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初心者にこそ楽しんでほしい「オレンジワイン」【ワインナビゲーター・岩瀬大二】

この記事は、豊かなフードライフを演出するWEBメディア「dressing」の提供でお送りします。
ここ数年、ワイン業界の中で注目されているキーワードの中に「オレンジワイン」がある。
ワインに詳しくない方からは大概「ブドウではなくオレンジからできたワイン?」という反応が返ってくるが(実は筆者も最初に聞いたときはそう思った)、これは白、赤、ロゼと同様、色合いのことで、ちゃんとブドウから生まれた通常のワインである。 欧米ではオレンジというよりもアンバー(琥珀色)と呼ばれることも多いが、ここではオレンジと呼ぶことにしよう。
このオレンジワイン、とても良いワインで、知れば、また、味わえば実に魅力的なものなんだが、ワインを詳しく知ろうと思うと若干面倒な存在でもある。 でも、そこを軽やかに楽しんでいただくために(そうすると本当にぐっとワインの世界とその楽しさが広がるのだ)、今回はその魅力をご紹介したい。

「オレンジワイン」は白ワインの仲間!?

まずは、ざっとオレンジワインとは何か? を紹介しよう。ちょっと難解なわかりにくい漢字とカタカナが並ぶが、しばしご辛抱いただきたい。
結論から書くと、「ざっくりいえば白ワインの仲間」であり、「自然派の造り手が手掛けることが多い」ということを説明しているので、難しいなと思われる方は、このパートは飛ばしていただいてもかまわない。では説明しよう。
まず、オレンジワインの造り方は「白ワイン用のブドウ」を「赤ワインのように醸す」こと。どういうことかというと、白ワインを造る際には使用しない果皮を、赤ワインのように一緒に仕込むということ。 赤ワインはその素材となる黒ブドウを果皮などと一緒に仕込むのが通常のやり方。これを白ワインでやると、結果として色がオレンジ、アンバー、ゴールドになる。こうすることで、皮由来の香りや渋み、旨みといった白ワインに足りないとされる要素が加わるというメリットがある。
もちろん、これまでポピュラーではなかったということは、ある意味では通常の白ワインには不要の要素であり、加えることはデメリットともなるわけだ。しかし、より旨みが欲しい、より自然なかたちで白ワインを造りたいという生産者にとっては、これは大きなメリットになる。
ちなみにロゼワインの一般的な造り方はこれとは逆に、赤ワイン用のブドウを白ワインの要領で、果皮を早々に取り除いて果汁だけで造る。というわけで軽やかな赤色と味わいになるわけだ(ロゼ・シャンパーニュはまた違うやりかたで、違う効果が得られるのでこれはまた別の機会に)。

ルーツはジョージア! 自然派ワインに由来があった

ここまでが造り方で、ここからは歴史的な2つの流れを紹介しよう。ルーツは、大きく2つあるとされる。ひとつはジョージア(旧名グルジア)。ここは古代からワインが造られていた歴史のある産地だが、近年になって世界的に注目が集まってきた。
それは多種多彩なブドウ品種がこの地にあり、また、クヴェヴリという素焼きの壺を土中に埋めた発酵方法が自然でユニークだということが要因に挙げられる。 この発酵方法は概ね、先に書いたオレンジワインの造り方で行われるが、ジョージアでは自然なかたちで、かなり古くからこのワイン造りが行われており、特に意識しなくとも今でいうオレンジワインのようなかたちになっていたのだ。
これがひとつの流れで、もうひとつは90年代後半、北イタリアの名醸造地フリウリで生まれた流れだ。 ルーツはジョージアではあるのだが、これに目をつけた自然派ワインの造り手たちが現代のワイン造りの中に取り込み、より旨みや複雑味を狙った通りに、しかし、あくまでも自然な造り方を生み出した。 これが、イタリアからフランス、ドイツその他周辺国の自然派ワインの生産者に広がり、そこから世界を席巻。
当時、日本では、まだ自然派ワインについてあまり知られておらず、このムーブメントはあまり広がらなかった。ただ、近年ではおしゃれなビストロやカフェで、自然派ワインは当たり前のようにオンリストされ、オレンジワインも身近になった。 いにしえのジョージアで生まれ育まれた、歴史のロマンに彩られたオレンジと、最近のライフスタイルとも紐づき、むしろおしゃれともいえるオレンジ、その2つがある。

