ライター : dressing

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大久保の居酒屋の間借りを経て、雑司ヶ谷にオープンした『カリーザハードコア』

居酒屋やバーなど、夜営業のみの店でランチ営業をしたり、店の定休日に営業したりする“間借り”業態の飲食店がここ数年増えている。中でも勢いがあるのが間借りのカレー店だ。 浅草地下街での間借り営業でカレー界に旋風を巻き起こした『Kalpasi(カルパシ)』(千歳船橋)をはじめ、間借りからスタートし今では有名カレー店としての地位を確立している店も少なくない。 2020年1月に大久保駅近くの居酒屋の間借りからスタートし、2021年4月、雑司ヶ谷駅近くにオープンした『カリーザハードコア』もまた、そんな“未来の名店”の可能性を感じさせるカレー店だ。
『カリーザハードコア』があるのは、東京メトロ副都心線の雑司ヶ谷駅、または都電荒川線の鬼子母神前停留所から徒歩2~3分のところ。モダンなデザイン建築と下町の古い商店が融合する街並みに、過激な店名ののれんと看板がしっくりなじんでいる。
30年以上営業していた居酒屋をほぼそのまま使用しているため、オープンして2カ月弱と思えないヴィンテージ感がある店内。居酒屋の常連だった人が時たま来店し、「前の店そのまま」となつかしんでいくという。
「僕が間借りしていた居酒屋さんも古い店だったので、この古さもいいなと思って…」と語るオーナーシェフの喜多康平さん(写真上)は、元声優という異色の経歴の持ち主。声優の道を断念し、会社員をしていた時期もあったという。 進むべき道に思い悩んでいた時、声優時代にイベントで出していたカレーが好評だったことを思い出す。とはいえ、カレー店を開くほどの自己資金はない。十数年間、通い続けていた居酒屋の店主に相談したところ、「うちはランチをやっていないから、その時間にやればいい」と言ってもらえ、間借りカレー店を開いたところ、大人気となった。
不定期で店を手伝っている烏合(うごう)りらさん(写真上)も、間借りカレー店時代からの大ファンの1人。「二郎系のようながっつりした味が大好きで、『ぴったりのカレー屋があるよ』と教えてもらって行ったら、私の好みどストレートでした!」(りらさん)。

自分の好きなものをどんどんプラスしていったら、ドイツ料理との融合カレーになった

間借りカレーを始めるにあたり、店の顔となる定番カレーを決めるためにさまざまなカレー店を食べ歩いた。

そのひとつが創作スパイスカレーで有名な『カリー プンジェ』(要町)。「その味があまりに衝撃的で、『こういうカレーがあるなら、自分の好きなことをとことん追求したカレーを作ろう』と吹っ切れたんです。

じゃあ自分の好きなことって何だろう、と思ってまっさきに頭に浮かんだのが『俺、ハンバーグ好きだな』ということ(笑)」(喜多さん)。
ハンバーグの原型は、ドイツの「フリカデレ」という一口サイズの肉団子なので、それを踏襲。肉団子のカレーはインドにも「コフタ」があるし、トルコにも「イズミールキョフテ」というカレー風の煮込み料理がある。

だがそれらのソースはどれも、自分の好きな合い挽き肉のハンバーグとはしっくりこなかった。であれば、ハンバーグに合わせたドイツ料理ベースのカレーなら合うのではと考え、ドイツ料理の代表的なシチュー「グヤーシュ」にスパイスを加えてカレー風味にしたら、理想とするカレーにぐっと近づいた。
友人に食べさせたら「おいしい。おいしいけれど、もうワンパンチ欲しいよね」という感想。その「ワンパンチ」がどこにあるのか模索していた時、ヒントとなったのが大好きな『ラーメン二郎』。いつものように立ち寄って「野菜、ニンニク、脂を足してください」と頼んだ時、「脂を足すっていいかもしれない!」とひらめいた。 ドイツ料理をベースにしているので「背脂 ドイツ」で検索したらシュマルツという、背脂で作るバターのようなものがヒットした。それを足してみたところ、コクが足りないと思っていた部分をちょうど埋めることができた。それが今、店で定番として出している「ノーマルカレー」だ。 「だから、うちの『ノーマルカレー』は、ハンバーグとカレー、『ラーメン二郎』の背脂と、僕が好きな物を全部プラスしていった結果、できたものなんです」(喜多さん)。

