連載

【連載小説】甘いクリスマスリースに微笑んで。第1話

7日連続でお届けするグルメ恋愛小説・第1話。仕事に没頭するあまり恋を後回しにしてきた咲子、28歳。入社以来ずっと仲良くしてきた同期の高志は、なんでも相談できる男友達だ。それ以上でも以下でもなく……そんな関係が、クリスマスを目前に動き出す。

クリスマスまであと5日・・・

クリスマスツリーに輝いて揺れる、まん丸いオーナメントを見るだけで嬉しくなる。

でも、同じまん丸でも、目の前に水晶玉を差し出されて「咲子さん、とりあえずこの水晶買ってください」なんて好きな男に言われる日が来るとは思いもしなかった。

私、春口咲子(ハルグチ サキコ)28歳は、仕事にのめり込んでしまい、気が付けば5年以上も彼氏がいない。

第二次結婚ラッシュの到来や、周りからのプレッシャーもあり、次第に独り身であることに焦りを感じ始めている。友達に相談してもあまり取りあってもらえず、誰にも相談できず、半年前から恋愛相談をしに、表参道のとある占いの館に通い詰めていた。

よく当たる、そして私の気持ちをよく汲んでくれる、頼りがいのある色白のハンサム占い師に、気が付いたら好意を寄せていた。

そんな彼から、さっきまで大事そうに使っていた水晶を差し出されたのだ。
「とても質の良い水晶で、なかなか手に入らないんです。私としても、手放すのは非常に惜しいのですが……」

動揺が走る。びっくりして思わず鼻がピクピク動く。

心を落ち着かせようと気合いを入れて、ムースで整えてきた、ショートヘアの髪先をいじった。

「えっ……。その……。大丈夫です。水晶は間に合っていますから……」

必死に平静を装い、なんとか声を振り絞った。

今日はクリスマスの5日前だから、特別特価の12万24円と言っている。

「おや、本当ですか? 水晶はいくつあっても困りませんよ。特に、この水晶は私の気持ちが入っていますから、私の代わりに咲子さんをしっかり守ってくれますよ」

ハンサム占い師は私を安心させようと、甘い瞳を不自然に輝かせている。
――私は自分の貯金を守りたい!!
今日は特別な話があると言われていた。

もしかして告白されるかもしれないと、密かに抱いていた期待を裏切る言葉にショックを受けつつも、必死で断って逃げ切った。

表参道の奥の通りにひっそりと存在する、薄暗い地下の部屋を後にする。階段を上る足取りが重い。

昔から男を見る目がないね、って女友達によく言われる。
でもね、まさかだよ、まさか。「ふたりになりたい」なんて言われたら、普通は期待するよね?
占いは口実で本当はデートに誘われたと思っていたのにその逆で、デートが占いの口実だったなんて……。

ずっと憧れていた男から水晶の営業をされるのが、こんなにも切なくむなしいものだと生まれて初めて知った。

数々の過去の失恋経験がよみがえる。地上に出ると、冬の冷たい風が頬に染みてきた。
買ったばかりの黒いエナメルのピンヒールが地面をける音も自然と速くなる。

きらびやかな表参道ヒルズのショーウィンドウに映った自分と目が合い、ふと立ち止まった。

170cmもある高身長。おまけにガタイも良い。ムースで整えたショートヘアに、いつもは履かないような、買ったばかりのフリフリのスカート。そしてピンヒール。

明るい色のスカートと対照的な暗い表情がくっきりと見えた。気合いを入れてきたばかりに、自分の姿が滑稽に思える。

そんな自分をこれ以上見たくなくて、さっきよりもさらに早く歩きはじめる。

幸せそうな人々の間をすり抜けるように小走りに歩いていると、甘い香りに誘われた。
見上げるときれいなコンクリートの壁に「BAKERY」の文字がご機嫌そうに並んでいるカフェがあった。

独創的なお菓子があると、流行に敏感な後輩の野宮麻衣(ノミヤ マイ)が昨日話していた店だ。

入ってみると、開放的なガラス張りの店内に、天井から大きな丸いオレンジ色の照明が吊るされている。

そういえば、麻衣が言っていた「スモモ?」に似た名前のお菓子も気になる。
名前が思い出せないでいると、店員がニッコリ笑いながら「フローズンスモア」のオーダーを取ってくれた。

焼きマシュマロに冷たいアイスを入れた、ニューヨークで大人気のスイーツらしい。

思っていたよりも大きかった。細い棒に、ペンケースサイズのキャラメル色のスモアが刺さっている。

大きく口を開けてほおばると、思わず顔がほころんだ。

あたたかい焼きマシュマロの中に入っている、冷たいアイスが喉をうるおす。

外はバーナーで焼いたマシュマロのパリパリした食感に、中は熱でとろけたマシュマロのやわらかい食感、最後に口の中で溶けていく冷たいアイス。絶妙な組み合わせだ。

新しい味に出会う喜びは時おりあるが、新しい食感に出会う喜びは年齢を重ねるにつれ間違いなく減ってくる。

スモアはUHA味覚糖の「シゲキックス」を食べた時以来の衝撃だった。

ひと口食べるたびに過去の失恋を思い出しては、ひとつずつスモアの新しい食感に浄化されていく。

学生時代は恋多き女と言われた惚れっぽい私だったのに、いつの間にか簡単に人を好きになることができなくなっていた。
そんな中、久しぶりにのめり込んだ恋愛だったのに……。
アイスと共に苦い思い出も溶け去ってほしいと願いながら、思いきり大きなひと口を食べる。

まだ半分も食べ終わらないうちに、BGMの陽気なクリスマスソングに混じって、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ごきげんよう!」

それは会社の同期、高志(タカシ)の声だった。
(続く)

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