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レッテルをはがして楽しむために注目すべき2つのエリア
来年、2020年の干支はねずみ。12年、ぐるっと周ってまた新たな12年のはじまり。ワインの楽しみ方や知識的なものも、この12年の間に、凝り固まってしまったものもある。
新しいものが目の前にあるのに、常識に縛られて気が付かないのはもったいない。そこで、新しい12年を前に、凝り固まった常識をはがしてくれる、期待の2つのエリアの2つのブランドを紹介しよう。
■英国(イングランド)
前回のコラム(まだまだ続くラグビー熱! ラグビー観戦をもっと面白くする「こんなお酒」「あんなお酒」)でも少し触れた英国産スパークリングワイン。
もともとワインの大消費地で目利きの国でもあるが、ここのところイングランド/ブリティッシュワイン自体の評価も高まっている。特に顕著なのがイングランド南部で作られるスパークリングワインだ。
もともとフランス・シャンパーニュと地質・土壌が似ていて、緯度も近い土地柄ではあるが、それだけで良質なスパークリングワインが生まれるわけではもちろん、ない。
そこに卓越した技術であり、夢と希望と、そのための根気であり信念を持ったワインメーカーがいてこそ、こうした舞台を生かせるわけだ。
そのブランドが『ナイティンバー』だ。英国南部のウェスト・サセックス州、ハンプシャー州、ケント州が本拠地。
2006年に現オーナーのエリック・ヘレマ氏がこの地の可能性に賭けてプロジェクトをスタート。
翌年、カナダでキャリアをスタートし豪州、ニュージーランド、アメリカ・オレゴン、ボルドーなどでワインを手掛けていたシェリー・スプリックスとブラッド・グレイトリックスのワインメーカー夫妻が参画。ここから『ナイティンバー』の物語が始まる。
以後の物語はまた別の機会で紹介するが、2018年には、醸造責任者であるシェリーさんが、権威あるIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)において、シャンパーニュ地区以外で初、かつ女性としても初の「スパークリングワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」を獲得。
わずか10年、ともいえるけれど、その裏に才能と尽力、そして英国南部という新たなテロワールの存在があり、確かな足取りで良きワインを生み出してきた。
2019年11月より彼らのラインナップから6アイテムが日本でもリリースされた。好みや登場する場面は読者のみなさんそれぞれに委ねるとして、ここでは3つのアイテムを紹介しておこう。
『ナイティンバー』の飲むべきワイン
まず「ロゼ・マルチヴィンテージ」(写真上)。シャンパーニュで言うところのノンヴィンロゼ。
これが可愛らしい花見のロゼではなく、仕立てのいいジャケットを着た紳士がたしなむような端正なスタイル。
それでもストイックな場面ではなく、家族でローストターキーを囲んだ幸せで慎ましやかな場面が浮かぶ。複雑さ、美しさ、生真面目の中からにじみでる優しさと余韻の朗らかさ。
▲最高醸造責任者のシェリーさん
2つめは「キュヴェ・シェリー マルチヴィンテージ」。シャンパーニュで言うところのドゥミ・セック。平たく言えばやや甘口。でもスイートワインという枠では括れない。
名前の由来は醸造責任者のシェリーさん(写真上)からかと思っていたら、商品名は CUVEE CHÉRIEで、彼女の名前の綴りはCHERIEさん。CHÉRIEはフランス語で「愛しい人」という意味だそうで、このワインのテイストから名づけられたようだ。そしてワインはその名の通りの愛しさがある。
オフドライのリースリングを思わせる美しい酸とほっこりする抜け感が、柔らかくもしっかりした泡と絡み合い、気持ちを安らぎにもっていってくれる。
ペアリングは東南アジア系のスパイス、カジュアルにいえばスイートチリソース、和食なら瀬戸内スタイルの鯛めしや関西のあなご飯。甘酢を使った料理も優しく手を取り合うだろう。
このテイストは2020年、注目されるのではないかと考えている。その理由は次回のコラム(2020年の食のトレンド)でも触れることになるだろう。
最後に、「1086プレスティージキュヴェ2009」(写真上)。価格は3万円を超えるがその価値は十分。シャンパーニュのどれに勝るとかそういうことではない。
シャンパーニュの中にも多彩な個性と上質があり、それと同じように英国という個性と上質があるということだ。
