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『ブーランジェリーレカン』の元シェフが作った“町のパン屋”
休日の静かなオフィス街の一角に、小さいながら朝から大賑わいの店がある。「あんパン」にしようか、それとも「塩パン」がいいかなと大人も子供も笑顔いっぱいでパンを選んでいる。人気商品は、みるみるうちになくなっていく。
2017年11月、『ブーランジェリーレカン』で活躍していたシェフ・割田健一さんが東京・東日本橋に『BEAVER BREAD(ビーバーブレッド)』というかわいい名前の店をオープンした。
古くから問屋街として知られるこの町は、日曜日には歩く人影もまばらになる。最近になって、メディアにも取り上げられるようなカフェやレストランが続々オープンするようになったが、ベーカリーはなかった。
「では、自分が作ろう」ということで、この界隈を昔からよく知っていた割田さんが『ビーバーブレッド』をオープンした。
告知は店先の張り紙のみで、プレスリリースをはじめとした広報は一切行わず、ひっそりと店を始めた。それでも初日には600人近くが来店。今や、平日や休日に関係なく、朝から晩まで地元の人たちが絶え間なく訪れる人気店となっている。
割田さんは、フランスパンの先駆的存在である『ビゴの店』で十数年ほど修業した後、銀座の老舗『ブーランジェリーレカン』のブーランジェリー部門の立ち上げに携わり、7年間シェフとして活躍。まさに王道フランスパン職人の道を歩み、数々の逸品を生み出す実力派シェフだ。そして、独立してオープンする店として選んだのが“町のパン屋さん”だった。
これまで、ずっとブーランジェリーに活動の場を置いてきた割田さんにとって、“町のパン屋さん”の定番「あんパン」や「メロンパン」を作ることは、いわば新しいことへのチャレンジだ。
定番の「メロンパン」も『ビーバーブレッド』流に変身!
店に並ぶのは、「バゲット」や「食パン」「クロワッサン」など定番で出しているものの他に、菓子パンや調理パンなど約40種類。割田さんのアイデアで毎日のように新作が増えていく。
「メロンパン」は一見すると、よくあるビジュアルだ。けれど、ひと口食べると、その生地のしっとり感、最後にほんのりメロンが香るといった奥行きのある甘さ、香りに驚かされる。
この「メロンパン」、店では様々に変身してみせる。なんと生ハムを挟んでしまった「メロンパンとオテイザの生ハム」(写真上)。え? と思う組み合わせだが、これが不思議と合う。
ほのかに甘い生地と、フランスの地豚「バスク豚」を使った塩気がマイルドな『ピエールオテイザ』の生ハム、肉厚でジューシーな山梨県産の巨峰のレーズンのバランスが絶妙。生ハムとなじむようにと、生地にはピマンデスペレットというバスク産のトウガラシを忍ばせる工夫をしている。豊かな経験を持つ割田さんだからこそ生まれたパンだろう。
店に出すと、あっという間になくなってしまう人気の「九州の明太フランス」(写真上)。明太フランスには歯ごたえのあるバゲット生地がよく使われるが、『ビーバーブレッド』では、柔らかい明太子と相性ぴったりの口どけの良い、ふんわり軽い生地を使っている。
はみ出るぐらいたっぷり明太ペーストが挟まれたパンは、ガブっと頬張ると明太子のおいしさが口いっぱいに広がる。
いつものパンが新しい顔を見せてくれる楽しさに、あれこれと食べたくなってしまうが、定番もお忘れなく。
それが、棚一つを占領している大きさに驚かされるカンパーニュ「マルディグラ」(写真上)。量り売りされており、好きな量だけいただける。
オーブンでじっくり時間をかけて焼き上げるため、外側は薄いながらカリカリと、内側はしっとりと焼きあげている。酸味がマイルドで、噛めば噛むほど味わいが出てくる。
薄めにスライスしてサンドイッチにしてもよし、ちょっと厚めにスライスすると、よりフカフカ感が増し、食事のお供にぴったりだ。どんな風に食べようかとイメージがどんどん膨らんでいく。
オープン当初から定番にしようと決めていたという「国産バゲット」(写真上)。北海道産小麦に、香りがよい湘南産と、口どけがよい三重県産の小麦をブレンド。異なる産地の小麦をブレンドすることで、香りや食感の良さが増し、味わいがより深いバゲットになっていく。
そして新作も登場。「トマトパン」(写真上)はトマトを使ったパンを、という声から生まれた。ハード系はあまり作らない予定だったが、トマトを入れるならどんなパンがいいだろうと考え、「トマト味がするカンパーニュ」をイメージして、ハード系のパンにドライトマトを合わせた。酸味がほどよいドライトマトを粗目に刻むことで、ゴロっとした食感とトマトの濃厚な味わいが楽しめる。
「ミルクチーズパン」(写真上)はチーズの入ったふわふわのパンを作ろうと即興で作られた。味が単調にならないように、味や食感の異なる3種類のチーズをミックスしている。牛乳をたっぷり入れた生地はふわっと柔らかく、外側の焼けた部分はカリカリに、内側はゴロゴロとしたチーズの味わいが楽しい。
この他、有名店とコラボした総菜パンが店頭に並ぶこともある。「カレーや焼きそばなどの惣菜パンは、やはり本職が作るとおいしいと思います。そういう本職の人たちと一緒に新しいスタイルのパンを出していきたい」。取材中も界隈の有名レストランのシェフが店を訪れ、割田さんと会話を交わしていく、これからも新しいコラボパンが生まれそうだ。
アイデア溢れるシェフが発想する「魅力的なパン」が続々登場か!?
棚の上に並んだセレクト商品にも注目したい。長野県『竹内果樹園』のコンフィチュールや『ピエールオテイザ』のパテ、広島県の「海人の藻塩」など、割田さんが実際に使っていたり、おいしいと思ったりしたものばかりが並んでいる。
「パンと何かを贈りたいなと思ったときに、ここにくれば珍しいものがあると思ってもらえればうれしいですね」
現在、『ビーバーブレッド』は、運営やコンセプト作りを行う割田さん(写真右)と、立ち上げから参加している湧井謙徳さん(同左)と二人でパンを作っている。
「正解かどうかわかりませんが、お客様と話をして反応を見ながら、今までとは違う発想でパンを作っていきたい」と割田さん。これからどんなパンが生まれてくるのか、ワクワクが止まらない。
【メニュー】
メロンパン 240円
九州の明太フランス 280円
ミルクフランス 270円
国産バゲット 300円
マルディグラ 14円/10g
トマト 280円
ミルクチーズ 240円
※価格は税込
BEAVER BREAD(ビーバーブレッド)
上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。
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