ライター : dressing

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創業100年以上続く老舗『ぽん多本家』が愛され続ける理由

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創業1905(明治38)年。宮内省(現・宮内庁)の大膳寮(宮中の食事や饗膳をつかさどった部局)で西洋料理の料理人をしていた初代の島田信二郎氏が「ご飯に合う洋食」をコンセプトに創業した『ぽん多本家』。上野町(現在の上野4丁目)に店を構え、戦後の昭和23年に現在の場所・上野3丁目に移転してきた。 現在、店を仕切るのは島田良彦さん。『山の上ホテル』で研鑽を積み、36歳で『ぽん多本家』4代目を継承した。名物「カツレツ」は今でも大人気のメニュー。そんな『ぽん多本家』が100年以上愛される理由について島田さんにお話をうかがった。

元・宮内省大膳寮の料理人が開いた、「おまかせのみ」の高級洋食店

――まずは創業当時の『ぽん多本家』について教えてください。 島田:「当初はメニュー表がなく料理はおまかせのみでした。お客様にご予約いただいて、食材などを相談しながらコースを作る、というスタイルだったんです。車で来店するお客様も多いような高級店でしたので、店の前で車のドアが閉まる音がすると『うちのお客様だ』という感じだったようです」。
島田:「その後、大正時代になって、メニュー表を書き始めたと聞いています。ただ、メニュー表も変わっていましてね。経木(きょうぎ)に料理名だけを書いたもので、値段は書かれていないんです。例えばお客様がゲストを連れていらしたときに、メニュー表に値段が書いてあると気にされますでしょう。今から15年くらい前までそのメニュー表を使用していましたが、消費税の改定で値段を明記しなくてはならなくなり、現在のようにメニューに値段を入れるようになりました。また、料理は定食やセットではなくすべてアラカルトで、ご飯や汁物は別にご注文いただくのも、昔ながらのやり方を守っています」
▲島田良彦さん 1965年東京都生まれ。兄弟は弟が一人。高校卒業後、『山の上ホテル』で3年間の修業を経て、21歳で『ぽん多』の厨房に入る。36歳の時に父が他界し、4代目当主となる。

名物「カツレツ」は西洋料理をヒントに、豚肉を天ぷら式に揚げたのがはじまり

――名物の「カツレツ」はどのようにして誕生したのでしょうか。 島田:「カツレツは創業当時からのメニューだと聞いています。初代が、洋食の『コートレット』や『ウィンナーシュニッツェル』といった料理をヒントに、本来は仔牛を使うところを豚肉に変えて、たくさんの油で天ぷら式に揚げたのが『カツレツ』の始まりだと言われています。明治の頃は『とんかつ』という言葉はありませんでしたから、うちではずっと『カツレツ』という名称で続いています」
――「カツレツ」のこだわりについて教えてください 島田:「一般的にはいわゆる『ロースかつ』なのでしょうが、うちは初代の頃からずっと独自の製法を続けています。普通、ロースかつというと、赤身の上に脂身がのっておりますでしょ。うちではこの脂身を全部取って、赤身の芯の部分のみを使います。そして、取った脂を鍋で煮て自家製のラードを作り、揚げ油として使います。よく、良質な豚肉は脂身がおいしい、と言われますが、赤身と脂身の部分ではそれぞれ最適な揚げ時間が異なるので、例えば脂にしっかり火を入れようとすると、どうしても赤身に火が入りすぎてしまいます。ですからカツレツは赤身の部分だけにして、ラードでコクや風味を与えるという考え方です」
島田:「丁寧に脂を取り除いた豚肉をカットし、揚げる直前に肉叩きで叩いて繊維を柔らかくします。塩、コショウをふって、小麦粉、卵、少し粗目の生パン粉を順につけ、自家製ラード100%の油で揚げます。油の温度は120~130℃くらいの低温から入れて、最後は160~190℃くらい。衣がはがれないように、10分以上かけてじっくりと火を入れます。衣は軽く、肉は芯まで火が入りながらもすっと噛み切れるやわらかさ。カツはどっしりした食べ物というイメージがありますが、うちのはあっさりと食べられると思います。揚げ時間はあくまで目安で、営業中には一度に5枚入ったり、途中で2枚入ったりするので、そこを微調整しながら同じ揚げ上がりにするには、やはり経験が必要です」
――豚肉やパン粉などの素材はどのように選んでいますか 島田:「豚肉は、お付き合いのある業者からずっと仕入れています。お互いコミュニケーションをとりながら、うちに最も合う豚肉を選んでもらっています。昨今は豚肉もブランド化して、様々な銘柄豚がありますが、うちが重視するのは『赤身のおいしい豚肉』。昔は関東中心に仕入れていましたが、今は流通の発達もあり、北海道や鹿児島なども含め全国から仕入れています」
――「カツレツ」のカットの仕方や、付け合わせにも特徴がありますね。 島田:「一般的なとんかつは縦長にスライスしますが、うちではまず横半分に切ってから、縦に切り分けます。ひと口大に切ってあるので、食べやすいでしょう? 脂をあらかじめ取り除いてあるので、細かくカットできるんですよ。食べ方としては、まずはそのまま何もつけずに、赤身の香り、甘みを楽しんでいただきたいですね。あとは、ソース、塩、からしなどご自由に。自家製のソースは、あくまで脇役という位置づけで、ちょっと辛めで肉の味を損なわないような味にしています。カツの脇にちょこんとあるのは、ジャガイモです。これも昔からのスタイルで、箸休め的な存在。キャベツにもこだわっていて、芯を丁寧に取って葉脈に垂直に切ることで、ふんわり軽い歯ざわりに仕上げています。ご飯はずっとコシヒカリで、今は糸魚川産を使っています」