「店名はハードコアだけど、カレーは全然辛くないといわれることもあります」

カレーのメニューは、基本的に、ハンバーグ3個入りの「ノーマルカレー」、ノーマルカレーにチキン2本とハンバーグ2個が追加された「ハードコアカレー」、日替わりの限定メニューの3品。

ほかに、カレーソースが少なくシュマルツ3倍、フライドオニオンが山盛りの「シュマルツめし」(ハンバーグ3個、チキン1個付き)がある。
「初めて店を訪れる人に、まず食べてほしい」(喜多さん)という「ノーマルカレー」(写真上)。一口大のハンバーグ3個、その時々で変わる漬物、タマネギのアチャール(インド風ピクルス)がついている。
“ハードコア”という店名から辛さが強烈なカレーをイメージするかもしれないが、まったく違う。カレーソースはサラサラで、独特のスパイス感もあるが野菜のうまみ、甘みが強く感じられて、実に食べやすい味なのだ。

「店名はハードコアなのに、カレーは全然辛くないといわれることもあります。でも僕は、多くの人がおいしいと思える辛さで止めておきたいんです。

役者をしていた時、演出家によく『お客さんに向き合っていない自己表現は表現じゃない』と言われていたのですが、僕は心根がオタクなので、すぐにまわりを無視して突っ走ろうとしがち。だからそのストッパーの部分として、とがってなくて、伝わりやすさをとことん追求した『ノーマルカレー』を作っているんです」(喜多さん)。
「ノーマルカレー」の最大の特色がたっぷり添えられたシュマルツ。「シュマルツ自体にはそれほど味はないんだけど、調味料として使った時にすごい威力を発揮するんです」(喜多さん)と言う通り、シュマルツを溶かすと味わいが激変。

一気に深まったコクとうまみに後押しされて、スパイスの存在感がスッと立ち上がる。この味変の面白さにハマる人も多いのではないだろうか。
「ごく普通の作り方だけど、秘密のスパイスを少々入れている」(喜多さん)というハンバーグは、このカレーソースとの相性が抜群。1個目は丸のまま味わい、2個目からはくずして、ソース、ライスと混ぜ、その相性のよさを楽しもう。 ご飯はノーマルカレーのサラサラ感との相性を探り、パスマティライスとジャポニカ米を混ぜている。カレーをかけても崩れすぎず、まとまりすぎず、すっきりサラサラ食べられる。 700円という価格にも、喜多さんの“意地”があるという。 「役者をしていて生活が苦しい時期が長かったせいか、初めて行く飯屋で1,000円以上出すことに僕は今でも抵抗があって、自分の店で出す勇気が出ない(苦笑)。だからお試しとして700円で食べてもらって、もし気に入ったら次は1,300円の『あいがけ』もよかったら食べてください、という感じなんです」(喜多さん)。

「うちは限定メニューになると急にハードコアになる」

「ノーマルカレー」が喜多さんの暴走しがちな個性のストッパーだとすれば、個性を存分に発揮しているのが日替わりの限定メニュー「あいがけ」だ。

「うちの店は『限定メニューになると急にハードコアになる』とお客さんにもよく言われます。確かに突飛なメニューも多いんですが、自分としてはいろんな人に食べてほしいので、一般的な食べやすいカレーとしてやっているつもりです」(喜多さん)。

