ライター : koku_koku

「一口残す」のナゼ?を考える

子供の頃、まわりの大人から「ごはんは残さないで食べなさい」とか「お百姓さんが頑張って育ててくれたお米を無駄にしたら勿体無いよ」といわれたことはありませんか?また、学校給食でも「残さず食べましょう」と教えられてきた方が大半のはず。
ところが、同僚や仲間とランチや夕飯に行った時、さりげなく一口残してしまう人はいませんか?また、「あ、それ私のことかも」と思ったあなた、実はマナーの歴史をさかのぼると残すことが正しい場合があるんです。

和食のマナーを考えてみよう

外国人に驚かれる文化のひとつに“暗黙の了解”があります。日本人が知らずと取っている行動で、それを、“日本人はシャイだから”と勘違いされてしまうことがあるとか。なかなか理解されにくい文化ですね。暗黙の了解とは多くを語らずとも状況や雰囲気を察して、相手の心の中を理解し、それに見合った行動することを指しますが、それが茶懐石のような、格式高い食事の席でマナーとしても存在します。
茶碗の底にごはんを一口残すことは、食事をつなぐことであり、まだ食事中であることを示すのです。茶碗の底にあるご飯を見て、おかわりを持ってきてもらえる、つまりそれが“もてなす側”と“もてなされる側”の“暗黙の了解”となっています。逆にすべて食べてしまったあとで、おかわりを要求すれば、もてなす側は、おかわりがしたいのにそれに気がづかない配慮に欠けた人という風に受け取られてしまうため、タブーとされているのです。
またさらに、一口残していることで“急がなくていい”という合図にもなるため、相手への配慮も垣間見れますよね。ビジネス接待の場などでは覚えておきたいですね。

中国の「残す」文化は?

おとなりの中国では同じように食事を残す文化がありますが、こちらはおかわりの時ではなく、食事が終わった時に少し残すのがマナー。
中国では来客の1.5倍分の分量で食事を用意して、それを来客ひとりひとりのお皿に取り分けてもてなします。たくさんの食事を用意することが“歓迎”している意味を成すからです。来客側が出されたものを残しては申し訳ないと完食してしまうと、「もてなした食事では満足していない。この量では足りなかったのか」と判断されてしまうようです。“食べきれないほど十分なおもてなしをありがとうございました”という意味で食事を少しだけ残すのが、もてなされた側の作法です。和食のマナーとは違い面白いですね。

マナーとは関係なくただ、食べられない人がほとんど

少し残すことが正しいマナーであるという反面で、たいていの人が残すのはただ、単純に満腹だからです。おひとりさまの食事の時は完食できる方も、飲み会やランチのときなど楽しみにしていた食事が運ばれてきてテンションが高まったのもつかの間、思ったほど食べられないなんてことありませんか?
それは、満腹中枢が食後30分経過したあたりで働きはじめるため、おなかがいっぱいだと感じてしまうのです。時間制のビュッフェなどに行った時、最初はたくさん取ってしまうものの、結局思ったほど食べられなかった方もいることでしょう。特に、ゆっくり噛んで食事をすることであっという間に満腹中枢が満たされてしまいますね。最後の一口は遠慮しているのではなく、本当に食べられない時もあるので、無理はしないでください。

その行動がクセになる!?

関東では“関東の1個残し”、関西では“遠慮のかたまり”という言葉があるように、宴会などの席で大皿に盛られた食事を少し残ったままにしておくことがあります。
接待や上司との食事の時など、目下の者が卑しく手をつけないようにする、目上の方からすすめられるまで待つなど諸説ありますが、大皿に盛られた食事を完食してしまうことで卓上の料理がなくなってしまい、宴会の空気感としてその場が寂しくなってしまうのもその理由ではないでしょうか。
茶懐石のマナーや、ビジネスの場での大人同士の気遣いが重なり、プライベートな場所でも食事を完食してしまうことが、何となく場の雰囲気を盛り下げると考えてしまうのでしょうか?やがて何でも残すことがクセになっていくのです。

なんでも残してしまうと食事が楽しくない

いろいろな文化の側面から、残す事がマナーだったり、食事を残す事で場の雰囲気の調和を保っていたりと事情があったとしても、それを守っていくばかりで食べ物を残す事を正当化してはいけません。
茶懐石はおかわりの時に限って残す事がマナーだったとしても、最後はきれいに完食していくのが礼儀ですし、日本人たるもの、”ごちそうさまでした”と気持ちよく手を合わせたいものです。気の合う仲間や家族で気兼ねなく食べているときなどは、みんなが食べられる量を楽しく食べるのが本来の姿。お子さんへの食育の観点からも、きれいに食べて食事を終えることを身につけたいものです。
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