ライター : yuco_1111

マグロが絶滅危惧種?

トロは中トロ、小肌、アジ、と往年のアイドルグループにも歌われたほど、日本は世界でも有数の、いえ、最大のマグロ消費国です。皆さんもお寿司といえば、ついつい中トロを頼んでしまうのではないでしょうか。しかし、このマグロがわたしたちの口に入らなくなる日も近いと言われていることをご存じでしょうか。
2014年に太平洋クロマグロが絶滅危惧種Ⅱ類に指定されました。絶滅の「深刻な危機」にあるとされるミナミマグロ、「危機」にある大西洋クロマグロに次いで、太平洋クロマグロもまた個体数の急速な減少から絶滅の可能性が高まったと絶滅危惧種の指定を受けることになりました。
現在、世界で獲れるクロマグロの約80%が日本で消費されており、クロマグロの個体数の急激な減少は、巨大な巻き網を使っての漁や若いマグロの摂りすぎが原因だと言われています。

絶滅危惧種とは

ところで、絶滅危惧種ということば自体を聞いたことがある方や絶滅の危機に瀕した野生生物だと知っているかたは多いと思うのですが、一体だれがどのような目的で発表しているのかをご存じですか?
絶滅危惧種とは、その名の通り、現在生存している生物の個体数が減少し、絶滅の恐れの極めて高い野生生物のことです。スイスに本部を置く国際自然保護連合(IUCN)に参加している世界160か国、10000人を超える専門家調査のもと、その調査結果と国際自然保護連合の規定した評価基準とを照らし合わせて絶滅危惧種は選定されるのです。
そして、絶滅危惧種と選定された生物は、定期的に更新される国際自然保護連合のレッドリストに記載され、保護すべき生物の優先順位を決定付ける資料とされています。

レッドリストとは

レッドリストは、絶滅する危険度の高さにより分類されます。危険度の高い順に「絶滅」「野生絶滅」「絶滅危惧ⅠA類」「絶滅危惧ⅠB類」「絶滅危惧Ⅱ類」「準絶滅危惧」「軽度懸念」の7つに分けられ、なかでも“絶滅危惧ⅠA類”“絶滅危惧ⅠB類”“絶滅危惧Ⅱ類”の3つを特に“絶滅危惧種”と呼んでいます。
日本に流通しているマグロのなかでも、ミナミマグロ、大西洋クロマグロ、メバチマグロはすでに絶滅危惧種として指定されており、そこに今回太平洋クロマグロもまた追加されたというわけです。
しかし、レッドリストは、あくまでも研究結果として絶滅の可能性が高い生物をリストアップしてある資料に過ぎず、なんらかの法的拘束力を持つものではありません。そのため、その生物の生息地である国や地域がそれぞれルールや手だてをおこなっていく必要があるのですが、その手だてが緩いと流通の歯止めは効かず、スーパーなどで普通に販売されるという状態が続くのです。

なぜ減少しているの?

クロマグロはかつての個体数と比較すると、この約20年の間に急激に減少しています。特に、太平洋クロマグロに関しては、産卵できる親魚がかつての4%しか生存していないといいます。この急速な減少の原因を国際自然保護連合は、“おもにアジア市場に提供するスシや刺身のために”、“産卵前の未成魚が乱獲されている”からだとしています。
つまり、日本人がマグロを求めてやまないために、世界中でマグロ漁がおこなわれ、卵を産む前の若いマグロをも乱獲してしまったため、全体的なマグロの個体数が減ってしまったというわけです。天然マグロの数が減ったのであれば、養殖で、と安易に考えがちですが、そうそう簡単にはいかないのです。近年ではマグロの養殖もおこなわれていますが、養殖の大半は天然の稚魚を捕獲して育てる畜養で、親魚が絶滅すれば畜養自体が不可能になります。
稚魚を捕獲して育てる畜養に対して、近大マグロで有名な近畿大学のマグロ養殖の方法は完全養殖といいます。完全養殖とは、人工ふ化させた稚魚を親魚となるまで飼育し、その親魚から採卵して、また人口ふ化させるという養殖の方法です。完全養殖には期待が持てますが、時間がかかるうえに、商業ベースに乗るまでにはもう少し時間がかかるようです。

日本が大きく関係している?

日本はマグロの消費量世界第1位の国です。世界で獲れるマグロの約2割を消費し、クロマグロに至っては8割を消費しています。と同時に、日本はマグロの漁獲量でも世界1位です。太平洋クロマグロの減少原因がアジア市場への提供といわれる背景に、日本が大きく関わっている事実を無視することはできません。
昔はそれほど消費量は多くなく、冷蔵技術が未発達だったこともあり、食べられる地域も限られていました。産業としての日本のマグロ漁業が発展したのは、第二次世界大戦後、缶詰市場に向けての輸出が盛んになってからのことです。その後、日本人の嗜好の変化により、マグロのトロが好まれるようになりました。当時の経済成長を背景に、日本国中にマグロが急速に流通するようになったのです。
特に好まれたのが、トロを多く含むミナミマグロ(インドマグロ)とクロマグロ(本マグロ)です。トロの需要が急激に高まるにつれ、トロを多く含むマグロを狙って漁をするようになります。それに従いその個体数も激減し、ミナミマグロは絶滅寸前、クロマグロも大西洋クロマグロ、次いで太平洋クロマグロもまた絶滅危惧種に指定されるほどに個体数が減ってしまったのです。

これから食べられなくなるの?

絶滅危惧種としてレッドリストに掲載されても、すぐにマグロが食べられなくなるわけではありません。レッドリストには法的拘束力がないからです。ただし、現在は国際的に自然保護、保全に関心が向いており、レッドリストへの掲載が、国際的な取引を規制するワシントン条約に大きな影響力を及ぼす可能性はおおいにあります。
ワシントン条約とは、絶滅のおそれのある野生動物が、国際取引によって利用されるのを防ぎ、保護するための条約です。レッドリストだけでなく、ワシントン条約によってもマグロが絶滅危惧種と認定されると、事実上商業取引は禁止になります。そうなると、わたしたちも今までのようにマグロを食することはできなくなるでしょう。
マグロのなかには、絶滅危惧種に指定されていない品種もあります。しかし、絶滅危惧種に指定されていない品種のマグロも個体数が急速に減少していることに変わりはなく、このままの状態では、ワシントン条約の取引規制がかからずとも、いずれマグロという魚自体を食べることができなくなってしまう可能性はおおいにあります。
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