ライター : dressing

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「健康的な居酒屋を開きたい」それが『醸しメシかもし酒 糀や』のアイデンティティ

名古屋駅前エリアの高層ビル群に夕闇が迫る頃、逞しい文字で「発酵」と認められた長提灯に明かりが灯る。『醸しメシかもし酒 糀や』の夜の部オープンを告げる日々のセレモニーだ。
同店のマネージャーは名古屋のクラフトビール界を牽引する佐藤正和さん。佐藤さんは『CRAFTBEER KEG NAGOYA(ケグ ナゴヤ)』をはじめ、『Japan Craft Beer&Wine GrillMan(グリルマン)』など、各地のクラフトビールをウリにした店をマネジメントし、ついには名古屋初のクラフトビール工房『Y.MARKET BREWING(ワイマーケットブルーイング)』を立ち上げた。ビールは酵母の力を借りて醸造する飲み物。佐藤さんは酵母にひとかたならぬ関心を寄せ、プライベートでぬか漬けや塩麹など、発酵食品の自作を始めた。
そしていつしか「発酵」と「健康」をテーマにし、可能な限り自家製を貫く店を開きたいと思うようになる。この思いを看板に、2017年7月にオープンしたのが『醸しメシかもし酒 糀や』だ。

メニュー全てに発酵食品を用いた「醸しメシ」。無添加・無化調も標準仕様

まず店内に入って驚くのが、おびただしい数の保存瓶。カウンター上には小瓶に入った謎の液体が並ぶ。
エントランスすぐ横の棚には白や茶色、梅酒と思しき液体が満たされた保存瓶が所狭しと肩を寄せ合う。見上げると壁一面に設えた棚には柑橘類がプカプカと浮かぶ保存瓶。さらに視線を上げると天井には見覚えのある竹細工。これは仕込み樽を結束する「箍(たが)」である。カウンター上にゆるくアーチを描きながら張り巡らされた杉板も、仕込み樽を連想させる。『醸しメシかもし酒 糀や』の名をこれでもか、と体現しているようだ。 お品書きを見ると「全てのお料理に発酵調味料・発酵食品を使用した無添加・無化調の居酒屋です」とある。確かに料理名には「発酵」やら「菌」やらの枕詞がつき、宣言通り「醸しメシ」のオンパレードだ。
「天然ぶりの醤油麹炙りなめろう」(写真上)は、軽く炙って香ばしさを加えた天然ぶりに、醤油麹や香味野菜を加えて叩き、味の輪郭をととのえた『醸しメシかもし酒 糀や』の看板メニューだ。醤油だけでなく麹の甘みとふくよかさが加わり、日本酒との相性は抜群である。ちなみに醤油麹は自家製。
醤油麹は毎日絶やさずかき混ぜて発酵を促すが、この役目を担うのが店長の近藤かおりさん。保存ビンにヘラを入れながら毎日かき混ぜていると、日々変化する麹の表情を確認するのが楽しみになり、愛情が芽生えるという。
慈しみの眼差しで保存瓶を抱きかかえる姿がなんとも印象的。
「発酵五種ポテトサラダ」(写真上)も、お客の大半がオーダーする人気メニュー。その名の通りヨーグルト、北欧ピクルス、アンチョビ、チーズ、豆鼓と、5種の発酵食品が用いられる。まるで各国の発酵食品代表が一堂に会するサミットのようだ。ヨーグルトと北欧ピクルスは自家製、全体をまとめるマヨネーズも自家製で、いわゆる居酒屋のポテサラとは一線を画す手の掛け方。入っているものに想いを馳せるだけで、お腹の調子がよくなりそうだ。
居酒屋の定番メニューにも発酵の枕詞がつく。「発酵やきとり」(写真上)は自家製の塩麹と魚醤麹で鶏肉をマリネし、串打ちして焼き上げる。麹の作用で肉が柔らかくなり、塩分ととうまみが中まで浸透し、どこから食べても味が均一にのっている。魚醤麹には愛知県の知多半島が誇るカタクチイワシ魚醤「しこの露」を使用。塩だけでは表現できない深みと丸みを醸し出す。
どんなシロモノが出てくるのか全く想像できないのが「ヨーグルト味噌串カツ」(写真上)。特に愛知県外の方はこの名を聞いて後ずさりする人もいるだろう。愛知県人にとって味噌串カツは大変ポピュラーな食べ物。徳川家康が生まれた岡崎城から八町先にある八帖町で醸された「八丁味噌」を代表とした、豆オンリーの味噌ベースのタレに、串カツをどっぷり浸すのだ。この濃厚な味噌ダレに自家製ヨーグルトソースの酸味を加えることで、口の中がサッパリする。味噌とヨーグルトの相性、騙されたと思って試していただきたい。騙されるどころか、やみつきになるはずだ。ちなみに串カツに使う豚も塩麹でマリネ。何から何まで発酵づくしである。