いろんな料理とペアリングが楽しめるのもオレンジワインの魅力

ということで、現在日本で味わえるオレンジワインとしては、ジョージア、イタリアをはじめ、フランス、オーストリア、ギリシャ、さらにオーストラリアあたりもおもしろい。 それぞれの産地ごとに一応の特徴はあるが(ジョージアはタンニンが強めでキレがあるとか)、通常のワインよりも現状は産地の特徴というよりも、それぞれの造り手の個性が出ているという傾向がある。 これはむしろ、ワイン初心者にとっては良いことかもしれない。
というのも、現状では知識で選ぶ、飲む、というよりは、ラベルデザインで気に入ったもの、感覚が合うものというようなチョイスのほうが自分にとっていいオレンジワインと出逢える可能性が高い。そもそも、生産者自体、オレンジと謳ってラベルに書いていることはあまりない。
本人たちは白ワインを造っているつもりでもあるので、ビアンコやブラン(ともに白という意味)と表記されていたりする。色以外、あまり手掛かりがないのが実情で、たまたま気に入った生産者を追いかけて、そうこうしているうちに似たようなものに出逢って広がる、そんなことでもいいのだ。
そしてオレンジワインの最大の魅力はフードとのペアリングの幅広さだ。タンニンや旨みの強い白ワインということは、白ワインが合うものにも対応するし、軽めの赤ワインが合うものにも対応できるということ。
実は……と前置きすることもないのだけれどワインのペアリングは突き詰めると難しい。白身魚の刺身に赤ワインでは白身魚の繊細さや甘さを楽しめないし、フレッシュな白ワインに複雑なスパイスの料理を当ててもただスパイスの味がするだけということで、魅力が失われる。 失われるぐらいならまだいいのだけれど、中には臭みや生臭さが増して嫌な思いをすることも少なくない。考えれば考えるほど1つのワインが対応できる食の幅は狭い。それが、オレンジワインは不思議に幅広く手を取り合ってくれるのだ。
ワインを料理に合わせて何杯も頼むのは面倒くさいし、量もかさむし、高くつく。そんなときはオレンジワインが1本あれば、前菜、魚、肉と無理なく寄り添ってくれる。魚も白身からマグロ、貝類、ブイヤベースや西京焼きまで幅広い。テクスチャー(骨格)もしっかりしているのでコースの中で普段は合わせづらいスープも合う。
魚の旨みから肉の甘さまで素材を生かすし、クミンなどのスパイスのニュアンスがあるものも多いのでカレー的なスパイスや、サフラン、コリアンダーのようなものも合う。つまりはアジアから中近東、そして北アフリカというエキゾチックな料理も楽しい。
天然酵母の発酵の旨みがあるので、味噌や発酵食品など日本ではおなじみの食もいい。いぶりがっこ、野沢菜、キュウリの肉みそなんていう居酒屋的なメニューだって問題ないものもある。また、B級グルメもいろいろ試したくなる。おしゃれなビストロで人気だからとおしゃれな料理を合わせる必要もない。
そしてオレンジがあればいつものワインのバリエーションに彩りが増える。スパークリングワインのゴールド、白ワイン、ロゼのさまざまなカラー、赤の濃淡、そしてオレンジの濃淡、この色バリエーションもみなさんのテーブルに素敵な変化をもたらしてくれるだろう。
そう、オレンジワインは、ワイン好きやワインを少しかじった人間にとっては、難しく考えてしまう存在であり、中には「また勉強しなきゃいけなくなった」と考える人もいるが、そんなに難しく考える必要はないのだ。 今、自分にとって気持ちの良いワインが出てきた、しかもあんまり考えなくてもいい、そういうスタンスでいい。オレンジワインは難しくない。難しいものを簡単にしてくれる存在といえる。難しく考えず、まずは楽しんでいただきたい。 写真提供元:PIXTA
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