ライター : macaroni松阪特派員 たけ

松阪市 地方活性化企業人

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手料理に込めた想い。松阪市の人気店「まっちゃ好好亭」

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松阪から伊勢へと抜ける道が続く途中に店を構える「まっちゃ好好亭」は、地元で長く親しまれてきたラーメン店である。修行をしていた店は元々、松阪から奈良へと抜ける松阪の端、飯南・飯高地域にあった。昼は素材を活かしたランチセット、夜はゆったりとラーメンを楽しむ人々で賑わう人気店だ。

店主の森田識(さとる)さんは、調理に真摯に向き合う職人肌の料理人。地域に根ざした温かな店づくりを続けている。そんな森田さんに今日は話を伺った。

ルーツにある「好好(ハオハオ)」の名。親族とのつながりから始まった料理人の道

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森田さんの経歴は、まさに飲食一筋だ。高校卒業後に短大へ進学するも中退し、焼肉店でのアルバイトをきっかけに飲食の世界へ。途中、薬工場で1年間勤務や、建築資材の営業職を3年経験したのち、再び飲食業界へと戻る。

森田さんが飲食の世界に入るきっかけとなったのは、親族が営んでいた「まっちゃ亭」だった。
「まっちゃ亭は親戚のおじさんがやっていたお店なんです。もともと親父も中華料理屋をしていて、店名が“好好(ハオハオ)”というんですよ」と森田さんは語る。

幼少期から飲食業が身近にあり、「いつか自分も店を持ちたい」という気持ちは漠然と抱いていたという。
父の他界により直接教わることは叶わなかったが、「せっかくなら親戚のおじさんに教えてもらおう」と思い立ち、「まっちゃ亭」で本格的に修行を始めた。

駅裏の串カツ屋で培った“人との距離感”

一方で、かつて松阪駅裏にあった串カツ店「串かつ36」でも経験を積んだ。そのきっかけは、学生時代にアルバイトしていたラーメン店の社長が、偶然その串カツ屋を経営していたことだったという。

「あそこで接客の経験ができて良かった。人と話すのは得意じゃなかったけど、酔ったお客さんから人生の話を聞いたり、常連さんとの距離感を学べたのは今に生きてますね」と振り返る。

昼は食堂、夜は串カツ屋。二つの厨房を駆け抜けた修行時代

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松阪駅裏にある「串36」で修業を重ねながら、飯高町の「まっちゃ亭」でも働くという二重生活。「ほぼ寝る時間がなかったですね」と森田さんは当時を振り返る。

朝6時からまっちゃ亭で仕込みを始め、昼からは移動し串36で仕込みと調理。夜は0時を過ぎても片付けと掃除。その後まっちゃ亭に戻り、店舗2階でやっと仮眠ができる。2店舗は松阪を横断する形で位置しており、距離は車で約1時間、たどり着くのは深夜2時過ぎという過酷な日々だった。

「若かったからできたこと。今なら絶対に無理ですね」と笑うが、その下積みが現在の味と姿勢の礎となっている。

修業先との縁と、仙台への同行

「まっちゃ亭」の本店が仙台へ移転する際、森田さんも同行した。仙台での修業を経て再び松阪に戻り、2014年に自身の店「まっちゃ好好亭」をオープン。現在で創業11年を迎える。「当時29歳になる年でした。がむしゃらでしたね」と語るその表情には、苦労の中にも誇りがにじむ。

店舗選びは“勢い”で。勢いで始まった「まっちゃ好好亭」

まっちゃ好好亭を開店したのは2014年7月19日、場所は松阪駅から車で15分ほどの下村町。「仙台から帰って3〜4ヶ月でオープンしました。お店もそこが空いていて、席数や店内の感じが良かったからなんとなくです。3月に帰ってきて、7月にはもう営業してましたね。ほとんど準備期間はなかったです」と森田さんは振り返る。