酵母の働きに敬意を評して乾杯!質の良い酔いにいざなう「かもし酒」

『醸しメシかもし酒 糀や』の「かもし酒」に注目してみよう。店長の近藤さんがイチオシするのは、「酵素レモンサワー」(写真上)。近藤さんが手塩にかけて育てているレモン酵素シロップとレモンを焼酎に漬け込み、熟成させたものをソーダで割る。しつこい甘さがないので食事にもしっかり寄り添い、飲み飽きない。そして何より美肌効果や整腸効果が期待できると聞けば、2杯、3杯とお代わりしたくなる。言わずもがなだが、お酒なので飲み過ぎにはご用心。
ビールは『ワイマーケットブルーイング』が醸す樽生のクラフトビールが楽しめる。140種以上からランダムに直送され、この日提供されたのは「アメリカンウィートエール」(写真上)。柑橘のニュアンスが楽しめ、引っかかりがなくスルスルと進んでしまう危険なビールだ。実のところ、次にどのクラフトビールが届くのか、近藤さんも知らないそう。来店してからのお楽しみで、福袋を開く瞬間のようなワクワク感が味わえる。
発酵を追求する『醸しメシかもし酒 糀や』で取り扱う日本酒は、長野県南佐久郡の『黒澤酒造』の「黒澤 生酛(きもと)」のみ。『黒澤酒造』は協会酵母などの速醸酛(そくじょうもと)を使わず、天然の乳酸菌のみで醸す「生酛造り」に力を入れている。ひと口に「生酛」と言っても精米歩合や熟成期間の違い、原酒などのバリエーションがあり、常時5種類以上が揃う。
「ジンジャーあまざけ」「あまざけソーダ」などのノンアルコールドリンクには『黒澤酒造』の「あまざけ」を使用する。 ちなみに『醸しメシかもし酒 糀や』では甘酒の自家製もしている。料理に甘さを補いたいときには自家製甘酒を用い、白砂糖は極力使わない。ナチュラルアイスキャンディーの「甘酒あずきバー」のベースにもなるなど、欠かせない存在なのである。

健康も気になるけど、たくさん飲みたい「中年層」に寄り添いたい

発酵ブームの余波と立地の関係上『醸しメシかもし酒 糀や』に訪れるのは若い女性客が多いという。もちろん大歓迎だが、マネージャーの佐藤さんとしては、健康を意識し始めた年齢層にも愛されたいとの思いが強いようだ。「実は『おじさん割』というサービスを始めようと思っています。『我こそは正真正銘のおじさん』という方はもちろん、若くても『オレはおじさんだ』と自己申告してもらえばOKです。あ、『おばさん割』も考えてます(笑)」と佐藤さん。 どんなサービスかは来店してからのお楽しみ。発酵パワーが必要と思われる方、飲むのは大好きだけれど罪悪感が拭えない方に朗報であることは間違いない。   【メニュー】 天然ぶりの醤油麹炙りなめろう 780円 発酵五種ポテトサラダ 580円 発酵やきとり(2本) 700円 ヨーグルト味噌串カツ 700円 甘酒あずきバー 480円 酵素レモンサワー 600円 ワイマーケットクラフトビール樽生 700円 日本酒 450円〜 ジンジャーあまざけ 500円 あまざけソーダ 500円 ※価格はすべて税別

醸しメシかもし酒 糀や

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