ある日は『ベルエポック』、ある日は『クリュッグ』、そしてある日は『ナイティンバー』を選ぶ。ただそういうこと。そう思わせてくれることに価値がある。優劣なんてくだらないことではない。
登場する場面は年に数回の贅沢な夜。ただゴージャスということではない。筆者なら、冬の北陸、雪の夜。単純に高級なところではなく、大切な人とくつろげる上質な旅館。
そこで地元の冬の味覚を丹念、丹精、でもその良さを生かした懐石。雪の借景、温かいおもてなし。そこにこの1本がある喜び。
繰り返すがシャンパーニュとの優劣ではなく、シャンパーニュやフランチャコルタといった上質なスパークリングワインに、またひとつの「彩」が生まれたことを喜ぼうではないか。
英国で造れるわけがない。ましてや上質なスパークリングワインなんて……。そんなつまらない常識を、『ナイティンバー』は真摯な微笑みで蹴飛ばしてくれる。
■チリ
英国のスパークリングワインが多くの人には初体験となるワインだとすれば、チリは逆に多くの人が体験済みだろう。
これがまたやっかいで、強いイメージがつきすぎて新しく生まれたものや、その裏にある「真実」には目を向けてもらえないことも多い。
日本でワインが最も輸入されている国がチリ。“安旨”というのはうれしい評価だが、単に安い、多様性がない、欧州に比べてみればたいしたことはない、ちょっとかじった人では、面白みのないカベルネ・ソーヴィニヨンだけでしょ、というワードが並ぶ。残念でならない。
今年の春、「高コスパだけじゃない! 今のチリワインの世界がわかる、プロ絶賛の素晴らしき「チリワイン」4選」というコラムでチリワインの「真実」を紹介した。
西の寒流、北には世界で最も乾燥しているという砂漠、東に天に連なるアンデスの銀嶺、南は氷河という環境はオーガニックに適した、ではなく、オーガニックにしかならない天然の恵み。
そこで育まれたワイン造り、世界の最大手ワインメーカーたちがこぞって熱い視線を送るテロワール、さまざまなブドウ品種の魅力…。
チリワインを代表する『コノスル』の誇り
こうしたチリワインの「真実」を身近で存分に堪能できるのが『コノスル』だ。自転車が描かれたラベルは、ワインショップだけではなく日本各地のコンビニやスーパーマーケットで見ることができるだろう。
つまりはあなたの身近にあるワインということだ。身近にあるということはたいしたことはない、そうではない。チリワインの本当のエッセンスが身近にある喜びを感じて欲しい。
『コノスル』の日本初上陸から今年は25年目。その当時、チリワインはレッテルをはられるどころか日本では未知数。ビジネスとして成功するなんて夢のまた夢、という時期だった。
『コノスル』が日本で展開しているワインは60を超える。それはチリワインの真実を知るショーケースであり体感できるミュージアムだ。
チリで栽培され、すでに評価されているものからこれからの可能性を拓くものまで多種多彩なブドウ品種、デイリーレンジから2万円を越えるハイスペックなワインまでが揃うラインナップ、これぞチリという伝統的なテロワールから注目すべき新しい産地までがそこにある。
筆者は実際に『コノスル』を訪問したが、そのとき徹底したオーガニックへの取り組みと真摯なワイン造りを目にし、畑を自転車で走った。
スタッフは作業服にその自転車を背負う。自転車と畑。それは大手ながらもクラフトである『コノスル』の誇りなのだろう。
デイリーのソーヴィニヨン・ブランからプレステージュのピノ・ノワールまで、『コノスル』のワインは、チリの今までと今とこれからのすべてを教えてくれるだろう。
個人的なことになるけれど、12年前の2008年、私がシャンパーニュ専門サイトを立ち上げてから、本格的にワインを伝える側に入った年でもある。
その際に、いわゆるプロと一般の方の間に入ってもっと楽しくワインを伝えたいという思いをもって仕事を始めた。
また、ワイン愛好家が「にわか」の人達を排除するような上から目線に対して、モノを申したいという気持ちもあった。
この12年、私自身が逆に凝り固まり、常識に縛られるようになってはいないか?新しい12年を迎えるにあたって、立て続けにこの2つのブランドのキーマンと直接会って話すことができたのも何かの縁なのではないか。
自戒をこめて、希望を感じて。この2つのブランドを紹介した。他にもみなさんに伝えたいブランド、エリア、店はたくさんある。引き続きこの気持ちをもって紹介していきたい。
写真提供元:PIXTA(一部)
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