。
「はい、これ! クリスマスプレゼント!」

ゆうべ渡し損ねた、手作りのチョコレートを飾ったクリスマスリース。

「おぉ! ありがとう。すごい! 手作り!? ……って俺のハンカチじゃねーか、これ! 忘れてた。……あれ? で咲子、結局、OKなの? ダメなの?」

知ーらない。正直私もまだ心が決まったわけじゃないんだよ。でもね、悪くないよ。

「これからもっと、かっこ悪いとこ見せて、ね? 昨日みたいに慌てたり、辛い時は素直に言って? そうしたら――総務部、春口咲子、前向きに検討させていただきます!」

右手を差し出しながら、思いっきり歯を見せてニンマリする。遠慮がちに握られた手がとてもあたたかい。

今宵の「ホットチョコラータ」の味は、この先きっと忘れないと思う。

メリー・クリスマス♡ 世界のみなさんの祝福を願って、ごきげんよう!
(終わり)

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