ライター : ☆ゴン

「食事をとる」って「取る」?「摂る」?

体調をくずして病院へ行くと、「今朝は食事をとりましたか?」と聞かれることがあるはず。「今日は忙しくて昼食をとる時間がなかった」、こんな会話も普段からよく交わされます。「とる」は「食べる」の表現として、頻繫に使われる言葉です。

ちなみに「食事をとる」と言いますが、「食事を食べる」とは言いません。これは二重表現という、日本語の間違った使い方。「頭痛が痛い」も同じで、「痛」の字が重複した表現になっています。「頭痛がする」とか、「頭が痛い」という言い方が正解です。

「食事をとった?」と聞かれると、普通は「とった」を「食べた」という意味だと判断して、返答します。この会話を文章にする場合、「とる」にはどの漢字を当てたら良いのか、迷ったことはありませんか?

「取る」とは

「とる」という言葉には、じつにさまざまな漢字が当てられます。なかでも一般的なのが、「取る」でしょう。小学校の低学年で習う漢字なので、馴染みがあり、一番よく使う「とる」かもしれません。

「取」という漢字は、耳と右手の象形文字を合わせた会意文字。昔の戦場では、敵の首の代わりに耳を戦果の証としていたことから、生まれた字だとされます。怖い話ですが、そこから「自分のものにする」、「手に入れる」などの意味を持つようになったそうです。

熟語をイメージするとわかりやすい

使用する漢字に迷ったときは、その漢字を使った熟語を思い浮かべると、わかりやすいかもしれません。いろんな熟語がありますが、「奪取」(奪い取る)や「取消」(手に入れたものを手放し、解消する)などはその典型例。より具体的に「取」のイメージが浮かぶのではないでしょうか。

「食事をとる」行為は、「手に入れた」食べ物を「手に持って」口から食べ、食べ物を「自分のものにする」ことです。目の前にある食べ物を食べる行為が、「食事をとる」ということだとするなら、「取る」という漢字がふさわしいと考えられます。

「摂る」とは

食事には「摂取」という言葉があり、ふたつの漢字はどちらも「とる」と読みます。ここでは「摂る」について考えてみましょう。「摂」という漢字は、攝(せつ)の略字体です。旧字の「攝」は左の手偏が5本の指、右が3つの耳を表す象形文字の組み合わせ。

「取る」で紹介したのと同じく、「削いだ3つの耳を手で持つ」という意味があります。そこから「複数のものをあわせて持つ」、または「細かなものをひとつにまとめる」という意味の言葉に。以上のことから、「摂る」という言葉になったとされています。

こちらも熟語でイメージしてみよう

「摂」には、「取り入れる、取り込む」という意味があります。また、「摂る」を辞書で調べると、そのものずばり「食べる」「体内に取り込む」と記載。「摂」を使った熟語には「摂食」(ごはんを食べること)や、包摂(より大きなものの中に包み込むこと)などがあります。

以上のことから考えると、「食事を摂る」という使い方は、あながち間違いではないはず。「食事をとる」行為が、身体に良い栄養を「いろいろ合わせて、まとめて、体内に取り込む」ことだと考えられるからです。むしろ「摂る」という言葉のほうが、しっくりくるかもしれません。

「食事をとる」の場合はどちらが正解なの?

結局「食事をとる」は、「取る」と「摂る」のどちらが正解なのでしょうか?ふたつの漢字の意味を考えてみると、「食事を取る」と「食事を摂る」はどちらも間違っていません。漢字本来の意味合いや成り立ちは多少異なりますが、それぞれが正しい表記方法だといえます。
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