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【連載小説】甘いクリスマスリースに微笑んで。第3話

7日連続でお届けするグルメ恋愛小説・第3話。仕事に没頭するあまり恋を後回しにしてきた咲子、28歳。入社以来ずっと仲良くしてきた同期の高志は、なんでも相談できる男友達だ。それ以上でも以下でもなく……そんな関係が、クリスマスを目前に動き出す。

クリスマスまであと3日・・・

昨日あれから高志が新作のモノマネを披露し続けてくれたせいか、例の占い師に振られた一昨日よりはだいぶ心がすっきりしていた。

ちっとも面白くないモノマネを延々見ていたら、いつの間にか人生の悩みなんてどうでも良く思えてきたのだ。

もうすぐランチの時間。今日は何を食べようかな?

「咲子さーん! 咲子さんも午後から新橋でセミナーですよね!? それまで一緒に南青山でランチしましょうよ、行きたいお店があるんです!」
お昼休憩に入る12時を前に、年中無休で楽しそうな甲高い間延びした声に満面の笑みを乗せて来たのは、今年入社の後輩、野宮麻衣(ノミヤ マイ)だ。

男女問わず人懐っこい、人たらしである。愛嬌もよく、素直で仕事もよくでき、私のことも慕ってくれて嫌いではない。
でも、せっかく気分が良くなりかけていたのに、麻衣が一昨日高志と一緒にいたところを思い出すと、なぜかモヤモヤする。
モヤモヤするけど、ランチを断る理由はない。コートを羽織って、麻衣と電車に駆け込み、表参道の駅で降りた。

「ここ、ここ! ああ、もう並んでる!」

麻衣はあたかも人生の終わりかのように嘆き、ブロンドの巻髪を指に巻きつけながらブツブツ言っている。

「ん? お花屋さん……?」
パッと目に入ったのは色とりどりの花が綺麗に並んでいる『フラワーマーケット』だけだ。

「奥にカフェがあるんですよぉ。緑たっぷりの温室みたいで、すっごくおしゃれなんです! お花屋さんにカフェがあるなんてなかなかセンス良いですよね」

「へえ、素敵! 何度か通ったことあるけどお花屋さんとしか思ってなかったわ」

店先のバラやマーガレットなどを眺めているうちに、思っていたよりすぐに中に入ることができた。

店内は女性が多かった。
正面からはあまり見えなかったが、花屋の奥には、壁も天井も緑で覆われた隠れ家のような空間が広がっている。

初めて訪れる『TEA HOUSE(ティーハウス)』は開放的な明るいカフェだった。壁を伝って流れる水の音も心地よい。

「咲子さんって営業部の神原さんと付き合ってるんですかぁ? 同期で仲良いですよね?」

唐突な質問に戸惑っていると、先ほど注文した「ボラボラ」という紅茶が運ばれてきた。
リンゴの果肉にハイビスカス、イチゴ、オレンジピール、野バラなどが入った甘いフルーツティーだ。

紅茶を少し口に含み、喉の渇きを落ち着かせる。

「絶対ないよ! 高志とは仲が良い友達だけど、仲が良すぎて男として見れないから。お互いのこと知りすぎてるし、それに私、」

イケメン専門だし……と言いかけて、好きだったイケメン占い師に振られた苦い思い出がよみがえってきそうなのでやめておいた。

それに、私の屈辱の恋愛遍歴をこの子に披露するつもりは1ミリもない。

「えー、そうなんですかぁ!? もったいない、お似合いなのにぃ。じゃあアタシ今度のクリスマス狙っちゃおうかなあ」

短い前髪の下から見える羨ましいくらいに大きな二重の瞳で、探りを入れるように見据えてきた。

鼻先がむずむずしてきて、スープに目を落とした。

「ふうん、もの好きだね。まあ、超イケメンって訳ではないけど、まあ……うん、いい人だよね。仕事も頑張ってるしね」

高志を恋愛対象として見たことなんてなかったから、ちょっとびっくりして鼻がピクピク動きそうになる。
なんとなく麻衣の目を見るのが怖くてランチプレートに集中した。
あたたかい木のプレートに、少しずつかわいらしく並べられたサラダとスープ、それにおかずの数々を見ていると、今さっきの心の揺れはすぐにおさまった。
「高志さんて、営業なのにオラオラって感じしてなくていいですよねぇ! ウチの会社の営業部なんて野生の猛獣みたいなのばっかりじゃないですかぁ。それに今年に入って成績もグン伸びしてるって聞きました! 総務部への対応も親切だし、同期の間では結構人気なんですよぉ」

ふぅーん。そうなの。知らなかった。
それにしても麻衣の「高志さん」って呼び方に引っかかる。なんでだろう……。
時間が押してきたせいもありランチを終えて、急いで新橋のセミナー会場へ向かった。

そういえば高志に昨日のお礼をまだ言っていない。電車の中で麻衣に見えないようにメッセージを入力する。

〈今日仕事終わったら飲み行こ?〉

送信完了。

いつも私が飲みに誘ったら、よほどのことがない限り付き合ってくれる。

今日はどこ行こうかな。
(続く)

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