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三重県松阪市。伊勢湾に面したこの地に、知る人ぞ知る割烹料理店が存在感を放っている。店の名は「味彩 とよまる」。外観の佇まいから高級店のようだが、一度暖簾をくぐればそこには気取りのない温かさと本物の食材が生み出す滋味深い料理が待っている。
大将の刀根豊之さん(54)。昭和の職人気質を体に刻みながら、時代の変化を柔軟に取り込んできた料理人の半生を辿る。
大将の刀根豊之さん(54)。昭和の職人気質を体に刻みながら、時代の変化を柔軟に取り込んできた料理人の半生を辿る。
猟師町の子供が包丁を握るまで
刀根さんが生まれ育ったのは松阪市猟師町。目の前に広がる伊勢湾では子供の頃からアサリやカニが豊富に取れ、釣り糸を垂らせば魚が次々と上がってきた。遊び場は海であり、野原だった。近所に生えるつくしを摘んでは友人たちと即席の料理を作り、釣り上げた魚を自分でさばく—そんな日常が、後の料理人としての感性を静かに育んでいた。
親戚が魚屋を営んでいたため、食卓には毎日のように魚料理が並んだ。しかし皮肉なことに、当時の豊之少年は魚が嫌いだったという。ハンバーグや洋食に憧れる普通の子供だったが、その一方で食材を手にして何かを作り出すことへの喜びは幼い頃から確かに芽生えていた。中学を卒業した刀根さんは、フリーターのような日々が続く中、17歳のとき、伊勢市内の調理師専門学校の門を叩いた。
親戚が魚屋を営んでいたため、食卓には毎日のように魚料理が並んだ。しかし皮肉なことに、当時の豊之少年は魚が嫌いだったという。ハンバーグや洋食に憧れる普通の子供だったが、その一方で食材を手にして何かを作り出すことへの喜びは幼い頃から確かに芽生えていた。中学を卒業した刀根さんは、フリーターのような日々が続く中、17歳のとき、伊勢市内の調理師専門学校の門を叩いた。
昭和の厨房で磨かれた技と精神
一年間の専門学校を修了した刀根さんが飛び込んだのは、津市にある料亭の世界だった。そこから、のべ約10年にわたる修業生活が始まる。その後、松阪の割烹料理店へと修業の場を移し、ここでも約5年間和食の技術を磨き続けた。料亭と割烹、それぞれの場で培った経験は、食材の目利き、季節感の表現、そして客をもてなす心構えまでを包括するものだった。30代半ばを迎えた頃、刀根さんはついに自らの城を持つ決意を固める。
郊外出店という選択
2007年頃、松阪市春日町に「味彩 とよまる」を開店した。物件との出会いは偶然だった。不動産屋を訪れた際にたまたま空き物件として紹介されたこの場所は、将来的に交通量が増えると見込まれていた。当時は駅前への集中よりも郊外への出店が注目されていた時代でもあり、その立地に可能性を感じた。
店名の「とよまる」は、自身の名前と、縁起を担ぐ「丸」を組み合わせたものだ。本来は「まるとよ」にするつもりだったが、知人の助言を受け現在の名前に落ち着いた。
店名の「とよまる」は、自身の名前と、縁起を担ぐ「丸」を組み合わせたものだ。本来は「まるとよ」にするつもりだったが、知人の助言を受け現在の名前に落ち着いた。
開店当初の主な客層は、近隣に工場を構えていた大手家電メーカーに勤める会社員たちだ。しかし時代の流れとともに客層は徐々に変化し、今では料理情報誌やSNSを通じて、奈良や名古屋さらには伊勢神宮参拝の途中に立ち寄る観光客まで、幅広い層が訪れるようになっている。
季節と素材が語る、割烹の食卓
味彩 とよまるの料理の根幹にあるのは、旬の食材への真摯な向き合い方だ。昼のメニューは竹籠弁当ととよまる御膳が中心で、その日に最も状態の良い魚介類を使った刺身、焼き物、煮物、小鉢などが丁寧に盛り付けられる。リーズナブルで女性客に人気の"竹籠弁当"に対し、ボリュームを重視した"とよまる御膳"は男性客に支持されている。
食材の仕入れは、近隣の長年付き合いのある地元の業者や市場を中心に行われている。春にはさっぱりとした初鰹、夏には湯引きにして食べる鱧、冬には河豚や鍋料理と、季節ごとに食材が移り変わる。特筆する点として、冬の人気メニューとしてモツ鍋が提供されている点だ。常連客の中には、各季節で「そろそろあの時期だな」と心待ちにしながら来店する人も多く、季節の巡りとともに店との関係が深まっていく。
月に数回訪れる常連客は、値段も品数もすべておまかせの、和・洋・中を織り交ぜた独自のコース料理を楽しみにしているという。彼は和食の枠にとらわれず、客のリクエストに応えながら洋食やイタリアンのエッセンスを取り入れることも厭わない。こうした柔軟さは、刀根さんの料理への向き合い方そのものを体現しているといえよう。
食材の仕入れは、近隣の長年付き合いのある地元の業者や市場を中心に行われている。春にはさっぱりとした初鰹、夏には湯引きにして食べる鱧、冬には河豚や鍋料理と、季節ごとに食材が移り変わる。特筆する点として、冬の人気メニューとしてモツ鍋が提供されている点だ。常連客の中には、各季節で「そろそろあの時期だな」と心待ちにしながら来店する人も多く、季節の巡りとともに店との関係が深まっていく。
