意外と難しい!「食事をとる」は「取る」?「摂る」?

聞いているときにはどうということもないことばも、いざ文章にしようとすると「あれ?」ということはありませんか?漢字には、同じ読み方をしても、異なる文字を使うことが多いものです。「食事をとる」、あなたならどちらの漢字を使いますか?

「食事をとる」って「取る」?「摂る」?

「今朝は食事をとりましたか?」体調を崩して病院へ行くと、こう聞かれませんか?「今日は忙しくて昼食をとる時間がなかったよー」こんなことばもよく交わされますね。「とる」は「食べる」の表現として頻繫に使われています。
「食事をとる」とは言いますが、「食事を食べる」とはあまり言いません。これは二重表現を嫌う日本語の性質からきています。「頭痛が痛い」とは言いませんよね。これは「痛」が二重表現になっているためで、「頭痛がする」とか「頭が痛い」という言い方が一般的です。
「食事をとった?」と聞かれると、わたしたちは「とった」を「食べた」と同じ意味だと判断して返答していますが、この会話を文章にした場合、「とる」はどの漢字があてはまるのか迷ったことはありませんか?

「取る」とは

「とる」という音には、じつにさまざまな漢字があります。なかでも一般的なのが「取る」でしょう。小学校の低学年で習う漢字なので、馴染みもあり、一番よく使う「とる」かもしれません。食事の場合には、「摂取」という言葉もあり、どちらの漢字も「とる」と読めることから迷いが生じますね。
もともと「取」という漢字は、戦いの場で戦果をとるというところから「手に入れる」「自分のものにする」などの意味を持つようになったのです。
使用する漢字に迷ったときには、その漢字を使った熟語を思い浮かべるとわかりやすいことがよくあります。「取」を使った熟語にはさまざまなものがありますが、「奪取」(奪い取ること)や「取消」(一度手に入れたものを手放し、解消すること)などの熟語を思い浮かべると、より具体的に「取」のイメージを思い浮かべることができるのではないでしょうか。
「食事をとる」行為は、「手に入れた」食べ物を「手に持って」口から食べ、食べ物を「自分のものにする」ことです。目の前にある食べ物を食べる行為が「食事をとる」ということだとすれば、「食事を取る」という漢字がふさわしいと考えられますね。

「摂る」とは

対して「摂」という漢字は、攝(セツ)の略字体です。攝の右側、作りの部分は3つの耳を表わし、左側の手偏(てへん)で「複数のものを散乱しないようにあわせて手に持つ」こと、もしくは「細やかなものをひとつにまとめる」ことを表わします。ここから「とる」という意味が生まれたと言われています。
「摂」には「とる」という意味のほかに、「いろいろ(必要なものを)合わせて取り入れる」「取り込む」という意味があります。また、「摂る」ということばを辞書で調べてみると、そのものずばり「食べる」「体内に取り込む」という意味が記載されています。
また、「摂」を使った熟語には「摂食」(ごはんを食べること)や包摂(より大きなもののなかに包み込むこと)などがあります。「取」よりも、より細かい部分に視点を置いた、ものを取り込む表現だとも言えるでしょう。
「摂る」の意味を考えてみると、「食事を摂る」という表現を正解にしてもいいかもしれません。「食事をとる」ことが、単に食べ物を取り込むことだけではなく、からだにいい栄養を「いろいろあわせて」「まとめて」「体内に取り込む」ことだと考えると、「食事を摂る」という表現のほうがしっくりくるような気がしませんか。

「食事をとる」の場合はどっちが正解なの?

では、「食事をとる」は、「食事を取る」「食事を摂る」のどちらが正解なのでしょうか?意味を考えてみると「食事を取る」と「食事を摂る」のどちらも間違ってはいない表現です。多少意味合いは異なりますが、それぞれが正しい表記方法だと思えます。
ところが、日本には文部科学省によって制定された“常用漢字”というものがあります。これは漢字使用の目安となるもので、一般的に使用される漢字を抜粋したものです。この常用漢字表のなかで、「とる」という読み方をする漢字に「取る」はありますが、「摂る」は含まれていません。そのため「食事を取る」という表現が、一般的には正しい表記方法とされています。
常用漢字は2010年に改訂されて、現在では2300文字程度が制定されています。漢字は古来、中国より渡った表記方法で、その数は10万文字をはるかに超えると言われています。漢字はひとつひとつに意味があり、わたしたちはその意味を踏まえて漢字を使っています。
10万を超える漢字のなかのたった2300文字程度の常用漢字は、あくまでも使用の目安になるもので、使用を禁じたものではありません。常用漢字表外の漢字が使われることも多く、より細分化した内容やなにかに特化した文章では、とくに常用漢字表外の漢字を使うことも多いのです。

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