フライヤーが動かない!? 忘れられないオープン初日のハプニング

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急ピッチで開店準備を進めた分、オープン当初はトラブルも多かった。「一番びっくりしたのは、初日の一番最初のお客さんの時に、フライヤーの電源を入れ忘れたこと。鶏肉入れても全然揚がらんくて、“あれ!?”って。あれは焦りましたね」と森田さん。

そんなハプニングも今では笑い話だが、当時は毎日が試行錯誤の連続だったという。
「とにかくやりながら覚えていく感じ。従業員として働くのと、自分で店を動かすのは全然違いますね」と語る。未経験の経営に戸惑いながらも、ひたむきに一歩ずつ積み上げていった。

コロナ禍直前の決断。止まれないまま始まった新店舗づくり

下村町で6年営業したのち、まっちゃ好好亭は現在の店舗へと移転した。新しい店舗の検討を始めたのは、2019年末ごろ。「長く家賃を払い続けていたこともあって、思い切って購入しようと。」と森田さん。だがその直後、新型コロナウイルスの流行が始まった。

建設が進む中、2020年4月には最初の緊急事態宣言が発令。「契約したのが2019年末〜2020年ぐらい。ちょうど建て始めた頃に“あ、やばい”って思ったけど、もう止めらんかったですね」と森田さんは苦笑する。その言葉の裏には“自分の手で店をつくる”という信念が感じられる。

コロナ禍の真っ只中で迎えた新しいスタート

新店舗のオープン日は、2020年7月19日。前の店舗と同じ日に合わせた。しかしそのタイミングは、まさにコロナ禍のど真ん中。

「オープン景気はちょこっとありましたけど、“こんなに人って動かんの!?”って思いましたね。あんなの初めてでした。どうする?って話もしたけど、結局“もうしょうがないな”って。やるしかないんですよね」と振り返る森田さんの言葉には、当時の静かな覚悟が滲む。

補助金やコロナ融資を活用しながらなんとか踏ん張り、少しずつ営業を続けた。

「お客さんが増えだしたのは2年前のゴールデンウィークくらいかな。今年(2025年)のお盆は特に忙しかった。“すげぇ、昔みたいだな”って思いましたね」と森田さん。

長引くコロナ禍の中、再びに客足とぎわいが戻りつつある店内には、常連客と新しいお客が混ざり合う。少しずつ、しかし確実に地域の日常が戻ってきている。

三世代で楽しめるラーメン店。女性客や年配層にも愛される理由

現在のまっちゃ好好亭には、幅広い世代のお客が訪れる。
「うちは多分“三世代で来てもらえる店”なんです。おじいちゃん/おばあちゃん・娘/息子・孫って感じで。普段はご夫婦で来てくれて、お盆や正月には娘さんや孫さんを連れてきてくれる」と森田さん。

特に年配客が多いのが特徴で、平日の11時台はシルバー世代で満席になることも少なくない。「病院帰りに寄ってくれる方も多いですね。飯高の方から市内の病院に来て、その帰りに寄ってくれるとか」と話す。

女性ひとりで訪れるお客も多く、ラーメン店にありがちな“入りにくさ”がないのも魅力だ。「うちのラーメンはそんなにコテコテしてないし、外観もラーメン屋っぽくない。だからスッと入れるのかもしれないですね」と森田さん。

店づくりから味づくりまで、“誰もが安心して立ち寄れる空気”が、まっちゃ好好亭の最大の強みである。

人気No.1はやはり「まっちゃラーメン」

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まっちゃ好好亭の看板メニューは、創業当初から続く「まっちゃラーメン」。森田さんが修行先で学んだというこの一杯は、醤油ベースにピリッとした辛味を加えたクセになる味わいだ。「コンスタントに出るのはまっちゃラーメンが一番ですね。半分以上の注文がこれです」と森田さんは語る。中には「これしか食べない」という常連客も多いという。

最大の特徴は、青森県産のにんにくを使用していること。
「青森のにんにくを使うと、ホクホク感が全然違うんです。香りも味も丸く仕上がる。これがこだわりですね」と語る森田さん。その一言からも、素材の選定に妥協しない職人気質がうかがえる。

