ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

Photo by macaroni

三重県松阪市の住宅街に、一風変わった飲食店が存在する。一つの建物に焼肉店と寿司店が共存するという、他に類を見ない形態の店舗だ。カルビ屋大福と富田屋。この二つの店は、家族経営という絆で結ばれながら、それぞれの個性を放つ。「カルビ屋 大福。」を切り盛りする富田高利さん(42歳)の語る店の歴史には、地域に根ざした飲食店の在り方と変化する時代への対応が凝縮されている。

四代続く寿司屋の系譜と新たな挑戦

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富田屋の歴史は、松阪市駅前の小さな寿司屋から始まった。高利さんの曾祖母が松阪駅前で創業し、祖父である勝治さんが松阪市本町に2号店を出店、現在の場所松阪市曽原町に移転することで店舗を拡大し、その後父の忠司さん(69歳)が三代目として店を継ぐことになる。忠司さんは若き日に名古屋の大型寿司店で修行を積み、そこで目にした光景が彼の店づくりに大きな影響を与えた。カウンターに何人もの板前が並び、一日に何百人もの客が訪れる活気ある店。その経験が、松阪では珍しい大型寿司店を作るという決断につながった。

現在の焼肉店と寿司店の複合店舗形態になる前、富田屋は約100席を擁する大型店舗として営業していた。当時、県内でこれほどの規模を持つ寿司屋は他になかったという。地域の人々の特別な日を彩る場所として親しまれていたが、時代の流れとともに徐々に店の在り方も変化を求められることになっていく。

2000年代初頭、東京のコンサルタント会社との縁から、富田屋は新たな事業展開を決断する。それが焼肉店「カルビ屋 大福。」のFC出店だった。当時大学生だった高利さんはアルバイトリーダーとして店のオープンに関わることになる。父の忠司さんとともに滋賀県の店舗を視察しこの事業の可能性を感じ取った。大学2年生の夏、本部での研修を経て「カルビ屋 大福。 松阪店」がオープンすることとなる。

若き店長の試練と成長

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その後バイトリーダーとして店の運営に携わっていたが高利さんだが、大学卒業を控えたタイミングに待っていたのは予想外の事態だった。オープン当初は社員が店長や料理長として配置されていたがわずか2年で全員が退職。店には大学生の高利さん以外はアルバイトしか残っていなかった。そのため、22歳という若さで店長という重責を担うことになったのだ。

当初は人間関係の問題や運営の課題に直面した。しかし、店の雰囲気を一新、オペレーションを改善し、スタッフとの信頼関係を築いていった。その努力は数字となって表れる。店長就任から1年後、店は過去最高売上を記録し、本部から前年比売上増加率第1位の店舗として表彰。この経験が彼の経営者としての自信となった。

その後の20年間、高利さんは様々な困難に直面する。最も大きな課題は人材の確保と育成だった。従業員が少ない中で、いかに質の高いサービスを提供するか。しかし、振り返れば、それらの経験すべてが今の自分を形作っている。当時は大変だったことも、今なら乗り越えられる。そう語る彼の表情には、確かな自信が宿っていた。

コロナ禍が促した大胆な決断

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2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、飲食業界に未曾有の危機をもたらした。営業時間の制限、客足の減少。協力金によって何とか持ちこたえたものの、高利さんと忠司さんは、コロナ後の未来について真剣に話し合った。

以前の大福の店舗は賃貸だった。そこで浮上したのが、富田屋の店舗を改装し、二つの店を一つの建物で営業するという案だった。忠司さんも年齢を重ね、富田屋で100席近い客数を捌くことは難しくなっていた。スペースを有効活用し、二つの業態で異なる客層を取り込む。この発想は、リスクを分散しながら相乗効果を生む可能性を秘めていた。

2022年2月、節分を最後に両店は一時休業に入る。3ヶ月間の改装期間を経て、4月末に新しい形態での営業を開始。二人はこの決断が未来への投資だと信じていた。このタイミングで以前の店舗で実施していた食べ放題を辞め、彼が目指していた、「質の高い肉を適正価格で提供する店」という理想の形に変更することにしたのだった。

焼肉と寿司、どちらでも選べる豊富なランチメニュー

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大福では、富田屋のセットメニューやお寿司も注文することができる。そのため、焼肉と寿司それぞれ注文し楽しむ客なども訪れることも多いという。がっつりとあっさり、どちらも一度に楽しむことができるのがこちらの店舗の魅力と言えるだろう。

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ランチメニューもしっかり充実。カルビランチは、120グラムの肉にご飯、スープ、サラダがついて手頃な価格。使用している肉は夜のメニューと同じ質のものだ。この姿勢が、ランチ客のリピートにつながっている。

他にも極上の上タン塩も楽しむことができる「特選ランチ3種盛り」。タン元の中心部分だけを使い、厚めに切って飾り包丁を入れる。ほかにも和牛カルビと本日の特選部位がつき、3,080円(税込)のランチである。単品メニューでそれぞれ1500円以上のお肉が入っているセットで原価的にもかなりのものになるが、知る人ぞ知る逸品として、常連客に愛されているためこのメニューを続けている。

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富田屋では寿司の盛り合わせだけでなく、御膳スタイルも充実している。その中でも「とみた」御膳は汁物や天ぷら、煮物、小鉢、茶碗蒸しがセットになったお値打ちなセットメニューだ。様々な料理を楽しむことができ、大満足の一品である。

