ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

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松阪市中央町の幹線道路から一本裏側、静かな住宅街に佇む「ご飯とお酒とカフェ つちのと」。落ち着いた内装と、メインの他に小鉢が5種類もついてくる月替りランチ「つちのとランチ」が人気のお店だ。

2024年4月15日にオープンしたこの店は、単なる飲食店ではない。店長の濵田海美さん(33歳)が描く「人と人が繋がる場所」という理想が、ランチやカフェ、そして数々のイベントや活動を通じて形になっている。

今回はそんなお店にフォーカスを当てることにしよう。

美容師から飲食へ―転機となった子育て経験

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濵田さんのキャリアは意外な場所から始まった。美容専門学校を卒業後、美容師として働いていたが、辞めて飲食店でアルバイトを2〜3年経験し、その後結婚し退職した。出産を経て子育てに専念する日々。年子の2人の子どもを育てながら、保育園に入れる様になってからはカフェで働き始めたが、この子育て期間こそが、彼女の人生を大きく変える転機となった。

コロナ禍という未曾有の状況が、濵田さんの心に強い問題意識を芽生えさせた。マスク生活を強いられる子どもたち、中止される夏祭りやイベント、自粛ムードに包まれる日常。このままでは子どもたちがかわいそうだという思いが、彼女を行動へと駆り立てた。

夫で、「つちのと」のオーナーである健太郎さん(48歳)が経営する美容室のスペースを使い、地元の子どもたちを集めて小規模な夏祭りを開催したのだ。身内を中心としたささやかなイベントだったが、子どもたちの喜ぶ顔、そして自分自身が感じた充実感が、濵田さんの中で何かを変えた。

一方で濵田さん自身も、子育てをしながら知らず知らずのうちに自分の世界が狭まっていくことに不安を感じていた。家にいることが多くなり、人との繋がりが限定的になっていく感覚。子どもと一緒に楽しめることをしたいという思いとコロナ禍での経験が、その思いを具体的な形にする原動力となったのである。

「ママトコ」の誕生―3人の母親が描いた夢

2023年9月、大きな転機が訪れた。同級生である中川さやかさんとと一つ上の先輩であり、現松阪市議会議員でもある松原りほさんと集まったランチ会でのことだ。初めて3人で顔を合わせたこの日、話は驚くほど盛り上がった。子どもたちが土に触れる機会が少ないこと、遊びながら食育ができたら素敵だということ、なにより体験こそが子どもの成長に最も重要だということ。共通の思いを持つ3人は、その場で「ママトコ」という団体を結成することを決めた。

「地域を生かした子育て応援隊」をコンセプトに掲げた「ママトコ」の活動は、親子で参加できる農業体験から始まった。土作りから収穫までをひとまとめにしたプログラムは、子どもたちに貴重な経験を提供するだけでなく、母親たちにとっても新しい発見と喜びの場となった。メンバーの一人が実家の畑を提供し、濵田さんの夫の美容室に通うお客さんであった農家の小林宏基さんが先生として指導してくれることになった。人と人との繋がりが、新しい活動を生み出していったのだ。

活動は地域の方たちの協力もあり、マルシェの開催、石川県能登の復興支援イベント、夏祭りの企画という形で次第に広がりを見せた。活動を続けていくことで、地元企業との共催イベントの実施へと繋がっていく。2024年11月には、トラック会社のACTIVEと共に、60店舗を集めた大規模なイベントや、建設会社のともえ建設とのコラボ企画として重機ショーなど、子どもたちが喜ぶ企画を次々と形にしていった。

「つちのと」誕生の物語

かねてより、「もっと気軽に人が集まり、楽しめる空間を作りたい」という話を夫婦で話していたという。しかし、健太郎が営む美容室は、ふらっと気軽に立ち寄れる場所ではない。そんな中「ママトコ」の活動が軌道に乗り始めた頃、夫の健太郎さんが朝の散歩中に一つの物件を見つけた。「ここいいやん」という直感が、新しい挑戦の始まりだった。

濵田さん自身も、40歳くらいまでにカフェを開きたいという漠然とした夢を持っていた。そこに、学生時代からの夫の知人である栄養士の藤波みどりさんが加わることになる。飲食業界での経験が豊富な彼女の参加により、それぞれが異なる強みを持ち、異なる役割を担う理想的な布陣となったのだ。

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店名の「つちのと」は、四柱推命の言葉から取られている。作物が豊かに実る田や畑を表すこの言葉は、何もないところから土を作り、肥料を撒き、種を植え、作物を育て、やがて人々が集まって村になるという意味が込められている。「ママトコ」の活動理念とも重なるこのコンセプトは、店の在り方を明確に示すものとなった。

イベントコラボで広がる可能性

「つちのと」の特徴は、飲食店としての枠を超えた活動にある。2階にはレンタルスペースを設け、様々なイベントや集会に利用されている。店内の座敷を使い、ベビーマッサージ教室の後にランチを楽しむ企画、キャンドル作りワークショップとランチのセット、ヨガ教室とのコラボレーション。イベントで出会った講師たちとの繋がりが、新しい企画を生み出していくこともあるという。

人と人が繋がり、その繋がりがまた新しい繋がりを生む。濵田さんが理想としていたコミュニティの形が、確実に実現しつつある。「つちのと」での活動と「ママトコ」での活動が相互に影響し合い、より大きな渦となって広がっていく。挑戦するママたちを応援したい、輝けるママたちを増やしたいという思いが、具体的な形となって地域に根付いているのだ。