限定カレーは「ノーマルカレー」とのあいがけで、鶏手羽元1本がプラスされる。日替わりなので多種多様なカレーがあるが、ノーマルカレーと相性がいいことを大切にしているという。
取材当日の限定カレーは、パキスタンの羊のもつを使った「オジリ」というカレーをイメージした「あいがけ豚もつとひよこ豆のカレー」(写真上)。羊の胃袋はクセが強くて苦手な人も多いので、豚もつで作っている。
ターメリック入りのお湯で茹でた後、さまざまな下処理をした豚もつは、軽く噛み切れるやわらかさで、ふっくら、プリプリ。もつ独特の食感も残っているのでもつ好きにはたまらないし、もつ独特の臭いが皆無なのでもつが苦手な人でもおいしく食べられるだろう。
もつのプリッとした食感と、ひよこ豆のさっくり、ホロリとした食感の対比も楽しい。「ノーマルカレー」よりもパンチのきいたスパイス使いがこの2つの食材と絶妙にマッチしている。
取材日前日の限定カレー「あいがけポークタンカレー」(写真上)。ベースはトマトとタマネギだが、豚タンは煮込むと淡白になりやすいので、ワインで煮込んでコクを加えている。
こちらは、まるでじっくり煮込んだ洋食店のデミグラスカレーのような、まろやかな味わい。だがスパイスの主張もくっきり感じられ、たまらなく食欲をそそる。どちらも、シュマルツでがらりと味の印象が変わる。 クラムチャウダーをカレーにアレンジした「アサリのカレー」、エビしんじょうをカレーに落とし込んだ「エビと豆腐のキーマ」など、限定カレーのアイデアは、カレー以外の料理をアレンジしてカレーに落とし込むことが多いという。時には20cmほどもある羊のすね肉をまるごと1本カレーに入れることもある。 「出した時に、クスッと笑ってもらえる瞬間があって、それが最高に嬉しいんです。うちにくればちょっと面白いカレーが食べられると思ってもらいたい」(喜多さん)。

手のかかった絶品副菜は、1皿200円!

カレー以外で、この店に来たら忘れず注文したいのが、1皿200円の副菜。
定番の「砂肝のアチャール」(写真上)は、熱烈なファンが多い喜多さんの自信作。クミン、ターメリック、フェヌグリーク、レッドチリパウダー、塩で砂肝をマリネして、こだわりのバランスでミックスしたひまわりオイル、マスタードオイル、オリーブオイルで炒めてからしばらく置いて味をしみ込ませている。 サクサクとした歯切れのよさと、刺激的なスパイスの香り、オイルのうまみで、クセになって食べるととまらない味。コリコリした食感がカレーのとろみの絶好のアクセントになるので、カレーの上にトッピングしていっしょに食べる人も多いそうだ。
コリアンダーとマスタードシードオイルでテンパリングしたオイルでヒヨコ豆を炒めた「スペイン風豆サラダ豆」(写真上)は、まさに香りを味わうサラダ。味付けはほぼ塩のみだが、調理の各段階で細かく調整しながら入れているので、絶妙な塩加減が豆全体にしみている。

理想を目指すより、できることを積み重ねて自分だけの”武器”を見つけたい

喜多康平さん(写真上・左)と、烏合りらさん(同・右)。

喜多さんのモットーは“凡事徹底”。「理想のカレーを求めても、それが自分の到達できる理想かどうかはわからないですよね。かなえられない目標を持ってつぶれるのは、役者時代にさんざん味わってきたのでもう十分(苦笑)。

だからカレー屋としては、できることをひとつずつ増やしていって、その中から自分の武器を見つけたい。町の飯屋としてちゃんとした水準を保ちつつ、当り前のことを最高のところまでレベルアップしていって、店を辞めるその日まで常連さんに『今日もおいしかったよ』と言ってもらえる店にしたいんです」(喜多さん)。
喜多さんがもうひとつ目指しているのが、これから間借りカレー店をやりたいと思っている人への情報提供だ。

「間借りカレー屋をやってみて本当によかったのは多くのカレー好きの人と知り合えて、助けてもらえたこと。自分ひとりだったらどうやったらいいかわからないことばかりだったので…。

カレー好きな人って、本当に温かくて面倒見がよくて、面白い人が多いんですよ。だからもしこれから間借りカレー店をやってみたいという人がいたら、僕がわかる範囲なら何でも教えてあげたい。貴重なことをたくさん教えてもらったのでそれを伝えないともったいないし、第一いろんなカレー屋があったほうが、面白いじゃないですか」(喜多さん)

【メニュー】
ノーマルカレー 700円
ハードコアカレー 1,000円
あいがけ豚もつとひよこ豆のカレー 1,300円
あいがけポークタンカレー 1,300円
シュマルツめし 1,000円
本日の限定メニュー 1,300円
サイドメニュー 200円 ※砂肝アチャール・スペイン風豆サラダなど
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