ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

英国の石畳から生まれた、ひとつの夢

Photo by macaroni

三重県松阪市の一角に、まるでヨーロッパの片田舎から切り取ってきたかのような建物が佇んでいる。初めて訪れる人の多くが、思わず足を止めてしまうというのも無理はない。ここが「アトリエビブリ」、ケーキ販売とランチカフェを融合させた、松阪では唯一無二の存在だ。

しかしこの店の誕生には、単なる飲食店開業とはまったく異なる深い背景がある。

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母体となるのは住宅建築会社のデプロホーム。代表の臺堂嘉久さんがこの事業を構想し始めたのは今からおよそ10年前のことだ。当時の日本では英国風のファンタジックな世界観が人々の心を強く掴んでいた時代だった。その潮流を敏感に察知した臺堂さんは、自社の住宅ブランドをモダンでスタイリッシュな路線から、本格的な輸入住宅へと大きく舵を切ることを決断する。

輸入住宅、とりわけ英国やヨーロッパのデザインを取り入れた住まいを提案するにあたって、内藤氏が直面したのは「どうやってその世界観を伝えるか」という課題だった。従来の住宅会社であればモデルハウスを建設するところだが、内藤氏が選んだのはまったく異なるアプローチだった。日常的に人々が集まる場所を作り、その建物そのものをブランドの体現として機能させる——つまり、カフェとケーキ屋を「生きたモデルハウス」として開くという発想だ。

「アトリエビブリ」という名前に込められた物語

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店名の由来を紐解くと、臺堂さんの知的な遊び心と深いリサーチ精神が見えてくる。「アトリエ」はフランス語で工房を意味し、職人的なものづくりへの敬意が込められている。そして「ビブリ」という言葉には、実に興味深い二重の物語が隠されている。

臺堂さんはネーミングを考える過程で、スタジオジブリの社名の由来を調べた。宮崎駿監督の飛行機愛から飛行機の名前を元にしようとしたが、アルファベット表記を読み間違えたことで「ジブリ」という名が生まれたという逸話を知る。その「意図せぬ読み替え」という発想に着目した臺堂さんは、建築会社のブランドコンセプトの原点である英国コッツウォルズ地方の村「バイブリー(Bibury)」に目を向けた。

コッツウォルズは中世から続く石積みの建物が今も現役で残る地域で、「世界で最も美しい村」とも称される場所だ。臺堂さんが描く輸入住宅の理想形がまさにそこにあった。バイブリーというその地名を、ジブリの逸話にならってアルファベット読みで「ビブリ」と読み替えることで、店名が完成した。実際、英国に縁のある来客がこの読み方に気づいて声をかけてくることもあるといい、その小さな発見が店と客の間に生まれる密かな共鳴となっている。

飲食未経験の建築会社が挑んだ、ゼロからの船出

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2016年のオープン当初、臺堂さんには飲食業経営の経験がまったくなかった。それでも事業設計は緻密だった。カフェ単体では収益化が難しいという判断のもと、ケーキ販売とランチを組み合わせた複合業態を最初から構想していた点が、他の建築系カフェとの決定的な違いだ。

全国的に見ると建築会社が飲食業に参入するケースは珍しくない。しかし臺堂さんによれば、その多くが「おしゃれなカフェは儲かる」という思い込みのもとに開業し、結果として失敗に終わっているのではと推察する。

ターゲット層の設定も明確だった。英国風の可愛らしいデザインの住宅を提案するには女性客の集客が不可欠であり、そのためにはカフェとスイーツという業態が最も親和性が高いと判断。建物のコンセプトが先にあり、そこから業態が逆算されるという、通常の飲食店開業とはまったく逆のプロセスがアトリエビブリの独自性を生み出した。

生き残ってきた背景には、感覚ではなく論理に基づいた業態設計があったのだ。

28種類のランチと、進化し続けるメニュー戦略

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オムライス&ハンバーグデミソース:1,450円
現在のアトリエビブリのランチメニューは28種類に上る。この背景には、現在のシェフの高いモチベーションと、臺堂さんが持つ「選択肢の多さが集客力に直結する」という確信がある。

洋食をテーマに据えたメニューの中心はオムライスとハンバーグで、パスタも根強い人気を誇る。今回はオムライス&ハンバーグ(デミソース)。濃厚なデミソースがオムライスにもハンバーグにもあい、スプーンが止まらなくなる。とろとろの卵とデミソースの相性も抜群であった。