ランチタイムとカフェタイムのダブル営業

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つちのとランチ:1,485円
一番人気である「つちのとランチ」は月ごとにメニューが変わっていく。栄養士と2人で話し合いながら毎月のメニューを考案している。旬の食材や前月のメニューも考慮して、常連客に楽しんでもらえるよう中華や洋食などジャンルも入れ替えるという。見た目にもこだわり、目でも舌でも楽しめる、バランスのいいランチ定食を作るのには想いがなければ続かないだろう。

味わいは、メイン料理を支えるようにこすぎないようあっさり味。それぞれ味の系統を買えることで、ランチ一膳で五味を味わえるようにしているのだとか。

そのこだわりは料理ごとに盛り付ける器やその配置にまで及ぶ。つちのとを訪れたみんながランチを食べてワクワクを感じてほしい…濵田さんの「すべてがバランスよくあると見た感じすごい!ってなって気持ちいいじゃないですか!」という言葉にも現れている。

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まんぷくからあげセット(3個):495円
また、つちのとランチに追加できる「まんぷくからあげセット」も人気商品だ。東海地区で有名なブランド鶏「錦爽どり」を使用し、しっかりと漬け込みを行ったうえで揚げることでジューシーながらもしっかりとした味わいで食べ進めてしまう。ポイントは調味料の比率だが、使用しているものを含めて企業秘密とのことであった。

カフェタイムでも提供するコーヒーは松阪の老舗「ミンデン」のバター焙煎コーヒーを使用。地元の名店の味を提供することで、地域との繋がりをさらに深めている。テイクアウトにも対応しており、すべてのフードメニューとドリンクが持ち帰り可能だ。

多くのリピーターが支える店

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オープンから2年近くが経過し、「つちのと」は確実に地域に根付いている。赤ちゃんから高齢者まで客層は幅広く様々だが、特に40代から50代の女性客が多い。

特筆すべきはリピート率の高さだ。毎月メニューが変わることもあり、オープン当初から毎月通い続ける客も少なくない。親子で訪れる客も多く、シニア世代のケースも頻繁に見られる。「毎月の楽しみなんやわ」という言葉が、店の価値を物語っている。

カウンター席を設けたのは、一人でも気軽に来られる店にしたいという思いからだ。そのおかげか男性の一人客も時折見られ、性別や年齢を問わず誰もが居心地よく過ごせる空間が実現している。年配の顧客は特にリピート率が高く、優しい味付けと栄養バランスの良さが支持されている。

挑戦し続ける姿勢―成長する店を目指して

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濵田さんが店の運営で最も大切にしているのは、「成長し続ける店」であることだ。常に新しいことに挑戦し、経験を積み重ねていくことを重視している。新しいことをすることが成長に繋がり、その経験が店をより良いものにしていく。

客と一緒に何かを体験し、感じることを大切にする。ワークショップやヨガ教室などを通じて、客もまた新しい経験を得られる。その経験がステークホルダーの成長にも繋がり、店と客が共に成長していく関係性をより強固に築いていく。常により良い方向を目指す姿勢が、店の魅力を高めているのだ。

夜営業という新たな挑戦

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濵田さんには明確な目標がある。26年中に、金曜日と土曜日限定で夜営業を始めることだ。夜営業を始めることで、店名に恥じない、本当の意味でお酒も楽しめる店にしたいと考えている。

新しい客層との出会い、夜ならではの雰囲気の中での人と人との繋がり、そして店としての新しい可能性の探求。昼とは異なる時間帯に、異なる形でのコミュニティを作りたいという思いがある。挑戦し続けることで、店は常に進化していく。

「ママトコ」の活動も継続しそれぞれが持つリソースを活かしながら、共に新しい価値を創造していく。そんな関係性を、これからも築いていきたいと考えている。

出会いが人生を変える―つちのとが紡ぐ物語

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濵田さんは言う。「ちょっとした出会いが本当に人生を変える」と。彼女自身の人生が、まさにその証明だ。一つ一つの出会いが重なり、「つちのと」という場所が生まれた。

そして今、「つちのと」は新しい出会いの場となっている。挑戦する人の背中を押し、応援する。そんな場所であり続けたいという濵田さんの思いが、多くの人を惹きつけている。

「気楽に利用してほしい」と濵田さんは語る。お子様連れでも、一人でも、友達とでも。ゆっくりと店内で過ごし、つちのとランチを食べて、心も体も満たされてほしい。そんな願いが込められた店だ。

松阪の静かな住宅街で、小さな革命が起きている。それは派手なものではないが、確実に地域を変えつつある。飲食店という枠を超え、コミュニティの拠点として、人と人を繋ぐ場所として、「つちのと」は今日も多くの人を迎え入れている。

食事とカフェとお酒 つちのと PLACE TO EAT
〒515-0019
三重県松阪市中央町36−5
金曜日
11:00〜16:00
月曜日
11:00〜16:00
火曜日
11:00〜16:00
水曜日
11:00〜16:00
木曜日
11:00〜16:00
金曜日
11:00〜16:00
土曜日
11:00〜16:00
日曜日
定休日
開閉
0598-67-6029
席数
32席(カウンター×5、テーブル:4名掛け×1、3名掛け×3、2名掛け×3、座敷4×2)
L.O.
ランチ - 13:30、カフェ - 15:30
定休日
日曜/月曜不定休※詳細はInstagramまで
最寄駅
松阪駅より徒歩10分
支払方法
クレジットカード可
平均予算
1,000〜2,000円
駐車場
店前7台※駐車場が狭いのでお気をつけください
ランチ

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