ライター : macaroni 編集部

教えてくれた人

漆琳堂 8代目当主 / 内田 徹さん
227年の歴史を誇る株式会社漆琳堂の8代目当主。大学卒業後、父や祖父に師事。10年あまりの漆器製造の技術習得を経て、2013年に最年少での越前漆器伝統工芸士の認定を受ける。『aisomo cosomo』や『お椀や うちだ』『RIN&CO.』など、伝統を重んじつつも時代を汲んだ独自のブランドを多数展開し、2014年には経済産業省「がんばる中小企業300社」に選定。常にチャレンジングな姿勢で、漆器の魅力を広く世に発信している。

そもそも漆器とは

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縄文時代から日本人に使い続けられている「漆器」。しかし、日本の伝統工芸ともいえる漆器を日常的に使用している方は、あまり多くはいらっしゃらないのではないでしょうか。

漆器というとハレの日やお正月など特別な日に使う食器という印象があります。そこで、代々、漆器作りを営まれている漆琳堂の8代目当主・内田徹さんに、漆器とはどういう器なのか、どんなふうにお手入れをすればよいのかを伺いました。

Photo by 片岡杏子

内田さん:
「漆器はウルシの木の幹から採取した樹液(生漆 ・きうるし)で木地に漆を塗布して作った食器です。漆器といえば一般的にはお椀を思い浮かべる方が多いですよね。しかし最近ではパンの消費量が増えていることから、洋食器にも見える漆器が増えているんですよ。

日本人のライフスタイルの変化により、純正の漆器を手に取っていただく機会は減ってきています。私共は料亭や旅館などで使うプロ向けの漆器を製造してきたのですが、この10年は見た目を少しカジュアルにした、一般のご家庭でも使っていただける漆器製造にも力を入れています」

漆器といっても、値段が大きく変わるのはなぜ?

Photo by TOMART:PhotoWorks

漆器は高価なものというイメージがありますが、なかには手の出しやすい価格帯の商品もあるようです。なぜ値段に差があるのでしょうか。

内田さん:
「漆器の値段は、器の素材や漆を塗る回数、色味や漆の種類によって変わります。

じつは漆器とうたっている食器のなかには、漆のような仕上がりになるウレタン塗料を施した器が含まれることがあります。化学塗料のウレタンを塗った食器は、本漆とは違って大量生産できるので安価なんですね。本漆もウレタン塗装もどちらも漆器と呼ばれるのは、正直なところちょっと微妙なところではあるのですが……(笑)

また、漆器といえば黒か朱というイメージかもしれませんが、うちのオリジナルブランド『aisomo cosomo』の漆器は、オレンジやベージュ、モスグリーンなど、今までにはない色を展開しています。きれいな色味で少しでも漆器に興味をもってもらえるように、若い方にターゲットを絞ってデザインを考えているんですよ。

こういっためずらしい色の漆器だと極端ではないですがやや高めの値段設定に。また天然塗料である漆液は保存がきかないので、どうしても価格が高くなりやすいですね」

漆器のお手入れは決してむずかしくない

Photo by Shitsurindo

漆器は塗料の違いや素材で値段が変わることがわかりました。特別な日やお祝いの席だけでなく、普段使いできそうなアイテムも増えているようですが、漆器はどのようにお手入れをすればいいのでしょうか。

内田さん:
「漆器は、完成から100年後が一番硬いといわれているくらい、使うほどに年々硬化していきます。なので、本漆の漆器は使い込むことこそが最大のお手入れともいえますね。逆にウレタン塗装は塗った日がピーク。そこから劣化がはじまりますから、日々のお手入れが必要です。

生漆、ウレタンのどちらにも共通していえるのは、お手入れは決してむずかしくないということ。普段使っている中性洗剤とスポンジで洗って大丈夫です。ただ、スポンジの硬い面は使わず、ゴシゴシ擦らないようにしてください。本漆の場合は水で洗ったあとに水滴がついた状態で置いておくと、そのまま水分が蒸発し白いカルキがついてしまいます。手拭いやフキンで水滴をしっかり拭き取りましょう。

また、漆の耐熱温度はお味噌汁のおいしい温度と一緒で大体70〜80度といわれています。熱湯は避けてくださいね。最近では食洗機対応の漆器も開発されていますが、漆器にとって乾燥は大敵。なるべく食洗機や電子レンジは使用を避けてください」

ひどい汚れがついたときはどうすればいい?

内田さん:
「漆器についた汚れは、たわしや硬いスポンジなどでゴシゴシ擦ると塗膜が破れてしまいます。そこでおすすめなのがつけ置きです。目安の時間は1〜2時間ほど。つけ置きも長時間放置すると漆の劣化に繋がるので気をつけてほしいです。油汚れは、普通に中性洗剤で洗ってもらえれば大丈夫。ただし、アルコールや磨き粉は絶対に使わないようにしてください。

漆器は使い終わったあとにフキンや手拭いなどで軽く拭き、お手入れすることを習慣化しながら丁寧に使い込むと数年後になんとも言えないツヤ感が出ます。これも漆器の楽しみ方のひとつだといえますね」

漆器はきちんと保管すれば長持ちする

Photo by shutterstock

漆器を長く美しく保つことは、正しい知識さえあればそれほどむずかしくはないようです。内田さん曰く、「日々使い込むことが最大のお手入れ」とのことですが、長期保管する場合の保管場所や注意点などを伝授していただきました。

内田さん:
「長期期間保管するときの注意点は、水分をしっかりきれいに拭き上げて残さないことです。ただ、漆自体は乾燥に弱く、保湿をしてあげなくてはいけないので、あまりにも長期間の保管は逆に劣化の原因になります。最低でも年に一度は使ってあげたほうが長持ちします。

湿気がなく乾燥している場所は保管場所としては向いていないので、湿気のあるキッチンは最適。木地は乾燥すると縮んで木地と下地の間に隙間が空くことがあるので、ある程度の湿気は漆にも木地にも好都合なんですよ。

また、傷つかないように何か入れ物に入れて保管しましょう。買ったときに漆器が入っていた箱でも構いません。重箱は新聞紙や布を挟んで保存することをおすすめします。お椀も紙や新聞紙を間に挟むとよいですよ。万が一傷がついた場合は、1カ所傷むとほかの部分にも影響が出てくるので、早めに修理するようにしてください」
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