ライター : macaroni 編集部 倉持

トレンド担当ディレクター

広島県・江田島で育まれる。オリーブオイルの物語

広島県の江田島(えたじま)。瀬戸内海に浮かぶこの島で、オリーブが栽培されていることを知っていますか。

きっかけは2011年。人口減少や耕作放棄地の増加という地域課題に直面した江田島市が、新しい産業を育てるべく、オリーブ栽培に乗り出しました。温暖で雨が少なく、日照時間の長いこの島の気候は、オリーブに合っていたのです。

平和の木が根づく島から世界へ。「瀬戸内いとなみ舎」のオリーブオイル

「瀬戸内いとなみ舎」代表 峰尾 亮平さん
江田島のオリーブ栽培を牽引するのが「瀬戸内いとなみ舎」。代表の峰尾さんは、神奈川県から移住し、地域おこし協力隊を経てオリーブ農園を立ち上げました。
いまでは市内に1万7千本もの苗木が植えられ、市民とともに育てた実から搾られるオイルは、世界的なコンペティションで金賞を受賞するまでに成長しています。
瀬戸内の気候は、オリーブにとって理想的。雨が少なく日差しは豊かで、海からの風がやさしく吹き抜けます。

農園を歩くと、葉の先がハート型に見える木を見つけることも。四つ葉のクローバーを探すように、訪れた人は夢中になります。国連旗にも描かれるオリーブは「平和の木」。江田島の畑に立つと、その象徴が確かに日常に息づいているのを感じます。

黄金色のしずくを味わう。オリーブオイルの食べ比べ

農園の一角にある施設で、オリーブオイルを食べ比べさせてもらいました。試食用のカップに垂らされた黄金色は、光を受けて透きとおるよう。

今回の試飲会では3種類のオリーブオイルが用意され、まずはブラインドで飲み比べました。ひとつは市販のオイルであることが後から明かされ、参加者からは驚きの声も。
「瀬戸内いとなみ舎」のオリーブオイルは個性が際立ちます。筆者が試食したうちのひとつは青りんごやハーブを思わせるフレッシュな香りが広がり、口に含むと辛みと清涼感がすっと抜けていくタイプ。

もうひとつは熟したアーモンドやバナナを連想させるまろやかさで、余韻にほんのり甘さが残りました。

オリーブオイルを口に運ぶたび、島の風や土の匂いまでも一緒に味わっているよう。
市販のオリーブオイルも十分おいしいものの、香りが強すぎて食材の風味を覆ってしまう印象があり、改めて違いを実感。「いとなみ舎」のオリーブオイルは、素材の持ち味を引き立てながら本来の風味を伝えてくれる——そんな魅力を体感できました。
「同じ畑でも年ごとに味が変わるんです。その変化こそが、江田島の自然をそのまま映した証なんですよ」と峰尾さん。

峰尾さんがオリーブオイルの世界にさらに魅了されたきっかけは、地域おこし協力隊時代に訪れた南イタリアの農園だったといいます。現地で初めて味わった搾りたてのオイルの鮮烈な香りが忘れられず、以来その魅力を追いかけ続けてきたのだそう。

料理の味を引き立てる最適な一滴を探す日々は現在も続き、収穫時期や品種を工夫しながら「いとなみ舎」では毎年味と香りのことなる3種類のオイルを製造されています。

まさかの食べ方も。たった数滴で食材の味が引き立つ

「いとなみ舎」のオリーブオイルの魅力は、ただの調味料ではなく、“味を育てる存在”として楽しめること。数滴加えるだけで食材のコクと旨みを底上げし、ぐっと奥行きを与えてくれます。
実際に試して驚かされたのが、しょうゆとの組み合わせ。ほんの数滴垂らすだけで塩気の角がすっと和らぎ、代わりにまろやかさが広がります。

そのうえで、オリーブオイル特有のほのかな苦みやピリッとした辛みがしょうゆの旨みに重なり、驚くほど立体的な味わいに。
シンプルに豆腐につけてみると、和の要素と洋のニュアンスが混ざり、境界のない “新しい調味料” の可能性を感じさせるひと口でした。

オリーブのプロが教える。おすすめの使い方

「私たちは、和食や毎日炊くごはんに合うようにオリーブオイルを工夫しています」と話す、峰尾さん。甘みのあるタイプから中くらい、そしてしっかり苦味のあるものまで、3種類をそろえているといいます。

苦い食材×苦いオイルでコクに変化

Photo by macaroni

たとえばアスパラガスなど少し苦みのある焼き野菜には、「苦い食材にはあえて苦いオイルをかけると、コクに変わるんですよ」と話します。パスタのように味の濃い料理には、ミディアムやストロングを合わせるのがおすすめなのだそう。
※掲載情報は記事制作時点のもので、現在の情報と異なる場合があります。

編集部のおすすめ