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本郷の名木に見守られる“看板のない”レストラン
文京区本郷弓町にある樹齢600年のクスノキ。江戸時代から「本郷のクスノキ」と呼ばれるこの名木の足元に、看板のないレストランがある。
道路に面した側は一面ガラス張り。日が落ちた後は、暗やみの中にぽっと浮かび上がるお店の灯り。凍てつく冬にもそこには暖かな団欒のテーブルがある、そんなイメージの外観だ。
店の名は『クリマ ディ トスカーナ』。イタリアの中でもトスカーナ地方の郷土料理、ワインにこだわったレストランだ。
佐藤真一シェフは、20代の多くをイタリアで過ごし、『ミシュランガイド』掲載のレストラン数店で修業を重ねた。2006年からは南青山『イル デジデリオ』の総料理長として腕を奮い、多くの美食家を魅了。今回、満を持しての独立となった。
独立の際にこだわったのは、やはり自身が修行をしたトスカーナ。「郷土愛にあふれた彼の地の料理文化を、日本に紹介したい」という強い想いが、この開店につながった
明るく気持ちの良い空間をゆったりと楽しめるテーブル
入口には赤い大きなオーニングにシックな扉。どこにも看板はない。二枚扉を開くと、明るく気持ちの良い空間が広がる。
ウッディなワゴンを中心に、窓際、壁際にゆったりとしたテーブルが並ぶ。また、いたるところにトスカーナのワイン、絵画、装飾が配され、落ち着いたインテリアは心地よい。
また、昼間には柔らかな日差しとともに、荘厳なクスノキの幹を多くの席から眺めることが可能だ。
パスタ生地の独特な食感はイタリアの職人おばあちゃん直伝
『クリマ ディ トスカーナ』のこだわりは、食材やワインなど随所に現れる。例えば牛肉はトスカーナ地方のキアーナ牛をチョイス。手に入らないときは、短角牛を使用。どちらも脂質ではなく肉質を楽しむタイプの牛肉で、噛むことにより出てくる肉汁やうまみが赤ワインのタンニンによく合う。
チーズもイタリアから空輸されたものを仕入れ、グレードの高いコースでは数種類のチーズをプラッターに乗せて、お客に選んでもらうというプレゼンテーションをしている。佐藤シェフの修業したフィレンツェの人気リストランテでは、何と30種から50種ものチーズをプラッターに並べるとのこと。相談しながらワインに合うチーズを選んでいく、そんな時間も楽しんでほしいという想いが込められている。
パスタに関しては乾麺を使わず手打ちにこだわり、同店ならではのクオリティを追求している。エミリア=ロマーニャ州で修業中、休憩時間の毎日2時間、パスタ職人のおばあさんのもとに通い、打ち方を特訓した。極力、粘りを出さず、グルテン感の少ないモチッ&ムニッとした独特の歯触りになるよう仕上げている。
美しさ、楽しさ、おいしさが踊る皿、渾身の料理の数々が続く!
写真上は「石鯛と蕪の冬サラダ」。赤カブはレモンでマリネ、白カブはピクルスに。まわりに散らされたあやめ雪カブは、イタリアの魚醤であるコラトゥーラ、静岡産の柑橘・はるか、それにエストラゴンと共にドレッシングになっている。
カブの下には新鮮な石鯛。さわやかさとほどよい甘み、柑橘の苦みが奥行きのある味わいを構成する。
「ランプレドット アグレスト・デル・キャンティ」(写真上)。通常はギアラを使うランプレドット(フィレンツェのモツ煮のような伝統料理)だが、この一皿には小腸、ギアラ、トリッパという3種類のモツが使われ、食感の違いが楽しい。ソースはブドウのしぼり汁、キャンティの赤ワインヴィネガー、アンチョビ、ケッパー、ナッツをピューレ状にしたもの。適度な塩分と、ブドウの芳醇な香りが豊かに漂う絶品ソースだ。
「カペレッティ」(写真上)は佐藤シェフ自慢の一品。「小さな帽子」と名付けられたこの料理は、帽子型のラビオリの中に、ジャガイモ・エシャロット・パルミジャーノのみを入れ、ラグーソースなどと共に供される。
この日のラグーは猪肉と黒キャベツを使用しており、まわりにトリュフが散らされている。シンプルな中身のカペレッティだからこそ、素材のおいしさや生地質感が問われる料理。ジャガイモの豊かな味わい、ラグーの深み。そして生地の食感は、日本人の持つ「パスタ」のイメージをがらりと変えてしまうほど「別物」であり、絶品だ。
こちらは「ネグローニ」(写真上)と名付けられたデザート。同名のカクテルへのオマージュを一皿にしたという。カンパリでキャラメリゼした赤タマネギ、ベルモットを使ったマスカルポーネ、そしてジンを使ったさわやかなソースで、見事なほどの調和が完成。重く甘くなりがちなマスカルポーネのデザートを、ジンのさわやかさで、きりりと締める。絶妙のバランス感覚は圧巻だ。
ワインについては、ボトルで4,800円から10,000円までの幅がメインとなるが、スーパートスカーナワインなど20,000円を超えるものも用意。また、コースに合わせワインにも流れを持たせ、3種ないし5種のペアリングができる。あまり飲めないという人のためには、5種のワインペアリングはハーフ量もオーダーできるのがうれしい。
シェフの溢れる想いを五感で感じてみたい
佐藤シェフは、「料理人やソムリエ、サービスといった飲食業の仕事は日常の中に感動が詰まっている。その魅力も、もっともっと伝えたい」と語る。
抜きん出た技術と圧倒的なセンス、卓越したバランス感覚と溢れ出る愛。魂のこもった料理の数々は、食べた誰もが「トスカーナに行ってみたい」と感じるほどの魅力が詰まっている。「本郷のクスノキ」に見守られ、この店は多くの美食家に愛されていくのだろう。
【メニュー】
コース(ランチ) 2,200円、3,500円、6,000円
コース(ディナー) 6,800円、9,800円、12,800円
グラスワイン(10種ほど) 700円~
ワインペアリング 3,200円(3種)、3,500円(ハーフ5種)、5,500円(5種)
Clima di toscana(クリマ ディ トスカーナ)
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