月に数回訪れる常連客は、値段も品数もすべておまかせの、和・洋・中を織り交ぜた独自のコース料理を楽しみにしているという。彼は和食の枠にとらわれず、客のリクエストに応えながら洋食やイタリアンのエッセンスを取り入れることも厭わない。こうした柔軟さは、刀根さんの料理への向き合い方そのものを体現しているといえよう。
「高そうな店」という誤解と、本物の価値
味彩 とよまるを初めて訪れる客の多くが、外観を見て「敷居が高そう」と感じるという。落ち着いた佇まいが、無意識にそう感じさせるのかもしれない。しかし暖簾をくぐった客の反応は、ぼ例外なく「意外と高くない」というものだ。
そのため、若い世代の客も増えている。若い職人たちが親方に連れられて初めて来店し、その後は自分たちだけで再訪するというパターンもあるという。誕生日や記念日に彼女を連れてきた若いカップルが、料理の質と価格のバランスに驚いて常連になるケースも多い。食材の質と手間を知る人ほど、この店の価値を正当に評価する。
そのため、若い世代の客も増えている。若い職人たちが親方に連れられて初めて来店し、その後は自分たちだけで再訪するというパターンもあるという。誕生日や記念日に彼女を連れてきた若いカップルが、料理の質と価格のバランスに驚いて常連になるケースも多い。食材の質と手間を知る人ほど、この店の価値を正当に評価する。
息子たちが紡ぐ未来
刀根さんには二人の息子がいる。長男は大阪でも名の通った老舗料亭で8年間修業を積み、現在は北新地の寿司店で腕を磨いている。次男は、料理の鉄人でも知られる料理人を輩出した、神戸の老舗料亭で修業中だ。二人とも30歳前という若さで、それぞれ一流の現場で経験を積んでいるのだ。
二人は近々地元である松阪に戻り、自分たちの店を持ちたいという意向を持っているらしい。刀根さん自身もその日が来たら表舞台から退き、息子たちのサポートに回ることを考えているという。
大阪で修業する息子たちのもとへは、2ヶ月に一度ほど訪れる。その際にさまざまな飲食店を食べ歩き、息子たちとともに料理の研究を重ねる。会席料理を味わい一流の仕事を肌で感じさせることも、刀根さんなりの教育だ。
二人は近々地元である松阪に戻り、自分たちの店を持ちたいという意向を持っているらしい。刀根さん自身もその日が来たら表舞台から退き、息子たちのサポートに回ることを考えているという。
大阪で修業する息子たちのもとへは、2ヶ月に一度ほど訪れる。その際にさまざまな飲食店を食べ歩き、息子たちとともに料理の研究を重ねる。会席料理を味わい一流の仕事を肌で感じさせることも、刀根さんなりの教育だ。
海辺の割烹が伝えるもの
味彩 とよまるは、猟師町で育った少年が包丁一本で切り開いてきた、真摯な料理人の人生が凝縮されている。昭和の厨房で技を盗み、バブルの熱狂の中で自らの道を定め、「味彩 とよまる」をオープンし、家族を養いながら一歩一歩積み上げてきた19年間。
外から見れば「高そうな割烹」かもしれない。しかし暖簾をくぐれば、大将の「お客さんのリクエストに応えたい」という一言に集約された、飾らないもてなしの心がある。季節の食材が皿の上で語りかけ、常連客との長年の信頼関係が店の空気を温める。
次の世代へとバトンを渡す日を静かに見据えながら、今日も刀根豊之さんは厨房に立つ。伊勢湾の恵みを皿に乗せながら、この海辺の割烹はこれからも訪れる人々に本物の味を届け続けるのだろう。
とよまる
〒515-0078
三重県松阪市春日町3丁目176−9
木曜日
11:30〜14:00
18:00〜22:00
月曜日
11:30〜14:00
18:00〜22:00
火曜日
11:30〜14:00
18:00〜22:00
水曜日
11:30〜14:00
18:00〜22:00
木曜日
11:30〜14:00
18:00〜22:00
金曜日
11:30〜14:00
18:00〜22:00
土曜日
11:30〜14:00
18:00〜22:00
日曜日
定休日
席数
38席(カウンター×6、座敷:4名掛け×3、5名掛け×4※最大約20名)
L.O.
ランチ:13:30、ディナー:21:30
定休日
日曜、 第4月曜、 その他※詳細はInstagramにて
最寄駅
松阪駅より車で10分
支払方法
現金のみ
平均予算
昼:1,300〜2,000円、夜:3,300円〜
駐車場
店前10台※隣接店と共用
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※記事の内容は、公開時点の情報です。記事公開後、メニュー内容や価格、店舗情報に変更がある場合があります。来店の際は、事前に店舗にご確認いただくようお願いします。
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