以前は寿司盛り合わせのみであったが、店舗を改装するにあたり顧客層の拡大を目指し今のようなスタイルになったという。

地元との絆が生む独自の仕入れルート

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大福はFCでありながら、その実態は個人店に近い。本部との関係は緩やかで、メニューや価格設定、仕入れ先の選択に大きな自由度がある。この自由度を最大限に活用し、独自の仕入れルートを構築してきた。

仕入れの7割以上は地元業者からだ。対面での取引だからこそ、持ちつ持たれつの関係を20年の歳月をかけて築いてきた。それは松阪という土地柄、松阪牛の仕入れにも有利となる。輸送コストがかからない分、本部が指定する埼玉の業者から仕入れるよりも新鮮な状態で入手できる上、地元業者は客としても来店してくれる。ビジネスを超えた人間関係が、店の経営を支えている。富田屋の仕入れは忠司さんの担当。毎朝市場に行き、新鮮な魚を仕入れている。

本部から仕入れるのは一部の商品のみ。この柔軟性こそが、大福の特徴だ。

肉も鮮度が命という哲学

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高利さんのこだわりの核心にあるのは、肉も鮮度が重要だという信念だ。一時期、世間では熟成肉がブームとなった。実際に提供している店で熟成肉を食べて自分の考えを確信した。

この信念は、タンの仕入れ方に表れている。仕入れるタンは屠殺されてから一度も冷凍されていないチルド状態で、アメリカから届く。これを店で丁寧に皮を剥き、提供するのだ。ジューシーさが失われず、肉本来の味わいが楽しむことができる。

二つの店が生み出す新しい可能性

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富田屋と大福が一つの建物で営業するようになって3年。この形態は、予想以上の相乗効果を生んでいる。焼肉を食べながら寿司を注文する客、寿司を食べに来た祖父母が孫を連れて焼肉店に来る家族など、二つの店の存在が客の選択肢を広げている。

しかし、高利さんの構想はさらに先を見ている。焼肉店で季節の刺身を提供したい。父の忠司さんは毎朝市場に行き、新鮮な魚を仕入れている。そのルートを活かせば、焼肉店でも質の高い海鮮を提供できる。焼肉を食べる客は、脂の重さを感じると刺身を欲しがる。そのニーズに応えられる環境が、すでに整っているのだ。

海鮮焼きを提供することも考えている。日本酒を飲みながら、焼いた牡蠣をや肉をつまみ、合間に寿司を食べる。そんな楽しみ方ができる店は、松阪には他にない。四代にわたる寿司屋の伝統と、20年の焼肉店の経験が融合した、新しい形の店。それは、地域に根ざした飲食店の未来の姿を示すものになるだろう。

地域とともに歩む店の未来

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高利さんが目指すのは、地域の人々が特別な日だけでなく、日常的に気軽に立ち寄れる店だ。そのためには、高すぎず、かといって質を落とさず、居心地の良い空間を提供する。この難しいバランスを、彼は20年の経験で体得してきた。

松阪市という地域で、家族経営の店が生き残るのは容易ではない。しかし、富田屋と大福は、地域との絆、質へのこだわり、そして柔軟な発想で、これらの課題に立ち向かっている。

高利さんは語る。一度来ていただければ、美味しさは約束します。この言葉には、20年間積み重ねてきた自信と、地域への愛情が込められている。富田屋と大福。二つの店が織りなす物語は、これからも続いていく。

カルビ屋大福
〒515-2112
三重県松阪市曽原町308−1
木曜日
11:00〜15:00
17:00〜22:00
月曜日
定休日
火曜日
11:00〜15:00
17:00〜22:00
水曜日
11:00〜15:00
17:00〜22:00
木曜日
11:00〜15:00
17:00〜22:00
金曜日
11:00〜15:00
17:00〜22:00
土曜日
11:00〜15:00
17:00〜22:00
日曜日
11:00〜15:00
17:00〜22:00
開閉
0598-56-9775
席数
74席(6名掛けテーブル×4、6名掛け座敷×3、4名掛けテーブル×8)
L.O.
ランチ:14時、ディナー:21時
定休日
最寄駅
六軒駅から車で5分、松阪駅から車で20分
支払方法
クレジットカード、QRコード決済可
平均予算
ランチ:〜2,000円、ディナー:5〜8,000円
駐車場
店前18台※富田屋と共用
ランチ
ディナー
鮨処 富田屋
〒515-2112
三重県松阪市曽原町308−1
木曜日
定休日
月曜日
11:00〜13:30
17:00〜20:30
火曜日
11:00〜13:30
17:00〜20:30
水曜日
11:00〜13:30
木曜日
定休日
金曜日
11:00〜13:30
17:00〜20:30
土曜日
11:00〜13:30
17:00〜20:30
日曜日
11:00〜13:30
17:00〜20:30
開閉
0598-56-3081
席数
17席(カウンター×5、4名掛けテーブル×3)
L.O.
ランチ:13時半、ディナー:19時
定休日
水曜夜、木曜
最寄駅
六軒駅から車で5分、松阪駅から車で20分
支払方法
クレジットカード、QRコード決済可
平均予算
ランチ:〜2,000円、ディナー:3〜5,000円
駐車場
店前18台※大福と共用
ランチ
ディナー

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