ライター : 中島茂信

米澤シェフ、あなたの包丁見せてください!

Photo by macaroni

The Burn|米澤文雄シェフ 1980年東京都出身。高校卒業後、「イル・ボッカローネ」(恵比寿)を経て、22歳のときニューヨークへ。三ツ星レストラン「ジャン ジョルジュ」で日本人初のスーシェフに就任。帰国後、「KENZO ESTATE WINERY」のシェフなどを経て、2014年オープンの「ジャンジョルジュ トウキョウ」のシェフに就任。2018年に「The Burn」のシェフに就任。2013年にアメリカ大使館「Taste of America」日本大会優勝。2015年、日本最大級の料理人コンペティションRED U-35で「ゴールドエッグ」を受賞する
「食事に来られたお客様に『包丁を見せてもらえませんか』っていわれたことがあるんです」

2017年1月2日。当時働いていた『ジャンジョルジュ トウキョウ』のオープンキッチンのカウンターで食事をする人のなかに、包丁を握る米澤シェフの手元を凝視する人がいたそうです。

「この人は料理人だろうなあと思っていたら、『包丁を見せてほしい』と頼まれました。『包丁を丁寧に扱われていますね』みたいなことをいわれたあと、『私は包丁職人です、自分が作った包丁をもってきました、何か切ってもらえませんか』って」

Photo by macaroni

包丁職人から渡された270mmの筋引きで、プチトマトと鯛を切った。

「抜群の切れ味でした。そのとき使っていた包丁とは雲泥の差がありました」

包丁職人と話をしたところ、同い年で、誕生日が1日違いで、血液型も同じだったことがわかったそうです。

トップシェフの胸を借りるための道場破り

Photo by macaroni

米澤シェフが愛用する礼頂の包丁(一部)。上から240mmの筋引き、240mmの牛刀、270mmの牛刀
「同い年であることを知っていて、米澤シェフに会いに行きました。さすがに誕生日までは知りませんでしたけど」と笑うのは、岐阜県関市で包丁工房「礼頂」(らいちょう)を営む小林弘樹さんです。

ーーなぜ包丁持参で会いに行ったのですか。

「道場破りです(笑)。自分の包丁がプロの料理人に通用するのかどうか。米澤シェフの胸を借りるつもりでした」

小林さんは、23歳のときから関市にある父の包丁工房で12年研さんを積みました。2016年11月に独立し、礼頂を設立。その2か月後、人生初の〈道場破り〉に挑みました。

ーー初めての道場破りに、なぜ米澤シェフを選んだのでしょうか。

「自分と同世代のトップシェフに試し切りをしてもらいたかったから。道場破り先に選んだ基準は“ミシュランシェフ”、“コンテストの優勝経験者”でした。調べたところ、米澤シェフと、もうひとり、当時パリ在住の日本人シェフがヒットしました」

翌年パリへ飛びましたが、初の道場破りに白羽の矢を立てたのが、米澤シェフでした。
このとき包丁を3本持参していたそうです。210mmの牛刀、270mmの筋引き、150mmのペティの3本。

「礼頂の最大の特徴である刃先の鋭さを一番わかってもらえるのが、270mmの筋引きです。米澤シェフに270mmの筋引きを気に入ってもらえたので、残りの2本は渡しませんでした」

小林さんはこのとき、礼頂の包丁がなぜよく切れるのか、米澤シェフに説明しました。

包丁職人に包丁を貰った翌日、もう1本自分で購入

Photo by macaroni編集部

「包丁をいただいたのは、このときが初めてです」
その上でこんなやり取りがあったそうです。

「この筋引きを差し上げます。ぜひ使ってください」

「そういうわけにはいきません」

「いえ、使っていただきたいんです」

米澤シェフは筋引きを受け取ったあと、礼頂の包丁を扱う店を教えてもらいました。

ーーなぜ購入先を聞いたのですか。

「小林さんと会った翌日、東京ソラマチにある『タワーナイブズ トウキョウ』で礼頂の210mmの牛刀を購入しました」

礼頂の包丁とはまだ出会ったばかり。にもかかわらずその翌日、別の包丁を買い求めた。米澤シェフにとっても、それほど衝撃的な出会いだったのではないでしょうか。

薄い紙が切れる包丁は極めて珍しい

Photo by macaroni

礼頂の包丁を当てた瞬間、ハンバーガーの包み紙は真っふたつに
「礼頂の包丁はすごいです。いま礼頂の包丁を4本愛用しています。おそらく紙も切れると思いますよ」

そう言うと米澤シェフは包丁で紙を切りました。

「包丁ではまず紙は切れません。3日に一度研いでいるからかもしれませんが、この包丁のポテンシャルがあるからこそ紙が切れるのだと思います」

Photo by macaroni

握りやすさを追求し、八角形の柄を選択した
刃が薄くて軽く、しかも柄が握りやすいのが、礼頂の特徴だと米澤シェフ。

「軽いと扱いにくいという料理人もいます。僕の場合、重さは関係ありません。慣れですね」

礼頂設立に際し、小林さんはいろいろな形の柄を試作し、もっとも握りやすいものを選びました。それが樺の木製の、八角形の柄でした。薄く切った樺の木を圧縮することで強度を確保。刃は次世代のステンレス製。

「スタイリングと握りやすさは和包丁で、刃は洋包丁。和包丁は片刃(片面だけに刃が付いている)で重いことから洋包丁にしました」

Photo by macaroni

サーロインを愛用の包丁で切ってくれました
小林さんは、その後もパリや日本国内のフレンチや和食の料理長に道場破りを挑んでいるといいます。

「長年使ってきた道具を変えてもらうのはとてもむずかしいです。でも、なかには米澤シェフのようにすぐに気に入っていただける方もいます」

現在、国内やパリで活躍するフレンチや和食の料理長が礼頂の包丁を愛用しているそうです。そのひとり目が、米澤シェフでした。

「礼頂の包丁を家庭で使うなら210mmの牛刀か、170mmの三徳包丁をオススメします」

小林家では210mmの牛刀を愛用しているそうです。興味がある方は、礼頂の製品の一部を扱う東京ソラマチにある「タワーナイブズトウキョウ」か、大阪は新世界にある「タワーナイブズオオサカ」へ。
※掲載情報は記事制作時点のもので、現在の情報と異なる場合があります。

編集部のおすすめ