提供されてまず感じたのは「すごいにんにく入ってるな…」。丸々とした大きなにんにくがゴロゴロ入っている、かなりのパンチのラーメンでにんにくを具材として楽しむタイプである。スープもしっかりとした辛味があり、ご飯と合わせても◎
なるほど、松阪シニア世代の元気の源はまっちゃラーメンだったのか…

幻の父の味を再現―“好好ラーメン”誕生の裏側

もう一つの人気メニューが「好好(ハオハオ)ラーメン」だ。
これは森田さんの父がかつて作っていたラーメンを、記憶と伝聞を頼りに再現した一杯である。
「僕が小さい時に店を閉めていたので、父の味を食べたことがなくて。昔からの常連さんに“こんなんやったかな”って聞きながら作った感じなんです」と話す。

完成した瞬間の感想を聞くと、「これなんや、って感じでしたね。食べたことがないから(笑)」と笑う。
まっちゃラーメンが“自分の原点”なら、ハオハオラーメンは“家族の記憶”を繋ぐ一杯なのだ。

常連のリクエストで復活した「まっちゃの三本柱」

「前の店でやっとったけど、ずっとやってなかったメニューがあるんです」と森田さんは語る。
長年の常連客から「復活してほしい」と強い要望が寄せられ、再登場を果たしたメニューが3つある。
それが、「和っちゃラーメン」「スタミナラーメン」「ネギラーメン」だ。

「これはかなりいろんなお客さんに言われましたね。『あれ、ないの?』って聞かれることが多くて。オープンしたての頃は断ってたんですけど、そんなに言ってもらえるなら復活しようかと」と森田さん。
まっちゃ好好亭の味は、地域の人々の記憶とともに育まれている。こうした“お客さんと一緒に作るメニュー”こそが、店の信頼を支える大きな要素となっている。

人気ランチ「選べるおかずランチ」の一番人気は油淋鶏

まっちゃ好好亭のもうひとつの人気メニューが「選べるおかずランチ」だ。
その中でも特に人気なのが「油淋鶏(ユーリンチー)」である。
「サラダもついていて一番さっぱりしてるからじゃないですかね。ご飯もすすむし、唐揚げとは衣が違ってサクッとなるようにしてあります」と森田さん。

一品ごとに工夫を凝らした手作りの味が、働く人の胃袋をつかんでいる。
ただ、現在はメニュー数を絞っており、「一人ではさばけない」ため、以前より少し減らしたという。
「昔は5、6種類もっと多かったけど、ラーメンの注文が多いので整理しました」と話す。

卵が決め手の「エビチリご飯」―ご飯に合うひと工夫

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ランチタイムで人気を集める「エビチリご飯」にも、森田さんならではの工夫がある。
単品メニューとしても提供されているが、「昼ランチの方には卵が付いてくる」とのこと。

その理由を尋ねると、「ご飯とエビチリだけやったら単調やなと思ったので、卵を合わせたらええ感じやなって」と森田さん。
最初は試しに追いかけた卵が、いまや料理のバランスを整える重要な存在になっている。
まっちゃ好好亭の料理は、こうした“ちょっとした気づき”から進化してきたのだ。

「あ、俺ならこうする」から始まる新しい味の探求

まっちゃ好好亭の新メニューの着想源は、実に多様である。
「ぼーっとしてる時に思いつくこともあるし、食べに行って“俺ならこうするのにな”って思いながら食べて、試してみたりとか。」と森田さん。

ときには家族からのリクエストがきっかけになることもある。妹さんが食べてきた“あんかけラーメン”をヒントに作った一杯は、結果的に全く別の味わいになったが、「違うけどおいしいな」と言われ、まっちゃハオハオラーメンにつながった。


