ライター : tep

日本食には欠かせない「旨味成分」

私たちが物を知ったり、感じたりするために必要な感覚機能を「五感」と呼びます。「視覚」、「聴覚」、「触覚」、「味覚」、「嗅覚」です。そのうち味覚は文字通り、食に関する認識を担っている機能。さらに味覚を5つの基本味に分けると、「甘味」、「酸味」、「塩味」、「苦味」、「旨味」になります。 細かい基準はひとまずおいて、ようするに「甘み=甘い」、「酸味=酸っぱい」、「塩味=しょっぱい」、「苦味=苦い」、「旨味=旨い」……?……「旨い」?なにかほかの味覚と比べて、旨味だけ妙に抽象的というか曖昧というか、とってつけたような印象があります。そもそも、甘くても酸っぱくてもしょっぱくても苦くても、「旨い」と感じる食事があることは誰でもご存じの通りです。 とはいえ、もしかすると、私たちは根本的に旨味のことを理解していないのではないか、という可能性があります。「旨味=おいしさ」と、勝手に判断しているのではないでしょうか。 今回は、旨味とはなんなのか、旨味を構成する成分とはどんなものなのか、旨味について詳しく調べてみました。

そもそも旨味成分とは

いまお伝えしたように、旨味は5つの基本味を構成する1つの要素です。では、なぜ旨い(おいしい)が基本味に入っているかというと、じつはそもそも「旨味=旨い」ではないからです。 しばしば私たちは、「おいしい」と「旨味」を混同して使っていますが、それは誤りです。「旨味たっぷりでおいしい」といえても、「おいしさたっぷりで旨味がある」ということはできません。おいしさとは、味そのものを指すのではなく、匂い、食感、見た目、雰囲気など、さまざまな要因から導き出される“感想”のようなもの。おいしさは五感に左右される、といっても過言ではないわけです。 それに対して、旨味は基本味の1つに位置付けられていますから、「おいしい」という感想につながる以前の段階、おいしさに貢献する要素と捉えるべきものです。 たとえば、昆布ダシを思い出してみてください。ふくよかなコクとまろやかさ、あの味わいこそ代表的な旨味です。そして、あの味わいはアミノ酸の一種、グルタミン酸によって生み出されています。

旨味の起源

昆布ダシといえば、和食に欠かせませんね。日本では古くから料理に昆布ダシを活用してきました。昆布ダシに旨味があると、日本人は自らの舌で知っていたのでしょう。 明治時代、一人の大学教授が昆布ダシに注目します。東京帝国大学(現・東京大学)の池田菊苗さんです。「昆布ダシの正体はなんだろう……」と考えて、池田さんは研究を開始。ついに1908年、昆布ダシの中からグルタミン酸を発見し、グルタミン酸が生み出す味を「旨味」と命名したのです。 池田菊苗さんや、以下で詳しくご紹介する小玉新太郎さん、国中明さんなどの研究は国際的にも徐々に注目されるようになります。そして時代は流れ流れて、1985年、「第一回うま味国際シンポジウム」をきっかけに、「旨味=UMAMI」という言葉が認知されました。日本人の研究がついに身を結び、今では旨味を表現する「UMAMI」は世界標準になっています

旨味成分の種類

グルタミン酸

東京帝国大学の池田菊苗さんがグルタミン酸を発見したことは、上で述べたとおりです。昆布のほか、緑茶やトマト、白菜、パルメザンチーズなどにも多く含まれています。ちなみに完熟トマトがおいしい理由は、糖度が増すことに加えて、熟す過程でグルタミン酸が増えるからです。 そして池田さんの発見を受けて、新たな旨味成分が日本人によって次々と発見されました。

イノシン酸

1913年、池田菊苗さんの弟子である小玉新太郎さんが鰹節から抽出したイノシン酸。「呈味性ヌクレオチド」という、旨味を感じさせる「核酸関連物質」のひとつです。サバやタイなどの魚類、豚肉などの肉類に多く含まれているのですが、じつは死後になって量が増えます。死後、熟成する過程で含有量が増加するのです。 余談ですが、熟成がさらに進むと、イノシン酸はイノシンに変化し、最後、ヒポキサンチンという成分になります。ヒポキサンチン=臭み成分です。
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