「ご飯に合う洋食」をコンセプトに、得意な揚げ物に特化して差別化

――お店の味を継承する上で、大事にしてきたのはどんなことですか 島田:「3つあります。一つは材料を吟味すること、二つ目は上手に揚げ油を取ること、そして三つ目は技術を高めることです。父は保守的で取材も一切断るような性格でしたが、私の代になってからはインターネットのサイトにもいち早く登録したり、カード払いをOKにしたりするなど、現代のお客様に合わせて変えてきた部分もあります。最近では洋食やとんかつのカジュアルな専門店も増えましたが、昔の人にとってカツレツはごちそう。今の若い人よりも量を食べたので、カツレツも昔はもう少し大きかったですね」
島田:「また、もともとのコンセプトが『ご飯に合う洋食』なので、例えばタンシチューの味つけには、ほんの少し醤油ベースの調味料を加え、ご飯に寄り添う味に仕上げています。タンは希少な黒毛和牛のタンを使い、タンの香りが抜けないように煮込んでは寝かせながら3週間かけて作っています。また、海老コロッケには、エビの下味に日本酒を使い臭みを消しています。器はずっと『大倉陶園』さんのものを使用しています」
――島田さんは、お店を継ぐことに対してどのように考えていましたか? 島田:「両親は私に直接、店を継げとは言いませんでしたが、周りには昔から若旦那扱いされていました。土地柄、商売をしている家が多く、長男が家業を継ぐのが当然のような空気はありました。高校に入学するときに、父に『3年生になったら将来やりたいことを聞くから、しっかり考えておきなさい』と言われ、高校3年間はバレーボールに打ち込みました。約束通り、高校3年生になった時に『何をするつもりなのか』と父に聞かれたので、そこで『(ぽん多を)やらせていただきます』と答えたんです。代々受け継がれてきたお店ですから、言葉通り『やらせていただく』という気持ちでした」
島田:「高校卒業後は、『山の上ホテル』で3年間、下積みをさせていただきました。婚礼も宴会もフレンチのセクションを担当し、毎日が戦場のような忙しさでしたね。21歳で『ぽん多本家』に戻ると、父はどんどん仕事を任せてくれました。順序だてて仕事を教わるというよりも、朝、河岸に仕入れに行くところから、仕込み、営業中、休みの日まで一緒なので、自然と覚えていったという感じですね。お得意さんが来ると、父は厨房からいなくなっちゃうんですよ。それはもう、緊張しながら料理をするわけです。少々粗っぽいやり方ですが、お得意さんはみな温かい方ばかりで、とてもありがたかったですね。父には日頃から『自分が死んだら次の日から代が変わるのだから、しっかりできるようにしておきなさい』と言われていました。実際に父は63歳で亡くなったので、36歳で私が4代目となりました」
――老舗の暖簾を守るために、大切なのはどんなことだとお考えですか? 島田:「私は、『自分の型を作ること』だと思います。お店という柱に、自分の形を寄り添わせて作っていく。そして得意なものに特化すること。うちの場合は洋食店としてスタートしましたが、もともと揚げ物を得意としていたので、今もメニューには揚げ物が多いんです。おそらく天ぷらを意識してのことだと思いますが、キスやアナゴといった魚介が豊富なのも特徴で、年配の人にも好評です。『ぽん多』は私の代で創業100年を迎えましたが、100年続くと自然と周りがざわざわしはじめて、世間の見る目もちょっと違ってくるなと感じます。一世紀という重みを感じますし、100年経ったら老舗と呼ばれていいのかな、という自負も感じます。東京はトレンドの移り変わりの速度が早いからこそ、今後も自分たちの得意なことを磨き上げて、末永く商売をしていきたいと考えています」 【メニュー例】 カツレツ 2,700円 穴子フライ 3,780円 きすフライ 3,780円 柱フライ 3,780円 海老コロッケ 2,700円 いかフライ 2,700円 タンシチュー 4,320円 ポークソテー 3,780円 蛤バタヤキ 3,240円 ご飯・赤だし・おしんこ 540円 ※価格は税込

ぽん多本家

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