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早くもマニアが大注目! とろけるおいしさのお菓子
こんな「おかし」の味わいは、初めての経験かもしれない。
使っているのは、卵や牛乳、果物などお馴染みの食材。しかしながら、品質への徹底したこだわりと、限りなくシンプルに仕上げたお菓子は、素材の持つ魅力に圧倒されるものばかりだ。
2019年9月、東京・北参道にオープンした『おかしやうっちー』。素材が持つピュアなおいしさを求め、訪れる人が止まない。
ここがお菓子屋さん…? ショーケースがない独自の販売スタイル
東京メトロ副都心線「北参道」駅。原宿や新宿の喧噪から少し離れたこのあたりは、小さなアパレルメーカーや住宅が佇む閑静なエリア。
その中に、菓子店らしい華やかな看板もなく、ひっそりと溶け込むように『おかしやうっちー』がある。
店舗スペースは、3~4人入ればいっぱいになる程の大きさ。奥には、予約制のイートインスペースがある。
店に入ってすぐの棚にあるのは、お菓子の見本。1種類につき1つのみで、作り置きを並べるショーケースが、『おかしやうっちー』にはない。
それもそのはず。素材のフレッシュな香りや味わいにこだわる同店では、作り置きは一切せず、当日作った分だけを売り切るスタイル。それぞれのお菓子を最適に保存するため、ショーケースに並べることはしないのだ。
オーナーは、あの人気レストランで注目を集めた実力派パティシエ
この少々型破りな店を作ったのは、オーナーパティシエの内山裕介さん。経歴もちょっとユニークだ。
『トシヨロイヅカ』をはじめ、都内の有名パティスリーで修業を積んだ後に渡仏。お菓子作りのみならずレストランの食べ歩きなど様々な経験を重ねた内山さんだったが、帰国後は洋菓子業界には戻らず、茗荷谷の和菓子店『一幸庵』に勤務。
「和菓子は洋菓子に比べて、あと味が軽いですよね。私が作るのは洋菓子ですが、和の要素を取り入れるのではなく、和菓子のように日本人の体に馴染むお菓子を作りたいと思ったんです」
実はフランスに渡る直前にも、和菓子店で修業をしたという内山さん。「パリに行く前に、日本のお菓子を知っておきたかったから」と、お菓子づくりに対する鋭気が伺える。
『一幸庵』のあとは、参宮橋のフレンチレストラン『ボニュ』でパティシエに就任。シンプルながらもどこにもないデザートを提供し、一躍グルマンたちの注目を集めた。
そして、より親しみやすく、自分らしいお菓子を作ろうと、満を持しての独立となった。
親しみやすいのに新しい、“型にはまらないお菓子”
『おかしやうっちー』にそろうのは、ショートケーキにシュークリーム、プリンなど、お年寄りから子どもまでが大好きなお菓子ばかり。けれど、ひとたび口にすれば、他のどこにもないおいしさに驚かされる。
『ボニュ』時代から大好評だったという、生クリームとスポンジのみという究極にシンプルなショートケーキ「みるく」(写真上)。真っ白い生クリームがケーキ全体を覆い、スポンジの間にもクリームがたっぷり!
「生クリームっておいしいけれど、濃くてたくさん食べられなかったりしますよね。このケーキは生クリーム特有の重たさをなくして、最後までおいしく食べられるものにしました」(内山さん)
クリームの軽さの秘密は、牛乳をベースにしていること。
一般的に、ケーキには乳脂肪分45%ぐらいの生クリームが使われるが、同店では牛乳に生クリームをプラスすることで、約20%の乳脂肪分にとどめている。ジャージー乳ならではのミルキーなコクがありつつも、あと味がさっぱりしたクリームは、口に入れるとスッと溶けゆくような軽やかさ。
クリームと一体となった、しっとり食感のスポンジ生地にも意外な工夫が。
通常、スポンジに水分を加える場合は“焼いた後”にシロップを塗ることが多いが、同店では生地がもつ卵の風味をしっかり味わってもらうため、シロップを使わない。その代わり、“生地を焼く直前”に水を加えることで、焼き上がりでも水分量を保持できるように調整しているのだ。
スポンジ生地の水使い、乳脂肪分の少ない生クリーム。いずれもお菓子作りの常識からは外れているが、シェフの卓越した技から生まれる至福のケーキにうっとりしてしまう。
パリッと香ばしい皮の中から、とろ~りクリームがあふれ出す!
こんがりした焼き色が食欲をそそる「シュークリーム」(写真上)。2つに割ると、トロンと流れ出るほどやわらかいカスタードクリームがたっぷり詰まっている。
クリームに使用しているのは、高知県産「神果卵(しんからん)」。濃厚でありながら、雑味のないクリアな味わいが特徴だ。
「濃厚さを出すために卵黄だけを使う方法もありますが、実は卵白にも、卵の香りがしっかりあるんですよ。だから、クリームには全卵を使用しています」(内山さん)
バニラも生クリームも使わず、牛乳と卵、少量の小麦粉のみで作ったクリームは、甘くミルキーな香りが立ち、コクがありながらもまるで飲み物のような軽さ。
しっかり焼き目をつけた皮は、パリッとしながらも極薄で、繊細で優しいクリームの良きパートナー。ほんのりきかせた塩味が甘さを際立たせている。
水のレアチーズ? 濃厚でさっぱりした味わいに感動
つるんとなめらかなビジュアルの「水のレアチーズ」(写真上)。名前だけみると、まるで奇をてらったかのようだが、訳を聞けば納得だ。
「定番のレシピだと、例外なく生クリームやレモン汁が入りますが、クリームチーズ自体が十分おいしいから、他の味を加える必要はないんじゃないかと思いました。おいしいチーズケーキを作ろうではなくて、『クリームチーズ本来のおいしさを、お菓子として楽しんでもらうには、どうしたらいいだろう?』という発想から、水を使うことにしたんです」(内山さん)
酸味と濃厚さのバランスがいいフランス産クリームチーズと水を混ぜ合わせ、最低限のゼラチンと砂糖をプラス。濃密でキメの細かいムース状に仕上げている。
“水”と聞くと、淡い味わいをイメージするかもしれないが、むしろ水を使うことで、チーズのミルキーなコクや香り、キリッとした酸味がダイレクトに感じられる。
口いっぱいに濃厚な味わいが広がったあと、スッと体の中に馴染んでいく様は、水のように自然だ。
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