季節ごとにパスタの具材を変え、グラタンやドリアを展開するなど顧客の好みを取り入れた工夫も怠らない。
特筆すべきはローストビーフで、開業当初から続くロングセラーだ。そのタレは和食の職人から譲り受けたレシピをベースにしており、洋食の見た目に和の風味が溶け込む独特の味わいが長年のファンを生んでいる。こうした「カフェランチ」という枠を超えた本格的な料理の充実が、来店客の意識を「カフェでご飯を食べる」から「洋食屋に来た」へと変えつつある。この認識の変化は、物価高の時代においてカフェ業態が直面する逆風を乗り越えるための、重要な戦略的転換でもある。

木曜・金曜日には、ランチにケーキとドリンクのセットを500円で提供するサービスを実施している。通常であれば1000円近くになる組み合わせを半額以下で楽しめるこの企画は、週の中で売上が落ちやすい曜日に「売れなければロスになるならば積極的に提供して来客を増やす方が合理的」という判断だ。

数打てばヒットする—小さな挑戦を数多く積み重ねる経営哲学

臺堂さんの経営スタイルを一言で表すなら、「小さく試して、素早く判断する」だ。今ある資源の中でできることを試し、数字が伴えば拡大し伴わなければ撤退する。このサイクルを高速で回すことが、飲食業の大倒産時代を生き抜く術だと臺堂さんは語る。

その好例が、最近始めたテイクアウト弁当だ。近隣の繁盛カフェが昼時に弁当を次々と売り切っている光景を目にした臺堂さんは、すぐに厨房スタッフに提案し、追加投資なしで弁当販売をスタートさせた。

また今年からは、金曜・土曜の夜限定で完全予約制のディナー営業も始めた。昼のランチメニュー28種類からメインを選び、前菜・ドリンク・デザートがセットで2500円という破格の設定だ。この価格は、まず夜の営業を知ってもらうための認知獲得フェーズと位置づけており、採算よりも認知を優先した戦略的な価格設定だ。

ケーキ屋の常識を覆す発想

アトリエビブリのもうひとつの大きな強みが、バースデーケーキのセミオーダーシステムだ。ベースとなるケーキが約50種類用意されており、そこにマカロン、プチシュー、チョコドリップ、生クリームデコレーションなど7種類のトッピングを自由に組み合わせることができる。その組み合わせは理論上、約1億通りにも上るという。

このシステムの発想の源は、カレーチェーンのトッピング戦略だ。定番のベースに多彩なトッピングを加えることで、顧客一人ひとりが自分だけの一品を作れる仕組みは、選ぶ楽しさと単価向上を同時に実現する。多くのケーキ屋がオーダーケーキを断る中、アトリエビブリはこれをシステム化して積極的に受け入れている。

地域に根ざし、全国から人を呼ぶ店へ

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アトリエビブリの客層は、松阪市内にとどまらない。東京からの訪問者がInstagramに投稿することも珍しくなく、SNSを通じた認知が着実に広がっている。客層も女性だけでなく、男性グループ、高校生、70〜80代のシニア層、週末にはバイカーまで多岐にわたる。

この多様性は、業態の複合性と直結しているといえよう。スイーツ目当ての客もいれば、本格洋食を求める客もいる。建物の雰囲気を楽しみたい客もいれば、誕生日ケーキを注文しに来る客もいる。それぞれの目的が異なる人々が同じ空間に集まることで、店は単なる飲食店を超えた「体験の場」として機能している。

建築会社が生んだカフェという出自は、今やアトリエビブリ最大の個性だ。建物そのものがブランドであり、食事がそのブランドを体験する手段であるという逆転の発想は、8年を経た今も色褪せることなく、松阪の街に独自の輝きを放ち続けている。数打てばヒットするという信念のもと、今日もまた新しい一手が静かに試されている。
アトリエビブリ
〒515-0045
三重県松阪市駅部田町1078−5
火曜日
10:00〜18:00
月曜日
定休日
火曜日
10:00〜18:00
水曜日
10:00〜18:00
木曜日
10:00〜18:00
金曜日
10:00〜18:00
土曜日
10:00〜18:00
日曜日
10:00〜18:00
開閉
0598-30-5400
席数
36席:(1F/6名掛け×1、4名掛け×4、2F-4名掛け×2、2名掛け×3)
イートインL.O.
17:00
定休日
月曜、第一・三火曜
最寄駅
松阪駅より車で15分
支払方法
クレジットカード、IC、paypay、QR決済可
平均予算
1,000〜2,000円
駐車場
店前18台
朝食
ランチ

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