料理の新しい可能性を生むのは、計算ではなく“感覚”と“遊び心”。それこそが、森田さんの料理の魅力を支える原動力である。

山のある風景に惹かれて選んだ現在の店舗

現在の店舗の立地を選んだ理由を尋ねると、森田さんは少し照れたように笑う。
「家が近いのと、あと裏に山があるっていうのがよかったんですよ。僕、田舎の出身なんで、山が見えるって落ち着くんです。そこまで深く考えてないです(笑)。でも、安かったし、勢いで決めちゃいました」と話す。

どうやら“心地よさ”で選んだようだ。飾らない言葉で語るその姿勢が、まっちゃ好好亭らしさでもある。

飲食の血筋と商売の環境が育んだ感性

森田さんの家系は、代々商売に携わる家庭だった。「ばあさんは田舎で寿司屋とスナック“魚喜(うおよし)”をやってました。昔から商売をしている家なんです」と森田さん。家族や親戚が次々と自営業を営む中、周囲から反対されることもなく「やるなら頑張りや」という温かい言葉に支えられたという。

なぜそこまで急いで独立したのか。その理由を尋ねると、森田さんは少し照れたように笑う。
「家でみんな商売してたんで、やっぱり自分もやりたかったんですよ。あとは、ずっと人に怒られたくないっていうのもありましたね(笑)」と率直に話すが、その裏には“自分の力で生きたい”という強い独立心があった。

実際に始めてみると「そんなに甘くなかった」と笑う森田さん。しかし、その勢いと覚悟こそが、今も続く「まっちゃ好好亭」の原動力になっている。

周囲の後押しで実現した独立。家族と“親方”が背中を押してくれた

もともと商売人の家系に育った森田さんにとって独立は自然な流れだったが、その一方で“きっかけを与えてくれる人”の存在が大きかったという。

「多分、自分ひとりやったら“めんどくさいなぁ”ってなってたと思います。親方や家族が“やりなよ”って言ってくれて、そういう風に道をつくってくれたんやと思いますね。自分、結構なまくらなんで(笑)。でも、家族とか周りが“そろそろやろうか”って空気を作ってくれたのはありがたかったです」と振り返る。

世代を超えてつながる場所に

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まっちゃ好好亭は、今年でオープンから11年を迎えた。時間の流れとともに、お店を訪れる人の世代も変わっていく。

「向こうのお店の頃から来てくれているお客さんの子どもが、今では中学生になってるんですよね。今おる子どもたちが大人になって、また自分の子を連れてきてくれたらうれしい。どんどん世代がつながっていくのを見られるということは、それだけお店が長く続いているということだから」と語る言葉には、地域とともに歩んできた年月の重みが感じられる。

常連客の中には、店主の家族の成長を見守ってきた人も多い。
「妹の子どもなんか、小学生のころから店に座ってたんですけど、今はもう高校生になってて。常連さんが『えっ、あの子こんな大きなっとんか!?』ってびっくりしてくれて。そういうのが面白いですね」と笑う森田さん。

「これから10年、20年と続けていけたらいいなと思います」と語る森田さんの言葉には、特別な計算も誇張もない。人と人の時間が交差し、世代を超えて繋がっても変わらずそこにある―それがまっちゃ好好亭最大の魅力なのだろう。

まっちゃ好好亭
住所
〒515-0052
三重県松阪市山室町2535-1
営業時間
木曜日
11:00〜14:30
17:00〜21:30
月曜日
11:00〜14:30
17:00〜21:30
火曜日
定休日
水曜日
11:00〜14:30
17:00〜21:30
木曜日
11:00〜14:30
17:00〜21:30
金曜日
11:00〜14:30
17:00〜21:30
土曜日
11:00〜14:30
17:00〜21:30
日曜日
11:00〜14:30
17:00〜21:30
開閉
電話番号
0598-29-6880
席数
28名(カウンター4席、2名掛け×8、座敷4名掛け×2)
L.O
ランチ:14:00、ディナー:20:30
休日
火曜日、第三水曜
支払方法
現金のみ
最寄駅
松阪駅から車で20分
平均予算
1000~1500円
駐車場
店前13台(大型トラックなどは隣の未舗装地に駐車)
ランチ提供
ランチ
ディナー提供
ディナー

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